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第五十六話 れっつ びぎん ざ 入学準備 前編

 友達100人計画。ウロです。主に召喚出来る系で。体育館裏に来いではない。


 そんな訳で、受験を見事に突破したわたしとニードルスは、春から魔法学院の新1年生となる事が大決定したのですよ!


 合格通知を受け取った翌日、わたしとニードルスは早速、入学の手続きに魔法学院を訪れました。

 と言うのも、合格通知に同封されていた案内書に『この通知を受け取った日から1週間以内に、必ず入学手続きを行う事。怠った場合、合格は取り消されるので注意!』とあったからだったり。不幸の手紙ッポイ?


 ずいぶんと急かすなあ。などと思ったのだけれど、割りと普通の事らしい。


「試験には合格したものの、何らかの理由で入学を辞退せざるを得ない人もいるんですよ。

 第3次募集くらいまでは、毎年かかってますね」


 道すがら、何だか足取りの軽いニードルスが教えてくれた。嬉しいの? ワクワクなの!?


「……ふーん。

 でも、いくら急ぐって言っても昨日の今日なんて、慌て過ぎなんじゃない?」


 わたしの問いに、ニードルスが軽く首を左右に振る。


「そんな事はありません!

 早くしなければ、寮が埋まってしまいますから」


 寮!!

 そう言えば、そんなのもありましたっけ。でも……。


「ニードルスくんってば自宅があるでしょ? 自宅から学院まで歩いて10分位ないのに、どして?」


「何を言っているんですか。学院には、図書館では見られない貴重な魔導書があるのですよ!?

 家に帰る時間がもったいないじゃないですか!」


「……あ、ハイ」


 真剣な眼差しで力強く語るニードルスに、わたしは小さく返事をした。


 寮かあ。

 上京して1人暮らしはしてたけれど、寮生活はした事無いから良さ気かなあ。


「それに、新入生はやる事が多いですから住居は近い方が良いんですよ」


 そう言って、ニードルスは1人ウンウンとうなずいている。


 むう。

 確かに、やる事はイロイロ多そうだけれど。


 程なくして着いた、魔法学院の正門。前回同様、竜牙兵がお出迎えです。


「ウロさん、カードを」


「うん」


 ニードルスに促されて、わたしは、上着のポケットから1枚のカードを取り出した。


 手のひらサイズの、何の模様も無い青色のカード。

 少しだけ厚みのあるプラスチックみたいなカードは、案内書同様に合格通知と一緒に入っていた物だ。


 わたしとニードルスは、同時にカードを竜牙兵の前にかざして見せた。

 すると、通行証を見せた時と同じ様に、竜牙兵は武器を納めて重い扉を開いてくれた。


 この青いカードは、仮の通行証みたいな物だったり。

 本来なら、試験の受付の際に渡されて、試験当日に使う物なのだけれど。

 わたしとニードルスは、即日試験だったために通行証を貰ってなかった不具合ですよ。


 竜牙兵たちにお礼を言いつつ、開かれた門をくぐる。


「うおっ!?」


 エントランスへと続く扉を開いて驚いた。

 そこは、まるで市場の様に人でごった返していた。


「何これ?」


「だから言ったでしょう? 皆、考える事は一緒なんですよ!」


 ニードルスが、ため息混じりに答える。

 いや、いくらなんでも多すぎでしょ!?


 前回、ここを訪れた時には広く感じたエントランスが、今は床が見えないくらいに人でいっぱいだ。

 しかも、何だか身なりの良い人ばっかりな気がする。


「当たり前ですが、皆、貴族や大商人の子たちです。

 あまりジロジロ見ないでくださいよ?」


「お、オス!」


 おおう。

 すっかり忘れてました。


 魔法学院に入学するためには、入学金が1人当り金貨1000枚必要でした。ただし、それは試験に受かった者が学院生活を行うための施設利用や物資などの費用だったりする。あと寄付ね。

 また、その前に受験費用やら学院の門をくぐるための通行証代などなど。


 ハッキリ言って、平民では一生かかっても無理だと思う。……ニードルスは、エルフの時間軸で考えてたから論外だけれど。


 なるほど。

 改めて見てみれば、身なりだけじゃあなくって立ち振舞いも違う気がする。


 あと、やけに人口密度が高い理由は、生徒になるだろう子供1人に数人の従者らしき人たちが付いてるからだった。お金持ちスゲェ!!


