第十六話 魔法の剣を求めて
今度は背中が! 背中がー!! ウロです。いつになったら安眠出来るのかしら?
剣技がちゃんと使えない理由が、「戦いの神に祝福されてないから!」だったなんて。
とは言うものの、剣技を修得したのは前世であるメインキャラな訳で。
その記憶と経験の元、凄い勢いに有無を言わせず使ってるのが現状なのだけれど。
つまり、今のわたしには神様に祝福される要素がまったく無いと言う事なのですがどうでしょう?
でも、召喚魔法がレプスくんしか無いし~。
魔法が増えるまでは、どうしても今ある物に頼ってしまうのが人情ってモノでしょう!?
などと考えてても、あのバカップルをのめす事が出来る訳でもなかったりする不具合です。
ニコルさんだけなら、身体さえちゃんと動けばなんとかなったりすると思います。たぶん。
問題は、ヴァルキリーの方ですよ!
ハッキリ言って、今のわたしでは勝てません!!
まあ、まともに戦ったらの話しだけれど。
今回の試練は、どうやら、ニコルさんから1本取れれば良いみたい。
ヴァルキリー自体は攻撃に参加せず、前みたいにニコルさんの守りに徹するのだろうと思う。きっと。
なので、なんとかして、少しの間だけでもニコルさんとの距離を離せれば、勝機はあるに違いありません! かなり希望的観測だけれどね。ポジティブ大事!
まあ、何はともあれ武器ですわなあ。
わたしは、自分の鞄の中を漁ってみた。
「魔法の武器、あるにはあるんだけれど……」
所持アイテムの中に、魔法のかかった武器はある。
レア物は、残念ながらセーブハウスの中にあるのだけれど。
が!
そうでなくても、十分に強い物はいくつも持ってたりします。
がが!!
「……全部、刃が入ってるよねえ」
ニコルさんとの手合わせは、訓練用の模擬剣を使っている。
しかも、刃を潰した金属剣ではなく、ただの木剣だ。
なのに、今回だけ真剣を使う訳にはいかない。
ヘタしたら殺してしまうかも知れない。
いや、たぶん、わたしが死にますよ? 余裕で。
ゲームだった頃から、いわゆる〝対人戦〟が苦手だった。
モンスターじゃない、人間やエルフ、ドワーフとかの敵。
山賊討伐クエストとかのNPCから、プレイヤーキラーと呼ばれるPCを狙うPCまで。
やっぱり、人相手は恐いのですよ!
ましてや、今はこれが現実の世界な訳だし。ぬぅう。
って、そんな事より魔法の武器だよ!!
ゲームの頃も含めて、〝魔法の木剣〟なんて見た事が無いし。
魔法の杖は?
とも思ったのだけれど、木製で、片手剣位の長さの物が無かったり。
かなり長いか、だいぶ短いかで、丁度良さ気な物は宝珠のついた金属製しか持って無い。……むう、役立たずさん!
じゃあ、木剣に魔力を流しては?
これが、半端じゃなく難しい!!
ヴァルキリーを捉えるために、召喚士の瞳は常時発動。その上で、剣に魔力を流しつつ戦うのは、いくらなんでも消耗が激しすぎるのでしたさ。
打ち合う度に魔力が散っちゃうし、実戦に用いるには修行が足らない気味です。かなり。1年ください! その前に帰りたいけれどね。
……となると。
「無ければ、作ればいいじゃない!?」
と言う訳で、わたしは今、錬金術ギルドの前に来ております。
中には、付与魔術師のニードルスくんがいるハズです。
早速、行ってみましょう!
「ニードルスくん!!」
錬金術ギルドの扉を開くと同時に、わたしは叫んだ。
「……また、あなたですか。今日は何です? 薬草の納品ですか? それとも、施設利用ですか??」
眉間にシワを寄せて、ニードルスがめんどくさそうに対応する。
「今日は、あなたに用があるのです!」
「はあ? 私??」
わたしは、カウンターの上に木剣を取り出して言った。
「これに魔法かけて、魔法の木剣にして! お願い、付与魔術師さま!!」
その途端、ニードルスの顔色が一瞬で青くなった。耳は垂直になった。
「ねーねー! お願い付与ま……!?」
可愛さをアピールしようとしたのも束の間、物凄い勢いで口を塞がれたわたしは、カウンターすぐ横の応接室に連れ込まれた。
「フガフガ!!」
突然の事に驚くわたしを、応接室の壁際に押さえつつ鬼気迫る表情で睨むニードルス。
これが壁ドン!?
