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第十八話 新たなる試練?

 ……目覚め最悪。ウロです。


 かなりの悪夢を見ていた気がするのだけれど、内容がまったく思い出せない不具合です。


 別にケガしてないのに、頭が気になってみたり。背が縮んだ? 気のせい??


 おお、そうじゃ!!


 わたしは、自分のスキルを確認する。


「良かった、ちゃんとあった!」


 スキルの中に、「ヴァルキリーの祝福」が追加されていて安堵した。


 でも、剣技スキルは出てないみたい。なんでだろ??


 HPもまだ、半分しか回復してないけれど、MPは全回復していたので、とりあえずは良しってトコで。


 心なしか、軽くなった身体で1階へと降りて行きます。


「やあ、目が覚めたかい?」


「もう、お昼過ぎてるけどね!」


 デニスさんとリノちゃんが、いつもの様に迎えてくれた。


「お、おはようございます!」


「腹減ってるだろ? まずはメシだな!」


「こんな時間に朝ごはんなんて、どこかの貴族のお姫様みたいだね?」


 ああ、デニスさんは優しいしリノちゃんは可愛い。

 ここは、なんて素敵空間なんでしょう?


 そんな事を考えつつ、白湯でホッコリしておりますと、


「そうだ、エルフのお兄ちゃんが何回かお見舞いに来てたよ?」


 うおっ!?

 もしかして、ニードルス!?


「な、何か言ってた?」


「まだ、起きてないよって言ったら、起きたら錬金術ギルドへ来て欲しいって!」


 ほむ、ニードルス。

 そんなにわたしに会いたいのかしら?


 昼食気味な朝食を終えたわたしは、錬金術ギルドへ。


 ……と、その前に薬師ギルドへ寄り道です。


 薬草の納品は、いつも錬金術ギルドと薬師ギルドへ半分ずつ行ってたりしました。


 名声がもらえるかは分からないけれど、とにかく、やってみてた! って感じですがなあ。


「こんにちは~!」


 元気に挨拶しつつ、薬師ギルドへ入ります。


「はい、いらっしゃい。お薬の調合ですか?」


 あれ?

 知らないギルド員さんだ。


 聞く所によると、ララさんはお仕事で街を出てるのだとか。


 むう、ララさんのお顔が見たかったのになぁ。なんて考えながら、手持ちの薬草を納品してギルドを出た。


 今度こそ、錬金術ギルドへ!


「こんにちは~!」


 挨拶重要、いや基本!


 そんな感じに、元気にギルドへ入ります。


「……相変わらず、うるさいですね」


 書類から目線だけを上げて、ニードルスが返事をした。


「こんにちは、ニードルスくん。何度か来てくれたんだって?」


「ああ、お支払いがまだですからね!」


 ……ですよね。知ってたけれど。


 わたしは、鞄から金貨100枚入りの袋を取り出した。


「はい、これ。約束の金貨100枚ね!」


「ありがとうございます。これでまた、少し目標に近づきました」


 あまり表情には出さないけれど、金貨袋を抱えている姿が何やら嬉しそうだよ。


「あ、そうだ。これ、ありがとね!」


 わたしは、鞄から指輪を取り出してニードルスに渡そうとした。


 でも、ニードルスは軽く首を振って、それを受け取らなかった。


「それは、返さなくて結構です。差し上げますよ」


「えー、でも、せっかくの完成品なのにいいの?」


「はい、実験結果は上々でしたから。その成果で充分ですよ!」


 ぬう、何やら釈然としないけれど、魔法の指輪が金貨100枚ならいいか。……な?


 それより、わたしには重要な事があるのですよ!


「ねえ、ニードルスくん。今度、重曹のレシピを教えてよ?」


 わたしの言葉に、ニードルスは少しキョトンとした顔をした。


「重曹ですか? それなら、今、お教えしますよ?」


 そんなに意外な事だったかな?


 受付を他のギルド員さんに代わってもらい、わたしとニードルスは、奥の錬金台の方へと進んだ。


「レシピと言いますが、それほど複雑な事はありませんよ?」


 ニードルスは、液体の入った瓶と岩塩を取り出す。


「これは、炭酸水と岩塩です。

 この炭酸水と岩塩を、雷の術式で錬成させると、重曹が出来上がります!」


 ……むう。

 良く解りません。


「せ、先生、やって見せて下さい!」


「だ、誰が先生ですか? とにかく、やってみましょう!」


 少し嬉しそうなニードルス。

 誉められるの、好きなタイプかな?


