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第二十三話 ボルドアの街にて

 まだまだ馬車の中です。もちろんウロです。


 王都を離れて、もう3日が経とうとしてますが、まだ、ボルドアの街には着いてなかったり。


 まあ、キッカリ3日で着くなんて、デジタルライクな訳はないのでしかたが無いのだけれど。


 でも、そろそろ着いてくれないとイロイロ困ったりします。お尻とか。揺れで。


 途中にある宿駅では、同乗の皆さんが酒盛りなど楽しんでる間、ずっと、口からエクトプラズムが出てたテイタラクでしたさ。


 そのお陰と、2日目に雨が降ってスピードが出せなかったせいもあって、状態異常は「強」から「弱」になってくれました。ありがたい事です。……ありがたいかな?


 そんな感じで、ボルドアの街にたどり着いたのは4日目の夕暮れ前の事でしたさ。


 王都の時と同じく、街に入るための入場料を支払う銀貨5枚。


 乗り合い馬車の御者さんや、その護衛の冒険者さんたちは支払いが無かったみたいだけれど。


 フリーパスみたいのがあるのかな?


 馬車から降りて、地面の感触を確かめる。


 まだ、微妙に揺れてる感じが残ってたりしますが平気です。たぶん。


 この日は、早々に宿をとって、動くのは明日からに大決定です。


 と言う訳で、街の入り口にほど近い『山鳥の彩羽根亭』なる宿に拠点をとってみました。


「いらっしゃい。お食事? それともお泊まりで?」


 恰幅の良い、年配の女性が迎えてくれる。


「泊まりでお願いします!」


「はいはい、大部屋は1晩銀貨2枚。個室なら、銀貨4枚だよ。お食事は別に頼んどくれ?」


 ほむほむ。

 〝深酒する老賢者亭〟と違って、全室個室じゃあないのですね。


 うら若きワタクシとしては、やはり個室であろう!


 なので個室を、とりあえず5泊でお願いする金貨2枚。


「まあまあ、お大尽様だね。部屋は2階の突き当たりだよ」


「ありがとうございます!」


 鍵を受け取って、わたしは2階へ上がった。


 宿の造りは、王都や宿駅などとあまり変わらない。


 わたしは、鞄を部屋に置いて1階に戻った。


 カウンターの空いている席に腰を下ろして、夕食を注文する。


 何気なく見渡した店内には、一般人よりも旅人風な者が多い気がするけれど、どうでしょう?


「はい、お待ちどう!」


「ありがとう、いただきまーす!」


 山鳥のシチューとチーズと黒パンだ。パンはやっぱり固い。


 運ばれて来た料理を、しばし堪能しつつ、ぼんやりと明日の事を考えてみた。


 とにかく、ニコルさんに会わなくちゃあ話にならない訳で。


 となると、領主様のトコに行けばいいのかな?


 後で、女将さんにでも聞いてみよう。なんて考えてましたら、女将さんの方から話しかけて来た。


「アンタも、デリク様に呼ばれて来たのかい?」


 ぬ?


「で、デリク……様?」


「この街の領主様だよ! あたしゃ、てっきりデリク様に呼ばれたんだと思ったよ。

 ここにいるほとんどが、デリク様関係じゃないのかね」


 !?

 領主様が、冒険者を集めてるの?


「何かあったんですか?」


「噂程度だけどね」


 女将さんの話しは、だいたいこんな感じだった。


 現領主のデリク・クルーエル様は、数か月前から病を患っているらしい。


 最近になって、王都から高名な薬師様を招いて療養していたのだけれど、その薬師様が薬草を採りに森に入ったきり帰って来ないのだとか。


 人足を募って捜索してるのだけれど、見つからないまま、かれこれ10日になる様だった。


「……そんなになるんですか」


「気の毒だけど、あの森に10日もじゃあねえ……」


「あの森?」


「ああ、よそから来た人は知らないかね?

 街の南にある森の事だよ」


 ボルドアの南には、広大な森が広がっている。


 土地の者は『灰色の森』と呼んで、その入口付近までしか近づかないみたい。


 何でも、森の奥には恐ろしい化け物が住んでいるのだとか。


「でね、その薬師様は幾人もの冒険者を連れて森に入って行ったって訳さ」


 そう言って、女将さんは首を振って見せた。


 むう。

 それで、遭難しちゃったのかな?


