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第五十九話 登校初日は不安でいっぱい 前編

 1年生~になったーが!? ウロです。友達……できるかな?


 入学式があった日の夜。


 わたし、寮に入って初めて自室のベッドに横になりました。


 考えてみれば、10日近くも学院内で生活していたのに、そのほとんどを図書室と食堂で過ごしていた不思議。


 寮へは、お風呂と着替えにしか戻ってないと言う有り様ですがどうでしょう?


 なもんで、この日初めて寮の自室で夜を迎えた事で、午後10時になると自動的に消灯になると知りましたよ。

 図書室や食堂のある一般棟は、ずっと灯りが点いたままだったので気づかなかったそれです。


 そう言えば、食堂はいつ行っても開いてたっけ。食堂のおばちゃん、最強なんじゃね? 見た事ないけれど。

 そして深夜になると、メニューがパンと豆のスープだけになるけれど。あと、お茶と白湯。


 そんな訳で、買ったばかりのランタンに早速お世話になったりしております。


 まだ、寝るには早いし眠くない。

 本当は、徹夜が続いて疲れているハズなのに。何やら気分が高ぶって眠れないのですよ。アッパー状態?


 なので、入学式後に配られた『新入生用の学院案内』なる物を読みながら、眠くなるのを待つ事に大決定です。


 学院案内は、数枚の粗紙に書かれた簡単な学院の成り立ちや施設の説明でした。

 これで、ニードルスから何となくしか聞いていなかった学院についての情報が手に入ると言う物です。


 ハイリム魔法学院。


 正式には、『ハイリム王国国立魔法学院』。


 元々は、宮廷魔術師の育成機関として創られたらしい。

 呪文学習法の確立や、安全な修練法。その他にも、魔力の暴走防止や危険な魔法による凶行を防ぐ目的もあったみたい。


 初めのうちは貴族しか学べなかったみたいだけれど、野良魔術師の事故なんかの影響で平民にも門が開放される様になった。


 今では、身分の他に人種の違いも関係の無い数少ない機関となっているらしい。


 ……むう。

 入学金に金貨1000枚も必要なのに?

 あーでも、入学出来れば2年間は食住には困らないのかな。寮も食堂も、基本的には無料だしね。


 総生徒数300人強。


 2年制で、1学年の生徒数は100人前後。


 ……ん?

 なんか、計算が合わなくない??


 その理由は、卒業しても学院に留まる生徒が多いからみたいだった。


 卒業しても、お金を払えば学院内に研究室を借りる事が出来る。

 学院内の施設を自由に使えるし、もしもの時の危険度は、街中とは比べるまでもない。


 また、3年に1度有益な発表をすれば、研究室が無料になる上に資金供給までして貰えるみたいだよ。


 新しい魔法理論とか、呪文とか。魔導器の開発や魔物の発見。討伐。などなど。


 ……フムフム。

 何だか、冒険者向けのクエストみたいな文言に見えるけれど?

 要するに、野生のプロを放って置いて暴走させるより、国が管轄する機関で囲いますって事なのかな?


 ……例えばニードルスとか、ニードルスとか。あと、ニードルスとか?


 次は、学院内の施設紹介。


 魔導書たっぷりの図書室はもちろん、錬金室に薬品室。植物園に魔獣舎。


 植物園と魔獣舎!!

 なんて魅惑的な響きでしょう。

 植物園には、見た事もない薬草とか毒草とか、山ほどあるのかな?


 更に、魔獣舎。

 ゲームだった頃、魔物に希少価値なんて無かった。

 レアアイテムを落とす魔物とか、クエストのキーになる魔物なんかは取り合いになったりしたけれど。

 どんな魔物が飼われているのかな??


 そして、特にわたしが気になったのは『塔』の存在だった。

 学院内に、『棟』ではなくって『塔』があるらしい。

 学内イベントや、進級試験などに使われる施設らしい。


 ……ぬう。この学校、やたらに広くね?

 学院内にダンジョン的な場所があるとか!


 フフフッ。

 植物園とか魔獣舎も気になるけれど、わたしの中で、妙にグッとくる物があるのを感じてみました。冒険者魂気味。


 残りは、生徒の心構えや講師による様々な解説があった。

 こう言うのは、書き方が少し違うだけで元の世界と変わらないのね。

 でも、これこそちゃんと読まないといけない気がします!

 規範とする生徒とか、先生方の崇高な考え方……グウ。


 翌日。


 初登校日ですよ!