かなり苦しいんですけれど!?
などと考えていましたら。
「ど、どどどどこでききき聞いたんだ!? ぼぼぼぼ僕がふふふふ付与魔術師だって!!」
ファッ!?
何、この慌て様。
「フゴフゴー!!」
「フゴーじゃない! 何で知ってるのか聞いてるんだよー!!」
とにかく、あまりに苦しかったので、口を押さえてるニードルスの掌をなめてやりました。ペロッとね。
「うわっー!!」
「ゲーホゲホゲホッ!!」
慌てて手を引っ込めるニードルス。
わたしは、肺に酸素を送り込むので精一杯ですよ。呼吸、超絶重要! マジおすすめ!!
「何するんだ!!」
「何じゃないよ! いきなりなんなの!?」
そこで、ようやくハッ!? としたのか、ニードルスは、その場に固まってしまった。
「と、とにかく落ち着いて。ね? わたしがいくらキュートでプリティでコケティ……」
「もう大丈夫なので黙ってください!」
……なんだよぉ。
全部言わせろよぉ。
でも、どうやら落ち着いたみたい。口調が戻ったし。
「急にどうしたのですか、ニードルスくん?」
「失礼しました。あなたが私の秘密を知っていたので、取り乱してしまいました」
「秘密って、付与魔じゅ……」
言いかけたわたしを、ニードルスが制した。
「……そうです!」
「付与……それの、どこが秘密なの?」
「……あなた、バカですか?」
ばっ、バカ!?
バカって言ったヤツがバカなんだバ~カ!!
わたしがハワハワしてますと、ニードルスはため息混じりに話し出した。
「いいですか? ご存知とは思いますが、付与魔術と死霊魔術の施行には、国の認可が要りますよね?」
……えっ?
「付与魔術が勝手に使われたら、『鍵開け』や『催眠』などの魔法を封じたアイテムが作られてしまうでしょう? 死霊魔術は言わずもがなですが」
……し、知らなかった!!
「……まさか、知らなかったんじゃないでしょうね!?」
わたしの顔を見て、ニードルスが訝しむ様に言った。
「し、知ってましたし? てゆーか、知らない方がおかしいでしょう!?」
「……まあ、いいですけど」
小首を傾げるニードルス。
……全っ然知らなかった!
いやいや、知る訳ないんだけれど。
だって、ゲームだった頃は、付与魔術師も死霊魔術師も魔法系の1クラスだったし。
普通に、後衛・支援職として活躍してたし!
あと、死霊魔術は、なんか寂しい人がたくさんのゾンビに囲まれてた印象だ。
ぼっち推奨魔法だって、チームの先輩方が言ってたもん。西行法師ライク?
「で、でも、国に承認されれば良いんでしょう?」
わたしがそう言うと、ニードルスはガックリとうなだれてしまった。
「……承認されるには、魔法学校を卒業する必要があるんですよ」
……うわぁ、それは間に合わない。
わたしが、あ~みたいな顔をしていると、ニードルスは寂しく笑った。
「ようやく分かりましたか? そうですよ、あの学校の敷居の高さ!」
あ、勘違いされた?
でも、都合が良いのでそのまま合わせる事に大決定です。うひひ。
「知っての通り、魔法学校への入学には、莫大な入学金が必要ですよね?」
「あ~、はいはい。あれは高過ぎますよね!」
「さらに、入学するのは大抵が貴族の子ばかりです」
「ね! ズルいよね!?」
「まあ、身分は仕方ありませんが。入学金の金貨1000枚なんて、とてもとても……」
そう言って、ニードルスは首を振った。
……あれ? 意外に安くね?
などと考えたけれど、空気を読むワタクシは言いません。余裕で持ってるなんて、言いませんとも!!
