第百二十四話 魔石を作ろう!
前回のあらすじ。
シャーベットよりかき氷の方が簡単だったかもしれないし、魔力じゃなくって物理で解決しそうだと思った。かき氷機で。ペンギンのやつが好き。
陽の光がやる気を出してきて、外に出ているとジリジリと肌が焦げる様に感じる。この世界に来て、初めての本格的な夏になりましたよ。
街を行き交う冒険者たちの数も増えているし、この時期になると商会に顔を出す行商人も多くやって来るのだとジーナちゃんが言っていたサマーシーズン到来!
プチ浮かれお祭りモードは、夏期休暇を明日に控えた魔法学院の方にも当然の様に浸透していたりします。
夏期休暇前日だけれど、普通に授業がある魔法学院。授業中、皆さんずっとソワソワして落ち着かない様子なのは、この世界でも同じなのだと思ったりした。
普段通りならば、3時限目が終了した時点で生徒は自由時間になるのだけれど。最終日とあって、この日はホームルーム的な物があった。……通知表は無いらしい?
相変わらずのソワソワ感が満載な教室内は、レティ先生がやって来てもその空気は変わらなかった。そのせいだろう、教卓の前に立ったレティ先生は露骨にイラッとした表情で小さくため息を吐いた。
「ハイハイ、良いですか皆さん。
明日から、この学院は夏期休暇に入ります。皆さんにとっては初めての長期休暇ですし、帰省などで何かと忙しいとは思います。……がっ」
そう言うと同時に、レティ先生は教卓の上に大きな箱をヨイショと乗せた。木製の収納ケースみたいな箱は、3つの錠前を鎖でぐるりと巻き付けてあって、それぞれ違った鍵で施錠されている厳重ップリだった。
そのゴツい見た目は、浮かれた教室内の空気を引き締めるには十分なインパクトだったらしい。いつの間にやら、教室内は静かになっていてレティ先生の立てる金属音だけが耳に響く。
「魔法の鍵ではないんですね」
ニードルスが小さく呟いた。
そう言えばそうだね。何で魔法の鍵をかけないんだろ?
その答えは、箱の中身のせいだった。
3つの鍵を丁寧に外したレティ先生は、箱を開ける前に白い手袋を身につけた。
……アレッて、入学当初に魔導書を配った時に使った“魔力絶縁手袋”じゃね?
そう思ったのはわたしだけじゃなかったみたいで、ニードルスはもちろん教室内は少しだけザワザワし始めた。
教室内の様子に、レティ先生はもう1度小さくため息をはいてから箱を開ける。中で何か光っているのか、色白のレティ先生の顔がより白くより明るくなった。より恐ろしくなったのはナイショ。
レティ先生の手には、白くて丸い物体が乗っていた。野球のボール……いや、ソフトボールくらいの大きさかな。どうやら、光っていたのはこれだったみたい。
「これから皆さんに、この魔石を配ります。
これは、『吸魔石』と言う触れた者の魔力を吸収して貯める性質の石で出来ています。この石に魔力を貯める、『魔石作成』を休暇中の課題とします!」
一瞬、教室中がどよめいた。
この学院ってば、今まで宿題らしい宿題を出された事がなかったっけ。一応、授業だけでは解らない事などは担当教科の先生に聞いたり自習したりはするのだけれど。
つまり、 “初めての宿題” な訳ですよ。
「では、この魔力絶縁布で出来た袋に魔石を入れて配りますので順番に取りに来てください。受け取った者から、帰っても……」
「ちょっと待ってください、フランベル先生!」
言いかけたレティ先生の声を遮って、アレクシア・ブリーム嬢が手を上げる。
「……どうぞ、ブリームさん?」
レティ先生が、明らかに厄介そうな表情でアレクシアさんを促たけれど。それには動じずに、アレクシアさんはスッと立ち上がった。さすがは伯爵令嬢、だてに金髪縦巻きロールじゃあないね。
「先生、魔石の作成についてもう少し詳しく説明して頂けないでしょうか? 」
「……ああ。説明、要りますか」
レティ先生は、今日1番の大きなため息をはいてアレクシアさんに着席を促した。
アレクシアさんは、ほんの少しだけ固まっていたけれど。目を真ん丸に見開いたまま、ストンと腰を下ろした。真面目な生徒に何と言うメンタルブロウ。だけれど、そんな生徒の様子など気にも止める事なくレティ先生は説明を始めた。
「いいですか、1度しか説明しませんので良く聞いてくださいね?