 んで、今は遭難者の捜索って感じだろうか?


 ま、まあ、わたしはニコルさんに会いに来ただけだし。


 い、イヤな予感なんかしない。しないんだからね!! などと。


 翌日。


 わたしは、領主の館を目指した。


 街の北にある丘の上。


 そこから、街を見下ろす様に領主の館は建っていた。


 まるで、お城みたいな?


 或いは、砦みたいな造りの武骨な石のお城。


 衛兵に守られた門が、やけに圧迫感を醸し出して見えた。正直、怖いです。


「待て、当城に何用か?」


 わたしが近づくと、衛兵が話しかけて来た。


「わ、わたしはウロと言います。王都ハイリアから参りました。

 こちらに、ニコルさんはおられるでしょうか?」


「ニコル様は、ただいま留守にしている。日を改められよ!」


 ……ぬう。

 留守かあ。


「えと、いつ頃お戻りですか?」


「それは分からん。

 お前の宿はどこだ? 戻り次第、報せをやろう」


 ぬう?

 こんな、ドコの誰とも解らないのに大丈夫かな? ここの警備。


「あの、よろしいんですか?」


「ああ、我が主、デリク様は身分に構わず等しくされよと仰せだ。

 それに、冒険者に遅れを取る様では何が武門の家柄か!! とな」


 そう言って、わたしの問いに、衛兵様方は高らかに笑った。


 ニコルさんの気性からして、そう言うお家なのね。恐るべしだわよ!


 衛兵様方にお礼を言って、わたしはお城を後にした。


 宿へ戻る道すがら、クルーエル家やニコルさんについて聞いてみたのだけれど、中々に名君みたい。


 みな、口を揃えてデリク子爵の誉め言葉しか出てこない。


 半年ほど前に盗賊団が襲って来た時には、領主自らが兵を率いて討伐。

 見事、盗賊団の首領を討ち取ったのだとか。


 ニコルさんについても同様で、やんちゃだけれど愛される若様みたいな感じだった。


 そんな脳筋一家みたいな領主様だけれど、長男のニルスさんって人だけは、頭脳派みたいに聞こえた。


 街の財政なんかは、領主様の奥さんが亡くなった後、みんなニルスさんが仕切っているらしい。


 でも、特別に不満は無いみたいだけれど。


 難しい事は解らないけれど、とにかく、この街は住みやすい良い街ってトコでOKかな?


 なもんで、領主様の病気を、街のみんなが心配してるみたいだよ。


 むう、愛される君主ってなんか素敵じゃね? などと。


 そんな風に、街をそぞろ歩きつつ宿へ戻って来ました。


「ああ、ウロさん。さっき、お城からお使いが来てたよ?

 デリク様がお会いになりたいから、すぐにお城まで来いってさ!」


 女将さんが、大慌てでわたしにそう言った。



 展開が早すぎでしょうよ!?


 てゆーか、ゆっくり歩いて戻ったけれど、お使い様に抜かされてるとは思わなかった。いやいやマジで!


