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第三十話 白い魔女 その四

 目覚めのコーヒー、目覚めのフルーツ。

 イロイロありますけれど、わたしの場合は目覚めのチョップ! ウロです。優しくしてください。マジで。


 黒が、白に変わって行く。


 それが、明るくなっているのだと気がつくのに、少しだけ時間がかかった。


 すると今度は、ガクガクと激しい震動が襲ってくる。


 それが、夢じゃないと気がつくのに時間はかからなかった。


「うおー!?」


 わたしが眼を開けると、そこは、真っ白な場所だった。


 ……違った。


 光る天井が、顔のギリギリにあって、同時にわたしは、激しく揺すられてる途中だった。それはもう、首をやっちゃう勢いで。


「おっ! 気がついたか、姫よ?」


 下の方から、ゴーズさんの声が聞こえた。


 どうやらわたしは、ゴーズさんによって高くかかげられてるみたい。なぜだ!?


 なおも、激しく揺するゴーズさん。


「おおお起きたかららららおろろろろして~!」


 ぐやんぐやん状態で、わたしは、自分の身体に戻った事を確信したりしてますが罰ゲームですか?


「良く戻った、ウロ殿!」


「大丈夫か? ウロ」


 ファルさんとニコルさんが、それぞれに声をかけてくれた。


「はい、大丈夫です。

 でも、何で持ち上げてたんですか?」


「いや、だって、姫が急に泣き出したからよ?」


 少し困ったみたいに、ゴーズさんが言った。


 泣いてた!?


 わたしは、自分の顔を触ってみた。


 うおっ!?

 ほほが何か、湿ってる!?

 つまり、幻覚見て泣いた時に身体の方も泣いてたのですかなあ。


「あれは、怖い夢を見たからムニャムニャ。

 てゆーか、揺すられ過ぎて、少し身体が重いですよ!」


「それは、精神が肉体を離れていたからです。

 じきに良くなるでしょう」


 わたしの声に、どこからともなくヴァルキリーが答えた。


 むう、なるほど。


 身体が、プールの後みたいに重い。ってゆーか、ダルいかな?

 まあ、MPが減ってるせいもあるとは思うのだけれど。


「それより、ララさんは?」


 ヘロヘロと床に座りながら、わたしは辺りを見回した。


「まだ、意識が戻っていない。

 一体、どうなったんだ?」


「ララさんの中の魔女は、倒す事が出来ました。

 でも、それで終わりじゃないんです!」


 ニコルさんに支えられるララさんは、まだ、縛られたままだったけれど顔色が良くなっている様に見える。


 わたしは、ララさんの中で起こった事を皆に話した。


 魔女の事、不老不死の研究の事。


 そして、倒したのが魔女のほんの一部だって事も。


 皆、何だかポカンとしている?


 こう言うの、荒唐無稽な話って言うんだっけな?


 でも、本当なんだけれどね。


「じゃあ、その、魔女の本体ってヤツはどこにいるんだ?」


「……さ、さあ?

 でも、近くにいるとは思う。たぶん」


「ち、近く!?」


 ゴーズさんか、急にキョロキョロしだした。


「どうしたのですか?」


「ゴーズは、普通に殴れない相手が怖いのさ!」


 クスクスと笑いながら、ファルさんが言った。


「ば、バカヤロウ! こ、怖くねえよ! ……ただ、ちょっと苦手なだけだよ。

 それは、お前も同じだろうが?」


「私は、少し困るだけだ!」


 さっきより、だいぶ挙動不審になったゴーズさん。遊園地の着ぐるみみたいだとか思ったけれどナイショだ。


 てゆーか、ファルさんとゴーズさんのやり取りが、やけに完成されてて面白い。仲が良いですね! ぐふふ。


「魔女の話だと、魔法のかかったこの部屋から出たくなかったみたい。

 だから、この部屋のどっかにいると思います!」


「正確には、あるですね」


 わたしの後を追う様に、ヴァルキリーが言った。


「ある?」


「そう。

 どのくらいの時が経っているかは解りませんが、おそらくはもう、魔女の肉体は滅んでいて存在しないでしょう。

 だから、魂を納めた器があるはずです」


 なるほど、そう言う事か。


「……と言う事だそうです」


 わたしは、皆にヴァルキリーの言葉を伝える。


「ヒヨルスリムル、お前には魂の器がある場所が解らないのか?」


「残念ながら、解らないわニコル。

 魔法で守られた魂は、私には見えないのよ。……ごめんなさい」


 ニコルさんの言葉に、ヴァルキリーは悲しそうに首を振って答えた。


 ……これ、伝えるのはわたしなんですけれどね。一言一句。


「解った。

 よし、みんな。手分けして探そう!」


 ニコルの声に、各々が返事をして動き出す。


 わたしも探さなくちゃ! っと、その前に。


 わたしは、ララさんのステータスを確認する。


 うん、憑依状態から回復してる!


