表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/134

第六十四話 羽根を求めて

 材料の足りない料理をよくしてました。ウロです。タコ無しタコ焼きとか。お餅無しお雑煮とか。主役とは何か? でも美味しいよ?


 試練に立ち向かう事すら許されなかった日から、今日で3日が経とうとしております。


 その間に、わたしたちがしていた事と言えば、放課後に食堂へ集まって、マジックポーションをどうするのか? と言う話し合いだったり。


 1番手っ取り早いのは、当たり前だけれど完成品を買う事。

 でも、金額が恐ろしく高くなってしまうので却下です。


 となると、残る手段は〝自分たちで作る〟なのですが。


 幸いにも、わたしたちにはニードルスと言う元錬金術ギルドのスタッフがいます。

 材料さえあれば、きっと何とかしてくれるに違いありますまい!


 その事をニードルスに話してみますと。


「……確かに、材料さえ揃えば錬成するのに問題はありません。ですが……」


 そう言ったニードルスは、雑記用の紙にマジックポーションのレシピをサラサラと書き出した。


 マジックポーション作成に必要な材料。


 水1(ポーション用瓶1本分)。

 マジョラム1。

 オレガノ1。

 妖鳥の風切り羽根1。


 である。漂うバーベキューな感じ。肉は無いけれど。


 水はもちろんだけれど、ハーブの類いは街の市場にでも行けば簡単に手に入ると思う。

 ニードルスが危惧しているのは、『妖鳥の風切り羽根』だったりですよ。


『妖鳥の風切り羽根


 妖鳥種の風切り羽根は、抜けて尚、高い魔力を有する』


 ゲームだった頃のフレーバーテキストは、そんな感じだったと思う。たぶん。


「他の材料は何とかなるでしょうけど、妖鳥の風切り羽根だけは入手が非常に困難ですね。

 しかも、3枚となると……」


 ニードルスが言った通り、妖鳥の風切り羽根以外の材料はサクッと集まりましたよ。てゆーか、食堂のおばちゃんに言ったら全部くれたし。ありがたや。後でお礼せな!


 やはし、問題は羽根でした。


「魔獣舎に行けば、羽根を分けてもらえるのではないかな?」


 このアルバートの発案に、わたしたちは賛同する。……でしたが。


「ダメじゃな!」


 魔獣舎に行く前に、食堂でお茶をしていたアルド先生に却下されました。


「どしてですか、アルド先生?」


 すがる様なわたしの視線に、やれやれと首を振るアルド先生。


「……キミは、学生の頃のフランベルくんを思わせるの。

 そんな事より、魔獣舎の魔獣は授業用に飼育されとる物じゃ。毛1本、鱗1枚まで、大切な資財なんじゃよ。おいそれとは譲って貰えんじゃろう。

 マジックポーション作成の実習まで待つ事じゃな!」


 ぬぬぬ。

 ものスゴい失礼なセリフが混じってた気がするけれど、魔獣舎で貰う作戦が失敗したショックで気づかない事にしました。


 さて、どうしましょう?


 ゲームだった頃なら、セーフルーム前の道に並ぶ他プレイヤーのバザーから、割と簡単に様々な素材が手に入ったりしましたよ。

 もちろん、今は誰もいないのだけれど。


 わたしの鞄にも、マジックポーションはもちろんだけれど、その素材も入っていない。

 ……だって、聖騎士にはあんまし必要なかったし。必要な時には、作るより買う方が早かったんだもん。などと。


 街中のお店を、それこそシラミ潰しに調べて行けばあるいは? ……あんまり、現実的では無いけれど。


 こんな状態で、食堂のテーブルに伏してうなるわたしたちですがどうでしょう?

 そんな中、やけに涼しそうな顔のアルバート。


「アルバートくん、貴方も何か考えてよ!?」


 ちょっとイラッとしたわたしは、思わず声にトゲがでちゃいました。

 そんな事、気にもかけない様子のアルバート。強い。


「そうだな。やはり、どこかで羽根を買う以外に無いのではないかな?」


「そうですが、どこにあるのか解らないと無駄に時間がかかってしまいますよ」


 ニードルスの言葉に、フムとうなるアルバート。


「なるほど。しかし、こんな時こそジーナくんの出番ではないかな?」


 アルバートの言葉に、全員の視線がジーナに向かう。


「えっ!?」


 突然の事に、お茶の入ったカップを取り落としそうになるジーナ。


 そうじゃよ!!