ご存知の通り “魔石作成” は、皆さんが進級する為の必修課題です。作られた魔石は、学院施設内の照明や空調などの様々な魔力供給に使われる事になります。ですから、試練の塔を突破した者も例外ではありません。
より多くの魔力を石に込る事が必要になりますが、ただ闇雲に魔力を込めれば良いと言う訳ではありません!」
レティ先生の説明を要約すると、こんな感だった。
1 石に注入する魔力は、必ず自分の物のみにする事。複数の魔力が込められると、魔力が暴走する恐れがあるため。
2 魔力注入の際は、1回に出来るだけ多くを込める方が望ましい。でないと、魔力の“澱”の様な物が発生して、その分だけ魔力が入らなくなってしまう。澱が発生した場合は、魔石からその部分を吸い出して取り除く必要があるのだけれど、魔力コントロールが非常に難しい上に自分の魔力であるにも拘わらず強烈な魔力酔いに陥る可能性が高い。
3 なるべくなら、魔石は注入魔力量が多くて澱が少ない事が望ましいけれど、まずは提出する事が重要である。未提出者には、レティ先生オリジナルの罰が課せられる恐怖。
……だいたいこんな感じ。
単純に、宿題は自分でやりましょう! クオリティよりも必ず提出しましょう! ってトコかな。割りと普通? 罰はかなり気になるソレだけれど。ああ、おっかねえ。
「説明は以上です。
提出する事が最低目標だけど、澱の少ないより良い魔石を作る様に心がける事。
ここ数年の平均では、6割程度しか魔力を貯められていません。私のクラスなんですから、最低でも7割はあって欲しいですね!」
お、おう。
サラッとハードル上げていくスタイル。
ザワザワよりも、ドヨドヨし始めた教室内。その時、にわかにスッと手が上がる。
「何、 まだ質問? ……ええと」
「カリーナ・マルトンです、先生」
そう言って立ち上がったのは、わたしとニードルスが写本をしていた時にも何度か話す機会があった魔法使い家系班の娘だ。
2つ結びにしたやや明る目のオレンジベージュの髪が印象的な、メガネの似合う知的な少女で、見た目ジーナより少しだけ上ッポイから17才位だと思われる。
「ああ、マルトン導師の娘さんね」
レティ先生は、そう言って少しだけ眉間にシワを寄せる。……それはそうと、マルトンの名前に何やら聞き覚えがある様な? などと。
「で、質問は?」
レティ先生に促されて、カリーナが小さく笑顔になる。
「はい、『完全な魔石』の説明はしてくださらないのですか?」
カリーナの言葉に、今度はレティ先生はフッと小さく笑った。
「その必要はありませんよ、カリーナさん。今の皆さんに『完全な魔石』を作る事は、到底無理でしょうから」
今、一瞬だけレティ先生がわたしたちの方を見た様な気がする恐怖。 是非とも気のせいであって欲しい。
「で、ですが……」
「はいはい、興味がある者だけ後で私の所に聞きにいらっしゃい。それでは、良い休暇を!」
カリーナの言葉を、レティ先生はあっさりと遮ってホームルームを終了させてしまった。……レティ先生、説明が面倒になったに違いありますまい。あるいは、お腹すいたか。
レティ先生の態度に、笑顔から一転して呆気に取られた様な表情になっていたカリーナは、やがて立ち上がると、レティ先生から魔石をひったくる様に受け取って教室を出て行ってしまった。
カリーナの退室を皮切りに、我に返った生徒たちがドオッとレティ先生の元へと移動を始める。わたしとニードルスは、別に慌てる必要が無いので列が落ち着くまで待機で頬杖の構え。
魔石を受け取る際、何人かの生徒から “休暇なのに課題ある” 事について抗議があったけれど。レティ先生からの「やらなくても結構よ。最悪、進級出来なくなるだけだし?」の言葉にしぶしぶながら沈黙していた。
宿題が普通のわたしと違って、皆さんにはそれが理不尽に感じられるみたい。
そして、どうやら貴族と言うのは休暇で実家に帰ってものんびりと寝そべってはいられないらしい。アッチに行ったりコッチに行ったり、何かと忙しいみたいだった。
まあ、アルバートが言うには「貴族がやる事など、たかが知れている。男は狩猟、女は茶会。陽が暮れれば、夜通しパーティー。実に下らんよ!」だそうで。これがパリピってやつかしら?