「ニコルさん、ララさんはもう、大丈夫です。

 いつまでも縛ってるのは、可哀想だから縄を解いてください!」


「ああ、そうだな!」


 そう言って、ニコルさんはララさんの縄を解き始めた。


 良かったねララさん。

 たぶん、怪我もしてるだろうから手当てしなくちゃですよ!


 なんて思ってましたら、ララさんの胸元から何かが落ちた。


 首飾り? ペンダント??


 そんな感じだけれど。


「ん? 何だ、これは?」

 ニコルさんが、落ちた首飾りを拾おうとした瞬間。


「ダメよ、ニコル。それに触ってはいけない!!」


 耳をつんざく様な、ヴァルキリーの絶叫が響いた。


 思わず、身をすくませたのはわたしだけだったけれど。


 同時にハッとして、今度はわたしが叫んだ。


「ダメ、触んないで!!」


 全員の動きが止まる。


 しばしの沈黙。そして……。


「わ、若!?」


「……若」


 ゴーズさんとファルさんが、ニコルさんを見て呆れているみたい?


「……ん?」


 不思議そうな声を出す、ニコルさん。


 わたしは、ニコルさんを見た。


 ニコルさんは、首飾りに手を伸ばす途中で止まってた。


 それはまるで、気を失って半分縛られた、無防備なララさんに覆い被さるみたいになって。


「うわー!!

 違う、違うぞ!?」


 超絶慌てる、ニコルさん。


 死んだ様な眼で、主人を見つめるファルさんとゴーズさん。


 一方わたしは、ニコルさんの後ろの方に鬼の形相で睨まれなう!


 ……ややあって。


「これが、魔女の魂の器なのか?」


「いいえ、これでは無い様です」


 ニコルさんの問いに、ヴァルキリーが答えた。わたしの頭の上でリズミカルに足踏みしながら。ごめんなさい痛いです止めてください!


 わたしは、床に転がる首飾りを見た。


 金の縁の中央に、透明感のある青い石をあしらった、500円玉くらいの大きさの首飾り。


 ストラップは、ただのヒモみたいだけれど。


「操心の首飾り?」


 わたしは、見たままに口に出していた。


『操心の首飾り


 魔力と共に、命令を吹き込む事の出来るアーティファクト。


 手にした相手の心を支配して、操る事が出来る。

 支配力や命令内容は、込めた魔力量に左右される』


 アーティファクト!?


 ゲームだった頃だと、限定イベントとか高難易度クエストの報酬で見た事があったっけな?


 て事は、かなりのレアアイテムなんじゃね? などと。


「……つまり、どう言う事だよ?」


 頭をかきながら、ゴーズさんが言った。


「それを身につけた相手を、自分のところに来させるんだろう。……たぶんな?」


 ファルさんがそう言いながら、棒の切れ端で首飾りを拾い上げた。


「……で、誰が着ける?」


 ニコルさんの言葉で、皆に緊張が走る。


「……たぶん、わたし」


「ウロ?」


「ウロ殿?」


「また、姫が?」


 みなさん、そうおっしゃって下さるのですね!?


 でもね?


「この中で、諱名を持つのはウロしかいないのです。

 それに、貴女ならいざと言う時に押さえる事が出来るでしょう!」


「……だ、そうです」


 わたしは、ヴァルキリーの言葉をみなさんに伝える。


「諱名とは、ウロ殿は本当に何者なのだ?」


「やっぱり、うちの姫はただ者じゃねーんだって!」

 唸るファルさんとはしゃぐゴーズさん。


 すいません、本当はただの学生です。


「すまん、ウロ。

 何とか頼む!」


 そう言って、ニコルさんが頭を下げた。


 むう。

 やるしかないのね。おおイヤだよう。


 でも、やります!


 て事で、わたしは、鞄と武器を装備から外してニコルさんに預けた。


 さらに、両手を縛ってもらう。


 万が一の為にね。

 痛いのは嫌いだけれど。


「では、参ります!」


 皆がコクリとうなずいた。


「わ、ワシが死んだら死体は隠しておけ。

 そして、影武者を……」


「早く、姫!」


 なんだよう。

 言わせろよお!