 と言う訳で、今来た道を戻りましょう。そうしましょう。


 門前までやって来ると、さすがに覚えてて頂けた様で、問答も無く、すぐに開門とあいなりました。


 鈍い軋み音をたてながら、城門が開くと、外見からは予想出来ない綺麗な庭園が広がっててビビった。


「お待ちしておりました。ウロ様」


 背の高い、細身の老紳士がわたしを出迎えてくれた。


 アルルと名乗った老紳士は、デリク子爵様のにお仕えする執事である様だった。

 おおう、本物の執事じゃ!! などと考えてたのはナイショである。


「旦那様がお待ちです。どうぞ、こちらへ」


 柔らかな声で、アルルさんはわたしを促した。


「は、はい!」


 アルルさんの先導で、長い廊下を進んで行く。


 高い天井に、白い壁。

 顔が写りそうなほどに磨かれた床に甲冑や彫像が立ち並び、何だか、美術館を思わせる雰囲気だよ。


 そんな中にあってわたしは、背中に棒でも入ってるみたいに、やたらピンと伸びたアルルさんの背筋が妙に気になってみたり。


「こちらで少々、お待ちください」


 廊下を進む間、アルルさんの背中を見ながらそんな事を考えている内に、目的の部屋の前に着いちゃいました。


「旦那様、ウロ様をお連れ致しました」


 飾り気の無い扉の前で、アルルさんが言った。


「……入れ」


 少しだけ間を置いて、小さいけれど、低くて響く声が返って来た。


「どうぞ!」


 アルルさんが、ゆっくりと扉を開く。


「し、失礼します!」


 わたしは、思ったより緊張してたらしくて声が裏返りそうになったりしましたよ。


 少し薄暗い、書斎の様な部屋。


 暗いのは、カーテンが閉まってるせいみたいだけれど。


「どうぞ、お進み下さい」


 戸惑っている様に見えたのか、アルルさんがわたしを再び促してくれた。


「は、はい」


 部屋の奥に、椅子に腰かけた人物のシルエットが浮かんで見えた。


 わたしは、その前まで進み、跪いて頭を下げた。


 この世界の礼儀作法なんて解らないし、映画とかで観た騎士ッポイ感じ? みたいな。


「ウロと申します。お呼びにより参上致しました!」


「ははは、そう畏まるな。楽にせよ!」


 低く、響く声の主は、静かにそう言った。


 顔を上げて、声の主を見る。


「ワシが、デリク・クルーエル子爵である!」


 椅子に座る大柄な老人。


 上着の上からも分かる、鍛えられた腕や胸。


 髭を蓄えた顎を、厳つい指が撫でている。


 しかし、その瞳にはまったく光を見る事は無かった。


 思わず、わたしはステータスを確認する。



 名前 デリク・クルーエル (状態異常 疾病:サイト・ロット 進度 3)


 種族 人間 男

 職業 騎士 Lv20



 器用 25

 敏捷 38

 知力 32

 筋力 47

 HP 255

 MP 82


 スキル


 戦神の祝福

 共通語

 礼儀

 武勇

 乗馬

 カリスマ


 格闘 Lv18

 剣の扱い Lv20

 槍の扱い Lv18


 剣技 Lv16


 二段突き

 薙ぎ払い

 兜割り

 ディザーム



 レベル20!!

 ナニコレ超絶強い!!


 あ、でも今はこっちが重要だわよ。


『サイト・ロット』


 ゲームの知識で言うなら、病気に分類される状態異常だったと思う。


 徐々に視力を奪われ、進度5に達する前に治癒しなければ、視力を失ってしまう。別名、視力腐敗。って言う設定だった。


 ゲームでは、戦闘中に発生して、敵や仲間が見えなくなったりする。

 暗闇状態などとは違って、病気の場合、時間で回復したりはしない。


 魔法や薬で治癒が可能だったけれど、今の世界では、その辺りがどうなっているのか解らない不具合です。


「ワシの眼が、気になるか?」


「い、いえ。失礼しました!」


 思わずガン見してたかも!?


 わたしは、慌てて頭を下げた。


「はっはっはっ、良い良い。自分でも分かっておる!」


 デリク様は、そう言って笑った。


「そんな事より、お主。ニコルに勝ったそうだな?」


 急に声のトーンが変わり、デリク様が、嬉々とした表情で聞いてきた。


 さっきまでとは、まるで別人みたいにテンション高いんですけれど!?


「あ、いや、やっとの事で1度だけ……」


「1度でも、勝ちは勝ちだ。

 あ奴から1本取るとは、お主なかなかやるな!」


 足をバタバタさせて喜ぶデリク様。


 何その変わり様!?

 子供? 子供なの!?


「ニコルからお主の事を聞いて、1度会いたいと思っておったんのだよ」


「あの、そのニコルさんは?」


 わたしの問いに、デリク様は、フンと鼻を鳴らした。


「あ奴は今、森だ」


「森? 森って南の!?」


「そうだ。『灰色の森』だ!」


 デリク様の話しによると、王都から来た薬師が戻らないと聞いたニコルは、皆が止める間も無くたった1人で森に向かってしまったらしい。


 むう、やっぱり良い人だニコルさん。でも。


 ……イヤな予感が当たってしまいました。


「……あのバカ息子め」


 頬杖をついたデリク様は、ため息混じりにそう言ったけれど、わたしには、存外に嬉しそうに聞こえたけれどどうでしょう?