 ジーナは、この国で1、2を争う大商人の家系じゃありませんか!!


「ねえ、ジーナ。

 貴女の伝で、妖鳥の風切り羽根を手に入れられないかな?」


「そ、そうですね。在庫があれば、直ぐにでも手に入ると思います。

 これから、お店の方へ行ってみますか?」


 わたしの言葉に、ジーナはニッコリと笑って答えてくれた。カワイイ。


「よし、早速行くとしよう。エセル、馬車の用意だ!」


「かしこまりました。アルバート様」


 アルバートの令で、エセルが風の様に食堂を出て行った。

 わたしたちも、カップを片付けて後を追う。


 男子寮の1階にある馬車クロークは、女子寮のそれとあまり代わり映えしない造りになっていた。

 強いて言うなら、女子寮の方が少しだけ広いかな?


 そんな場所に、何やら、やたら豪華な馬車が1台停まっている。

 2頭引きの馬は白くて、その毛艶から手入れが行き届いているのが良く解った。


 引いている馬車も、やたらに豪奢で美しい。


 こ、これが上級貴族ってヤツなのか!?


「さあ、諸君。乗りたまえ!」


 アルバートが声をかけると、エセルが馬車のドアを開ける。同時に、2段のステップが降りて階段状になった。


「ありがとう、アルバートさん」


 お礼を言いつつ、普通に乗り込むジーナ。


 わたしとニードルスは、この状況にまだ口をパクパクさせていると言うのに。


 だって、こんなスゴい馬車に乗った事なんて無いもん!!

 わたしたちが乗ったのって、いわゆる荷馬車の荷台だよ!?


 ……そう言えば、ジーナもティモシー商会のおぜう様であらしゃいましたね。はふ。


「ん、どうした? 君たちも早く乗りたまえ!」


「あ、は、はい。ニードルスくん、行くよ?」


「えっ? あ、はい!」


 わたしとニードルスが乗った後で、アルバートが乗り込んだ。

 全員が乗り込んだのを確認して、エセルが御者席につく。


 かくして、昼下がりの街を輝く馬車が疾走する。

 その優美な姿に、貴族ですら振り返るほどである。


 ……まあ、超絶揺れるのは変わらないのですけれどね。


 ほどなくして、わたしたちを乗せた馬車はティモシー商会の前へとやって来ました。馬車酔いは、しなくてすみました。


 ティモシー商会は、大店に相応しく、上品な身なりの人たちや沢山の側仕えらしき人たちが出入りしている。

 そんな中で、忙しそうに動き回っている従業員の姿に目が止まった。


「ブレッドくん!」


 わたしの声に反応したブレッドは、こちらを見て手を振った。


「やあ、ウロ。久し振……!?」


 ブレッドの笑顔が、一瞬にして驚愕の物へと変わって行く。

 顔色を変えながら、猛ダッシュでこちらにやって来たブレッドは、わたしたちの前でビタッと止まった。


「お、お帰りなさいませ。お嬢様!」


 お、お嬢様!?

 もちろん、わたしじゃなくって、ジーナに対してだけれど。


 一方のジーナは、ウンと小さくうなずいている。何、その貫禄!?


「ただいま、ブレッド。

 もしかして、ウロさんとブレッドはお知り合い?」


「はい、え……と」


「うん、知り合いだよ。ブレッドくんは、イムの村で売り子をした時にお世話になった先輩なの」


 言葉に詰まったブレッドに代わって、わたしが答えた。


「そうだったのですか。うちの者がお世話になりました。

 ところで、お父様と伯父様はいるかしら?」


「だ、旦那様方は、商談に出かけておいでです」


「そう。じゃあ、トレビスを呼んでちょうだい。2階の商談室にいるわ」


「かしこまりました。お嬢様!」


 そう言い残すと、ブレッドは再び猛ダッシュで店の中へと消えて行った。


 うーむ。

 学校でのジーナと違って、何だか大人びた印象ですよ。お嬢様スキル?