 ゴーズさんが急かすので、わたしは、口上を止めて首飾りを手に取った。


 その瞬間、わたしの目の前に偽者の方の魔女が現れた。


「汝、我が僕なれば、我が元にて頭を垂れよ」


 声ではなく、頭の中に響く感じのそれは、何度も何度も反響するみたいに頭の中を回っている。


 やがてそれは、不思議な多幸感に変わっていった。


 言われるままに、わたしは、たぶん歩いている。


 足の感覚、てゆーか、身体の感覚が極端に鈍くなってるみたい?


 視界には、魔女の美しい姿が。


 そして、魔女の姿がハッキリとなる頃わたしは、玉座に座る魔女の足元にひざまずいていた。


「さあ、わたしに口づけなさい」


 魔女の言葉が、わたしに降り注ぐ。


 わたしは、魔女の顔に手を……。


「ウロ!!」


 この声は、ニコルさん?


 その途端に、わたしの視界が一変した。


 暗くて、荒れ果てた場所。


 隣には、棒の先に首飾りを引っかけたニコルさんの姿があった。


「大丈夫か、ウロ!?」


「えっ? あれ?」


 まだハッキリしない頭を振って、わたしは呟いた。



 わたしの目の前には、半壊した安楽椅子があって、その上には、頭蓋骨が1つあった。


 そう、わたしが口づけしようと手を伸ばした先に。


「うわー!!」


 思わず、後ろにひっくり返った。


「大丈夫か、姫!?」


 ゴーズさんが、わたしを受け止めてくれた。


「あ、ありがとう。大丈夫です!」


 あービックリした。

 超目が覚めたよ!!


「どうやら、隠し部屋みたいだな」


 辺りを調べながら、ファルさんが言った。


 わたしは、改めて辺りを見回す。


 6畳くらいのスペースに、所狭しと本が積み上げられている。


 ただし、ニードルスの部屋に比べてかなりの時間が経ってるみたいだった。


 また、何かの実験用具と思われる器材もある。


 そして、その実験に使われたであろう沢山の骨が、部屋の隅に山積みになっていた。


「動物だけじゃない、人間や魔物の物もあるな」


 ファルさんが、少しだけ語気を強めて言った。


 確か、この森ではいっぱい行方不明が出てるんだっけ。


 そんな部屋の中央に、壊れかけの椅子に置かれた、真っ黒の頭蓋骨。


「これが、魔女の本体の様ですね」


 ヴァルキリーの澄んだ声が、この忌まわしい部屋には不釣り合いだったよ。


 わたしは、再び頭蓋骨に視線を戻した。


「マジック・ジャー!?」


 ジャー?

 炊飯器??


 あ、ジャーって壺だっけな?


『マジック・ジャー


 魔女エルズの魂を納めた、エルフ〝バイアーナ〟の頭蓋骨』


 ぬ?

 バイアーナって誰?


 あ、もしかして、これがエルダー・トレントの言ってたエルフの娘さんかな?


 て事は、ここから魔女の魂を抜けば良いのかな?


 ……でも、どうすれば良いんだろ?


「何をしているのです、ウロ。

 早く、その頭蓋骨を破壊するのです!

 そうすれば、魔女の魂は寄る辺を失って消滅するでしょう!」


 ヴァルキリーが、急かす様にわたしに言った。


「ダメです。

 エルダー・トレントとの約束があるんです!」


「約束?」


 わたしの言葉に、ヴァルキリーが首をかしげた。


「そう言や、そんな話だったな」


「では、それはエルフの頭蓋骨なのか? ウロ殿」


 おおう、中々に察しが良いね? お2人さん。


「ですです!

 だけれど、解放の仕方が解りません」


「解らなけりゃ、聞けばいいだろ?」


 そう言ってゴーズさんは、椅子を傾けた。


 頭蓋骨はゴロリと転がって、ゴーズさんの背負い袋に吸い込まれて行った。


「あっ!!」


 思わず声が出た。


 てゆーか、何してんのゴーズさん!?


「ご、ゴーズ。お前、またそんな……」


 ファルさんが、泣きそうな顔で困惑してるよ。


「大丈夫だよ。

 何にもないじゃね……」


 ゴーズさんが、そう言いかけた瞬間。


 椅子を中心に、赤色の光が輝き出した。


 光は、やがて円を描いて行き、複雑に、異様な物へとなっていった。


 ……これって、どっかで見た事あるような?


