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第二十九話 白い魔女 その三

 前回のあらすじ。


 ボスキャラ見っけた!


 真っ黒な瘴気を身にまとって、魔女は、ゆっくりとこちらにやって来る。


 次第に、その姿がハッキリ見えるにつれ、わたしはがく然となった。


 わたしの魔女のイメージは、三角帽子に黒いローブ。

 ホウキを持っているか、長い杖を持っている感じ。あと、練るお菓子。


 だけれど、瘴気の中から現れたのは、恐ろしく美しい女性だった。


 腰まである長い髪は、少しクセのある黒髪で、時おり見える肌は、透き通るみたいに白い。


 てゆーか、何そのナイスバディ!?


 脚、長ッ! 腰、高ッ!!


「お前たち、なぜわしの邪魔をするのだ?

 わしは、ただ、静かに研究がしたいだけだと言うのに」


 さっきの、ゾッとする様な声とはまるで違う、美しい声で魔女は言った。


「け、研究?」


「いったい、何の研究か?」


 わたしとヴァルキリーが、同時に声を発した。


「わしが研究しているのは、不老不死の秘術だ!」


 魔女は、表情を崩さないままにそう答えた。


 ぬう。

 不老不死とか、なんと言うファンタジーな発想!


 研究自体は、別に悪い事じゃないと思うけれど。


「……研究は良いと思う」


「ウロ?」


 わたしがそう言うと、ヴァルキリーは意外そうにこちらを見る。


「研究は構わないけれど、ララさんの中でする必要は無いでしょ?」


「??」


 わたしがの言葉に、今度は魔女が不思議そうに首を傾げた。


「わしの研究には、それを行う身体が必要だ。

 それが解らんか? この愚か者め!」


 魔女はそう言って、語気を荒げた。


「では、我々を塔から出してもらおう!」


 今度はヴァルキリーが言った。


「わしの研究には、時がいくらあっても足りぬのだ。

 あの術を一度解いてしまったら、再び発動させるまでにどれ程の時がかかるか。

 話しにならんわ!」


 そう言って、魔女は首を振った。


 てゆーかこの人、まったく表情が変わらなくって怖いんですけれど?


 そして、目的のためなら他人なんてどうでも良い人だって事も解ったよ!


 あと、ヴァルキリーもニコルさん以外眼中に無いね!? たぶん。


「仕方ない、ならば退治ねばなりません。

 参りますよ、ウロ!」


「……了解」


 なんか、納得いかないけれど。今はまず、ララさん救出が先決ですよ!


「わしの研究の尊さが解らねなら、ここで果て、この身体に喰われるがいい!!」


 魔女が手をつき出すと、その指に魔力が集まり始めた。


 それと同時に、わたしとヴァルキリーが動き出す。


 わたしは、右に移動しつつ剣を構えた。


 魔女が何事か呟くと、それぞれの指から魔法の矢が飛び出した。


 3発ずつの光る矢が、わたしとヴァルキリーにそれぞれ飛んでくる! ……指、何本?


 1本目、直進する魔法の矢をギリギリまで引き付けてかわす。


 わたしの左肩をかすめながら、矢は地面へと消えた。

 2本目と3本目の間隔が近い。


 わたしは、2本目を剣で受ける。


 バチッと音をたてて、魔法の矢は光の塵になった。


 その勢いで、3本目を剣で叩き落とす。……つもりだったのだけれど、わたしの剣速では間に合わない!!


 当然、かわす時間も無いよ!


 被弾を覚悟した瞬間、手に持つ剣から重さが消えた。

 !?


 驚きつつも、わたしは、剣をそのまま振り抜いた。


 その決意と同時に、わたしの剣が加速して魔法の矢を撃ち落とした。


「うおう!」


 わたしは、思わず唸りながらマジマジと剣を見つめた。


 もしかして、今、剣がサポートしてくれた?


 スゴイ!

 この剣、かなり出来る子だよ!!


 剣を抱き締めたい衝動を抑えて、体勢を立て直しつつ、わたしは地面を蹴った。


 次の魔法までに、なんとしても魔女の元にたどり着かなくっちゃ!


 せっかく剣が、チャンスをくれたのだから。


 あと、数メートル!


 わたしの眼には、魔女がこちらに掌を向けているのが見えた。


 あと、3歩くらい?


 ダメだ、魔女の魔法が完成してしまう。


 魔女の掌が、魔力に染まる瞬間。


 魔女の左側を、電撃がかすめ取って行った。


 ヴァルキリーのライトニング・ボルトだ。


 大きく体勢を崩した魔女は、魔法を完成出来ずに膝をついた。


「もらった!!」


 わたしは、叫びながら魔女の頭に剣を叩きつけた!


