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第一話 目覚めたら

 ……う~ん、もう食べられないよぉ。


 いや、違った。

 えと、何してたんだっけな?


 携帯のメール見たっけ。その後、お風呂入ってタケノコ気味なチョコ食べて。

 そうだ!

 イマージュ・オンラインの倉庫整理しようとしてたんだった!


 いつの間に寝ちゃったんだろう?

 もう、外はだいぶ明るいみたい。約束の時間、大丈夫かな?


 寝ぼけた頭でそんな事を考えつつ、身体を起こしてヘッドギアを外す。が、その手にヘッドギアは当たらなかった。


「うお?」


 思わず声が出た。

 ペタペタと顔をさわる。


「ヘッドギアが無い!?」


 イマージュ・オンラインでは、事故防止の一環としてプレイヤーが眠ってしまった(いわゆる寝落ち)場合、自動的に強制ログアウトが行われる。

 なので、今、ヘッドギアをかぶっていないなんて考えられないはず。


 ……あれ? なんかおかしい??


 そんな考えと同時に気づく地面の感触。


 どうやってもベッドの上のそれではない。もっと、草的な。植物テイストな感触だった。


 眠気におぼつかなった眼は、今はハッキリと開く。


「……ドコ、ココ??」


 眼に入ってきたのは、緑眩しい草原と立ち並ぶ木々。


「な、ナニコレ? 林? 森? どっち??」


 いや、どっちでもいいし今は関係ない。


 とにかく、自分の部屋でないならゲームの中なのだろう。


「メインメニュー!」


 つぶやくと、目の前の空間に見慣れたメニュー画面が広がった。


「開いた。やっぱりゲームの中だった!」


 思わず安堵する。


 とにかく、1度ログアウトしておこう。何か不具合とかサーバーエラーとか出てるかもしれない。


 表れたメニューのページをくるくると送っていく。


「あれっ?」


 無い。

 ログアウトが無い!!


 何度確認しても、ログアウトの項目を発見できない。


 ならばと、ヘルプの項目を……こっちも無い!!


 ここにはGameMaster、通称『GM』のコールがある。……はずだった。


「ウソ、ヘルプそのものが無い!?」


 GMは、システム的不具合などでゲーム進行不能になった時などに現状報告を行うヘルプ機能。

 これにより、システム管理を行っているスタッフが、チャット或いはキャラクターとして現場に現れて対応してくれる。のだったのだけれど。


「……もしかして、何もできない!?」


 ヤバイ、不安がヤバイ! 不安すぎてヤバイ!!


 取り合えず、落ち着かなきゃ! それ、即ち深呼吸。


 スー

 ハー


 草木のいい香りに、胸がスッとする。

 マイナスイオン? はぁ、やっと落ち着……かないよ!?


「なんで? なんで匂い??」


 VR技術が出てから、結構な時間が経っている。

 出始めの頃は、あまりにチープな映像だったため、かなりの批判があったとか。

 でも、徐々にクオリティーは上がり、今では現実と見分けがつかないくらいの映像を実現している。


 だけれど、さすがに味覚や嗅覚まで再現はされておらず、ゲームに転用されても同じ。

 イマージュ・オンラインにおいても、それは一緒だった。……でも。


「どう……しよう?」


 訳が解らな過ぎて、逆にちょっと冷静になってきた。


 今、わたしはイマージュ・オンラインの中にいるッポイ。

 ポイって言うのは、スゴく現実な感じがするからだ。

 さっきの匂いもそうだけど、日差しの暖かさとか風の涼しさみたいのがハッキリと実感できてる。


 こんなの、今までのゲーム内では感じなかったことだ!


 でも、ログアウトもGMコールもできない。


 ただの不具合とはとても思えない。ってゆーか、考えたくないよ。


「とにかく、現在地を確認しなくちゃ!」


 だってココ、どう見たってフィールドだもん!


 最後にログアウトしたのは、たしか街の中だったはずなのに。


 こんな大自然の中にいる謎。どういう事なの?


 メニューからマップを開く。


『NO MAP』


 は!?

 マップすら表示出来ないの!?


 そんな憤りと同時に、嫌な予感が頭をよぎった。


 わたしは、改めて自分を確認する。


 動転してて気づかなかったけど、わたし、現実のわたしにソックリじゃね!?

 慌ててステータスを開く。


 名前 ウロ


 種族 人間 女

 職業 召喚士 Lv1


「ちょっ!?」


 れ、レベル1 ……だと!?


 あぁ、そうだ!

 あぁ、しまった!!


 倉庫整理するつもりだったんだ。


 だから、今、わたしは倉庫娘だったんだ!


 ちなみにぃ、ウロって名前はぁ、実家で飼ってた猫の名前でぇ。


 って、そーじゃなくって!


 倉庫娘ウロは、ゲームスタートの街から出した事が無い。

 アイテム管理しかさせてなかったから、世界地図はおろか街周辺のマップすら集めてない!


「ドコに居るか、本当に分からない」


 あれ?

 もしかして、かなりマズイ状況!?


「こ、ここにジッとしててもダメだ。どこか街、せめて人を探さなくちゃ!」


 まだ、陽があるからいいけれど、こんな僻地で夜になったらアッと言う間に骨だよ。キャンプ? なにそれ、インドア派なめんな! ……的な。


 わたしは、意を決して歩き始めた。まあ、あては無いんですけどね。



 どの位歩いただろう?


 時計が無いから正確には分からないけれど、2時間くらいは経ったかな?


