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第四十七話 英雄、その名はザフザ

 前回のあらすじ。


 みんなを守ると勝手に思ってたら、返り討ちにあった上に捕獲対象に助けられたテイタラク。大後悔時代なのですが、めげずにヒーローインタビューするのであった……。


「さっきはありがとうございました。ヒーローさん!」


「ヒーロー? 俺は熊喰い族のザフザだ。それよりお前、人間……ヒト族だな? 何故、俺たちの言葉が解る?」


 ザフザと名乗ったのは、先ほど、わたしを助けてくれたゴブリン・ヒーローさん。

 わたしが話しかけると、ザフザは腕を組んで首を傾げた。

 赤い目が、ギロリとこちらを睨んでいて怖い。


「……えと、べ、勉強したから?」


 わたしの答えに、ザフザは眉間にシワを寄せる。

 まあ「翻訳機能です!」なんて言っても通じる訳ないしね。


「……良く解らんが、言葉が解るなら話しは早い。

 お前たち、俺の村へ来てくれないか?」


「ふえっ!?」


 あまりに唐突な発言に、中途半端な声が出ちゃったよ。


「お前たちは強い。頼む、助けてくれ!!」


「ちょっ、ちょっと待って。ちゃんと、解る様に話してくれませんか?」


 少しだけ、興奮気味に身を乗り出して話すザフザに、わたしの背後の皆さんがザワッとしたので慌てて押し止める。


「す、すまん!」


 そう言ってザフザは、座り直すと大きく深呼吸する。


 ……なんか、わたしの知ってるゴブリン像とだいぶ違うのだけれど何故なんだぜ?


 わたしの考えなんか知るはずもないザフザは、今度こそ、ゆっくりと話し始めた。


「この森は今、戦場なんだ!」


 ザフザの話しでは、現在このフォーンの森は、ゴブリン族とオーク族による戦の真っ只中なのだと言う。


 ある日を境に、オーク族によるゴブリン族への攻撃が始まったらしい。


 今までも、狩り場などをめぐって小さな争い事は幾度となくあったものの、ここまで大規模で激しい戦闘は無かったのだとか。


 オークたちは、ゴブリンの集落を襲って食糧や仲間を奪って行った。


 ゴブリンたちも抵抗したものの、オークの勢いには勝てず、少しずつ後退するしかなかったらしい。


「今では、俺たちの村に生き残りが集まってる有り様だ!」


 ザフザが、悔しそうに地面を叩く。


 ……ぬう。

 なんだか、大変な事が起こってるみたいだけれど。


 でも、オークってゴブリンと一緒になって馬車を襲ったりしてなかったっけ?