 そう思う間に、ニードルスは乳鉢で岩塩を砕いて、その中に炭酸水をなみなみと注いだ。


「ここからは、出来るだけ手早く行ってください。でないと、炭酸水がただの水になってしまいますからね?」


 そう言いつつ、ニードルスは錬金台に手をついて念じ始めた。


 錬金台に、複雑な秘文字が浮かび、乳鉢がバチバチとスパークする。


 その放電が終わると、乳鉢の中には白い粉が出来上がっていた。


「……こんな感じですね!」


「おおー! スゴいニードルス先生!!」


 わたしは、拍手でニードルスを称賛した。


 てゆーか、他人がする錬金術を初めて見たよ!!


 何か、わたしの知ってるのと違うよ? などと。


「わ、私はいいから、ウロさんもやってみてください!」


 ほほう、照れておりますな?


 これからは、ニードルス先生と呼ぼう。


 まあ、そんな事より重曹だけれどね!


 錬金台の上に、炭酸水と岩塩を用意する。


 岩塩を砕いて~、炭酸水入れて~。


 さあ、錬成!! ……錬成??


 わたし、術式なんて知らないのだけれど??


「……どうしたんですか?」


 固まってしまったわたしを見て、不思議そうにニードルスが聞いてくる。


「……雷の術式って何??」


「ハァー!?」


 ニードルスが、その眼を見開いて驚いた。


「ちょっと待ってください? 今まで、どうやって錬成してたんですか?」


「……な、なんとなく」


「な、なんとなくって。大体、錬金術と言うのは、この世の森羅万象を……」


 むう、ニードルスの中で、何かのスイッチが入ってしまったらしい。


 わたしは、メニューから錬金術を開いてレシピを見てみた。


 おや? 重曹が入ってる!


 どうやら、見ただけで学習出来たみたい。


 わたしは、急いで重曹を選択する。


 ボフッ


 その瞬間、錬金台の上に重曹が出来上がった。


「出来たよ、 ニードルス先生!!」


 わたしが振り返ると、困惑に顔を歪ませたニードルスの姿があった。


「…今、何をしたんですか?」


「な、何って、重曹の錬成?」


「そんな訳無いでしょう? 雷の反応が無かったじゃないですか!? 何ですかボフッて??」


「……だって、出来たし」


「だってって!? ……だってって」


 あらら、ニードルスが膝から落ちたよ!?


「だ、大丈夫、ニードルスくん!? 」


 ニードルスは、ゆっくり立ち上がってから、大きくため息をついた。


「……訳が解りませんよ。本当に、あなたは何者なんですか?

 まるで、別の世界の人みたいですよ!」


 ぬう、なかなか鋭いニードルス先生!!


 もちろん、わたしの事は言ってないし言わない!


 まあ、でも、わたしの目的は果たされたのでやや良し?


「じ、じゃあ、わたしはこれで。ありがとね、ニードルスくん!」


「あ、ちょっ、ちょっと待ってください!」


 わたしが帰ろうとすると、ニードルス急に呼び止めてきた。


「な、何でしょうか?」


「あなたに会いに行ったのは、お金だけが目的ではないんです!」


 ほ、ほほう?

 何か意味深ですか??


「実は、手伝って欲しい事があるんですが?」


 でしょうね!


「何するですか、ニードルス先生?」


「……ここではなんですから、後で私の家の方へ来ていただけませんか?」


 ぬぬ!?

 うら若き女子を自宅に招くですって!?


 今度こそ、メイド服かしら?


 なんて考えてましたら、


「良からぬ事を考えないでください。あと、普通の格好で来てくださいね?」


 ……なぜバレるのだろう?