「川だ! み、水ぅ!!」


 茂みを掻き分けると、目の前に小川が現れた。川底が見えるほど澄んだ水を、わたしは両手ですくう。


 水の冷たさが心地良い。 そして、ゴクゴクと喉を鳴らして水を飲んだ。


「ぶはー、 生き返る!」


 遠足途中の休憩所みたいな。嬉しいけど、同時にゲーム内にいるはずなのに、水を飲んで喉を潤した事実に戦慄したり。


 川のほとりにへたりこんで、しばしの休息である。


「……水筒か、空のペットボトルでもあればなぁ」


 そう思って気がついた。

 わたし、アイテムの確認も何もしてない!


 てゆーか、今の装備って初期装備じゃね!?


 今のわたしの姿は、若草色のワンピースにレギンス。革のショートブーツを履いて、大き目の肩掛け鞄をかけている状態だ。


 いわゆる、ゲームスタート時の初期装備である。防御力はあって無い様な物だ。


 しかも、丸腰!

 迂闊にも程がある。


 こんな姿で、2時間もフィールドを歩いてたなんて。

 何もエンカウントしなかったのが、幸運だった。


 と、ホッとしてる場合じゃない。


「何を持たせてたかなあ。合成素材とかばっかりだった気がするけど」


 近くの石の上に腰を降ろして、鞄を開けてみる。

 すると、わたしの頭の中にアイテムリストが浮かび上がってくる。


「うわぁ、めちゃくちゃだなぁ」


 鞄は、メインキャラクターの資金によって最大にしてある。


 スロット数300。

 物によっては、12個で1スロット。

 所持アイテム数は、なんかいっぱいだ!


 これだけ入る鞄もスゴイけれど、まったく重さを感じないのにも驚く。


 ……やっぱり、ゲームと現実の中間みたいなトコにいるのかな? などと。


 そんな事より、まずは装備だ!


「むう、やっぱり騎士装備ばっかりだなぁ」


 メインキャラクターのアラーミのジョブは聖騎士だ。


 全身鎧や大きな盾で武装する。


 それに対して、ウロのジョブは召喚士。魔法使い系だ。


 装備できる物に制限があり、当たり前だけど全身鎧なんて着られない。


「……本当に着れないかな?」


 もしここが、イマージュ・オンラインに良く似た別の何かだったとしたら。

 ゲームの常識から外れるかもしれない!


「着てみよう!」


 わたしは、試しに『王国式聖堂騎士鎧』を着てみる事にした。聖騎士になるためのクエスト報酬で、聖騎士が最初に着る鎧。非売品だ!


 鞄から取り出してみる。


「……どうやって着るんだろ?」


 鎧の着方なんて、習った事ないですが?


 おお、そうじゃ!

 何も、律儀に着る必要ないじゃん!


 わたしは、メニューから装備変更を行う。


 若草色のワンピースから、白が基調の綺麗な鎧へと一瞬で変わる。


「おお、着れるじゃん!」


 と、思ったのも束の間。

 わたしは、その場に崩れ落ちた。


「お、重い!?」


 ヤバイ!

 まったく身動き出来ない!!


 何これ?

 これって、こんなに重いの!?


 仰向けに転がったまま、まったく動けない。


「空、キレイ」


 そんな場合じゃない!


 なんとか、メニューからワンピースに装備を戻す。


「うおお、危なかった! 鎧で遭難するトコだった!!」


 むう。

 鞄に入ってる時は重さを感じないのに、装備した瞬間に動けなくなるほど重さを感じるなんて。理不尽!!


 ただ、収穫はあった。


 ゲームの時は装備すら出来なかったけれど、今は装備出来なくはない。


 と言う事は、もしかしたら、努力次第ではいろいろ装備出来るかもしれない。

 また、ゲームの時は出来なかった事が今は出来るかもしれない。


 ともかく、今は無理しちゃダメだ。


 わたしは、なけなしの魔法使い系装備の中から『見習い魔術師のローブ』と『麻のズボン』を見繕ってみた。


「あんまし可愛くないけど、仕方ないか」


 フード付きのハーフコートみたいな、そして、ジャージのズボンみたいな。

 ねずみ色の上下が、さっきまでの若草色とのギャップを際立たせている。


 ちなみに、武器は『ショートソード』にした。

 本来は装備出来ないけれど、今は問題なく装備出来た。


 他にも、両手剣や槍、魔法使いらしくロッドとかもあったけど、剣や槍は重くて持てなかったし、ロッドは。……魔法、使えないし。泣いてないです。気のせいです。


 それに、剣の方が手に馴染んでいる不思議。


 キャラクターとジョブは変わっても、わたしの記憶が変わらないから?


 さらに、ポーション用の空き瓶がいくつかあったので、洗って川の水を入れてみた。


『水の入った瓶』×1 だ。

 抱えるとかなり重かったけど、鞄にしまったら重さを感じなくなった。やだこれ、超便利。


「問題は食料かな」


 わたしのアイテムの中に、どうやら食べ物は無いッポイ。


 もともと、イマージュ・オンラインには食事の概念が無い。

 料理のスキルはあるけれど、クエスト用とか金策用とかでしか使われない。……だって、食べられないし。食べても味しないし。


「今日中に街を見つけられればいいけど、でないと野宿だよ」


 だとしたら、尚更、食料が必要だけど。


「どーしよう。魚でもいないかな?」


 そんな時だ。


 対岸の茂みから、ウサギが現れた。


 初めてのエンカウントだった。

基礎ステータス


名前 ウロ


種族 人間 女

職業 召喚士 Lv1



器用 8

敏捷 10

知力 30

筋力 9

HP 16

MP 18

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