魔石を受け取ったわたしたちは、そのまま食堂へと移動。思う様、丸テーブルを囲んでやる事にする。本当は、ジーナが相談したいと言い出したからだけれど。
食堂は、お昼時だと言うのにだいぶガラガラだった。ほとんどの者は、帰省のために大忙しだと思われる。
いつもの様に、食堂の端っこの席に陣取ったわたしたちは、蒸しパンや野菜のスープで簡単に昼食を済ませてからジーナの話を聞く事にした。
「あたし、 “完全な魔石” を作りたい!!」
魔石の入った袋を見詰めながら、ジーナが言った。
……むう。そう言えば、“完全な魔石”ってなんじゃろう?
ゲームだった時にも聞いた事が無いし、この世界のオリジナルアイテムかな?
「ジーナ君、キミは完全な魔石がどんな物か知っているのかい?」
「うん。昔、リドリー先生から聞いた事があるの!」
アルバートの問いに、ジーナが元気に答える。リドリー先生と言うのは、確か、ティモシー商会所属だった魔法使いの事だと思う。
ジーナは、わたしたちに完全な魔石について自分の知っている事を話してくれた。
完全な魔石とは、吸魔石が100%魔力で満たされた状態の物なのだそうな。
吸魔石は、ただ放置しておいただけでも大気中の微量な魔力を吸収してしまうし、吸収が中途半端だと澱になってしまう。しかも、吸魔石の許容量を少しでも超えると簡単に割れてしまうのだと言う。
「だけど、もし、吸魔石を完全な魔石にする事が出来れば、吸収した魔力量を遥かに超える力を発揮する物になるの。しかも、魔力は無属性になると言われているのよ!」
鼻息も荒く、興奮した様なジーナ。テーブルの下で、足をパタパタとさせていてカワイイ。
「あたし、作ってみたいんだ。星の様に燦然と輝くって言う魔石を!」
目をキラキラさせながら、ジーナがグッと身を乗り出した。
「それなら、詳しい話をフランベル先生に聞いておいた方が良いでしょうね。ああ見えて、優秀な人の様ですし。完全な魔石には、私も興味があります!」
「ニードルスの言う通りだな、ジーナ君。……性格はどうあれ、有能な魔術師である事は間違いないだろう。もしかすると、実物を見る事が出来るやも知れないぞ!?」
ニードルスとアルバートが、毒を吐きながら笑顔をジーナに向けている。でも、否定は出来ないし異論もないから良し。
そんな訳で、食事と簡単なミーティング気味を済ませたわたしたちは、レティ先生の研究室へとやって来ました。
ノックしてもしもお~し。
「どうぞ、開いてるわよ!」
中から、レティ先生の声が返って来る。
「失礼しまーす!」
研究室に入ったわたしたちは、相変わらず積み上げられた本や得体の知れない何かの間を通り抜けてレティ先生の前まで進む。
奥の席には、レティ先生の他にウディム・シトグリン先生の姿があった。
「ほらね、やっぱり来たでしょ!」
「フム、どうやら私の負けの様だね」
わたしたちを見たレティ先生が、嬉しそうにパチンッと指を鳴らす。同時に、ため息を吐いたウディム先生が金貨を1枚レティ先生に向かって放り投げた。
「……何をしているのですか、先生方?」
「ウフフ。ちょっとした勝負をね~」
「放課後、ここに生徒が来るかどうかを賭けていたんだよ。まさか、夏期休暇初日の放課後に、本当にやって来る様な殊勝な生徒がいるとは思いもしなかったがね」
わたしの問いに、レティ先生とウディム先生が答える。……って、魔石について質問がある者は放課後に来いって言ったのレティ先生じゃん。これって詐欺じゃね? てゆーか、そもそも生徒で賭け事をしないでいただきたい。プンスカ。
「それで、用件は何かしら?」
金貨を机の引き出しにしまいながら、レティ先生が声をかけて来る。
「あ、あの、完全な魔石について教えてく欲しいんです!!」
ジーナが、笑顔と緊張の入り交じった様な表情になる。同時に、ジーナの言葉を聞いたウディム先生がガタッと立ち上がった。
「フランベル君、キミは生徒にそんな事を話したのか!?」
えっ? 何?? ナニかヤバい話だったの!?