 でも、何やら真剣な表情だったので大切な事なのだな! とか思ったり。


 ニードルスとは夕方に会う約束をして、わたしは、ニコルさんに会いに行く事にしました。


 ずっと寝てて、まだお礼も言えてないし。

 それに、〝少年〟を否定してないしね。


 街門へ向かうと、早速、ゲイリー隊長が声をかけてくる。


「おお、小僧。元気になったか?」


「小僧じゃないですよ!」


「わははは、まあ怒るな」


 うぬう。

 こっちは、〝小僧〟で定着しちゃってるよ。イヤだよう。


「そえ言えば、ニコルさんはいないんですか?」


 わたしがそう聞くと、ゲイリー隊長は片方の眉を下げて小さく息を吐いた。


「ニコルのヤツは、実家に帰ったぞ?」


 うおっ!?

 帰った! 実家に?


「……それは、ずいぶんと急ですよね?」


「ああ、おかげて警備の当番が狂ってしまったよ」


 そう言って、ゲイリー隊長は頭をかいた。


「何かあったんですか?」


「何かも何も、お前さんに負けた後、急にだよ!」


 ええっ!?

 わたしのせい??


「そうか、お前さん。あの時は気を失ってたんだったな!」


 ゲイリー隊長は、わたしが気を失った後の事を話してくれた。


 わたしが倒れた後、皆がわたしとニコルさんの介抱をしてくれたらしい。


 ニコルさんはすぐに気がついて、わたしを称賛してくれたみたい。ありがたい事です。


 その直後、急に様子がおかしくなって、翌日には仕事を辞する旨を話し、その足で街を出てしまった様だ。


「でも、どうしてですか?」


「ワシにも解らんよ。……ああ、そう言えば、ニコルが倒されたすぐ後に謎の落雷があったんだよ」


 謎の落雷!

 ヴァルキリーのアレだね。


「そのすぐ後、ニコルの様子が変わったみたいだったが……」


「どんな風だったんですか?」


「さて、良くは分からんが、ヒヨなんとかとか。すまん、兄上とかなんとか……」


 むう。

 何だか、まったく分からないよ。


 でも、実家に帰ったって事はこの街の人じゃなかったんだねえ。


「ニコルさんて、この街の人じゃあなかったんですか?」


「何だ? お前さん、そんな事も知らなかったのか!?」


 ぬ?


「あいつは、クルーエル子爵家の次男だぞ?」


 うぇえええー!?


「……本当に、何も知らなかったんだな」


 わたしが目を丸くして絶句しているのを見て、ゲイリー隊長が呆れた様にため息をついた。


 だって、子爵の次男様が街門の警備なんてしてると思わないでしょう!? 普通。たぶんだけれど。


「何にしても、別にお前さんに負けたからとかではないよ!」


「は、はい。ありがとうございます」


 何だか、イロイロやらかした気分ですけれどどうしましょう??


 てゆーか、場合によってはだいぶダメなんじゃないだろうか?


 別れ際にゲイリー隊長は「大丈夫だよ、ニコルはそんなに小さい男じゃないさ!」って言ってくれたけれど。


 そうでしょう。そうなんでしょうけれどなあ。


 名声を上げようと思っていたら、悪名が爆上げしそうでゴザル。みたいな。


 それはそうと、夕方になったのでニードルスの家へと参りましょう。そうしましょう!


「遅かったですね。何かあったんですか?」


 出迎えてくれたニードルスが、わたしの顔を見てそう言った。


「う、ううん。大丈夫だよ?」


「……そうですか? では、こちらにお願いします」


 小首を傾げつつ、ニードルスは、わたしを納屋の方へと促した。


 両開きの扉に、幾重にも鎖が巻かれており、そこに大きな錠前が下りている。


 ニードルスは、それらを丁寧に外すと、持っていた小さな杖で扉を叩いた。


 ブゥウウン


 扉は小さく唸り、魔法特有の淡い光を放つ。


「魔法の鍵?」


「ええ、用心のためです」


 いやいや、厳重過ぎでしょ!? ……と思ったのだけれど、付与魔術がバレた時のリスクを考えると当たり前なのかな?


 中は、思いの外にガランとしていた。


 干し草と、若干の作業道具。


 あとは、魔法系の本が少しだけれど、付与魔術関係じゃない。……召喚魔法でもないけれどね。


「……何もないよ?」


 わたしの言葉に、ニードルスはニヤリと笑った。


「そう思ってもらわなくちゃダメなんですよ!」


 そう言って、ニードルスは納屋の中央付近へと歩み出た。


 そして、靴を揃えてかかとを2回鳴らす。


「うおっ!!」


 思わず声が出た。


 ニードルスの足元に、地下へと続く階段が現れた。


「さあ、どうぞウロさん」


 ニードルスは、口元に笑みを絶やさない。……ぬう、秘密の階段とか、やるな!


