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第四話 迷子保護中

 ……むう。

 あと5分。

 あと5分したら起きるからぁ。あんまし揺すらないでぇ。 ……って、アレ!?


 急速に覚醒する。

 寝ぼけ眼に、明るい部屋がぼんやりと広がっていく。


「あ、あの……」


 落とし窓は開けられて、光が取り入れられている。

 明るくなった室内には、ベッドに寝そべるわたしと、わたしの目の前に立つ男性とイスに腰かけてパイプをくわえた老人の姿があった。


 い、いつの間にベッドに?

 いや、今はそれどころじゃないよ!


「あ、あの、おはようございます」


「○×#♪=?」


 え? な、何語??


 目の前に立つ、まだ少年みたいな雰囲気の、茶髪に青い眼をした男性が話しかけてきている。

 が、まったく理解出来ない!

 また、その頭上には黄色い文字で『ジャン』と浮かんでいる。


 ゲームだった頃、プレイヤー以外の人物である『ノンプレイヤーキャラクター(NPC)』は、名前を黄色い文字で表記され、基本的に日本語か英語で話していた(プレイヤー名は白文字)。


 吹替え、或いは字幕などで様々な国の言葉に翻訳されていたけれど、今はまったく聞いた事の無い言語で話している。


 戸惑うわたしを見て、茶髪の若者はグレーの髪と、同じ色の髭をたっぷりとたたえた老人の方に向かって何か話している。


「☆%@#∞&?」


 ヤバイ、老人の話しもまったく解らない!!

 ちなみに老人は、黄色い文字で『トーマス』だった。


 あ、もしかして!?


 わたしは、頭の中で「メインメニュー」と唱える。

 すると、わたしの目の前には半透明のメニューウインドが展開した。


 一瞬、2人にメニュー操作している所を見られる事に悩んでみたけれど、わたしの動きを見ても軽く小首を傾げたくらいだった。

 どうやら、メニューウインドは見えていないらしい。たぶんだけど。


 ならばよし!

 急いでメニューの項目を探す。

 言語設定、あった!

 吹替え、字幕、どっちも出来る!!


 早速、吹替えに設定。……すると。


「×△☆の言ってる事、解らんかね?」


 スゴイ!

 日本語になった!!


「わ、解ります!」


 わたしは、慌てて答えた。


「なんだ、話せるじゃないか!」


 茶髪の若者が、少し呆れた様に言った。


「いきなり変な言葉で話すから、ビックリしたよ」


 むう、日本語は変な言葉に聞こえたって事か。

 今は翻訳されてるから、普通に聞こえてるのかな?


「あ、あの、お、おはようございます!」


「もう、夕方じゃがの」


 そう言ってほっほっほっと笑う老人。


 ぬぅう。

 そんなに寝てたんだ。


「あの、すみません。勝手にベッド使ったりして……」


「いや、ワシらが運んだんだよ」


 え!?


「だって、床で寝てるんだもん」


 はぅわ!!

 隙の多い人生すぎる!!


「す、すみません、ありがとうございます!」


「別にかまわんよ」


「普段はあんまり使ってないしね」


 どうやら、彼らは近くの村に住む狩人らしい。

 この小屋は、獲物や保存食などを作ったり休んだりする場所の様だ。


 わたしは、無断で小屋に入ったり、保存食を勝手に食べた事を謝罪したけれど、彼らは特に怒っておらずカラカラと笑うだけだった。

 良い人たちで本当に良かった!


「それより、娘さんの方は大丈夫かな?」


「服がボロボロだし、血がにじんでるよ?」


 言われて、改めて自分を良く見てみる。

 なるほど、ゴブリンとの戦闘で服がボロボロ、所々に血がにじんでいる。


 そんな娘ッ子が、床に寝そべっていれば、それはビックリするだろう。


 頭の中で「ステータス」と唱え、自分の状態を調べてみる。


 HP 10/16

 MP 18/18


 うん、だいぶ回復してる。

 MPが回復したせいか、頭痛は無くなったみたいだった。


「大丈夫です。ありがとうございます!」


「そうかい、それは良かった。……ところで」


 老人は、パイプをかまどに打ちながら言った。


「ワシら、もう村に帰るが娘さんはどうするね?」


「え、えっと~」


 これって、森を抜け出すチャンスなんじゃね?

 てゆーか、これを逃すとそれこそ遭難なんじゃね!?


「も、もし、よろしければ村へ連れて行ってもらえませんか?」


 わたしは、王都で倉庫整理をしていた事。

 気がついたら森の中にいた事。

 帰ろうとしたけれど、道に迷ってゴブリンに襲われた事。

 やっとの思いで、この小屋までたどり着いた事を話した。


 2人とも、何やら信じられない的な顔で聞いていた。


「もしかすると、ゴブリンの黒コゲを作ったのは娘さんかな?」


「は、はい。……たぶん」


「自分でやったのにハッキリしないね?」


「無我夢中だったので」


 なるほど。と、納得してくれる2人。突っ込まれなくって良かった。


「では、そろそろ行こうかの? のんびりしとったら夜になってしまう」


「あ、あの、勝手に食べちゃった干し肉とかの……」


「別にいいよ? ゴブリン退治したの、キミなんだろ?」


 そう言って若者は、自分の背負子から何か取り出した。


「ぎゃっ!!」


 取り出したのは、ゴブリンの頭蓋骨。

 キレイにされて、真っ白だ。 ……じゃなくって!