「分かりました。わたしが捜しに行って参ります!」


「ちょっと待て。何故、お主が行く事になるんだ?」


 わたしの言葉に、デリク様は身を乗り出して言った。


 まあ、そうだよね。


「実は、ある女性に頼まれまして……」


 わたしは、ニコルさんに会いに来た理由を話した。

 もちろん、ヴァルキリーの存在は隠してだけれど。


「……つまり、ニコルの事を想っている女がいるんだな?」


「ま、まあ、そんな感じ……です」


「うおおおお!! あ奴も、ついに身を固める気になったかー!!」


 立ち上がって喜ぶデリク様。


「本当に良うございました、旦那様!」


 さめざめと、目元をハンカチで押さえるアルルさん。


 ……ヤベ。

 何か、誇張だったり勘違いだったりして伝わったッポイかな?


 ……ま、いっか。嘘は言ってないしね。


「で、ではウロよ。お主に、ニコル捜索の任を命ずる。

 詳しくは、後でアルルから聞いてくれ!」


「分かりました。ニコルさんを、必ず見つけて参ります!」


 一頻りデリク様のはしゃぎっぷりを見た後、正式にデリク・クルーエル子爵からの命を受けたわたしは、一礼して部屋を出た。


「それでは、こちらへどうぞ」


 アルルさんから、別室で受けた説明によると……。


 デリク様の治療に必要な薬草を採るために、薬師と護衛の冒険者が灰色の森へと向かったのが、今から10日前の事。


 そして、ニコルさんが森に向かったのが、今から3日前である様だ。


 森の化け物云々は噂だとしても、腕に覚えのある冒険者や、ニコルさんが戻らない以上、何が起こるか分からない。


 わたしには、2名の護衛が付くことになった。ありがたい事です。……これはかなりね!


「護衛の者に関しては、明日以降、いつでも動ける様にしておきますのでご心配なく」


「あ、ありがとうございます! あの……」


「はい?」


「薬師の方も、同じ様に護衛が付いたのですか?」


「いいえ、ララ様はご自分で冒険者を募られました」


 !?


「今、何て??」


「ご自分で護衛の……」


「いえ、薬師の名前。何と?」


「ああ、ララ・ロフロ・ラコフ様です」


 ファ!?

 な、なんだってー!?


 まさか、王都からの薬師がララさんだったなんて。そして、高名だったなんて!!


 確かに、数日前に出張だとは聞いたけれど。


「どうかされましたか?」


 わたしの様子に気づいたアルルさんが、声をかけてくれる。


「ララさんは、その薬師は、わたしの知り合いなんです!」


「なんと!?」


「すぐに出発します!」


「しかし、間もなく陽が暮れてしまいます」


「護衛の用意が出来ないのでしたら、わたしも冒険者を募ってでも行きます!」


 ワガママだし、かなり無茶なのも解ってるけれど、わたしは、どうしてもジッとしてる事が出来なかった。


「……分かりました。

 それでは、ウロ様は宿へ戻って準備をなさってください。

 護衛の者の用意ができ次第、宿の方へ向かわせますので」


 アルルさんは、1つ頷いてからそう言ってくれた。


「ありがとうございます!」


 わたしは、お礼を言って走り出した。


「ニコル様とララ様を頼みましたよ!!」


 アルルさんの声を背中に受けながら、わたしは走り続けた。


 夜の森が危険な事は、十分な承知していたけれど。


 そんな事は、どうでも良かった。


 だって、ララさんだよ!?


 あんなちっちゃい人(リリパット族だけれど)、夜の森にいたらあっと言う間だよ!?


 頭から味噌つけてマリマリいかれちゃいますよ!?

 マジで。絶対!!


 そんなの、わたしが許さないよ!!


 なんなら、鞄に詰めてでも持ち帰るイキオイですよ。


 あと、この瞬間はニコルさんの事をすっかり忘れてたのだけれど、それはナイショの方向で。とか思った。


 ごめんね、ヴァルキリーさん。などと。

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