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第三十九話 進学のための悪だくみ

 勉強するのは嫌いじゃない。ウロです。問題は、記憶力が無い事。常に新鮮。地獄のテスト前!


 まさか、異世界に来てまで学校に通う事になるとは思ってもいませんでしたさ。


 でも、図書館に魔導書が無いのでは仕方ありますまい!


 入学資金は用意したし、春になったら魔法学院の生徒となって、再びのキャンパスライフ~!!


 などと思ってましたら。


「まだ、解りませんよ?」


 魔石の欠片を数えながら、ニードルスが言った。


 はい、わたしは今、ニードルスの研究所に来ております。


 理由は、魔法学院に入学するまでの準備があるとかで、ニードルスに呼び出されたから。


「解らないって、どゆ事?」


「魔法学院に入学するには、簡単なテストがあるんです」


 て、テスト!?


「入学金を払って終りじゃあないの?」


「あれは、諸経費みたいな物です!」


 ニードルスの話しによると、各種教材や貴重な魔導書の貸出料金、わたしたちが入る予定の学生寮の維持費などに入学金が使われるみたい。


 その辺は、元の世界の学校とあまり変わらない感じだ。


「まあ、テストと言いましても、難しくはありませんから問題はありませんよ」


 むう。

 ちょっと、と言うかかなり不安なんですけれど……。


「そんなに不安なら、試しにやってみましょうか?」


「えっ!?」


 心を読まれた!?

 と思ったら、だいぶ顔に出ちゃってた不具合です。


 と言う訳で、唐突に始まってしまった模擬テスト。


 出題されるのは、算術・読み書き・一般常識の3つだそうな。


 まずは算術。

 つまり計算問題なんだけれど、本当に簡単な物だった。


 足す、引く、掛ける、割る。

 本当にこれだけ。

 からかってるのかと思うレベルだよ!?


「こちらの計算機か、トークンを使ってもかまいませんよ?」


 ニードルスは、テーブルの上に、いつか見た商人さんたちが使っていた算盤みたいな計算機と、おはじきみたいな石を取り出した。


 む、むう。

 算盤はともかく、おはじきで数えながらとか。


 やっぱし、からかってるのかな?


 最大でも2桁の計算なんて、空でもイケるけれど、筆算で余裕でしょ! ……たぶん。


 算盤もおはじきも使わず、ちょっとだけ筆算を使って問題を解いてみる。


「……ウロさん」


「はい?」


 顔を上げると、クワッと目を剥くニードルスの姿が。


「なんですか、それは?

 そんな計算方法、見た事がありませんよ!?

 いや、それ以前に計算機もトークンも使わないなんて……」


 あれ?

 わたし、そんなに変な事した?


 どうやら、ニードルスは筆算を知らなかったみたい。


「えとね、これは筆算って言ってね。……こんな感じでぇ。くりあがってぇ。……ね、簡単でしょ?」


「……これは、スゴいですね!」


 いくつかの問題を筆算で解くと、ニードルスは唸る様に言った。


「一体、どこでこんなやり方を習ったんですか?」


「え、えと、以前に、行商人のトコで売り子してた事があって~」


「そうですか、商人の間ではこんなにも計算が発達していたとは……」


 う、嘘は言ってないから、この問題は回避した! ……などと。


「さあ、ニードルスくん。次をお願いします!」


「ああ、はい。

 次は、読み書きなんですが、これは問題ありませんよね?」


 読み書き。は、まさにそのまま読み書きだ。


 てゆーか、これが出来なきゃ本は読めないしレポートもまとめられない。


 これがテストに入ってるって、おかしくない?


「ところが、そうでもありませんよ?」


 よほど筆算が楽しいのか、ニードルスは、自分で作った問題を筆算で解き、計算機で確認してウンウンと納得していたけれど、わたしの疑問にはちゃんと答えてくれた。……聞こえてたのに驚く。


「読み書きが出来る者なんて、実は、そんなに多くはないんですよ」


 読み書きが出来る者と言えば、一般には商人か職人くらいらしい。


 村レベルになると、読み書きが出来るのは、村の顔役くらいのものだとか。


「でも、わたしたちが行く学院って、基本は貴族ばかりなんでしょ? なら、みんな出来るんじゃないの?」


「そうでもありません。

 読み書きが出来なくても、書記官を付けていれば良いと考える者もいますから」


 どうやら、貴族であっても、必ずしも読み書きが出来る訳ではないらしい。


 書記官を常に同行させて、本は読んでもらい、手紙などは口述筆記。……なんてのも珍しくないんだとか。


 マジで!?

 激しくショック!!