「そ、それって!?」


「おかげで、こんな立派なのが手に入ったよ。いい金になるさ!」


 ……ソウデスカ。良カッタデスネ。


「時に娘さん、名前を聞いても良いかな?」


「オレはジャン。こっちは、トーマスじいさんだよ」


「わ、わたしはたま……いえ、ウロって言います!」


 一瞬、どっちの名前を言うか迷った。

 やっぱり、今は環じゃなくってウロであるべきだとか思った。


 まずは着替えましょう!

 こんな、ボロボロの装備では恥ずかしいし危険です。

『メンテナンス』スキルがあれば直せるのだけれど、ウロはあんまり上げていないので保留。


『見習い魔術師のローブ』から『チュニック』に。

『麻のスボン』から『レギンス』に交換した。


 おしゃれなソレとは違って、黒っぽくまとまっててアレだけれど仕方ないね。

 一瞬で着替えた事に、かなり驚かれたけれど気のせいと言い張ってみたら、2人とも小首を傾げながら唸ってたけど問題無しです!

 さあ、気を取り直して出発しましょう! サッサと。トットと。



 ……さて、悲しい話をしましょう。


 小屋を出発したわたしたちは、無事に彼らの村までたどり着く事ができました。


 それは、とても素晴らしい事です。


 ですが、ですがなぁ!


 出発してすぐ、わたしたちは、小川に出ました。

 ええ、見覚えのある小川でしたとも。


 そして、2人は小川に沿って上流へと歩き出しました。上流です。決して下流ではありません。


 程なくして、わたしたちは、村へと到着したのです。


 所要時間は、大体3時間くらい。


 わたしの2日って何だったのぉ!?


 この、やり場のない怒りをなんとしてくれよう!?

 などと考えていましたが、トーマスさんの作ってくれた夕食(野ウサギのシチュー)が美味しかったので忘れました。


 夕食後、少しだけお話を聞くことができた。


 トーマスさんとジャンさんは、ここ、イムの村に住む狩人だと言う事。

 もう夜なので、明日、村長の所へ報告に行くらしい。


 なるほど、よそ者が村に来た場合は村の長に挨拶に行く治安維持ですね。

 ただ、森で遭難しかけた小娘は驚異ではないらしく、報告は翌日なのだ。

 ……ぐうの音も出ないです。ハイ。


 また、その時に王都に行く乗り合い馬車についての情報も得られるみたい。


 あぁ、良い人たちに出会えて本当に良かった。


 何かに感謝の祈りを捧げつつ、その日は眠りについた。ぐぅ。


 翌日、朝食を終えたジャンさんとわたしは、村長の家へと向かった。トーマスさんはお留守番だ。


 村の中央付近に、他の家より明らかに大きな建物があった。

 これが村長の家であり、同時に寄り合いの会場などにもなっているらしい。


「あら、おはようジャン。そちらの方は?」


 年配の女性が、ジャンさんとわたしを迎えて言った。


「おはようございます、ドーアさん。コイツは、昨日、森で行き倒れてたウロだ」


 むう。

 ジャン、口が悪いよ?

 でも、事実なので何も言えない。


「おはようございます。ウロと申します」


「はいはい、ウロさんね。家の人に会いにきたのね?」


 そんな感じに、あっという間に村長との面会となった。


 一室に通されたジャンとわたし。

 程なくして、立派な髭の初老の男性が現れた。


「わたしが村長のカレッカだ」


 あ、はい見えてます。名前の通りの頭ですね。……とは言わない。言えない。


「ウロと申します」


 ジャンから、大体の事が村長に告げられる。

 相変わらず、行き倒れなんですけどね。ぬぅう!


「村長として、心から歓迎しますぞ。ウロ殿」


「は、はい。ありがとうございます!」


 あぁ、村長さんも良い人だ。名前通りなんて思ってごめんなさい!


「さてさて、王都へ行きたいのでしたな?」


「はい、王都へ行く馬車があると聞きました」


「あるにはある。が、乗り合い馬車ではなく、行商人の馬車に間借りする形になるが?」


 うぉう!

 そりゃそうだよね。

 普通の村に、乗り合い馬車がある訳無いよねぇ。


「はい、全然大丈夫です。是非、お願いします!」


「分かった。次に行商人が来るのは1週間後だ。その時に、わたしが口を利いてやろう」


「はい、ありがとうございます!」


「良かったな、ウロ!」


 そう言って、ジャンはわたしの頭をポンポンと叩いた。


 お前、馴れ馴れしいな!

 絶対、年下だろ!?


 ……とは言えないので、笑顔で返しておいた。


 また、待っている1週間は村への滞在を許されたし、トーマスさん(あと、ジャン)の所へ寄せてもらえる事になった。ありがたい事です。


 そんな感じに、1週間だけ村人ウロです。

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