 従業員の案内で、ジーナを先頭にわたしたちは2階の1室へと通された。


 学院の教室を少し小さくした様な部屋は、中央に厚みのあるテーブル。そのテーブルを挟む形で、背の高い椅子が5脚ずつ置かれている。

 壁際には棚と、いくつかの調度品が飾られており、それぞれに灯の入ったランプがかけられて部屋の中を照らしていた。


 灯りはあっても部屋が薄暗く感じるのは、学院の魔法照明に慣れてしまったせいだと思う。贅沢を覚えてしまった気味。


「どうぞ、座ってください。今、お茶を用意しますから」


 ジーナがうなずくと、従業員がスッと部屋から出て行った。


 どう座ったものか迷ったけれど、とりあえず片方に固まってみたり。


 間をおかずに、わたしたちの元にお茶が運ばれて来た。


 いつか飲んだ、レモングラスの様な香りのお茶が心地良い。


 ちなみに、エセルは座らずにアルバートの斜め後ろに立っている。従業員に進められた椅子もお茶も、「せっかくですが」と断っていた。威圧感ハンパ無いのですがなあ。


 そんな事を考えていますと、廊下の方からバタバタと言う足音が響いてきた。


「お待たせしました、お嬢様。皆様!」


 扉を開けて入って来たのは、少し息を弾ませた恰幅の良い男性。トレビスさんだ。

 トレビスさんは、一瞬だけわたしとニードルスの方に視線を送り、少しだけ微笑んでうなずいてくれた。


 わたしとニードルスも、それに合わせて小さく手を挙げる。


「忙しいのにごめんなさい、トレビス。どうしても、急いで調べて欲しい事があるの!」


 テーブルに乗り出して話すジーナに、トレビスは小さくため息を吐いた。


「お嬢様の頼み事でしたらこのトレビス、いつ、いかなる時でも構いませんよ?

 それで、今日はどんなお願いですかな?」


 歴史を感じる2人のやり取りに、何だか少しホッコリしてみたり。


「実はね、妖鳥の風切り羽根が欲しいの。しかも3枚。格安で!」


 ジーナの言葉に、トレビスは目を丸くして首を振る。


「お嬢様にしては、ずいぶんと具体的なお願いですな!?

 一体、何に使われるのですかな?」


「マジックポーションを作る材料になるの。それが出来ないと、あたしたち、試練の塔に挑めないの!」


 ジーナの答えに、トレビスさんは顎を擦りながら小さくうなった。


「なるほど、そうでしたか。

 それでしたら、完成品のマジックポーションを購入した方が早いのではありませんか?

 錬金術ギルドに発注すれば、値は張りますが確実でしょう!」


 至極、真っ当なご意見のトレビスさん。てゆーか、やっぱりそうなりますわなあ。

 そこに、ニードルスが声を挙げた。


「よろしいでしょうか?

 元錬金術ギルドの者として、あまり錬金術ギルドを過信し過ぎるのもいかがかと思いますが……」


「ほう、それはどう言う事かな?」


 ニードルスの話しに食いついたトレビスさん。わたしたちも、初耳な話だよ!


 ニードルスは、軽く目を伏せてから続きを話してくれた。


「傷を治すキュアポーションと違って魔力を回復させるマジックポーションは、あまり需要が無いために材料からして常備されている事は稀です。

 運良く材料があったとして、錬成の成功率は8割ほどです。

 材料の持ち込みでもない限り、失敗分も請求される事になりますから、値段は割高になるでしょう」


 わたし以外の、その場にいる全員が呆気にとられてしまいました。


 わたしにしてみたら、錬成失敗なんてゲームだった頃には日常茶飯事だったし。

 錬成難易度の高いアイテムは、高スキルの熟練者に依頼する事も普通にしてたし、手数料を払った上に失敗して、材料を全て失っても文句は言わないのが暗黙の了解だった。

 だから、お値段が高くなるのは普通なのだけれど。


 ニードルスの話しに、1番ビックリしているのはトレビスさんとジーナだった。

 商人さんでも知らないギルドの裏事情、恐るべしって事かしら?


「……お話しは解りました。しかし、お嬢様。当店には現在、妖鳥の風切り羽根は在庫がございませんな!」


 直ぐに我に返ったトレビスさんは、何冊もある手帳の1冊をめくりながら首を振った。


「ええ~っ、何とかならないの。トレビス?」


 さっきまでのお嬢様然とした雰囲気が、ウソみたいに消えるジーナ。こっちが素だと思うけれどね。


「こればかりはどうにも。

 元々、市場に出回る事が稀ですから。たまに、冒険者が戦利品の一部として売りに来るぐらいの物で……」


 そう言って、頭をかくトレビスさん。


 あ、そうか。

 冒険者から手に入れるって方法もあるのか。


 そんな事を考えていますと、アルバートが口を開いた。


「ならば、冒険者を雇う事は出来ないかな?」


 それに対して、トレビスさんが頭を振る。


「それはいけません! こちらが欲しがってる事が解っているなら、彼らは必ず吹っかけて来ますからな。それこそ、完成品のマジックポーションの方が安くなってしまうかも知れません。

