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第十四話 謎と検証と

「少年、今日もやるのかい?」


「やります! そして、少年じゃないし!!」


 木剣を肩に担ぎながら、ニヤニヤしている若い衛兵に向かって、わたしも木剣を構えながら言った。


 薬草集めに走った日から、今日で10日が過ぎようとしてたりしますがウロです。


 悩みつつ眠った翌日。


 特に解決案など浮かびもせず、でも、お腹空いたので1階に降りて行ったらチェックアウトとか言われてビビッた。


 そう言えばそうでした!


 と言う事で、どうせ、しばらくはこの街を拠点に活動するのだし~。ってとこで、30日分まとめて支払ってみました。金貨15枚。いつもニコニコ現金払い。


 デニスさんの驚く顔を予想してたら、木札30枚を渡されて逆にビビッたし。


 何でも、下級貴族様とか学者先生などが長期滞在される事があるとかで慣れてるんだって。ちぇっ。


 その後で、木札は赤く色の塗られた物を3枚くれました。

 これ1枚と、普通の木札10枚と交換してくれるらしい。


 じゃー、なんで30枚出したの!? って聞いたら、「面白いから!」などと。


 うぬぅ。

 そんなこたぁ、どうでもいいんじゃよ!!


 その日から、薬草集めと同時に様々な『検証』を行ったりしてましたさ。


 まず、やっぱり気になる「ダメージ」について。


 そんな訳で、街門のすぐ外にて大実験です。


 最初は素振り。


 イメージだけの、いわゆるシャドーボクシング気味に技を繰り出します。


 結果、ダメージ無し!


 身体は動くし、技も体現出来てるッポイ。


 ただ、ちみっとだけれど身体がきしむ感じがしたよ。HP的には変化無かったけれど。


 それでは、実践!


 レプスくんを召喚して、お相手いただきました。


「レプスくん、わたしを倒す気でいらっしゃい!」


 ヒ、ヒクク!?


 あれ?

 理解したのか、戸惑っていらっしゃる!?


「美人なご主人様を攻撃なんて、とてもじゃないけど出来ないウサー!!」みたいな?


 分かる、分かるよレプスくん。

 でも、必要な事なのよ!?


 くらえ!!


 戸惑うレプスをよそに、わたしは一気に距離を詰める。


 出遅れたレプスも、バックステップで懸命に距離を空けようとするけれど、もうわたしの間合いです!


「兜割り!!」


 ズシャッ


 降り下ろした剣が、正確にレプスを捉えた。


 結果、ダメージ有り!


 そして、大失敗!!


 第1の失敗は、真剣だった事。


 見事、レプスは真っ二つになりました!


「ギャー! レプスく……ギニャー!?」


 レプスに技がヒットすると同時に、わたしの身体にダメージがビシッ!


 レプスが絶命して、わたしがしまった! とか思う刹那、レプスのダメージがそのままわたしの中に流れ込んで来た!!


「ぐ、ぐぬぬぬぬっ」


 そのまま、前のめりに倒れ込むわたし。


 外傷は無いけれど、内臓を殴られたみたいな感じだよ。殴られた事無いけれど。


 これじゃあ、何のダメージだか判らないよ!?


 い、いや、そんな事より。


「れ、レプス!!」


 なんとか立ち上がって、レプスくんに駆け寄る。


 ああ、レプスくん。

 毛皮は無駄にしないからね?


 ……なんて考える余裕も無く、レプスくんの体に触れた瞬間。


「魂の盟約に従い 再びの息吹きを」


 わたしの頭の中に、男性とも女性とも思える声が響いた。


 同時に、わたしの中から「生命力」が抜けて行き、それは、レプスの中に吸い込まれて行った。


 レプスの体が、魔法的な青白い光に包まれる。


 そして、レプスは蘇ったのである。


「れ、レプスくん!!」


 よろめきつつも、思わず、わたしはレプスを抱き締めた。


「ぬわわわわっ!?」


 わたしの中から、再び「生命力」が吸い出されて行く。


 いつぞや、馬車の中で体験したアレの2連発。ぎぇ~!


 回復したレプスは、後ろ足でわたしを蹴って離れると「フンッ」と鼻を鳴らしてから1回転して消えてしまった。


 な、なるほど。

 レプスくんは、こうなる事を知ってたのですね。


 てゆーか、術者のわたしが知らなかったとか。ションボリだわぁ。


 気が遠くなりつつ考えた。


 衛兵様が、こちらに走ってくるのが見えた気がした。

 第2の失敗、知識不足!


 ……それから2日ほど寝込んでたわたし。


 考える時間はたっぷりあるけれど、ネガティブシンキングがぐるんぐるん回ってて、全然まったくサッパリ少しもちっとも考えがまとまりゃしないよ。


 そんな中、なんとか無理矢理まとめてみますと。


 剣技による「ダメージ」は、当たらなければ発生しない?


