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第六話 イムの村の魔法使い

 筋肉痛は成長の痛み。でも、全身はダメ! ウロです。


 午前中は家政婦に勤しみ、午後は村のお手伝いをしてから、魔術師宅を目指します。


 イム村の魔術師マーシュさんは、今から20年ほど前に村にやって来たのだとか。

 薬草などの採取目的だったけれど、そのまま村に住み着いて、今は薬師をしているらしい。


 むう、離島にやって来たお医者さんみたいな感じ?

 とにかく、会いに行ってみましょう。参りましょう!



 さあ、そんな訳でわたしは今、噂の魔術師の庵の前に来ています。


 落ち着いた佇まい。

 それでいて、中からは達人の威圧的と言うか独特の雰囲気がかもし出されています。


 早速、行ってみましょう!


 ノックノックノック!


「こんにちは~」


 ん~、返事はありません。

 やはり、達人は気難しくていらっしゃるのでしょうか?


 もう1度!


 ノックノックノック!


「こーんにーちはー!!」


 んん~、また返事はありません。


 もしかして、お婆さんだから耳が遠いとか!?


 ならば、気張って参ります!


 大きく息を吸い込んで~。

 せー……の!


「何しとるか? さっきから」


 ぶはっ!!


「ゲーホゲホゲホッ」


「人の家の前で、何を咳き込んどるのか?」


 お、お留守だったんですね!?

 てゆーか、バックスタブーとか超絶ビックリした!


「こ、こんにちは」


「ハイ、こんにちは」


 そこには、野菜の入ったカゴを担いだ小柄なお婆さんが立っていた。


 見た目には、普通に農家のお婆さんだけれど。


「あの、あなたがマーシュさんですか?」


「ハイハイ、あたしがマーシュだよ。ところであんた、見ない顔だね?」


「はい、トーマスさんの所にお世話になってるウロと申します」


「ああ、森で行き倒れてたって言う娘さん。あんただったのかい!?」


 おのれ、ジャン!

 帰ったら全部の服、ちょっとだけ濡らしてやる!


「あ、はい。そんな感じです」


「ふむ、あんたからは面白い匂いがするね。まあ、立ち話もなんだから入りなさい」


「あ、ありがとうございます」


 入り口は狭いけれど、中は広い達人の庵。


 巨大な鍋で怪しい何かを煮てるイメージだったけれど、普通の土間とかまど。

 野菜とかが積んである、田舎のお祖母ちゃん家みたいだった。

 けれど、対面する居住スペースには、凄い数の薬瓶があったり山ほどツボがあったりで、なんか、軽く引きました。


「さあ、お茶でもお飲み」


「ありがとうございます」


 レモングラスの様な、柔らかな香りの薬湯。

 緊張が、ゆっくりと解けていくのが分かった。


「さて、このババに何用かね?」


「あ、あの、魔法の使い方を教えてください!」


 マーシュさんはニッコリ笑った。


「あんた、魔法使いになりたいのかい?」


「えと、実は……」


 わたしは、自分が召喚士である事。

 でも、魔法がまったく使えない事。

 ただ、1度だけ火トカゲの召喚に成功しているかも知れない事を話した。


 もちろんだけれど、この世界が自分の遊んでいたゲームにそっくりな世界で、わたしが、別の世界から来た(らしい)なんて事は言わない。言えないが正解かもだけれど。


 マーシュさんは、眼をまん丸にして驚いていたけれど、薬湯をズズッと飲んでから口を開いた。


「召喚士とは、珍しいね。長生きはするもんだよ」


「そんなに珍しいんですか?」


「ああ、あたしはまだ、3人しか見た事がないね。内、1人はあんただけどね」


 いや、いなさ過ぎでしょ!?

 しかも、わたしはまだ、何にも召喚出来ないし。


「わ、わたしは、まだ何も召喚出来ません!」


 わたしの言葉に、マーシュさんは、頭をかきながら不思議そうな顔をした。


「召喚士なのに召喚出来ないってのは、どうにも理解に苦しむね。なら、何で召喚士を名乗ってるんだい?」


 た、確かに。

 てゆーか、言われるまで気がつかなかったけれど、わたしってば今、『自称:召喚士』でしかない事実! 激しくショック!!


「まあ、そんな顔をしないで」


 ど、どんな顔!?

 ヤバイ、かなり動揺してるみたい。それはもう、顔に出るほどに。


「……これは、アレかね。『天命』ってヤツ」


「『天命』……ですか?」


「そう、天命!」


 マーシュさんによると、天命とは、ある日突然、そのジョブに目覚める事を言うらしい。

 このジョブになる。いや、ならなければならない!! みたいな感じ。なんかスゲェ。


「もっとも、一般的には気がふれたとも言うけどね」


 う、うぉう!

 どうしよう? わたしってば、実はだいぶ可哀想な人!? 主に脳方面で。


 あ、でも、わたしってゆーかウロの場合は召喚士を作ろうとしての結果だから、天命を与えたのはわたしな訳で。

 あ~、でもでも、今はわたしがウロだから与えられた形になるのかな?


 むう。

 何やら混乱してきた。


「まあ、あたしも天命を受けたクチなんだがね」


 そう言って、頭がわちゃわちゃしてきたわたしに笑うマーシュさん。


 ああ、マーシュさんもアレな感じなの?