 それに、妖鳥と言っても色々いますから。物によっては、恐ろしく高くなりますよ?」


 わたしの考えていた事が、アッサリと否定されてしまいました。


 でも、確かにトレビスさんの言う通りだよね。

 バザーだって、稀少な物は高くなるし。率先して譲ってもらうなら、多少の色は付けるのが普通だったし。


 そして、忘れてたけれど妖鳥って、イロイロいるのでした!


「妖鳥と言うと、フェニックスにガルーダ、ロック鳥?」


「それに、グリフォンやヒポグリフ。コカトリスもそうだな!」


 ニードルスとアルバートが、指折り数えながら名前を挙げて行く。だけれど、そんな強い魔物の羽根じゃあ、お値段跳ね上がっちゃうよ。


 一般的な冒険者でも勝てる、お手頃価格の羽根を落とす相手となると……。


「ハーピィかな?」


「ハーピィですね!」


 わたしと同時に、もう1つの声が上がった。


 まさかの、エセルとのシンクロですよ!


 思わず、わたしはエセルの方を振り返った。

 エセルは、わたしの顔を見て「ほう?」と言う様な、意外そうな表情をしている。……ぬう、イラッとする! 怖いけれど。


「うん、ハーピィの羽根なら、それほど高い値は付きませんな。しかし、魔力も程々ですぞ?」


「それは問題ありません。マジックポーション程度なら、ハーピィの羽根でも十分な魔力量です。

 強力な魔物の素材が、必ずしも良い訳ではありませんから」


 トレビスの問いに、ニードルスが答える。


「じゃあ、決まり!

 トレビス、ハーピィの羽根の売りがあったら買って頂戴。ただし、出来るだけ安くね?」


「かしこまりました、お嬢様。他の商会にも当たってみましょう。

 羽根3枚、1枚当たり金貨50枚から100枚以内でいかかでしょうか?」


「みんな、どうかしら?」


 トレビスさんとジーナが、同時にわたしたちの方を見る。忘れてるかも知れないけれど、ジーナもお客の立場だからね?


 でも、羽根1枚、金貨100枚なら許容範囲でしょう。例によって、ニードルスの分はわたしが出す訳だし。


「私はそれで構わんよ?」


「私も、ウロさんさえ良ければ」


「はいはい。わたしも問題ありません!」


「では、それで探してみる事にいたします。1週間ほど、お時間を頂きたいのですが?」


 わたしたちに依存は無かった。

 いくら急いでいるからって、今日明日に結果を求めるのは無理すぎでしょう。


 この日、わたしとニードルスはアルバートと共に学院に戻った。ジーナは直帰。


 それから、1週間後。


「……ごめんなさい」


 放課後の食堂に、弱々しいジーナの声が響いた。


 ジーナの前には、2枚の白い大きな羽根があった。


『ハーピィの羽根


 妖鳥種 ハーピィの風切り羽根』


 フレーバーテキストがだいぶ違うけれど、妖鳥の風切り羽根には違いない!


「どうして謝るの? スゴいよジーナ!」


「そうですよ、ジーナ。私たちは、1枚も入手出来なかったのですから」


「胸を張りたまえ、ジーナくん。キミは、私たちの誰にも出来なかった事を成し遂げたのだから」


 ……そうなのです。


 この1週間、わたしたちは、放課後になると個別に羽根を探して街を巡っていました。


 わたしは、常宿にしていた『深酒する老賢者亭』を訪ねて、冒険者たちに聞いて回ったり。


 ニードルスは、錬金術ギルドで素材の確認をしたり。


 アルバートは、エセルと共に貴族的なアプローチをしていたッポイです。詳細は不明だけれど。


 でも、わたしたちには1枚の羽根をも手に入れる事が出来なかった不具合です。


 そんな中、ジーナだけが羽根を見つけて来たのですよ。しかも、2枚も!!