 ああ、わたしの中の貴族像が崩れていくよ。


「まあ、魔法学院は貴族学院とは違いますからね。

 爵位を継ぐ者は、家庭教師などできちんと勉強しているでしょう」


 むう。

 魔法学院は、進学校と言うよりは専門学校みたいな感じだよ。


 爵位を継ぐ者は、貴族学院なる進学校に行き、貴族としての立ち居振舞いを学ぶ。


 魔法学院は、貴族の次男や魔法使いの子。裕福な商人の子などが学びにくる所らしい。


 もちろん、その中には宮廷魔術師を目指す者や、研究者などの学者を目指す者もいるのだけれど。


 それに、魔法学院を卒業すれば、計算能力や読み書きに加えて、幅広い知識を得られるため、文官として重宝されるみたいだよ。


 高度な知識と秘術が得られ、平民から貴族まで、幅広く門戸が開放されている。それが王立魔法学院!!


 ……ただし、入学金は高い。


「ちなみに、テストには書記官持ち込み可! です」


 もう、何でもアリじゃん。そんなの。


 気を取り直して、最後は一般常識。


「これも、まあ、問題ありませんよね?」


「た、たぶん」


 ご機嫌なニードルスとは裏腹に、わたしは不安たっぷりに答えた。


 わたしってば、ゲームだった時の知識くらいしか無いのですよ。


 しかも、公式ページやマニュアルなんてあまり読んでないし。


 だから、世界観とか各種設定とか、だいぶボンヤリ状態だったりなんですけれど。


「たぶん、て。

 では、1年は何日ですか?」


「さ、365日?」


 瞬間、ニードルスの顔色が変わる。


「何を言ってるんですか?

 1年は360日ですよ!?

 余分な5日は、どこから出て来たんですか?」


 あ、あれ?

 そうだっけ??


「では、1年は何ヵ月ですか?」


「じゅ、12ヶ月?」


「そうです!

 では、1ヶ月は何日ですか?」


「30日(計算だと)?」


「では、1週間は?」


「7日?」


「では、曜日は?」


 ぬぬぬ!?

 な、なんだっけな?

 確か、少し変わってた様な。


「どうしました?」


 少しだけ、眉間にシワのよったニードルスが凄んで来る。


「え、えーと。

 日、月、火、す……」


「待った待った!!

 何ですか、それは?

 にちって何ですか?

 げつって何ですか?

 何で、解ったり解らなかったりするんですか?

 何で、あんな高度な計算が出来るのにこんな基本的な知識が無いんですか?

 こんな事、子供でも知ってますよ。宿屋の女の子に笑われますよ!?」


 り、リノちゃんなら笑われてもいいかも? じゃなくてさ!!


 やっぱりと言うか、何と言うか。


 マニュアルとか、ちゃんと読まなきゃダメね。


 いつも、チームの先輩方におんぶだっこだった過去の自分を反省!


 そして、この後、神様関係の話とかでガッツリ怒られたのはもう勘弁してください。


 そんなこんなで、1週間が経ちました。


 この間、ほとんどの時間をニードルスの研究所で過ごしてたりです。地下で。エノキダケ? 白アスパラ?


 ニードルスは、怒りっポイけれど、真面目で優秀な先生かも知れない。


 1週間で、テスト対策の一般常識は完璧気味になりました。


 1週間は、曜日に始まって、つきみずかぜつち曜日で終わる。


 神様も、至高神をトップに至高神が産み出した4柱の神様。


 豊穣の大地母神、戦いの神、知識の神、運命の神。


 その下に、神々に仕える準神様や精霊ががいたりして。


 それと同じく、闇の神様もいたりするのだけれど。


 さらに、神様ごとに色んな物語があったり。


 こう言うのは、子供の頃に寝物語で聞くのだとか。


 ……なるほど、奥が深かったのですね。と、今頃思ってみたりしました。


 ところで、この世界の神様には名前が無いみたいなのだけれど。


 ニードルスが言うには、神の名は、人には解せないほど尊い物。らしい。


 でも、ヴァルキリーは戦いの神の名前を言ってなかったっけな? 確か、エルダだったと思うけれど。


 まあ、これを言うとニードルスがどうにかなっちゃうかも知れないのでナイショですがな。


「取り合えず、基本となる物はこんな所でしょう。

 後は、少しずつ補強すれは問題ありません」


「ありがとうございます、ニードルス先生!」


「べ、別に感謝される程の事はありません。

 ウロさんには、入学金を出して頂いてる訳ですし、不合格になられても困りますからね!」


 褒めると、解りやすく照れるニードルス。面白いなあ。


「そんな事より、実は、問題があるんです!」


 気を取り直す様に、急に真面目になったニードルスが言った。


「むう、まだ問題があるのですか?」


「正確には、問題と言うより言い訳が必要なんです!」


「言い訳? 何の言い訳がいるの?」


「魔力の量の言い訳です!」


 どうやら、わたしたちは魔力が普通より多いらしい。


 詳しく言うなら、一般人に比べて、魔力が育っていると言う事みたいだよ。


「それが、何かマズいの?」


「マズいのです!