 さてさて、いつまでもボーッと見てる訳にも参りません。

 さっさと受付してもらって、イロイロ手続きしなきゃですよ。


 そうは言うものの、学院の職員とおぼしき方々は、みんな、やたら忙しそうで話しかけられやしません。


 などと考えてましたら、わたしの視界に疲れ顔のダレンさんが飛び込んで来ました。


「ダレンさーん!」


 思わず叫んだわたしの声に、ビクッと肩を弾ませたダレンさん。ゆっくりと、その疲れ顔をわたしの方に向けてくれました。


「やあ、これは。ニードルスさんと、え……と?」


「ウロです! こんにちは、ダレンさん。わたしたち、入学の手続きに来たんです!」


「そ、そうですか。では、順番に並んでください。私は、これからランチに……」


 そう言って、エントランスを出ようとするダレンさん。

 だけれど、その行く手をニードルスが阻んだ。


「せっかくですから、お昼をご一緒しませんか?

 そうですね。どうせなら、私たちも身軽になってからの方が良いですね。早くお昼を頂くためにも、さっさと手続きをしてしまいましょう!」


 まくし立てる様に話すニードルスに、ダレンさんは目を丸くしていたけれど、やがて、やれやれと言った表情になった。


「ハァ、ニードルスさんには敵いませんな。それでは、別室で手続きしましょう。ついてきてください。まったく……」


 ブツブツ言いつつも、左の扉を開けて受験の際に使った部屋へと案内してくれたダレンさん。心の中で褒め称えてみる。男前! ふくよか!!


 それにしても、ダレンさんに対してニードルスがやけに強気でビビッた。


 後で聞いたら……、


「私が錬金術ギルドで働いていた時、無茶な調合依頼を何度もして来ましたから。少しはワガママ言ってもバチは当たらないと思います」


 ……だって。

 恐るべし、ニードルス。そして、ありがとう!


 別室に移動したわたしたちは、ダレンさんの元、入学手続きを行います。


 流れとしては、合格通知の確認 → 魔法学院規則に則る事の誓約書サイン → 学生証(通行証)の作成 → なんかイロイロ → 入寮の有無 → お支払 → 終了。……こんな感じ。


 合格通知の確認は簡単だった。


 わたしとニードルス、それぞれが自分の合格通知を持って立つ。

 そこで、ダレンさんが何事か呟くと、合格通知は蒼い炎を上げて燃え上がった。


「熱っ!!」


「ええ!? この炎は熱くは無いハズですよ?」


 ……はい、熱くありませんでした。なんて言うか、条件反射みたいな? だって、ビックリしたんだもん。


 それはさておき、もし、偽造の合格通知だったり盗品だったりすると、真っ赤に燃え上がるのだそうで。

 とにかく、わたしとニードルスは、これで完全に合格となった訳でありました。


 次は、ハイラム王国国立魔法学院規則への服従。


 こう言うと、何だか重々しく思えるのだけれど、要は『同意します!』って事でした。

 校則って言うか、学院則の書かれた本は電話帳くらいの厚さがあって、全てに同意しないと入学を許されない不具合です。


 もちろん、同意します!


 え?

 読んでませんよ!?


 試しに、ダレンさんに聞いてみますと、


「私も、全部は読んでないですよ。重要な事は、入学式後の説明会で説明されますから。ハハハハッ」


 だって。

 まあ、簡単な所では『廊下を走っちゃダメ!』とか『魔法をケンカに使っちゃダメ!』とか。

 重要そうな所では『魔導書を許可無く持ち出しちゃダメ!』とか『禁術を勝手に練習しちゃダメ!』とかかな。

 前半は「コラッ」で済むかも知れないけれど、後半は国家犯罪レベルなので大変な事になります。たぶん。


 書類にサインして、同意完了です。


 続いては、学生証の作成です。

 これは、学院内外の様々な施設への通行証にもなってたりするらしい。

 これが無いと、まず、教室に入れないのだとか。なので、かなり重要!!


「こちらのカードに、それぞれ魔力を流してください」


 そう言って、ダレンさんは2枚のカードを取り出した。

 ワザワザ手袋して、丁寧に箱にしまわれていたカードは、半透明の硬質プラスチックを思わせる。大きさは、車の運転免許証くらいかな?