 そのせいで、イムの村まで騎士団が来なくなったのが、わたしたちが探索に出る原因な訳だし。


 わたしがその事をザフザに問うと、ザフザは大きくため息をついた。


「それは、おそらくオーク共に連れて行かれた仲間たちだろう。

 俺たちゴブリンは、そんな危険な事はしない。

 お前たちヒト族が『カイドウ』と呼ぶ石で出来た道には、『キシダン』とか『ボウケンシャ』なんて奴らがうろついてるじゃないか!?」


 むう。

 どうやら、一連の襲撃事件の首謀者はオークたちみたいだよ。

 そして、ゴブリンたちは無理矢理襲撃に参加させられてるらしい。


「それじゃあ、わたしたちにはオークとの戦に参加しろって事?」


「……いや、そうではない」


 わたしの問いに、ザフザは何やら居心地が悪そうに頭をかいた。


「……実は、姫を。族長の娘を助け出すのを手伝って欲しいんだ!」


「えっ? 姫!?」


 問い返すわたしに、ザフザはコクンとうなずいた。


「数日前、オーク共は俺たちの村にもやって来たんだ。

 俺たち熊喰い族の男は、この森でも1番の戦士だ。そう簡単に負けはしない。

 だが、オーク共は隙を見て女子供を奪って行ったんだ」


 その中に、彼らの姫である族長の娘がいたみたいで、ザフザは、守れなかった自分を悔しそうに罵っている。


 ……もしかして、恋人だったのかしら? ウフフッ。


「村の長老たちは、助け出すのを諦めちまってる。

 昨夜、ヒト族の男を捕まえたからそれと交換を……」


「ちょ、ちょっと待って!!」


 瞬間、ザフザの口から出た言葉にわたしの背筋がゾクリとした。


「……人を捕まえた?」


「ああ、そうだ。村の若い連中が食糧を探しに出て馬を見つけたんだそうだ。

 だが、馬には逃げられちまって、代わりにそれに乗ってた人間の男を捕まえたんだそうだ」


「わたしたちは、人探しで森に入ったのだけれど、もしかしたら、わたしたちが探してるのは、貴方の仲間が捕まえたって言うその人間の男かも知れないの!」


「!?」


 わたしがそう言うと、ザフザは目を大きく見開いて絶句した。


「悪いけれど、ここからはわたし1人じゃあ話せなくなっちゃった」


 わたしは1度、話を中断して振り返った。


 みんな、わたしを見て一瞬だけビクッとした様に見えたけれど? 気のせい??


「みんな、大切な話が……」


「ウロさん……」


 ニードルスが、わたしの言葉を遮った。


「どうして、そんなに流暢なゴブリンの言葉を話せるのですか?

 あんな、擬音みたいな発音が、何故、意図も簡単に出来てしまうのですか?

 皆、気味が悪くて動揺していますよ!?」


 ぬおっ?

 そうなの!?


 わたしってば、みんなには普通の言葉で話してる様に聞こえてると思ってたよ。

 だって、ゲームだった頃の翻訳機能は、日本語でも英語でも同時通訳だったから。

 でも、今の翻訳機能は、対象1人にしか機能してないのかしら?

 あ、もしかしたら、プレイヤー同士で翻訳し合ってたって事だったのかな? やっちゃったぜ!?


「い、今はそれどころじゃあないよ!

 もしかしたらだけれど、レト様は彼の村にいるかも知れないの!」


「本当か、ウロ!?」


「まだ、確信は無いけれどね。だから、ここからは話し合いにはみんなにも参加してほしいの!」


 ニードルスを押し退けて、ジャンが前に出る。……ナイスですよ、ジャン。


 わたしは、ここまでの話をみんなに話して聞かせるカクカクシカジカ。


 そして、わたしの通訳による話し合いが始まった。


 ザフザは最初、言葉の通じない人間に警戒していたけれど、少しずつ話してくれた。


 捕まった人間の男は、やっぱりレト・ディクソンで間違い無いみたい。ザフザの持っていた剣は、レトが腰に下げていた物だった。


「その剣は、長老から村1番の戦士にと贈られたんだ。長過ぎて、俺には使いづらいがな」


 ザフザの言葉に、一瞬だけジャンやリック、ライナスの顔に緊張が走った様に見えた。


 ニードルスの「ゴブリンは人間を食べるのですか?」と言う質問に、ザフザは首を大きく振って否定する。


「ヒトもゴブリンをも喰うのは、オーク共だよ!」


 忌々しそうに、ザフザが呟いた。


 いつ頃からかオークは、ゴブリンを襲って喰らう様になったらしい。

 ニードルスの補足によると、オークがゴブリンを食べるなんて記録は見た事が無いらしいからこの森だけの事かも知れないけれど。


 しかも、食べるのは魔力が大きいシャーマンの血筋ばかりなのだとか。


 ゴブリン・シャーマンは、ゴブリンには珍しい魔術師タイプの敵だったわたしの記憶。


 つまり、理由は不明だけれど、オークはなるべく多くの魔力を取り込もうとしているって事なのかな?。


「……さらわれた姫も、巫女だったんだ」


 そう呟いて、ザフザは下を向いてしまった。


「じゃあ、なんでレト様をさらったんだ? あの人は魔力なんてほど遠い存在だろう?」


「若い連中は、馬を狙ったようだ。馬に逃げられ、代わりに落馬して気絶している身なりの良い人間を連れ帰ったらしい。

 それを、あの年寄りどもめ!」


 ジャンの問いかけに、ザフザは答えてため息をついた。


「年寄り連中は、姫と捕えた人間を交換出来ないか? と考えているんだ。オーク共と話し合いが出来ると思ってやがるのさ。

 俺は、そうしてる間にも喰われてしまうかも知れない姫を助け出すために、そこに寝てるトフトと村を飛び出したんだ」


 そう言って、ザフザが指し示した先には、倒れてるゴブリンの姿が。って、コイツ生きてたんだ!


