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第二十四話 灰色の森

「ここが、灰色の森の入口でさぁ」


 案内人の狩人、ジョーイさんは、そう言って身を震わせた。


 すでに陽も傾き、薄暗くなった世界を、森はさらに暗い物へとしていた。


 番組の途中ですが、ウロです。……冗談の1つも言ってないとやってられない雰囲気に大後悔時代ですがどうでしょう。


 1時間前。


 宿に戻ったわたしは、部屋から鞄を引っ掴んで階段を駆け降りた。


「おやおや、こんな時間からどこへ行くんだね?」


 女将さんが、慌てた様子で奥から出て来た。


「これから、灰色の森に行ってきます!

 出来たら、森までの案内人をお願いしたいんですけれど?」


 わたしの言葉に、女将さんを始めとした全員がギョッとした顔でわたしを見て来る。


「は、灰色の!?」


「そう、灰色の!!」


 ……なんだか、ドヨドヨしてきちゃった店内。


「なんだって、そんな所に行くんだ?」


「わたしの友人たちが、森に入ったきり帰って来ないんです。だから……」


「諦めな!」


「可哀想だが、あの森に入って夜になっちまってはなあ」


 ぬう。

 何と言うネガティブ思考!


「まだ、そうと決まった訳では……」


「ムリだムリ!」


「残念だが、生きてるハズないよ」


「悪い事は言わん、諦めな!」


 そんな最中、誰とも無く声が上がった。


「で、あの森に行ったボンクラはどこのどいつだ?」


「薬師のララさんと。……ニコルさんです」


 その瞬間、嘲笑混じりで騒いでいた店内が、まるで時が止まったかの様に静まり返った。


 そして、ざわめきは一気に戻って来た。


「ニコル様が!?」


「若様!?」


 やっぱり、人気者なニコルさん。


 でも、アチコチで不安やら憶測が加速して、おかしな空気になってきちゃいましたよ。


「アンタ、何で早く探しに行かねえんだ!?」


「さっさと探しに行け!!」


 ぬうう。

 気持ちは分かるけれど、それは無茶じゃよ~。


 女将さんが仲裁してくれたりしたけれど、ヒートアップしちゃったみなさんを押さえきれなくなってきた。


 ヤバイ!!


 とか思ってましたら、宿の扉が勢い良く開いた。


「黙れクズ共!!」


 身がすくむほどの大声に、一瞬にして酒場は沈黙に支配された。


 入って来たのは、大柄な男性だった。


 色黒で、2メートルはあろうかと言う長身。

 使い込まれた革鎧からは、丸太の様な腕が伸びている。


「こんな小僧っ子1人に、何だテメェら!」


 こ、小僧!?


 ……いや、かばってくれたしね。うん。


「入口で騒ぐな! さっさと入れ」


 大男の後ろから、もう1人、男性の声が聞こえた。


 大男の後ろから顔を出したのは、わたしより少し背が高いくらいの、薄い緑色の髪をした男性だった。


 スケールメイルに身を包んだ、軽装だけれど騎士って感じ?


「お前は人一倍デカいのだ、入口を塞いでるんじゃない!

 それに、あれは娘だ。……たぶんな」


「む、娘!?

 いや、だが、全然無いぞ!?」


 そう言って、わたしを凝視してくるデカブツ。


 娘ですが何か?

 あと、やめれ! その手のジェスチャーをやめれやめれ!!


「あなたがウロ殿か?」


 わたしが、何かに恐ろしい誓いをたてそうな時、緑髪の男性が話しかけてきた。


「は、はい。わたしがウロです」


「私は、アルル様よりあなたの護衛を任されたファルと言う者だ!」


「同じく、オレはゴーズだ。よろしくな、ウロさんよ!」


 それからは話が早かった。


 わたしがまだ、状況の把握がしきれない間にも、2人は店内の沈静化を計り、案内役の選出を行った。


 てゆーか、みんな、この2人の言う事は素直に聞くのですな。


 それだけ、クルーエル家がみんなの信頼を得ているって事なのかしら?


 そしてララさん、よく護衛を雇う事が出来たなあ。かなりスゲェ!!


