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第六十一話 放課後の探求心

 制服で図書室に行ったら、写本屋の皆さんに驚かれました。ウロです。何? 美しい事も罪なの!?


 4時間ほど閉じ込められて、プチプリズナー気分を満喫した日から今日で1週間が経とうとしてたりします。


 この1週間は、監禁事件なんて特別な事も無く、新入生らしい慌ただしい日々を過ごしました。……こんな事件、何度もあったら魔法を使う前にMP無くなって干からびちゃいますよ?。


 そんな日々の中で解った事は、この学院ってば1日に授業が2時限しか無いって事。


 特別授業や特殊カリキュラムがあったりするらしいので、必ず2時限って訳ではなさそうなのだけれど、基本的には2時限みたい。

 1年生のうちは、授業とは別の講義を取る事が出来ないらしいし。


 なので、それ以外の時間は何をしてても自由なのだそうで。

 部屋で寝ていても、街にお出かけしても良いみたい。


 そうは言っても、それを真に受けて遊んでいるのは、あんまり真剣に魔術師を目指していない上級貴族や、何も考えてないボンクラくらいなのだけれど。


 ……って、わたしも元の世界ではボンクラ学生だったのですがなあ。


 まさか、異世界でこんなに真面目に勉強するなんて思いもしませんでしたよ! 魔法って偉大だわ。


 まあ、成績が悪いと班の連帯責任になっちゃうし、何より、ニードルスの視線が怖かったりなのですが。


 そのニードルスはと言うと、授業が終わると同時に図書室に直行。

 付与魔術や、それに関連する書物を読み漁っております。

 話しかけても「今、忙しいので」と、取りつく島も無い感じです。むう、本の虫さんめ。


 その他のメンバーは?


 ジーナは、まるでトランペットが欲しいお子様みたいに魔導器の保管されている特別室の前から動かないし。


 アルバートは……。


 お昼が終わると、そのまま食堂の長椅子に寝そべっていたり。

 食堂が混んでくると、中庭の木の下で寝てる有り様です。……お前がボンクラか!?


 ぬう。

 班としてのコミニュケーションが全く取れてないのですが、どうしましょう??


 などと思いつつ、わたしも少しだけ気になってる事があったり。

 なもんで、これを機に、わたしもちょっぴりばかり単独行動です!


 わたしは、鞄から1つのペンダントを取り出した。


 もう、ずいぶんと前になるのですが、マーシュさんから預かった物だ。

 黒く塗られた鎖の先に、紅い宝石があしらわれている。

 石は、ルビーみたいに紅いのだけれど透明感は無くって、何だかモワモワッとしている。


 博学のスキルで見てみると、『イライザの首飾り』とあった。これがマーシュさんの先生?


『イライザの首飾り


 紅蓮の魔術師、イライザ・ファンネイルの魔力を封じたと言われる魔石をあしらった首飾り。

 炎に対して、絶大な防御を誇る。

 火属性ダメージ無効』


 スゲー!!

 ちゃんと見てなかったけれど、これ、かなり強力なマジックアイテムだった!!


 何だか、急にドキドキしてきちゃったよ。

 初めて現金でパソコン買いに行った時みたい?


 でも、自分の魔力を封じちゃって平気なのかな? などと。


 と、とにかく、これを手がかりにマーシュさんの先生に会いに行きましょう!


 とは言うものの、やたらに広いこの学院内で闇雲に探しても見つからないと思います。

 なので、まずはレティ先生に聞きに行ってみる事にしました。


 レティ先生の研究室は、一般棟の外れにあった。

 以前は、中央寄りにあったそうなのだけれど、イロイロあって現在の位置に移動になったらしい。イロイロね。


 角部屋な事もあってか、通路には、私物と思われる箱がうず高く積まれている。

 扉は半分開いていて、中から得体の知れない音が漏れ聞こえてきて怖い。


 取り合えず、ノックノックノック!


「レティ先生、いらっしゃいますか~?」


 ……ややあって。


「……誰?」


 返事があった!


「レティ先生のクラスのウロです。

 お忙しい所すみません。先生に、お聞きしたい事があるんですがー!」


「どうぞ、入って!」


 少しだけ不機嫌な感じだけれど、レティ先生は入室を許可してくれました。


「し、失礼しまー……!?」


 わたしは、思わず絶句してしまった。


 レティ先生の研究室内は、所狭しと物が置かれている。

 それは、床が見えない程に。


 また、同じくらいに大量の本もあって、まるで迷路みたいになっている。


「れ、レティ先生!?」


「こっちよ。アンデッド系の本を右に!」


 本の壁の向こうから、レティ先生の声が聞こえた。


 アンデッド系の本?