 魔法学院に入る際、テストと同時に魔力量の検査が行われます。

 魔力の量に応じて、クラスを分けるのが目的ですが、稀に異常に少なかったり多過ぎたりする者がいるのです」


 魔力検査によって、魔力量を計り、あまりに少なすぎる者は、身体への負担が大きくなるため入学が出来ない。


 逆に、多すぎる者は、入学は出来るものの、魔力が暴走した時の為に特別な機関へと送られる事になるらしい。


「わたしたちって、そんなに多いの?」


「いえ、普通です」


 なんだよ。

 脅かしただけ?


「ただ、魔法使いとして普通なのです」


 んん?

 どゆ事??


「つまり、魔法を行使している者としては適正な量なのです。

 が、問題は何の魔法を行使しているか? です」


 あ~。

 なるほど、理解しました!


「わたしやニードルスくんの使ってる魔法がマズいって事?」


「その通りです!」


 ニードルスの付与魔術は、国から許可を得ないと使えない。


 わたしの方はと言うと……。


「ウロさんの召喚魔法は、その術者の少なさから貴重です。

 出自や、経歴なども詳しく調べられるかも知れません。

 場合によっては、頭の中を覗かれるかも!?」


 なんでも、魔法学院にはそういったマジックアイテムがあるらしい。


 な、何それ怖い!!


 そんなので頭の中を覗かれたら、わたしが異世界から来たとかバレちゃうよ?


 さらに、ニードルスの付与魔術とかも。


 それは、だいぶマズイですわなあ。


「とにかく、私たちの魔力量の理由を考えなくては!」


 むう。

 どうしよう?


「錬金術は?

 わたしたちって、錬金術師だし、それで……」


 ニードルスが、わたしの声を遮る様に首を振る。


「……錬金術は、知っての通り錬金台の起動に魔力を使うだけです。

 後は、術式に従って錬成するだけです。

 スプーンを使うのに、魔力はいらないでしょう?

 それでは、魔力はほとんど育ちません!」


 ……知らなかったけれど、確かにそうですね。


「じゃ、じゃあ、他の魔法が使える事にしては?」


 それにも、ニードルスは首を振る。


「実演を迫られた時、どうするつもりですか?」


 あ、そっか。


 ほとんどMPを使用しない生活魔法は論外だし。


 ……おお、そうじゃ!


「じゃあ、魔界魔法が出来る事にしよう!」


「ですから、実演を迫られたら……」


「だから、使える様になればいいんだよね?」


「使える様にって、そんな簡単に学べる訳が無いじゃないですか?」


「わたし、良い人を知ってるんだ~!」


 その日から、さらに3日後。


 わたしとニードルスは、街門前にいた。


 まだ、陽も出ていない朝の街門に、馬車の音が近づいてくる。


「やあ、ウロ。

 久し振りだな!」


 馬車から降りた恰幅の良い商人は、そう言ってわたしに手を振った。


「おはようございます、トレビスさん。無理言って、すみませんでした!」


 3日前、わたしはある事を思いつき、いつぞやお世話になったティモシー商会を訪ねた。


 理由は、行商の馬車に相乗りさせてもらえる様にお願いするためだよ。


 2つ返事で了承してくれたのは、誰あろうトレビスさんだったりです。ありがたい事です。


「ハハハ、少し寄り道するくらい構わんよ。なあ、ブレッド?」


「はい、トレビスさん。

 ウロ、久し振りだな!」


「ブレッドセンパイ、お久し振りですー!」


 トレビスさんの後から降りてきたのは、ブレッドくんだった。

 見習いが消えて、商人レベル1になってる。成長してらっしゃいました!


「その、センパイって止めろよ。ブレッドでいいって言ったろ?」


「うん、ブレッドもありがとね!」


 ブレッドくんと、ガッチリ握手。


「……ウロさん、私にも紹介して頂けませんか?」


 わたしの後ろから、ニードルスの声が響いた。なんか、ちょっと怖いよ?


「えと、こちらは今回、イムの村までお世話になりますティモシー商会のトレビスさんとブレッドくんです」


「初めまして、ニードルスと申します。よろしくお願いします。トレビスさん!」


 何か気になるけれど、何が気になるのか全く解らないので良し。


 ああよろしくと、簡単な挨拶をして、わたしたちは馬車へと乗り込んだ。


 目指すは、イムの村。


 魔界魔法の大魔術師、マーシュさんに会うために!

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