「あれ? でも、ニードルスくんは付……もう、使えるんでしょ? 何で??」
ニードルスは、わたしの質問に少しだけ考えてから話し出した。
「幼少の頃から、わたしの周りには付与魔術の知識があったんです。お陰で、独学ですが勉強する事が出来ました」
……ふむ。
何か含みがあるけれど。聞かないが吉かしら?
「じゃあ、木剣に力を与える事も出来るのね?」
「出来ますが、先程も言った様に……」
わたしは、ニードルスの両手を取った。
ニードルスが、言葉に詰まったけれど、わたしは構わず話した。
「お願い、力を貸して?」
「い、一体、そんな事して何に使うんですか??」
「ヴァルキリーに勝ちたいの!!」
「!?」
わたしの言葉に、ニードルスが再び顔色を変えた。
でも、今回は、どちらかと言うと好奇心の塊みたいな喜色だった。
「ヴァルキリーって、精霊の?」
「そう、そのヴァルキリーです!」
「あなた、本当に何者なんですか?
急に来て、アッと言う間にポーション錬成していったり。
かと思えば、人の秘密を言い当てた上にヴァルキリーと戦う! だなんて」
むう。
なんと答えましょう?
ちょっぴり悩んだけれど、正直に現状を話してみましたよ。
わたしは召喚士である事。
でも、魔法がレプスくんを喚ぶしかなくって、仕方なく剣技に頼っている事。
ところが、祝福されてないために剣技を使うにはペナルティーがあり、それを打開するために、ヴァルキリーに勝つ必要がある事。
「……」
ニードルスは、口に手を当てて考え込む様に聞いていたけれど……。
「わたしも結構、変な人生だと自負してましたけど、あなたは、私以上に複雑怪奇な人生ですね?」
「よ、よせやい!」
「褒めてませんよ?」
……ちぇっ。
「分かりました。協力しましょう!」
「えっ? 本当!?」
あまりの事に、かなりビックリしちゃいましたが、どうやらニードルスは本気みたい。
「ええ、ヴァルキリーとの戦闘に興味があります。それに、私の付与した魔法力が、上位精霊に通用するのか知りたいですから!」
……くくくっ。
わたしの話術にかかれば、これこの通りですよ! ……なんて思ってません! ああ、よかった!! 一時はどうなる事かと思った!! 受けてくれて本当に良かった!!
でも、努めて冷静に。
「では、改めてよろしくお願いします。ニードルスさん!」
「こちらこそ、よろしく。ウロさん。でも、この事は内密にお願いしますよ?」
らじゃー!
っと敬礼してみたり。通じなかったので握手したけれど。
「ところで、どうして木剣なんです? 魔法の剣なら、もっとしっかりした金属剣が売ってるでしょう?」
「えと、ヴァルキリーは、とある衛兵に憑いてて~。衛兵とは模擬戦の体で戦ってるので~」
わたしの答えに、ニードルスは、何やら呆れた様に首を振った。
「もう、何が何だか。とにかく、戦う時は私も見させて頂きますからね?」
「あ、戦闘は、わたし1人でしなくちゃいけなくって」
「大丈夫です。参加する気はありませんから。危ない事はしたくありません!」
ですよね。知ってた。
「では、この木剣は預からせて頂きます。魔力付与に、大体半年くらいですかね?」
ファッ!?
「は、半年!?」
「……何ですか?」
「き、期限は、10日以内なのですけれど……」
「はぁー!?
いいですか、付与魔術と言うのはですね。一見するとただ、魔力固定の魔法をかけてるだけの様に見えるかも知れませんが、幾重にも魔法構築術式を組み込みながら、それらを滞り無く循環させるために膨大で緻密な……」
……ぐぅ。
「寝るなー!!」
「ギニャー!!」
……ぬう。
木剣で殴らなくても……。
その後、錬金術ギルドの職員さんに止められるまで、ずっと応接室で怒られてみました。
果たして、ヴァルキリーに勝てるのか?
てゆーか、その前に魔法の木剣は完成するのか??
不安MAXだけれど。はふぅ。