 ちなみに、この2人は領主様の部下って言うよりは、アルルさんの直属の私設部隊なんだって。


 執事さんが部隊持ってるって、どんなですか? マジで。


 能力値はこんなだった。



 名前 ファル・ランブート


 種族 人間 男

 職業 騎士 Lv5



 器用 11

 敏捷 18

 知力 15

 筋力 20

 HP 33

 MP 16


 スキル


 共通語

 礼儀

 武勇

 追跡 Lv2



 格闘 Lv2

 剣の扱い Lv3

 槍の扱い Lv1


 剣技 Lv3


 突き

 ディザーム

 カウンター



 名前 ゴーズ・レクトマン


 種族 人間 男

 職業 騎士 Lv4



 器用 9

 敏捷 16

 知力 15

 筋力 28

 HP 50

 MP 10


 スキル


 共通語

 礼儀

 武勇

 追跡 Lv1



 格闘 Lv2

 斧の扱い Lv3

 剣の扱い Lv1

 槍の扱い Lv1


 剣技 Lv3


 兜割り

 渾身の一撃(斧使用時のみ)

 武器破壊(斧使用時のみ)



 むう、ニコルさんと同じくらいに強い。


 恐るべし、クルーエル家!!


 ……そんなこんなで、今に至る。


 わたしたちの前に広がってるのは、今いる森よりも、ずっとずっと暗くて深くて、禍々しいとか言う表現がピッタリな所でしたけれどどうしよう!?


 もう、森って言うより樹海みたいだよ!?


 で、でも、ララさんたちのためなら行ける! ……たぶん。


「……旦那方、本当に行くんですかい?」


 わたしの心を見透かしたみたいに、ジョーイさんが言う。


「オレたちも、帰って酒飲みたいんだがよ。これも仕事だからな!」


「ニコル様とララ殿を、お救いしなければならん。

 もっとも、我らが探しに来たと知ったら、ニコル様はお怒りになるだろうがな!」


 そう言って、ファルさんはわたしにうなずいた。


 わたしは、ジョーイさんにここまでの案内賃を渡す金貨5枚。


「こりゃ、どうも!

 旦那方、どうかお気をつけて!」


 逃げる様に帰って行くジョーイさんに、何やら恐怖が増してきちゃうみたいだけれど。


「さて、行くか?」


「うむ!」


 ランタンをかかげて、ファルさんが先行して行く。


 ああ、灯りを点けてくれただけじゃなくって先行までしてくれるなんて!


 わたしが後ろを警戒しようと振り返ると、ゴーズさんがニッコリと笑った。


「あんたは真ん中だぜ? お姫様!」


 あらやだちょっと!?


 本当に護衛されると思わなくって、はわわわ~とかなってましたがナイショです。


「よ、よろしくお願いします!」


 こうして、わたしたちは灰色の森へと踏み込んで行った。


 道とは呼べない様な道は、大人2人が並ぶには狭い。


 背の高い木々が密集しているせいか、月明かりなど期待も出来そうになかった。


 そのためか、昼間も陽の光が差さないのだろう、下草は枯れてぬかるんでいる上に木の根がデコボコとしていて歩き難かった。


 さらに、何やら霧の様なモヤの様な物が漂っていて視界も悪いときている。


 何この超絶ハードモード?


 森って言うか、ダンジョンみたいなんですけれど!?


 とは言え、密集した木々の間には入り込めるだけのスペースは無いし、道も1本道だから迷う心配はなさそうなのだけれど。


 などと考えていたのも束の間、前を行くファルさんの歩みが遅くなった。


 いきなりモンスター!? と身構えるも、どうやら、すぐ先で開けた場所になっている様だった。


「なんだ、ここは?」


 灯りをかかげながら、ゴーズさんが呟いた。


 直径5メートルくらいの、ほぼ円形の空間だった。


 木を切った形跡も無くって、なんか、ここには木が生えたくなかったみたいに見えた。


 その先は、左右に、今まで通って来た道と同じような物が伸びている。


「見てくれ!」


 奇妙な空間に飲まれそうなわたしを、ファルさんの声が引き戻した。


 しゃがみこんで、何やら足元を調べているみたい。


 わたしとゴーズさんも、上からそれをのぞき込む。


 這うように漂う霧のせいで、ハッキリとは見えない。


「ウロ殿、ララ殿はたしか、リリパット族だったな?」


「は、はい。そうです!」


「これを見てくれ!」


 ファルさんの示す場所。


 わたしには、ただ地面が荒れているだけにしか見えない。


「ここ、足跡だ」


 そう言って、ファルさんは指で地面を示してくれたけれど、わたしにはまったく解らない。本当にある? ドコ??


「……左に向かってるな」


 頭の上から、ゴーズさんの声が聞こえた。


「ああ、あっちだな!」


 ゴーズさんの声に、ファルさんがうなずいて立ち上がった。


 スゲー!

 何、この人たち!?


 追跡? 追跡スキルなの!?