「じゃあ、レト様は生きてるの?」


「ああ。年寄り連中が無茶しなければな。

 だから、頼む。俺と一緒に来てくれ! 一緒に、年寄り連中を説得してくれ!!」


 ザフザはそう言って、目を伏せてしまった。


 ……さて、どうしましょう?


 現状、レトは生きているものの、完全な人質状態だよ。


 ザフザの話だと、村の年寄り連中は話しても通じなさ気な感じだけれどどうでしょう?

 となれば、やっぱりザフザの村に行かなければいけないと思うのだけれど。


「ザフザの村に行こうと思う!」


 こう言ったのは、ジャンだった。


「レト様が生きているなら、連れて帰らなきゃならない。ゴブリンの村に置いてはおけないだろう」


「ですが、無理矢理に連れ出すのは危険ではありませんか?

 ゴブリンとは言え、数に頼めば十分に脅威ですよ?」


 むうっと悩むジャンとニードルス。


 ならば、しょうがないね。

 ここは、わたしが一肌脱ごうと言うものです。


「解った。わたしが、レト様の代わりに人質になります! そうすれば、ゴブリンたちもきっと……」


「お前は……

「貴女は……


『主戦力』


 だろうが!!」

 でしょう!!」


 ……む、むう。

 2人同時に同じ様に怒られたし。何でじゃ?


「解ったよ、とにかく村まで行こう。だけど、コイツらを助ける義理は無いぜ? オレたちの目的は、レト様の救出なんだからな?」


「解りましたか、ウロさん?」


「了解!」


 わたしは、サッと手を挙げて答えた。

 正直な所、わたしはザフザを助けてあげたかったりする。

 でも、わたしたちの目的はジャンの言う様にレトの救出だ。無駄に危険な事は出来ないよ。

 てゆーか、魔力を欲しがるオークなんて、ニードルスが1番に食いつくと思ったのに。意外!


 その事をニードルスに聞いてみますと、


「確かに、非常に興味深いですね。でも、今の私たちで調査に向かっても危険なだけでしょう。

 安全を確保しつつ、調査出来ると状態でないと無駄骨ですし、何より死ぬかも知れませんから。今は放置で良いでしょう」


 だって。

 冷静なご意見だけれど、今はって所にグッとくる物がある気がします。あぁ、おっかねい。


 それはそうと、大切な事がありましたよ!


 わたしは、リックとライナスの所へと足を向ける。

 状況の解っていない2人は、ずっと落ち着かない様子だった。


「せ、先生?」


 不安気にリックが呟いた。


「リックさん、ライナスさんも聞いて?

 わたしたちはレト様を救出するために、これからあのゴブリンの村へ向かいます!」


 わたしの言葉を聞いて、リックとライナスは目を丸くした。……ですよね。


「ご、ゴブリンの村って。そんな!?」


「……危険過ぎる!」


 慌てるリックと、冷静な様で顔色が青くなっているライナス。


 まあ、当然でしょうね。

 村から出た事の無かった2人にとって、今日、この数時間で体験している事は、天地がひっくり返るほどの出来事だろうから。ショックを受けない訳ないと思う。


「2人は、村に戻って。帰り道が不安かも知れないけれど、これから向かう所よりは安全だと思うよ?」


 わたしの言葉に、リックとライナスは顔を見合せる。


 少しの沈黙の後、最初にリックが口を開いた。


「オレたちも行くよ。女の先生を残して行けないからな!」


「……今度は、オレたちが守る」


 ……ヤバイ、超絶泣きそう。嬉しくて。女性扱いに。

 ……冗談はともかく、嬉しい反面、怖くもあったり。


「ありがとう。でも、今度は助けられないかも知れないですよ?

 その時は、お願いだから逃げて下さいね?」


「ああ、解ったよ先生!」


「……約束する」


 3人でガッチリ握手!


 それを呆れて見ているジャンと、不思議そうに見詰めるザフザの姿が。


 一方、ニードルスは倒したオークから笑顔で魔石を取り出す作業をしている地獄絵図ですよ。やっぱりおっかねい。

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