 マーシュさんは、10歳で天命「魔術師になる!」を受け、家を飛び出したのだとか。


「でなければ、あたしゃ農婦のまんまだったろうね」


 そう言いながら、薬湯のお代わりを注いでくれた。 やや、冷め気味。いえ、美味しいですよ?


 どうやら、この世界では親の仕事を継ぐのが通例みたい。

 マーシュさんのご実家は、西方の田舎で麦を作る農家だったらしい。

 てゆーか、10歳で家を飛び出して魔術師になるなんて、根性ありすぎでしょ!?


 わたしは、コッソリとマーシュさんのステータスを覗いて見た。


 名前 マーシュ


 種族 人間 女

 職業 妖術師 Lv58


 器用 18

 敏捷 10

 知力 55

 筋力 8

 HP 130

 MP 290


 スキル


 共通語

 古代語


 薬学 Lv50

 錬金術 Lv40

 村人 Lv2

 鑑定 Lv10

 採取(薬草知識) Lv42


 魔界魔法 Lv50

 生活魔法 Lv20


 うおー!!

 超強い!!


 NPCの中には、イベントやクエスト関連で高レベルな者がいたりする。

 ただ、そう言うキャラクターは宮仕えの騎士だったり宮廷魔術師だったり。

 或いは、強力な魔法や剣術などの奥義を扱うクエストの主要キャラクターだったり。


 こんな、普通に暮らしてるお婆さんがそのクラスって、スゴい事だと思う!

 だってわたしの58倍強いよ!?


「しかし、本当に魔法が使えないのかい?」


「は、はい。何も解らなくて」


「でも、1度は成功してるんだろ?」


「かも知れない。みたいな感じでぇ」


 わたしは、火トカゲを呼び出した時の事を詳しく話した。


「……そんな感じです」


 マーシュさんは、わたしの話を黙って聞いていた。


「なるほどねぇ。確かに、それはあんたが呼び出したに違いないね!」


 マジで!!

 でも、魔法リストに何もないよ?


「ですが、魔法リストには何も……」


「魔法リスト?」


「あ、いや、どうやって呼び出したのか再現出来なくって」


 ヤバイヤバイ。

 やっぱり、わたし以外の人には『魔法リスト』などのメニュー画面は使えないみたいだ。


 わたしの魔法リストには、今は何も無い。


 聖騎士だった頃は、回復などの神聖魔法がリストされていた。


 村に来てから、わたしは火トカゲにもう1度会うため、何度か焚き火やかまどの火などに語りかけたりしたのだけれど。

 結果は、子供たちやジャンに変な顔をされただけだった。 ……ナゼだろ?


 じゃあ、何であの時は?


「あくまでもあたしの推測だけど……」


 マーシュさんの話によると、2つの条件が合ったらしい。


 まず、火を(おこ)したのがわたしだと言う事。

 そのため、あの時の火の産みの親がわたしになった。


 次に、偶然だけれど戦闘で流した血が火に入った事。


 最後に、わたしが心から助けを求めた事。


 それらが合わさり、一時的だけれど『火の精霊』との契約が結ばれた。


 召喚された火トカゲ『サラマンダー』は、わたしから魔力を得て戦うのだけれど、わたしがコントロール出来なかったから一気に全部の魔力を吸い取る形になってしまった。


 そして、わたしは魔力が尽きて昏倒。

 サラマンダーは、魔力供給が切れて精霊界に戻って行った。


「あくまても、推測だよ!?」


 マーシュさんは、改めて念を押す。


 むう。

 頭がドングリ。


「解っとらんな?」


 バレてる!!


「いいかい? そもそも召喚士って言うのは……」


 召喚士とは、失われた古の知識を追い求める探求者である。


 かつて、神々は世界をいくつかの次元に分けた。


 神聖界・人間界・精霊界・魔界。


 それらを往き来する次元の扉は、『召喚』として存在した。

 しかし、神すらも召喚し従えようとする者が現れ、その扉は閉じられてしまう(その時、人間界に残された各次元の者が人間以外の種族である)。


 これにより、1度は失われた召喚であったが、長い年月を経て掘り起こされ再構築された。


 かつての召喚には遠く及ばないが、古の知恵を追い、求め、操る者を『召喚士』と呼ぶようになった。


「……とまあ、こんな具合さね」


「おお~、公式で見た!」


「公式?」


「あ、いえ、(マニュアル)で読んだ事があります」


「次元に関しては、他にもいろいろあるそうだが、あたしゃ知らないよ。機会があったら、魔術学校にでも入って勉強してみるこったね」


 学校!

 しかも、魔術学校!!


 何それ、かなりときめくんですけど?

 アレですか、異世界で学園生活ですか!?

 もしかしたら、どこかの国の王子さまとラブにコメったりしちゃいますか!?


「……と、その前に!」


 妄想中断。


「あんたはまずは、魔力の使い方を学ぶ事が必要だね」


 た、確かに。

 てゆーか、それを聞きに来た様なものだもの。


「今日はもう遅い。明日からいろいろ教えてあげるよ」


 !!


「それが出来なきゃ、精霊を見る事も出来やしないよ」


「はい、よろしくお願いします!」


 何と言う渡りに船状態!

 果たして、わたしは魔力をコントロール出来るようになるのか!?

 そして、召喚士として立ち上がる事は出来るのか!?


 吹けよ風!

 呼べよ嵐!


「……騒いでないで、早よ帰りなさい」


「あ、はーい」


 見られてたけど、魔力修行も出来るしヘーチャラ だ! たぶん。

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