 あれだ。

 ニードルスの研究所で見た、魔法陣に似てる! ……て事は、だ。



「ゴーズ、このバカヤロー!!」


 ファルさんの絶叫を引き金に、皆が一斉に走り出した。


「ファルはララを、ゴーズは死体だ。急げ!」


「おう!」


「おおう!!」


 そう言って動き出す皆様。


 一方、わたしはと言うと。


「う、ウロ!?」


 ニコルさんが、慌てて引き返して来た。


「……た、立てません」


 わたしはって言うと、MP残量が2になって、意識がモウロウとしてる不具合でしたさ。口が動かないし、床が冷たいです。


「若、急いで!」


 盗賊首領嫁の死体を担いだゴーズさんが、壁の向こうで叫んでいる。


「解ってる!

 よし、ウロ行くぞ!」


 ニコルさんが、わたしを背負って走り出した。


 そして、一気に壁に!


 スカッ


 壁、通り抜けた!?


 どうやら、このフロアすべてが幻術か何かだったみたい。


 まるで、雨にさらされた砂の城みたいにドロドロと崩れて行く。


 もう、床の光は消えはじめている。魔法的な余韻だけみたいだよ。


「若、出られます!」


「よし、急げ!

 崩れて来たぞ!」


 扉の外から響くファルさんの声に、ニコルさんが叫んだ。


 その言葉通り、壁も床も天井までもがボロボロと崩れだした。


 薄暗い森に、低い轟音が響いた。


「あぶなかった~!」


 大きく息を吐いて、ゴーズさんが言った。


 塔は既に無く、あるのは、大量の瓦礫だけだった。


 てゆーか、だいぶギリギリでしたけれどね?


「いきなり、何で崩れたんだ?」


 ゴーズさんが、皆の冷たい視線にさらされている。あれかな。アホなのかしら?


「おそらく、頭蓋骨を動かした事で結界への魔力供給が切れたのだ。

 まったく、お前ってヤツは……」


 ファルさんが、ため息混じりにそう言った。


「とにかく、頭蓋骨をエルダー・トレントとやらに渡してみよう。

 そうすれば、何かが終わるのだろう?」


 ニコルさんは、そう言ってわたしを見た。


 わたしは、なんとか1回、コクンとうなずいて見せた。


「よし、すぐ出発だ!

 塔の中で、どれだけ時が経ったか解りゃしない!」


「問題は、どうやって沼を越えるかですが……」


 ニコルさんの声に、ファルさんが沼を見つめて言った。


「沼? それなら、橋を渡れば良いだけだろう?」


「それが……」


 ニコルさんに答えて、ファルさんがゴーズさんを見た。


「すみません。橋、壊しちまいました!」


 ゴーズさんが、少しだけ小さくなって言った。


「!?」


 ニコルさんは、見る影も無い橋を眺めて腕組みしている。


 ぬう、沼の中にはきっとまだ、スワンプマンがたっぷりいるんだろうなあ。


 あ、でも、塔が崩れだって事は、この辺りにかかった結界も壊れたかな?


 ダメで元々ですよ!


 わたしは、眼を閉じて祈ってみた。


(エルダー・トレント。

 塔から、バイアーナを連れ出しました。

 どうか、あなたの元へ導いてください!)


 MPも無いし、届くかどうかは解らないけれどね。


 いや、届け!

 わたしの熱い想い!!


 しばしの沈黙、そして。


 どこからともなく、木々の擦れ合う音が聞こえて来た。


 音は、次第に大きく、地響きを伴って近づいて来る。


「な、なんだ?」


「また、地揺れか?」


 ゴーズさんとファルさんが、しゃがみながら言う。


「違う、見ろ!」


 ニコルさんの指差す方、わたしたちがやって来た森の入口。


 木々が大きくしなり、左右に分かれる。


 そこから、何体もの若いトレントたちが現れる。


 トレントたちは、それぞれの枝を伸ばし、組み、沼をまたいで差し出してくれた。


 それは、頑丈で立派な橋になっていた。


 さすが、長老様。

 わたしの熱い想いに答えて、若い衆を寄越してくださったのですね!


「これは、ありがたい!

 よし、出発するぞ!」


「おう!」


「よっしゃ!」


 ニコルさんの号に、ファルさんとゴーズさんが呼応する。


 かくしてわたしたちは、一路、エルダー・トレントの元を目指して進む事になった。


 死体をゴーズさんが、ララさんをファルさんがそれぞれに背負う。


 そして、わたしをニコルさんが背負って。


 わたしの頭の上に、なぜかヴァルキリーが座っているのですがな!


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