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第百二十三.五話 王子様の帰る場所

 前回のあらすじ。


 馬車が超絶揺れて気持ち悪くなって3日ほど寝込んでお腹すいた。


 ハイリム王国国立魔法学院の中にある食堂は、夕方を過ぎたと言うのにやけに混んでてビビッた。

 大半は、夏期休暇を自分の領地などで過ごす貴族な紳士(しんし)淑女(しゅくじょ)の皆様方で、たった2ヶ月の夏休みなのに涙を流して別れを惜しむ姿がいっぱいあってもう1回ビビッておく。


 魔法学院の夏期休暇は、7月から9月の始めまでのおよそ2ヶ月間である。

 元の世界でわたしが通っていた学校みたいに長期休暇用の課題は出ないけれど、貴族な方々にはやる事がいっぱいあるらしい。

 社交界? でのアレコレや、領地の視察。特に、領民への奉仕活動は欠かせない事柄なんだそうで。……ノブリスなんとかってヤツだっけな?


「そうは言っても、この学院に来ている時点で貴族の権威などあって無い様なものだがな」


 苦虫(にがむし)を噛み潰した様な表情のエセルを背に、涼しげな顔のアルバートがグラスの水を飲み干した。


「……お帰りなさい、アルバートくん。てゆーか、いつ帰って来たの?」


「今朝早くだ。まったく、やっと帰って来れたと言うのに誰1人として出迎えてくれんのだから……」


 わたしの言葉に、アルバートは飲み干したグラスを眺めながらそう言った。


 アルバートたちが帰って来たのは、今朝、と言うよりはまだ夜も明けきらない頃だったらしい。

 “らしい”とは、アルバートたちが帰って来ただろう時間、わたしは女子寮の自室で寝とぼけていたし、ジーナは通いだから元々いない。ニードルスはこの日、外泊許可を取って自宅地下の研究所へ行っていて寮にはいなかった不具合です。

 しかも、馬車移動で疲れていたアルバートたちは帰って早々に寝てしまい、起きたのは、ついさっきだって言うアリサマですよ。ウンザリする程人の事が言えないわたくしウロです。


「出迎えられなかったのは、悪かったと思います。ですがアルバート、戻るのがこんなにも遅くなるのでしたら、何かしらの連絡があっても良かったのではありませんか?」


「いや、出迎えは冗談だよニードルス。私こそ、連絡もせずに申し訳なかったと思う。どうか許して欲しい。何せ、色々と忙しかったのだよ!」


 小さくため息を吐いて、アルバートが椅子に深く座り直した。

 私たちがローウェル領を離れた後、アルバートとエセル主導により、逃走した元メイドのヨランダ捜索が行われた。大規模とはいかなかったみたいだけれど、それなりの数が投入されたらしい。


「だが、とうとう発見には至らなかったのだ」


 アルバートによると、近隣の村々まで捜索の手は広げられたのだったが、ヨランダを見つける事は出来なかったらしい。その足取りは、屋敷を出た後しばらくは追う事が出来たそうだけれど、山道の途中で忽然(こつぜん)と消えてしまったらしい。争った形跡も何も手がかりが無く、仕方なく捜索は打ち切られる事になった。


「まあ、何も収穫が無かった訳ではない。ヨランダは見つけられなかったが、いくつか繋がりが……」


「アルバート様!」


 エセルが、アルバートの話を強めの声で(さえぎ)った。


「ああ、少し喋り過ぎだな。とにかく、領民に迷惑をかけてしまったのだ。その埋め合わせをしていたと言う訳だ」


 アルバートはハッハッハッと笑っていたけれど、その後ろではエセルの目がヤバくて怖くてだいぶ困る。


「そうだ、カーソンさんは?」


 ()てつく空気に気づいたのか、そうじゃないかもだけれどジーナが声を上げる。そして、その話題はとても気になったりするよ!