 或いは、発生はしてるけれど「ダメージ」とまではなっていない?


 また、相手に当たった事で発生したとなると、それ即ち「反動ダメージ」なのかも知れない?


 そして、レプスくん。


 前から気になってた事だけれど、レプスくんとは『契約書』を介して『契約』していないのだ。


 マーシュさんの話しでは、たぶんだけれど、召喚魔法を使うには召喚相手との間に『契約』が必要で、その為には『契約書』が必要不可欠みたいだった。


 けれど、ワイルドバニーのレプスくんとの間には『契約書』を必要としなかったのよねえ。


 でも、確かに何かを感じたのも本当だった。


 それが、あの時、頭の中に響いた「魂の盟約」なんだと思う。


 つまり、わたしとレプスくんは「魂」レベルで繋がってるって事なのかなあ?


 ぬぬ?

 て事は、これからの戦闘でレプスくんがやられちゃった場合、そのダメージがわたしに返ってきちゃう!?


 ……そんな感じに、頭使ってたら知恵熱出ちゃった不具合ですよ。はふぅ。


 その翌日、この下腹に来る鈍痛をなんとかしないと体に悪いと思い立ち、錬金術ギルドに向かいました。


 開口1番、ニードルスに「ポーションくれ!」 っと言いましたら、1本金貨5枚とかぬか……おっしゃるので、いつの間にか持ってた(トレビスさんに返さなかったとも言う)妖魔の骨を使って、自分でポーションを錬成してやりましたよ!


 ニードルスは目を丸くしてましたが、その場で飲んでやりました。腰に手で。施設使用料は銀貨5枚。宿賃並。


 回復したので、今度はダメージ量の検証です。げふぅ。


 ……と、その前に。


 以前から気になってた、『王立図書館』に行ってみる事にしました。


 マーシュさんから聞いてはいたのだけれど、すっかり忘れてたのはナイショです。


 ゲームだった頃にはなかった施設だし、もしかしたら、新たな召喚魔法の獲得に繋がるかも!?


 期待を胸に、参りましょう。そうしましょう。……だったのですが。


「市民票をお持ちでない方の入館は出来ません!」


 な、なんですと!?


 ま、まあ、予想はしてたんですけれどね。


 入館料に金貨1枚とか、一般市民にはなかなかハードル高いと思うし。


 つまり、それだけ本自体が貴重だったりするのだと思います。たぶん。めいび~。


 ならば、本来の目的に戻りましょう! ……げ、現実逃避なんかじゃあないんだからね!?


 改めまして、ダメージ量の検証です。


 剣技がヒットした場合、どの位のHPが減るのか?


 また、どの位の時間、身体が不自由になるのか?


 前回、何やら色んな事が1度に起こってしまって、わちゃわちゃしてるウチに気がついたら宿のベッドに転がってたテイタラクでしたからなあ。


 まずは、それを明確にしておきたいのココロ。


 そんな感じでGO→!


 用意する物


 木剣。

 レプスくん。


 早速、レプスくんを召喚!

 呼び出されたレプスくんは、何やら澱んだ眼でこちらを見ている。


 あ、レプスくんは完全にスネてます。


「だ、大丈夫だよ! 今回は鈍器だから。ね?」


 ああ、スッゴい睨まれてます。


 どうしようか?

 なんて悩んでましたら、背後から声をかけられました。


 声をかけて来たのは、若い衛兵の方でした。


 儚げに、困惑している可憐なワタクシを放っておける殿方はおりますまい!? 的な?


 或いは、挙動不審な人物が小動物を撲殺しようとしてる姿に危機感を覚えたのか!?


 ……どうやら後者でした。


 てゆーか、前回昏倒した時に宿まで運んでくれた方だったみたい。


 あらやだ恥ずかしい!


 なんてモジモジしてましたら、


「いや、また倒れられても困るからね。危ない事しちゃダメだよ。少年!」


 しょ、少年!?


 こんな〝美少女系召喚士全身コレ萌えの塊〟をつかまえて少年だと!?


 ぬう。

 我慢するのよウロ。グッと、ギュッと。


「あ、危ない事なんてしてません。剣技の検証です! あと、少年じゃありません!!」


「剣技の検証?」


 わたしは、剣技を使った後のダメージについて説明した。


 とは言っても、ゲーム的な事は言わないけれど。


 衛兵様は、腕を組んでわたしの話を聞いていたけれど、


「何だか良く分からんが、要は剣の習練がしたいんだな?」


「……ま、まあ、そんな感じです」


「分かった。なら、俺が稽古をつけてやろう。こう見えて、腕には自信あるんだぜ?」


 ぬう。

 やけにフランクだけれど、どうなんだろう?