 ……とは言っても、今日あるのは授業ではなくってオリエンテーションみたいな物らしい。


 入学式の後、わたしたち新入生は4つのクラスに分けられました。


 クラス分けと言っても、特別な分け方があった訳ではなくって、総勢80人の新入生を20人ずつ4クラスに分けただけっポイけれど。


 わたしとニードルスは、4組になりました。


 オリエンテーションでは、担任の先生との対面や、今後のスケジュールなどの説明があるらしいです。


 サッサと制服に着替えて、食堂へと向かいます。


 朝の食堂は、わたしの予想に反して閑散としていた。

 休暇中よりは、だいぶ人数は多いのだけれど。新学期なのに、何でだろう?


「ウロさん!」


 そんな中、わたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。ニードルスだ。


 食堂の隅の方に、ニードルスの姿があった。この10日間、ほとんど定位置と化していた場所だよ。


「おはよう、ニードルスくん」


「おはようございます、ウロさん」


 わたしが挨拶すると、ニードルスは少しだけ眠そうに答えた。


「何だか眠そうだね?」


「昨夜、あまり眠れなかったもので、少しのつもりで図書室に行ったのですが。

 気がついたら朝になってまして……」


 パンをちぎりながら、ニードルスが小さくあくびをした。

 このエルフ、写本が終わった途端に趣味の調べ物に走ったのですね。


「ほどほどにね、ニードルスくん。初日から居眠りはマズいよ?」


「ご心配無く、ウロさんじゃないんですから!」


 ぐぬぬ。

 そんなに、居眠りしないもん! たぶんだけれど。……それより!


「ねえ、ニードルスくん。何だか変じゃない?」


「……何がですか?」


「食堂、新学期だって言うのにガラガラじゃない!?」


 わたしの言葉に、ニードルスはスープを飲むのを中断して顔を上げる。長い耳を揺らして、キョロキョロと辺りを見回してから小さくため息を吐いた。


「いつもよりは混んでると思いますが?」


「“いつもよりは”って、この10日間くらいの話でしょ!?

 休暇明けなのにって話をしてるの!」


 わたしがそう言うと、ニードルスは皿のスープをパンで拭き取りながら「ああ」と言った具合に口を開けてうなずいた。


「言われて見れば、そうかも知れませんね。で、何か問題でも?」


「……問題は無いけれど。ちょっと気になって……」


「空いてて良いじゃないですか。それに皆、朝食は取らないのではないですか?」


 お茶のカップを口に運びながら、ニードルスが言う。


「……まあ、そうかも知れないけれど」


 何やら腑に落ちない物を感じつつ、パンを1口かじろうとした。その時。


「それは、皆が貴族だからさ!」


 突然、頭上で声が響いて、マンガみたいにパンをお手玉してしまうわたし。


 声の主は、取り落としそうになったわたしのパンを受け止めると、わたしとニードルスの間の席に腰を下ろした。


「これは失礼、驚かせてしまったかな?」


 声の主は、わたしのトレイにパンを戻しながら笑う。


 暗さのある金髪を短めに切り揃えた男性。澄んだ青い目が宝石の様だけれど、それと同じくらいに輝く白い歯が、平民ではない事を物語っている。

 たぶん若いのだろうけれど、落ち着きのある、耳に心地良い柔らかな声が、少しだけ歳上感を抱かせる。

 それを差し引いてもこの男性は、ニードルスに負けないくらい美形だ。


「ゴホンッ」


 ハッ!?


 ニードルスの咳払いで、我に返ったわたし。見とれてた訳では無い!


「ぱ、パン、ありがとう……ございます」


「気にするな、非はこちらにある」


 ぬう、何やら尊大な態度だけれど。ゲームの頃には良く見かけたタイプかな?


「失礼ですが、どなたでしょうか?」


 わたしの思考を中断する様に、ニードルスが少しトゲのある声で言った。


「ああ、名乗っていなかったか。私は、アルバート・ローウェル。君たちと同じ、新入生だよ」


 そう言って、アルバートと名乗った男性は手をヒラヒラと振って見せた。


「初めまして、ローウェル殿。私は、ニードルス・スレイルです」


「あ、えと、ウロと申します。ローウェルさん」


「アルバートと呼んでくれ。君たちの姿は、ここ数日、良く見かけていたよ。今日は制服姿だったから解りづらかったがね。まさか、女性だったとは……」


 そう言って、肩をすくめるアルバート。


 むう、見られてましたか。しかも、ボロボロな姿を。

 てゆーか、「女性だったとは」だとぉ!?

 わたしの脚線美が解らないとはねえ。……まあ、ジャージみたいなユルユル服姿だったけれど。

 いや、今はそんな事より。


「あの、アルバートさん?」


「何だい、ウロくん?」


「さっき言ってた、食堂に来ないのが貴族だからって、どう言う意味ですか?」


「その事か。貴族は皆、朝食を自室で済ませるのさ!」


 そう言って、アルバートは両手を広げて見せた。割りとオーバーアクションな人なのかな?