 わたしが入ると、入口が閉じる。


「こちらです。足元に気をつけて」


 むう。

 何やら悪の魔法使いみたいな感じになってきちゃったけれど?


 それほど長くない階段を降りると、なるほど研究所然とした所へと出た。


 壁一面を埋め尽くす本。


 錬金術ギルドで見た錬金台。


 その横には、複雑な秘文字に彩られた台座がある。


「……わたしに頼みたい事って、なに?」


 にわかに不安になったわたしは、我慢できずに口を開いた。


「まず、これを見て下さい」


 そう言って、ニードルスが壁際にあったシートをめくった。


「??」


 シートの下には、1体の石像があった。


 かなり簡素な造りで、一応の人型だけれど、顔に当たる所は、くぼみくらいの凹凸しか無い。


 体型も首がかなり短くて、腕が地面ギリギリなほど長い。でも、その割には足は短い。


 お世辞にも美しい彫像とは言い難い。そんな石像だった。


「この石像?」


「はい、私の造ったゴーレムです」


 ゴーレム!!


 疑似生命を吹き込まれた、動く彫像。


 ゲームだった頃には、その巨体に苦労させられた負の記憶ですよ。


 迷宮の通路にいたりすると、通行の妨げになる不具合があったなあ。などと。


 それに比べると、このゴーレムはだいぶ小さい。


 わたしより10cmは小さく見えるから、150cmくらいかな?


「なんか、小さくない?」


「大きい物は、作るにも動かすにも多大な魔力を必要としますから。今の私には、これくらいが限界ですね」


 むう。

 なるほど、そんな物かあ。


「これを見せたかったの?」


 自慢? 自慢なの!?


「……実は、これはまだ、未完成なんですよ」


 ほうほう。


「まだ、足りない素材があるんです。ウロさんには、それを取って来て欲しいんです」


「ほむほむ、何が必要なの?」


「ゴブリンの魔石、3つです」


 ……む?

 魔石って何??


「……あの」


「何ですか?」


「……魔石って、何ですか?」


 あ、また、ニードルスが膝から崩れ落ちた。


「いえ、もう、大丈夫です。ちゃんと、説明させていただきます」


 あう。

 ごめんね、ニードルス先生!


「……いいですか?

 魔石と言うのは、モンスターの体内で作られる結晶の事です。

 エルフや人間等の体内では作られず、モンスターのみに見られる現象でその理由は今だに不明です。

 魔石は、無属性の純粋な魔力の塊で、様々な分野で活用されており……」


 ぐー。


「だから、寝るなー!!」


「ギニャー!!」


 ……殴られた。デジャヴ?


「とにかく、ゴーレムを動かすのに必要なんです!」


「……あ、あい。ところで先生、ゴブリンが持ってるんですか?」


「ゴブリンの体内です」


 ……ん?

 体内?


「ゴブリンの?」


「体内です。頭、あるいは胸辺りを割って……」


「ぎゃー!!」


 無理無理無理!!

 イヤイヤイヤ!!


「う、ウロさん!?」


 身体がカタカタ鳴ってるよ!?


 てゆーか、何その罰ゲーム!?


「む、無理です!!」


「大丈夫ですよ、この前の戦いぶりならゴブリンなんて敵では無いでしょう!」


 いやいや、戦力的な話じゃないよ?


 精神的な話ですよ!?


「完成出来たなら、ウロさんの僕にしていただいて構いません。私は、造る事が目的ですから!」


 ぬ、ぬうう。


 ゴーレムは魅力的だ!!


 見た目の造形はだいぶアレだけれど、小さくっても、ゲームだった頃のストーンゴーレムと同じなら、かなりの戦力になる。


 ……見た目はアレだけれど。


「ウロさんに実戦で使ってもらえれば、良いサンプルも取れるでしょう!」


 ぐぬぬぬぬ、やっぱしソレかぁ!!


 回復したばかりなのに、襲い来るメンタルブロウの波状攻撃。


 わたしの安息って、いつ来るの??


 そんな感じに、わたしは天を仰いだりしました。……地下だけれどな!!

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