 それとなく、ステータスチェック!


 名前 ニコル・クルーエル


 種族 人間 男

 職業 衛兵 Lv5



 器用 9

 敏捷 18

 知力 13

 筋力 25

 HP 42

 MP 11


 スキル


 共通語

 礼儀

 武勇


 格闘 Lv2

 剣の扱い Lv3

 槍の扱い Lv1


 剣技 Lv3


 突き

 薙ぎ払い


 ほうほう、街門警備の衛兵にしてはやりますな? などと。


 それに、レプスくんよりは頑強だろう!


「でも、いいんですか? お仕事中でしょ?」


「朝からずっとは無理だが、昼休みとかなら大丈夫だ。門番ってのも結構、暇でさ」


 あー、暇潰しですかそうですか。


 まあ、こちらは実験の検証が出来れば何でも良いのですけれどね。


「よ、よろしくお願いします!」


「良し、早速始めようか?」


「はい、お願いします!」


 突如、始まってしまったニコルさんの剣技指南。


 まずは、様子を(うかが)って~。


 なんて思ってましたら、あっと言う間に接近される!


 ヤバイ!?


 慌てて木剣を構えようとするけれど、間に合いませんでした。


 薙ぎ払いで、脇腹をしたたかに打ちつけられる。


「ぐぅっ」


「甘い甘い!!」


 痛みに硬直したわたしの脚を、戻し際の木剣が払って行く。


 ドサッ


 後頭部と背中を、地面に強打して息が出来ないわたしの首筋に、ニコルさんは剣先をピタリと当てて、


「全っ然ダメだな。戦場では、剣を構えるまでなんて待ってやくれないぜ?」


 クルクルと剣を背に回しつつ、ニコルさんは笑いながら門に戻って行った。


 け、検証したいって言ったのに。


 倒れたわたしの上で、何故かレプスが勝ち誇っていた。後でシメるかしら。


 それからのわたしは、午前中は薬草を探して、お昼はニコルさんと剣のお稽古。


 検証だって言ってるのに、わたしの剣はニコルさんに届かない。


 死なない程度に手加減されてるのにも腹が立つ! 死にたくはないけれどね。


 そんなこんなで、冒頭に戻る訳ですがどうでしょう?


 実際、まだ、1度も検証出来てない上に、本来の目的より悔しさが勝ってたりしてます。


 だって、前世では最高レベルの聖騎士だったのですよ?


 なのに、レベル1桁の門番にボコボコにされる毎日ですよ!?


 悔しくもなるでしょー!!


 ……と言うのもありますが、闘ってるウチに剣技スキルが出てくれるかも? なんて、淡い期待もあったりなんですけれどね。


 あと、どうしても気になる事がある。


 それは、戦闘中のニコルさんに『白い影』みたいな物が見える気がしたり。


「ボーッとしてるんじゃねーよ!」


 ニコルさんの叫び声に、ハッと我に返る。


 すでに目前に迫ったニコルが、やはり白い影を纏いながら木剣を放って来た!


 身をよじって、それをかわす。


 太刀筋は全然見える!


 問題は、身体がついていかない不具合。


 まだ、体勢の崩れてるわたしに、ニコルの薙ぎ払いが飛んでくる。


 受け止めてはダメだ。


 剣を斜めに構え、上方に受け流す。


 ニコルの剣が、勢いをそのままに、わたしの剣身を滑って上へと流れていく。


 これで終わっちゃダメ!



 そのまま、柄でニコルの手を跳ね上げる。


「ディザーム!」


 自分より大きな体躯の、力が強い相手に良く使った技。


 相手の武器を 叩き落とす技だ。……今回は跳ね上げたけれどね。


 ブンブンと唸りながら、ニコルの剣が宙を舞う。


 すかさず、わたしの剣がニコルの喉元を狙う!


 勝った!


 そう思ったのも束の間、剣の軌道が狙いを逸れた。


 いや、逸らされた!?


 ニコルの纏う白い影が、わたしの剣をわずかにずらした様に見えた。


「えっ!?」


 一瞬、それに気を取られる。


 同時に、わたしの身体から力が抜けて行く。


 えっ? ちょっ!?


 その場に腰から落ちるわたしの頭に、すでに復帰していたニコルが剣を打ち降ろした。


「今のは上手かったぜ? だけど、その後が駄目だな!」


 そのまま崩れ落ちるわたし。


 でも、少しだけ解ったよ。


 技が出た後でも、気を抜かなければ硬直しないのだと思う。たぶんだけれど。


 そして、勝って立つニコルさんの傍らには、冷たい笑みでわたしを見下ろす白いもやの様な女騎士の姿が見えた気がした。

活動報告にて、関連した小話を掲載しております。


そちらも併せて、お楽しみ頂けたら幸いです。

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