 それはそうと、辺りを見回してみれば、確かに図書室で見かけた顔がチラホラ見える。

 図書室で見かけた顔、つまり、写本屋さんを雇えない人って事だからね。


「では、あなたも貴族ではないのですか? アルバート殿」


 頬杖をつき、どこか冷めた目のニードルスが言う。

 どうした、ニードルス?


「……そうだったら、気が楽なんだがね。残念ながら、貴族の端くれだよ」


 苦笑する様に、再び肩をすくめるアルバート。


 貴族は貴族で、イロイロ大変って事なのかな? わたしには解らない世界なのでテキトーにうなずいてみたり。


「アルバート様!!」


 突然、食堂に野太い声が響いた。食堂中の視線が、声の主に注がれる。


 声の主は、長身の男性だった。

 赤に近い茶髪は肩よりも長くて、陽の光によって艶を際立たせている。

 声からは想像できないくらいに綺麗な顔立ちと線の細い身体だけれど、腰に座した剣は幅広でかなり重そうだ。あれが飾りじゃないなら、服の下はかなり鍛えられているのだろう。


「……ああ、見つかった」


 やれやれ、と言った表情のアルバートは、ため息混じりにそう呟いた。


 赤茶色の髪の男性は、最短距離でツカツカとこちらに近づいてくると、ザッとアルバートの前で気をつけの姿勢になった。


「アルバート様、お早くお戻りください。これ以上、給仕の者たちを困らせてはなりません!」


「解ったよ、エセル。直ぐに戻るよ。

 それじゃあ、ニードルスくんにウロくん。いずれ、また!」


「さようなら、アルバート殿」


「あ、ありがとうアルバートさん。またです!」


 わたしたちがアルバートに答えると、エセルと呼ばれた男性は、一瞬だけギロリと鋭い視線を投げかけた後、スッと目を伏せて軽く会釈をしてからアルバートを連れて去って行った。


「……貴族も大変。ですね」


「……そだね」


 不適な笑いを浮かべるニードルスに、何やら黒い物を覚えつつ、食べた気のしないわたしの朝食は、忙しなく終了するのでした。


 朝食が終われば、いよいよオリエンテーションです!


 1度部屋に戻って、慌ただしく用意します。


 必要な物は、筆記用具と紙の束。使うかは解らないけれど、マーシュさんから貰った魔法の杖。そんな感じ。


 渡り廊下を歩いている時、頭上で鐘の音が鳴り響いた。


 朝の9時を報せるこの鐘は、王都に着いてから何度も耳にしている。

 ずっと、鐘の音はお城で鳴っているのだとばかり思っていたのだけれど、魔法学院のどこかで鳴っていると知る。てゆーか、近いからかなりうるさいよ!!


 授業開始は9時10分だから、急いで行かなくちゃ!


 一般棟の2階、座学用の教室が並ぶ中に1年生の教室はあった。


 真新しい制服姿の生徒たちが、急ぎ足で教室に入って行く流れにわたしも乗って移動する。


 教室に入ると、前の方の席は埋まってしまっている。……まあ、最前列のアリーナに座るつもりは無いけれどね。


 壁際の通路を歩きながら、どこか空いてる席はないかと探していると、こちらに手招きしている耳の長い生き物が目に入った。


 壁際の、1番後ろの席に陣取るニードルス。寝る気満々か!?


 小走りに移動して、わたしはニードルスの隣に着席した。


「遅かったですね。遅刻するんじゃないかと心配しましたよ!」


「遅刻なんてしないよ。てゆーか、みんな早すぎだから!」


 軽く弾む息を調えながら、長机の上に筆記用具を揃えて置く。


 何となく周りを見渡すと、親しげに話すグループが既に出来てるみたいだった。


 むむむ。

 出遅れた!?

 ボッチだと、寂しさで死んじゃいますよ? 余裕で。


 そんな事を考えていますと、教室のドアがバンッと音を立てて開いた。

 全員が注目する中、鞄を抱えた1人の女性が入って来た。


 栗色の長い髪、編み込みからほつれた前髪の中には、やたら整った顔が見える。


「に、ニードルスくん、あの人……」


「ええ、見覚えがあります。嫌な予感しかしませんよ!」


 わたしは、ニードルスと顔を見合わせる。周りの生徒たちも、少しだけザワザワし始めたみたいだよ。


 わたしたちの不安の塊である女性は、しばらく肩で息をしていたけれど、1度、大きく深呼吸してから教壇の前に立った。そして、こう名乗ったのです。


「皆さん、初めまして。

 このクラスを担当する事になりました、レティ・フランベルです!」

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