 わたしが渡されたカードに触れると、軽く魔力を吸い出される感覚に襲われた。

 同時に、半透明だったカードは、ボンヤリと赤くなったみたいだった。


「そのカードは、魔力を吸収します。吸収した魔力の主のカードとなるのです。ですから、魔力を遮断するグローブが必要なんですよ」


 な、なるほど。

 貴金属を触るみたいに、指紋つけない様にって訳じゃあないのですね。


 触っているだけで、本当に微量だけれど魔力を吸われるのが解る。

 少し魔力を込めると、カードは一気に赤くなっていく。


 やがて、カードはワインレッドの様な光沢のある赤に変わって魔力を受け付けなくなった。

 消費MP的には、ほんの5ポイントくらいの物だけれど。


 良し、学生証GET! とか思っていましたら、ダレンさんは、おもむろにアイスピックみたいな針を取り出しました。


「最後に、自分の血を1滴垂らして完成です」


 ああ。

 出たよ、血!


 何で、こう言うアイテムって血が好きなの? 栄養? 栄養があるの? 鉄分とか血小板とか? あとヘモなんとか??


 ダレンさんとニードルスが何か言ってるけれど、今は聞こえません。絶賛、現実逃避中だから!


 グサッ


「ギニャー!?」


 刺さった!

 てゆーか、刺された!!

 ニードルスに。左手親指を!!


「叫ばないでください。行きますよ? って、言ったじゃないですか!」


「う、うう」


 親指の腹に、プクッと血の玉が現れる。


 それを、赤く変わったカードに押し当てると、カードは1回だけボンヤリと光を放った。


「さあ、これで学生証の完成です。確認してください」


 ダレンさんは、少し戸惑った様に微笑んで肩をすくめた。


 わたしは、カードを手に取って確認する。


「おおっ!!」


 赤く染まっただけで、何も書かれていなかったカードにわたしの名前が浮かび上がっている。


「学院で様々な講義を受ければ、名前以外の項目も増えていくでしょう。

 もし、紛失した際には速やかに学生課に申し出てください。再発行手続きを行って、無くしたカードを破棄しますので」


 でないと、持ち主の名前で悪用されかねませんから。

 そう付け加えて、ダレンさんは笑った。


 いやいや、笑い事じゃないし! 親指痛いし。


 恨めしくニードルスを睨むと、出来上がった学生証を見詰めてウットリしてやがりましたよ。はふう。


「オホンッ。お2人とも、次に行ってもよろしいですかな?」


 ダレンさんの声に、ハッと我に帰るニードルス。


「……はい」


 わたしも、だいぶゲンナリ気味だけれどダレンさんの方へと向き直った。


「次は、教科書についてなんですが……」


 おお、教科書!!

 わたし、新しい教科書が大好きです。

 真新しい教科書って、なんだかテンション上がる気がするのだけれどどうでしょう?


 そんなわたしとは裏腹に、渋い顔をしているニードルス。


 なんで?

 ニードルス、新しい本よ!?

 元気イッパイになるんじゃないの?


 そんな甘い考えのわたしに、ダレンさんから残酷な言葉が告げられました。


「教科書は、図書室にありますから各自、必要な分を写し取ってください!」


 ん?

 今、なんとおっしゃいました??


「ご自分で写すのが大変だと思われるなら、当学院の写本師を頼む事も出来ますよ」


 写本師!?

 今、写本師って言った!?

 と言う事は……。


「う、 写すのですか?? 新しい教科書が貰えるんじゃないんですか!?」


「は、はい。さすがに、お1人ずつに教科書を配れるほどの労力はありませんので」


 わたしの声に、ダレンさんが眉をひそめた。


「そうですよ、ウロさん。貴族ならいざ知らず、写本にいちいち人を雇っていては、あっと言う間に破産してしまいます。

 幸い、私たちは字が読めて書けますから写本は可能です!」


 自信たっぷりのニードルス。


 何言ってるのこのエルフ!?

 どれだけの量あるの?

 何文字?

 何項目??

 何冊になるの???


 印刷技術の無い世界。

『写本師』って言葉を聞くまで忘れてたよ。

 なるほど、ニードルスが渋い顔をする訳だわね。


「ちなみに、新学期は10日後から始まりますので、それまでに最低限、必要な分の写本を終わらせておく様にお願いいたします」


 ダレンさんからの追加コメントに、軽く目眩がする。


「……だから言ったでしょう? 新入生はやる事が多いって」


 小声でささやくニードルスの言葉が、やけに重く聞こえた気がした。


 魔法学院に通うと浮かれていたわたしは、頭をガツンと殴られた様な衝撃と、これからしなければならないイロイロについて考える事で2重にダメージを受けた様な気がしてならないのでしたさ。

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