「そうだよ、カーソンさんはどうなったの? 無事なの?」


 身を乗り出したわたしに、アルバートは軽く肩をすくめて見せた。


「心配をありがとう、ジーナ君。ウロ君。

 だが、心配には及ばんよ。カーソンは、無事に戻って来た」


 カーソンがユニコーンの長老様と木の根のカゴに入ってから、ラヴィニアさんはほとんど毎日の様に森に通っていたらしい。

 最初の内はメイドさんに車椅子を押して貰っていたのだけれど、体力が回復してからは自分の足で森に通い、1日中、カゴの前で祈り続けていたとの事だった。


 その祈りが通じたのか、30日はかかると思われていた転生の儀式は、20日程で終了し、カゴが開いたのだと言う。


 カゴの中から出て来たカーソンは、その腕に1頭の小さなユニコーンを抱いていた。子犬程の大きさのユニコーンは、まだ眠ったままだったけれど。新たに長老となったマディが言うには「大丈夫、やがて目を覚ますだろう。魂は、新たな肉体にしっかりと宿っている」と語り、カーソンとラヴィニアに大いなる感謝を捧げたとの事だった。


「カーソンの奴、少し大人っぽくなっていたな。彼女には、ユニコーンの加護もあるし母上もいる。立派にローウェル家を継ぐ事が出来るだろう」


 お、おう。何やら、イロイロ察した感がありますな。カーソンの両親に触れない辺りが。ねえ。


「アルバート、ラヴィニア殿はどうされたのですか? 一緒に戻られたのではないのですか?」


 こう言う時に空気の読めない子、ニードルスが口を開く。ほら見ろ、エセルの眼光が鋭くなったじゃないか!!


「母上はローウェル領に残ったよ。カーソンに伝えねばならない事が、沢山あるそうだからな。それに今、城に戻るのはあまり時期が良くないのだよ。ニードルス」


 テーブルで両の手を組んで、ニードルスを上目遣いに覗き込んだアルバートの言葉は、笑顔だけれど凄味がある気がした。これには、さすがのニードルスも何かを察したらしく、「ああ、うん」などと言葉を(にご)して黙った。


「そう言う訳だ。私も城に戻るより、ここにいた方が良いと考える。それに、良い友も得たしな。これからも、よろしく頼むよ!」


 今のアルバートの笑顔は、心からの爽やかな笑顔で安心する。これには、わたしもジーナも、ニードルスもニッコリである。


「それより、さっきから気になっていたのだが。皆が食べているあれは何だ?」


 アルバートが、辺りをキョロキョロと見回しながら言う。同時に、わたしとジーナが顔を見合わせて微笑んだ。


「食べる? 食べてみる??」


 目をキラキラと輝かせながら、ジーナがアルバートににじり寄った。


「あ、ああ。では、私とエセルの分を頼む」


 そう言いながら、エセルに同席を強制するアルバート。さっきまでの眼光はどこえやら、目を丸くして絶句するエセルの姿があった。


 程なくして、ジーナが2人分のガラスの器を持って戻って来た。器の中には、オレンジ色の塊が入っている。


「これは、『シャーベット』です!」


 アルバートとエセル、2人の前に器を置きながらジーナが言った。


「シャーベット? 察するに、蒸しパン同様ウロ君の発案だな!?」


「当り! さすがはアルバートくん。

 これは、『オレンジシャーベット』って言うデザートだよ。オレンジの果汁を凍らせて作ってみました。果汁そのままだと少し酸っぱいから、ちょっぴりばかりお砂糖が入ってるよ」


 添えられたスプーンですくったシャーベットは、とても滑らかで軽い。口溶けも良く、甘過ぎないから喉越(のどご)しもグッドですよ!


「これは、美味い!」


「凍っているのに、柔らかい。雪を使っているのですか?」


 アルバートは感嘆の声を上げ、エセルは雪を想像してくれた。良いぞ良いぞ。


「雪じゃなくって、凍らせる途中で混ぜてあげるとこうなるのです!」


 フフンッと、胸を張るジーナが可愛い。

 だって、これを作るまで、大変だったんだから……。


 学院に帰って来て、5日目。

 だいぶ調子が戻って来たわたしは、レティ・フランベル先生に呼び出される事になった。

 レティ先生は、学院内の魔力管理に関する研究を命じられたとかで何かと忙しいらしい。と、ジーナから聞かされていたのでスッゴく気が重い。


 寮を出ると、(ぬる)い風が頬を撫でて行く。そう言えば、もう夏だったりするらしい。

 わたしがこの世界に来て、初めての夏なのですが。日本から来たわたしにすれば、カラッとしたこの世界の夏はとても過ごしやすい気がする。暑いけれどね。


 校舎内に入っても、暑さは変わらなかった。寮の方は涼しかったけれど、空調が壊れてるのかな?