 高く積まれた本は、どうやらジャンル事に分けられているみたいだよ。


 探す間もなく、アンデッド系の本の山はすぐに見つかった。


 その本を右に曲がると、少し開けた場所に出る。

 そこに、何冊もの本を広げたレティ先生の姿があった。


「何?」


 本から顔を上げず、目線を一瞬だけこちらに向けてレティ先生が声を上げた。


「あの、お聞きしたい事があるんですが」


「だから、何?」


「えと、コレの持ち主に会いたいんですが……」


 わたしが制服のポケットからペンダントを取り出すと、レティ先生は見事な2度見をした後、四つん這いのまま、高速で近寄って来た!


「うおっ!?」


 驚くわたしなど意に介さず、ペンダントを凝視するレティ先生は、やや興奮気味に口を開いた。


「これ、何? 何、これ?」


「こ、これは、『イライザの首飾り』で……」


「イライザ? イライザって、イライザ・ファンネイルの事?

 では、この紅い石は紅蓮の魔術師の魔力の結晶!?

 く、ください!!」


 ファッ!?

 いきなり、何を言い出すのこの人!?


「だ、ダメです! これは、わたしの師匠の師匠の持ち物なのですから」


「あなたの師匠の師匠?

 あなたは確か、イムの村の薬師が師匠よね?」


「は、はい、マーシュさんです!」


 わたしの答えに、レティ先生は眉間にシワを寄せて少し考え始めた。


「……マーシュ老師の師匠ねえ。そんな凄い人、この学院にいたかしら?

 ねえ、その人の名前って何かしら?」


「えと、イライザ・ファンネイルって言うのは……」


「イライザ・ファンネイルは、炎系の魔界魔法の現在の体系を編み出した人物よ。正確には解らないけど、300年程前とされているわ」


 ヤバイ!

 わたしってば、イライザ・ファンネイルがマーシュさんの師匠だと思ってた。

 そして、わたしはマーシュさんから名前を聞いてない不具合ですよ。


「……えと、知らないです」


「知らないで探してるの!?

 冗談にも程があるわよ!!」


 ……はい。わたしもそう思います。


「すみませんでした。出直してきます」


 わたしが頭を下げて退室しようとすると、レティ先生は、わたしの腕をガシッと掴んだ。


「ちょっ、ちょっと待って。その首飾り、やっぱり私に譲ってくれないかな?」


「ダメですってば! これは、わたしの師匠の師匠を探す手がかりなんですから!」


「お願い! ひと欠片だけでもいいからっ」


 何言ってるの、この人。欠片とか、余計にダメだよ!!


 でも、気持ちが解らない訳じゃない。


 レティ先生の専攻は、魔力研究でした。

 人の魔力や魔物の魔力。魔石や自然魔力など、世界のありとあらゆる魔力の研究をしているのである。

 そんな人に、偉大な魔術師の魔力を封じた石を見せたなら、こうなるのは火を見るより明らかだったかもですよ。


「じゃ、じゃあ、こうしましょう。

 この首飾りの持ち主の許可が得られれば、お渡ししても良いですよ?」


 わたしの言葉に、レティ先生の瞳に希望の光が宿った。……てゆーか、ギラッとした感じ?


「本当!?

 では、早速探しましょう!

 私がこの学院に入学したのが16の時で、かれこれ8年になるけど。マーシュ老師の師匠なんて人、聞いた事がないわ。

 もっと、長くこの学院にいる人なら知ってるかもしれないわね!」


 な、なるほど。確かに。


「で、では、学長先生に……」


「ダメダメ。学長にお会いするには、事前に約束を取り付けなきゃいけないの。今からだと、1週間は待たされかねないわ。

 それより、アルド先生の方が良いかもね!」


 アルド? アルド・ウェイトリー先生かな?

 魔法理論の授業を担当する老先生で、わたしの受験に立ち会った先生でもある。たぶん。


「アルド先生なら、今の時間は食堂でお茶してるわね。

 さあ、行きましょう!」


「は、はい。うわっ!?」


 レティ先生は、そう言うや否や、わたしの手を握って走り出した。


 迷路みたいに積み上げられた本の間を、まるで縫う様に潜り抜け廊下に出たレティ先生は、一瞬、ブツブツと何事か呟くと、信じられない速さで走り出した。

 手を掴まれているわたしは、それについていくので精一杯だった。


 も、もしかして魔法使った!?

 しかも、自分だけに!?


 あっと言う間に、食堂に到着したわたしたち。

 いや、レティ先生とボロボロなオプションみたいなわたしが正解かな? 死にますよ、マジで。ゼーゼー。


「いた!」


 辺りを見回していたレティ先生は、そう言って、再び走り出しす。もう勘弁してください。


「アルド先生、誰だか教えてください!」


 開口1番、イロイロ足りない発言のレティ先生。


 呆気に取られたアルド先生は、少しだけポカンとしていたけれど、お茶を1口だけ飲んでから頭をかいた。


「フランベルくん、また気持ちが先走っておる様じゃな?