 !?


 何コレ?


 剣は、確かに魔女の頭を捉えた。


 なのに、わたしの手には何の衝撃も伝わって来ない。


「ウロ、避けろ!!」


 自分の手を見るわたしに、ヴァルキリーが叫んだ。


 同時に、わたしの前に青白い光が炸裂する。


 魔女が、魔法を完成させたのだ。


 何かは解らないけれど、魔法をまともに受けて、わたしは後方に弾き飛ばされた。


 ヤバイヤバイヤバイ!!

 死ぬ! 死んじゃう!!


 ……って、あれ?

 全然、痛くない?


 慌てて起き上がったわたしは、自分の身体を確認した。


「……どこも、何ともない?」


 まあ、白タイツなんですけれど。


「いいえ、貴女はダメージを受けています!」


 わたしの呟きに、ヴァルキリーが答えた。


「貴女は今、精神だけの存在です。

 肉体的な痛みや怪我はありませんが、その分、精神にダメージを受けているのです」


 精神、つまりMPって事?


 わたしは、自分のステータスを確認した。



 名前 ウロ


 HP -/-

 MP 10/38



 ヤバッ!

 MPがあと10しか残ってない!!


「精神が完全に失われると、貴女は自分の身体に戻れなくなってしまうでしょう!」


 さらりとスゴい事を言う、ヴァルキリー。


 てゆーか、戦闘前に言っておいて欲しいのですがなあ。


 思わず、わたしはヴァルキリーを見た。


 そこで気がついた。


 ヴァルキリーの頭の上には、ヴァルキリーと名前が浮かんでいる。


 だけれど、魔女の頭の上には、魔女の名前であるエルズが無い!


 これって、もしかして!?


 わたしは、周辺に目を凝らして見た。


 あった!!


 魔女のいる所から、少しだけ後ろ。


 少し高くなった上に、瘴気が濃くなってる所がある。

 最初は、ただの暗闇部分だと思ったのだけれど。


 そこだけ、暗い物が渦巻いてる感じだよ。


 そして、その中心の真上に「エルズ」と浮かんでる!!


 改めて、ボスキャラ見っけた!!


 ステータス確認してやる!



 名前 エルズ・クラフィールド


 種族 人間 女

 職業 幻術師/錬金術師 Lv50/Lv20


 HP -/-

 MP 39/52



 むう、ステータスがちゃんと見えない!?


 いや、そんな事より幻術師!!


 しかも、レベル50ってヤバイでしょ!?


 でも、1撃死はしなかった不思議ですがどうでしょう?


 とにかく、あっちを叩かなきゃですよ。


「ヴァルキリーさん、あの魔女は偽者です!

 本物は、あっちの高い所にいます!」


「なぜ、それが解るのですか?」


「お、女の勘です!」


「……解りました。

 では、私が手前の方を足止めしますから、貴女は本体に奇襲をかけてください!」


「りょ、了解です!」


 よ、良かった。

 信じてくれた!


 足に力を溜めつつ、わたしは呼吸を整える。……呼吸、してないッポイけれど。気分的な何か。


「さあ、行け! ウロ」


「うらー!!」


 ヴァルキリーの声に呼応して、わたしは飛び出した。


 一直線に、偽者の方へ走り出す。


 偽者が、再び手に、さっきと同じ魔法を展開し始めたのが見えた。


 あと3歩、さっきと同じ間合い。


 偽者の魔法が、間も無く完成する。


 瞬間、わたしは左に飛んで跳ね返る様に偽者の後方へと走り出した。


 それとほぼ同時に、わたしの右後方でヴァルキリーのライトニング・ボルトが炸裂したのが解った。


 青白い光に後押しされる様に、わたしは台地を駆け登って行く。


 中央には、真っ黒い球状の物があった。


 煙りの玉みたいな?

 煤とか、そんな物の塊みたいな。


 艶のまったく無い黒い玉が、時おり、頭の方から瘴気を吐き出していた。


 その吹き出し口の上に、忌まわしい名前が浮かんでいる。


 わたしは、勢いそのままに剣を構えて突進した。


 剣が届くかな?

 ちゃんと倒せるかな!?


 イロイロ浮かんだりしたけれど、やるした無いし。


 とその時、わたしの手の中で、剣が光だした。


 わたしが、幻を見ていた時と同じ。


 眩いけれど、決してイヤじゃない光だよ。


 光が、辺りを明るく照らす。


「ぐっ」


 どこからか、くぐもった気味の悪い声が聞こえた。


 それは、目の前の黒い玉からだった。


 !!