 急ぎ足でレティ先生の研究室まで来ると、さすがに少しだけ汗ばむ感じがする。


「レティ先生、ウロです。お呼びでしょうか?」


 扉をノックしながら、部屋の中へと声をかける。


「入って!」


 扉越しに、レティ先生の声が響いた。


「失礼しまーす!」


 扉を開けて、中に入る。同時に、ムアッとした熱気と薬品の様な臭いが来てゲンナリする。


 迷路みたいな部屋の奥へと進むと、髪はボサボサ、タンクトップみたいな上着にヨレヨレのローブを腰に結んだ状態のレティ先生がデスクに()()していた。


「レティ先生、お呼びでしょうか?」


「……暑いのよぉ、何とかしてぇ」


 イキナリ、何を言ってるのかこの人は??


「そ、そんな事言われても。空調はどうしたんですか?」


「冬に備えて、魔力を節約してるのよ。まったく、囚人が足りないよのね!」


「しゅ、囚人?」


 わたしがそう言うと、レティ先生はハッとした顔になって首を振る。


「何でもないわ、気にしないで。それより、暑くてやる気が起きないのよ。何か、美味しい物作ってちょうだい!」


 脈絡が無さ過ぎてビビる。


「あ、暑いのでしたら氷でも作ったらいかがですか? 先生位になれば、氷魔法なんかも出来るのではないですか?」


 氷魔法。正確には、氷属性魔法だけれど。

 ゲームだった頃は、上位魔法にいくつかあった気がする。属性魔法は、攻撃を受けると通常の魔法ダメージに属性ダメージがプラスされる。炎なら火傷のスリップダメージが付くし、氷なら凍って数秒間だけ行動不能になった。凍傷じゃないのは何でなんだぜ?


 つまり、氷魔法を使えば凍らせて涼しくなるんじゃないのかな? などと。


「属性魔法は、現象が終了すると消滅してしまうでしょう!? 氷が出来ても、アッと言う間に消えてしまうわ。それなら、生活魔法の『冷気(れいき)』か『凍結(とうけつ)』の方がマシだわ!」


 ほほう、属性魔法ってそんな感じになるのですね。そして、生活魔法に良さげのがあるじゃないですか。


「じゃあ、生活魔法で……」


「私が言ってるのは、美味しい物が食べたいのよ! 氷なんて、ちっとも美味しくないわよ!!」


 わたしの言葉を遮って、レティ先生が(まく)し立てる。


 ええ~。氷、美味しいよお!?

 コリッコリでジューシーな食感に、癖のまったく無い爽やかな喉越し。塩と糸が有れば、釣る事も出来ちゃう優れ物なのに。むう。


「じゃ、じゃあ、氷で果物とか冷やしてみては?」


「そんな、当たり前の物じゃないのよ。蒸しパンの時の様に、何か考えて欲しいのよ!!」


 ああ、なるほど。

 言ってる事は解りましたが、そんなに簡単にはいかないですわなあ。


 ……冷たい物かあ。


 そう言えば、こっちの世界に来てからアイスクリームとかって食べてなかったなあ。などと。

 まあ、一般的にはお砂糖が高価だし牛乳とか保存が難しいしね。さっきレティ先生が言ってた生活魔法の冷やす系は、酒場や市場の氷室(ひむろ)的な物に使われてると思われる。野菜や肉が、ヒンヤリしてたりするし。


 でもわたし、アイスクリームの作り方なんて知らない不具合です。牛乳とお砂糖混ぜて、固めただけじゃあダメだった気がする。


 あ、でも、アレならいけるかな?