ウディム先生の思わぬ発言に、わたしを含めたニードルスとアルバートは驚きの表情になり、ジーナは困った様にオロオロしている。そんなわたしたちとウディム先生を交互に見たレティ先生は、大きくため息を吐きながら左右に手をヒラヒラと振って見せた。
「違うわよ。マルトン導師の娘さんがね……」
レティ先生の答えを聞いて、ウディム先生は小さく“ああ”と呟いてからゆっくりと座り直した。
「良いかね、ジーナ君。魔石作成の目的は、学院内にある様々な施設への魔力供給だ。完全な魔石など、今のキミが気にする様な事ではない」
優しい口調でジーナを諭す様に話すウディム先生だったけれど、ジーナはブンブンと頭を振った。
「あたし、どうしても知りたいし作ってみたいんです!! 教えてください、完全な魔石って、どうやったら作れるんですか??」
ジーナの言葉に、ウディム先生は呆れた様に頭をかきながらレティ先生を見た。レティ先生は、無言でウディム先生にうなずいた。ウディム先生は、小さく咳払いをしてから授業の様な口調で話し始めた。
「完全な魔石とは、吸魔石を触媒に魔力を結晶化させた物の事だ。
魔物などから採れる魔石も本来の意味では魔力の結晶なのだが、純度が段違いになる。更に言えば、吸魔石を用いる事で生み出される魔力結晶は無属性になる。そして、費やした魔力とは比べ物にならないほどの魔力量へと変貌する」
ウディム先生の説明によれば、人は誰でも魔力に属性があって、火や風などの属性魔法に得意・不得意が出るのはこれに由来するらしい。ところが、吸魔石に取り込まれた魔力は属性に関わらず無属性になるのだと言う。
その性質を利用して、吸魔石で無属性の魔力を集める事が出来るのだけれど、ジーナが言った様に、吸魔石は非常にもろくて少しでも魔石の許容量を超えると割れてしまうし、魔力の送り方にムラがあるとたちまち澱になってしまう。しかも、澱を取り出すのは非常に繊細な魔力コントロールが必要な上に魔力酔いが恐ろしく大きくなってしまう。
だから、1度に出来るだけ多くの魔力を送り込まなきゃならないし、大気中の魔力も吸収してしまうからなるべく少ない回数で魔石を満タンにしなければならない激ムズ仕様!!
「それならば、複数で挑めば良いと考えるのが普通なのだが、吸魔石に2人以上の異なる魔力が一定以上吸収されると魔力暴走が発生するのだ。そうですな、フランベル君?」
「ええ。過去に複数で魔石を作ろうとして、練武場と一緒に灰になったマヌケな連中がいたわ」
ウディム先生に答えて、レティ先生が掌の上で小さな花火みたいに魔力をポンッと鳴らして見せた。
練武場って、バスケのコート1面分くらいの広さがあったと思うけれど。うぬう。
「それにだ。諸君らの魔力量では、修練や学院の設備使用などで1日に使える自由な魔力などほとんど残ってはいないのではないかな?」
ウディム先生のその言葉に、ジーナがハッとした表情になった。
確かに、魔法学院内って移動だけでも扉を開けたり部屋の灯りを起動したりで細々と魔力を使ってたりするんだよねえ。
魔法の練習もしなきゃならないし、魔導書に使うペンのインクも魔力だし。そうなると、あんまし余裕って無いのかも。
「そう言う訳だ。だが、理想を抱くのは悪い事ではない。しっかりとした知識や技術を学べば、いずれは諸君らにも魔力を結晶化する事が出来るやも知れない」
「私たちみたいにね!」
ウディム先生に続けて、レティ先生がフフンッと鼻を鳴らす。……ああ、この2人は結晶化した事があるのじゃなあ。ぐぬぬ。
「ありがとうございました、失礼します」
お礼を言ってレティ先生の研究室を後にしたわたしたちだったけれど、ジーナは明らかにテンションがダダ下がりだった。
先に帰ると言うジーナを見送ったわたしたちは、「まだ、少しやる事がある」と言うアルバートと別れて、ニードルスと再び食堂へと戻って来た。貴族って大変ね。
「ジーナちゃん、大丈夫かな?」
「そうですね、目標を現実的に否定されてしまいましたから。こればっかりは、しかたありませんよ」
ハーブティーを傾けながら、ニードルスが言った。まあ、そうなんだけれどさあ。むう。
「そう言えは、カリーナ・マルトンさんってマルトン導師のご息女だったんですね。姓が同じだとは思っていたんですが、驚きましたね!」
「ねえ、ニードルスくん。マルトン導師って誰?」
わたしの返事に、ニードルスがピタリと固まった。直後、ゴクリとお茶を飲み込んだニードルスは、小さく息を吐いて再起動する。
「カリーナ・マルトンさんの父君、セルジュ・マルトン導師は宮廷魔術師の長に当たる人物ですよ。まさかウロさん、本当に知らないのですか!?」
「あ、ああ! セルジュ・マルトン導師!! 大丈夫、思い出した。イロイロあって、ちょっとド忘れしただけみたい!」
「……確かに、今日は少し疲れる日ではありましたけど。私たちも、もう部屋に戻った方が良いかも知れませんね」
久しぶりに、ニードルスの眉間に深々とシワが刻まれる。でも、本当に思い出した!