 玉の天辺付近が、光に照らされて綻んでいる!?


 わたしは、高く飛び上がった。


 剣を最上段に構えて、一気に振り下ろした。


 渾身の兜割り。


 剣から伸びた光が、先導するみたいに黒い瘴気をかき分けて行く。


 見えた!


 黒い瘴気の奥に、白い髪の頭が。


 瘴気が、剣を押し止め様とうねっていたけれど、光に阻まれて勢いは失われない。


 ……そして、着地。


「ギャアアアアアッ!!」


 重い手応えと共に、恐ろしく不快で不気味な悲鳴が響き渡った。


 瘴気が飛び散って、その中心があらわになる。


 わたしは、もう1度、がく然となった。


 瘴気の中心にいたのは、白髪の老婆だった。


 ただし、普通のお婆ちゃんじゃないよ。


 黄色く歪んだ瞳、裂けた口。


 何コレ?


 山姥? ヤガー?? ハッグ???


 とにかく、鬼婆!!


 決して、魔女じゃないよ。


 裂けた口から、不快な唸り声と黒い瘴気を吐き出しながら、鬼婆はブルブルと震えている。


「ウロ、戻れ!」


 放心するわたしは、ヴァルキリーの声で我に返った。

 わたしの眼下で、鬼婆はボロボロと崩れ、瘴気の一部となって消え始めている。


「ララの精神から、戒めが解かれた。

 急いで脱出する!」


 ヴァルキリーの声に、わたしはその場を駆け出した。


 周りの様子が、カーテンを開けて行くみたいに明るく、綺麗になっていく。


「魔女の術が解けて、ララ本来の姿に戻り始めたのです!」


 ヴァルキリーの指差す方には、魔女の偽者が。


 偽者もまた、ドロドロに溶けて黒い瘴気になりつつあった。


「さあ、急いでここを出なくては。

 今度は、私たちがララに吸収されてしまうでしょう! ……それに」


「それに?」


「あの魔女は、恐らく本体ではありません!」


 ファッ!?


 何言ってんの!?


「どう言う事ですか?」


「私にも良くは解りません。

 しかし、魂の大きさが足りない様に感じました」


 ぬ、ぬう。

 魂の大きさ!?


 ヴァルキリーの話しでは、生きるモノすべて、強さとは別に、魂の大きさは同じらしい。


 んで、あの魔女が消滅する際、一瞬だけ魂を垣間見る事が出来たのだとか。


 その時見た、魂のサイズが、規格よりかなり小さい物だったみたい。


 むう、魂に決まった大きさがあるなんて!


「あれは、一部分だけって事ですか?」


「恐らくは、10分の1程度だと思います」


 わたしの問いに、ヴァルキリーが自問自答するみたいに答えた。


 その時、辺りの景色が一変する。


 暗く、不気味な洞窟みたいだった世界が、明るい、緑の眩しい世界へと変貌した。


「ララの心が、自我を取り戻しつつあります。

 ここは、ララの最も深い記憶でしょう!」


「ララさんの、最も深い記憶……」


 青空と、緑に囲まれた場所。

 簡易的な家が並び、沢山の子供たちの姿がある。


 ……あ、違った。

 あれは、子供たちじゃあない!


 背の高さは子供みたいだけれど、立派な大人だ。


 リリパット族の村だ。


 おそらく、ララさんの故郷だと思うのだけれど。


 ヤバイ。

 見て回りたい!


 もちろん、記憶だから回る事は出来ないのだけれど。

「さあ、戻りますよ!」


 ヴァルキリーが、わたしの頭をむんずと掴んだ。


 ああ、名残惜しい。


 でも、脱出すれば本物のララさんに会えるしね!


 そんな事を考えながら、わたしは目を閉じ……様とした時。


 わたしの前方から、一際高い声が聞こえた。


 思わず目を開けると、こちらに走って来る一団が。


 リリパット族の、子供たちの姿だ!


 ぎゃー!!

 どうしよう!?


 超絶カワイイ!

 かなり持って帰りたい!!


 ふと、その中の1人に目が留まる。


「ら、ララさん!?」


 それは、間違いなく子供の頃のララさんだった。


 だいぶ小さいけれど、面影が残っている。


 小さいララさんは、弾ける様な笑顔でこちらに走って来る。


 もう少し!

 もう3歩くらい!!


 わたしとララさんが交差する瞬間、無情にも、わたしの視界は暗転してしまうのでしたさ。むぎゅー。

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