「レティ先生、美味しい物を作る為に、わたしに生活魔法の『冷気』と『凍結』を教えてください!」


 わたしがそう言うと、レティ先生は嬉々(きき)としてわたしに生活魔法を2つ、伝授してくれましたよ。まあ、放って置いても2年生になったら習うらしいのですが。


 とりあえず、冷気と凍結を覚えた訳ですが。

 これが、なかなかに難しい。


『冷気』は、決められた範囲内の温度をを外気に比べて10~20度位下げる魔法。消費魔力によって効果時間が変わって、通常で1時間弱。倍にすれば、効果時間も倍になる感じ。消費MPは3。


『凍結』は、目標となる物体を文字通りに凍らせる魔法。両手で持てる位の大きさに限られるらしくって、流動する物、流れる川とか吹く風とかは手の触れている部分だけは魔法効果が出るけれど、全体を凍らせるには至らない。

 また、動いていなくても大き過ぎる場合は効果が手の範囲を超えないらしい。生活魔法だからね、仕方ないね。消費MPは8。やや多い。


 それでは、早速ですがアレを作ります。まあ、シャーベットなのですが。

 お手伝いは、材料提供兼癒し担当のジーナさんと、調理場提供の魔法学院食堂料理長のルェフルさんでお送りいたします。


 調理と言っても、材料を混ぜて冷やし固めるだけなのですがなあ。今回は、ティモシー商会のご厚意により大量にミス発注しちゃったオレンジを安く(レティ先生が)買い取って使います。


 オレンジを搾って果汁を採取~。


 お砂糖が普通に使える施設なので、オレンジ果汁にちょっぴりばかりお砂糖投入、良く混ぜる~。


 凍結魔法で鉄の箱を凍らせて、中を冷気魔法で更に低温にしたら、先程の果汁をボールなどの器に入れて箱の中に安置~。水滴が入らない様にボールには蓋~。


 30分毎にボールの中をかき混ぜて果汁が完全に凍らない様にしつつ、凍結が切れて来たらかけ直し~。冷気もかけ直し~。


 3、4回位混ぜたら、オレンジシャーベットの出来上がり~!!


 ……最初は蓋しなかったり甘過ぎたりで失敗だったかけれど、2回目は上手く出来ましたよ。


 ルェフルさんからは、「これは良いわね。 これからの季節に喜ばれるわよ!」と、お褒めの言葉を頂きました。

 ジーナちゃんは、しばらく難しい顔をしていたけれど、直ぐに目を輝かせてどこかへ走って行きました。


 問題のレティ先生は、オレンジシャーベットを大変に気に入って頂けたみたいで、満面の笑顔でサムズアップしてました。


 この後、ニードルスの自宅研究所にシャーベットを持って行ってあげたら、シャーベットのお礼に新しいゴーレムちゃんをくれましたよ。わたしと同じ位の大きさの。相変わらず首が無い独特のデザイン。やっぱり血を取られたけれど。ぐぬぬ。


「……と、言う訳な制作秘話です」


「……それは、大変だったな」


 わたしの話を聞いて、アルバートがゴクンと喉を鳴らした。


「それで食堂が、かくも賑やかなのか。しかし、これだけの量を作るとなると、魔力はどうしたのだ?」


 再び辺りを見回してながら、アルバートが呟いた。


「そこはねえ、言い出しっぺが責任を取る結果です」


 わたしの言葉に、アルバートもエセルも困惑している様だったけれど。ニードルスの「厨房を見てください。自業自得とは言え、気の毒です」を受けて、2人は厨房を覗き込んだ。


 厨房の中では、ルェフルさんを先頭に料理人の方々が腕を奮っている。その(かたわ)らで、何かの機械(マシン)に魔力を流し続けてフラフラのレティ先生の姿がありましたとさ。


 余談だけれど、厨房にあった機械はジーナとアルド・ウェイトリー先生合作の魔導器で、材料を入れて魔力を5ポイント流せば完成まで自動でやってくれる優れものだったり。また、後にそれはティモシー商会が誇る夏の定番商品『ティモシーシャーベット』として、ハイリアの街に轟くのでありますが、それはまた別のお話。ぎゃふん。

名前 ウロ


種族 人間 女


職業 召喚士 Lv12 / 妖術師 Lv2


器用 28

敏捷 35

知力 60

筋力 33


HP 45/45


MP 80/80



スキル



ヴァルキリーの祝福



知識の探求

召喚士の瞳 Lv2

共通語


錬金術 Lv30

博学 Lv3

採取(解体) Lv1


魔法


召喚魔法


《ビーストテイマー》


コール ワイルドバニー


コール ハーピィ



《パペットマスター》


コール ストーンゴーレム(サイズM) ← New!




《アーセナル》


コール カールスナウト



魔界魔法 Lv1



魔法の矢



生活魔法


灯り

種火

清水

冷気 ← New!

凍結 ← New!


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