 それに、君が連れている子は、大丈夫かね? ちゃんと、彼女にもヘイストはかけたんじゃろうね?」


 ……やっぱりだよ。


「……あ!」


 アルド先生とわたしを交互に見たレティ先生は、小さく呟いた。


 “……あ!”じゃねーし!!

 とか、文句の1つも言いたかったのだけれど、呼吸の整わないわたしには、そんな元気はありません吐きそうですお水ください。


「ウロくん、じゃったかな?

 まあ、座って。これを飲みなさい」


 アルド先生は、わたしに椅子とお茶を1杯勧めてくれました。


「……あ、ありがとう、ございます」


 何とか椅子に座って、お茶を無作法に飲み干したわたしは、やっとひと心地つきましたよ。


「ぶはーっ、生き返りました。ありがとうございます!」


「ホッホッホッ、それは良かった。

 で、ワシに何か用だったのではないのかな?」


「は、はい、実は……」


 わたしは、アルド先生に首飾りを見せて訳を説明した。

 腕を組んで話を聞いていたアルド先生は、わたしの話が終わると「フム」と小さくうなずいた。


「なるほど、ようやく話が解ったわい。

 ウロくん、君が探している人物は、もうここには居らんよ!」


 な、なんですと!?


「10年くらい前に何かの研究をしとったが、ここでは限界があると、魔法大学へ行ってしまったよ」


「魔法、大学ですか?」


 アルド先生は、「いかにも!」うなずいてお茶を1口飲んだ。


「ここより遥か西、自由都市グレイヒルズにある魔法の研究機関じゃ。

 まあ、大学と言っても学校とは少し違うのじゃが。

 それに、彼女が今もそこに居るとは限らんがの?」


 どうやら、大学と言っても元の世界の学校とは違って、純粋な研究機関みたいだよ。

 そして、いないかも知れないのかあ。

 でも、望みがあるならそこへ行くべきじゃね?


「わたし、会いにい……」


「行っても会えんよ?」


 わたしの言葉を遮って、アルド先生が言葉を発した。


「会えないって、どうしてですか?」


「正確には、魔法大学に入れないと言う事じゃ。

 最低でも、この学院の卒業資格が無いと無理じゃな」


「むむむ。

 でも、人に会うだけなら……」


 わたしの問いに、アルド先生は首を振る。


「もっと正確に言うのなら、ここを卒業出来るくらいの実力が無くては、大学の入口すら見つけられんのじゃよ。

 大学のある街の名前は教えた。じゃが、正確な位置や入り方などは盟約に従い教える事が出来ないのじゃよ!」


 あうち。

 最低、2年はお預け状態じゃないですか!!


「あ、私はもう卒業してるから資格有りね!

 私が先に行くから、首飾りを貸して? ウロさん!」


 かなり落ち込みモードなわたしに、やたら明るい声をかけてくるレティ先生。鬼ですか、貴女は??


 そんなレティ先生を制したのは、アルド先生だった。


「レティくん。

 君は、借金返済のためにこの学院で教師をする契約だったのではなかったのかな?

 国の借金を踏み倒すと、後が恐ろしいぞ?」


「……うう」


 テンションが一気に落ち込むレティ先生。


 てゆーか、入学前は追い出される寸前だったのに。

 数日の間に何があったの!?


 そんな感じで、ガッカリ幹満載のわたしとレティ先生は、トボトボと食堂を出て……って忘れてた!


「アルド先生、マーシュさんの師匠の名前、何て言うのですか? 教えてください!!」


「何じゃ、マーシュ殿から聞いておらんのか?

 彼女の名前は、『エルリンカ』じゃ。名字、2つ名無しのエルリンカじゃ!」


 アルド先生は、わたしの問いに目を丸くしながらも丁寧に答えてくれた。


「ありがとうございます、アルド先生!」


 笑顔でお礼を言ったわたしは、一路、図書室を目指して走り出した。

 少しでも勉強しておこうとか、それぐらいしか思いつかなかったからだけれど。


 図書室の前には、わたし以外のメンバーが揃っていてビビッた。

 何やら言い争いをしているみたいだけれど?


「ウロさん!」


 わたしの姿に気がついたニードルスが、立ち上がってわたしに手招きしている。


 ああ、嫌な予感がする。

 まだ、イロイロ引きずり中なわたしは、あっさりめの会話を希望するのだけれど。


「これで全員そろったな。

 では、改めて。

 私たちの班で、『試練の塔』に挑戦しようじゃないか?」


 アルバートから発せられた言葉に、ニードルスは下を向いて首を振り、ジーナは困った様にアタフタしている。


 わたしは、これから始まる無茶な話し合いに、ため息しか出なくなりそうでしたさ。

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