セルジュ・マルトン。
ゲームだった頃の記憶で言えば、魔導師系ジョブで関わってくるNPC。かなり優秀だけど、シナリオが進むにつれて失われた魔法に取り憑かれて闇墜ちするだいぶアレな人物だったと思う。……ま、まあ、この世界は必ずしもゲームと一致してないし。へ、平気だよね!?
ニードルスと別れたわたしは、部屋に戻るなりベッドへと倒れ込んだ。だって、なんか変に疲れちゃったんだもん。
このまま、ゆっくり寝そべり休暇に突入するわたしの耳に、地階から帰省ラッシュの喧騒が響いて来た。貴族ってホントに大変ね。
そんな騒ぎBGMに、鞄から貰った魔石の袋を引っ張り出した。
「吸魔石かあ……」
袋を見詰めながら、ぼんやりと呟いてみた。完全な魔石が気になって忘れてたけれど、こっちもゲームだった頃には無かったアイテムなんだよね。
さっそく、中身の魔石を取り出して見る。白い魔石は、手に取った瞬間はサラサラとした感触で石と言うより磨かれた木製のボールを思わせたのだけれど。すぐに、手に張り付く様な感覚に襲われた。
なるほど、手の触れている部分からスゴく微量だけれど魔力、つまりMPを吸われているのが解った。
どれどれ、詳しく見てやろうじゃない。
『吸魔石』
魔力を吸収する特殊な石から削り出した魔石。吸収した魔力を貯める性質があり、貯まった魔力は通常の魔石同様に使用する事が可能。複数回の魔力蓄積が可能だが、じょじょに最大蓄積量が減少し、やがて崩壊する。
蓄積魔力量 3 / (1) / 100
こんな感じ。
表示が解りにくいけれど、左から 現在値・澱・最大値 かな?
試しに、5ポイントほど魔力を注入。……ううむ、人に送るより抵抗が少ないけれど、グネグネして安定しづらいかな?
蓄積魔力量 6 / (3) / 100
うむうむ、間違いないね。
3ポイントが蓄積されて、2ポイントが澱になった感じかな。
でも、蓄積量の最大値が100って少なくね? ゲームだった頃って、吸魔石こそ無かったものの店売りの普通の魔石でも500とかざらにあった……。
瞬間、わたしはベッドから跳ね起きて部屋を飛び出した。目指すは地階の馬車クローク。そこには、帰省の馬車を待っている生徒たちの姿があった。
物陰から、そっと何人かのステータスを確認してみる。
……うん、うんうん。
やはし、ほとんどの生徒のMPは20前後しか無い!!
ちなみに、現在のわたしの最大MPは80。
学院内の施設などで使うMPはほとんどの場合1か2で、1日平均5ポイントは使う。休暇で学院を出るとしても、魔法の練習はするだろうし。
なるほど、20前後が想定では絶対に完全な魔石なんて無理ですわなあ。
ジーナも、わたしよりは少ないけれど彼らの3倍はあったハズ。
イケる、イケるよジーナちゃん!!
部屋に戻ったわたしは、早速、送り込みと澱の吸出し実験を始めた。これが失敗しちゃうと、ジーナにオススメ出来ないからね。シカタナイネ。
その結果、今までの魔力酔いなんて比べ物にならない地獄の様な苦しみに、丸っと1週間を奪われる事になったのでありましたさ。