「でも、あたし……」


 消え入りそうな声で呟くジーナ。何かカワイイな。


「でも、でも……」


 涙声になったジーナは、一瞬の間を置いてワッと泣き出してしまった。


 オロオロするわたしたちをよそに、ジーナは泣き叫んだ。


「ごめんなさい~! 1枚金貨70枚もしちゃいましたー!!

 2枚で金貨、140枚とか。もっと値切れると思ったのに~!!」


「そっちかーい!!」


 思わずツッコむわたしと、垂れ下がるほど耳がしぼむニードルス。

 アルバートは、足をバタつかせて笑っているし、エセルは、後ろを向いて肩を振るわせている。


 恐るべし商人魂!

 さすがは、大商会ティモシーの血族ですよ。


 ジーナが落ち着くのを待って、わたしたちは、再び話し合いに入った。……のだけれど。


 何の案も出ないよ!!


 だって、ティモシー商会でも集めきれなかった羽根を、わたしたちがどうやって集められると言うのでしょう? みたいな。


 街の冒険者たちにも期待出来ないし。ぬぬぬ。


「うむ。こうなったら、直接ハーピィを探しに行くしかないかな?」


 突然、アルバートがとんでもない事を口にした。


「ちょっ、何言ってるのアルバートく……」


 慌てるわたしに手をかざして止めたアルバートは、エセルに向かって1つうなずいた。


「私から説明させて頂きます」


 低く、通る声のエセルが1歩前に出る。


「この1週間、私も街に出て羽根を探しておりました。残念ながら、羽根を見つける事は出来ませんでしたが、気になる話を耳にしました」


 エセルの話しによると、この街にやって来た商隊のいくつかが、道中にハーピィを見たらしい。

 場所はみんな共通していて、北の山間を通っていた時だと言う。


「直接襲われてはいない様ですが、複数の商隊が目撃していますから確かでしょう!」


「あ、その話ならあたしも聞きました! ……必要無いと思って、言いませんでしたけど」


 エセルの声に、ジーナが反応した。


「やはりそうか! これで確信を得た。早速、我々で……」


「ちょ、ちょっと待って!」


 思わず、アルバートの声を遮ってしまった。


「どうかしたのか、ウロくん?」


「いやいや、〝どうかしたのか?〟じゃあないよ!? 相手は魔物だよ? そして、わたしたちはただの学生だよ!?

 あんな所に行くなんて、危険過ぎるよ!!」


 食堂に響くくらい、大声を出してしまった。


 ハーピィがいると思われる山間部は、恐らく、街の北にあるダングルド山麓の事だと思う。

 ゲームだった頃の知識通りならば、ダングルド山麓を抜けた先にはダングルド山があって、そこからは雪に閉ざされたエリアだった。

 そこに行くには、必ずダングルド山麓を通らなくてはならず、プレイヤーキラーの待ち伏せポイントとして有明だったトラウマの場所ですよ。


 アルバートはともかく、ジーナをそんな危険な所に連れてく訳にはいきません!


「〝あんな所〟? ウロくんは、何か知っているのか?」


「えっ!? いや、えと」


 アルバートの言葉に、口ごもっちゃったよ。


「ウロ様、1つよろしいでしょうか?」


「うおっ!? な、何でしょうか??」


 声は優しく、眼光は鋭くエセルが近づいて来る。


「先日のハーピィの事といい、今の判断力といい。貴女、まさか……」


 ひぃいいい!

 ゆらめきながら、エセルが近づいて来よる!!


「貴女、元冒険者ではありませんか?」


「は、はい。そんな感じでした……」


 テーブルに仰け反る様な体勢のわたしを見下ろすエセル。


 怖いよう!!

 近いよう!!

 あと、腰痛いよ!?


「そうなのか!? ならば話が早いではないか!」


「ウロさん、スゴーイ!!」


 喜ぶアルバートと、キラキラした瞳で見詰めてくるジーナ。


 いやいやいや。

 だいぶダメだからね!?


 わたしは、必死に助けを求めてニードルスを見たのだけれど。


「ダングルド山麓までは、馬車でも片道2日はかかります。その間の欠席届けを出さなくてはいけませんね。

 確か、学院に関係する欠席は欠席とは見なされなかったと思います。良かったですね、ウロさん?」


 う、裏切り者め~!!


 こうして、勝手にサッサと決まってしまったハーピィ探索の旅。


 わたしを見て、不敵な笑みを浮かべるエセルに、これからの不安が現れている気がしてならないのでしたよ。はふぅ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