 1人、興奮してムフーッとかなってましたけれど、ゴーズさんの「置いてくぞ!」の声に慌てて追いすがってみたりしましたよ。


 ……どのくらい歩いたのか。


 時間の感覚も、距離感すらも分からなくなるほどの暗い森。


 モンスターの襲撃に備えて、気を張っているせいか、あまり疲れてはいなかった。


 てゆーか、モンスターどころか虫1匹跳ねてやしないのですがなあ。


 鳥の声も無くって、たまに聞こえてくるのは、密集してそびえ立つ樹木の枝が擦れる不快な音だけだし。


「そう言や、ウロさん。この森の名前って知ってるかい?」


 まるで緊張感の無い声で、ゴーズさんが聞いてきた。


「名前って、〝灰色の森〟でしょ?」


「あ~、やっぱり知らないんだ!」


 ぬう、やけに嬉しそうですね?


「いいかい? 灰色の森ってのはな!」


 したり顔のゴーズさんが、楽しそうに語り出す。


 灰色の森とは、外の人間が見たままに呼んだ名前なんだそうで。


 なんでも、高台から見下ろしたこの森の姿は、灰色の煙りに包まれた様なのだとか。


 だから、外から来た人たちは灰色の森と呼んでいるらしい。


 じゃあ、土地の人たちは何て呼んでいるのか?


「〝白い魔女の森〟だよ!」


 ゴーズさんが、事も無げに教えてくれた。


 ゴーズさんやファルさんのお祖父さんが、そのお祖父さんから聞いた様な昔話なのだとか。


「白い魔女??」


「そう、でもどんな話だっけな?

 なあ、ファル!?」


「ああ、寝物語だが覚えてるよ。確か……」


 今度は、ファルさんが語り出した。……本当に大丈夫かしら?


 昔、この森には美しい女神様がいた。


 ある時、女神様は森に迷い込んでしまった吟遊詩人を助け、2人は恋に落ちた。


 しかし、神と人。

 時の流れは、遂に2人の間を引き裂いてしまう。


 それに耐えられなかった女神様は、自らの力を使い、詩人に再び時を与えた。


 詩人は若く蘇ったが、力を己がために使った女神様は、神々から力と時を奪われ、醜い老婆へと姿を変えられてしまう。


 詩人は、老婆を女神だとは判らずに森を去ってしまった。


 哀しみに暮れた女神の心は次第に荒み、やがて、恐ろしい魔女へと成してしまった。


「……以来、この森は霧に閉ざされてしまった。だったかな?」


 ぬう、なんと言う三文お伽噺!


 だけれど、今、そのお伽噺の真っ只中に自分がいるって言う事実に震える!!


 木々の擦れる音が、余計に不安を煽ってる様な気もするけれど……。むう。


「そうそう、そんでいつからか、森には魔物が住み着いて旅人を襲う様になったんだっけな?」


 ゴーズさんが、ファルさんの後に続いて話した。……その刹那!


 ゴーズが、わたしに向かって手斧を降り下ろして来た。


「こんな風にな!!」


「!?」


 鋭い振りは、わたしに避ける暇を与えてはくれなかった。


 思考が停止しかけた瞬間、わたしの目の前で手斧が止まる。


 同時に、鈍い金属音が響き、わたしの足元に錆びた槍が転がった。


「出やがったぜ!」


 ゴーズが、わたしの前に踊り出た。


「えっ!?」


 まだ、状況のつかめないわたし。


「……どうやら、誘導されてたみたいだな」


 ファルが、ブロードソードを抜き放ちながら言う。


 !!


 気がつけば、わたしたちは最初に出た丸い空間にいた。


 そして、全ての道は木々によって閉ざされてしまっている。


 わたしたちの目の前には、3人の冒険者……だった者たちがいた。


 着崩れた鎧は泥で薄汚れており、その上からでも分かる血糊は、すでに黒く変色している。


 いや、それ以前に、その瞳には生気が感じられず、傷だらけの体からは、骨すら見えそうなケガまで。


 明らかに生きている人間の姿では無い!!


 その前に、この距離に至るまで、あの吐き気を催す臭気に気がつかないなんて。


「霧のせいだ、気にするな!」


「それより、ウロさん。アンタ、若に勝ったんだよな?」


 ファルとゴーズが、震えるわたしに声をかけてくれた。


「か、勝ったよ、1回だけだけれど」


 わたしは、剣を構えながらそう言った。


「1回勝てれば十分!」


「頼りにしてるぜ、姫様?」


 もう、震えは止まっている。


 ランタンの灯りに、その姿がハッキリと浮かび上がった。


 黄色く濁った瞳に、邪悪な光が宿っている。


「グールだ!」


 わたしの言葉に、ファルとゴーズが顔を見合わせる。


「麻痺が厄介だな」


「博識だな、うちの姫様はよ!」


 2人と同時に、わたしも地面を蹴っていた。


 実は、まだ震えてたのだけれど。


 2人の頼もしさに、思わず出た武者震いに違いない。とか思った不思議だ。

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