第百二十一話 ラヴィニアの願い
前回のあらすじ。
友達のお母さんが脱皮した。それはもう美しく。
……ぬう。
すごく頭が痛い。
正確には、頭ってゆーか右目の奥をゆっくりと力強く押さえつけられてるみたいな感じがする。あと、左足が痛ダルい。
身体を包む柔らかな感触に、自分がベッドに寝かされているのだと解った。
ゆっくりと目を開けると、少しだけ薄暗い部屋が何やら白くモヤッてるみたいに見えたけれど。どうやら、頭に包帯が巻かれていて、その一部が右目にかかってるらしかった。
「お目覚めでございますか?」
不意に、ベッドの傍らから声をかけられてビビッた。
気づかなかったけれど、わたしの寝ているベッドの横で若いメイドさんが繕い物をしていたみたいだった。
「あ……、お、おはようございます」
「おはようございます、ウロ様。ですが、もうすぐ夕餉の時間でございますよ?」
若いメイドさんは、そう言ってクスッと笑った。
おおう、もうそんな時間……って、今はいつ??
起き抜けの頭が急速に覚醒して、同時に心の中が不安で溢れ返りそうになる。寝起きなのにMPが減りそうな動揺にジッとしていられなくなったわたしは、勢い良くベッドから飛び起きた。
「ウロ様!?」
「メイドさん、今はいつ?? わたしが倒れてから、何日経ったの??」
頭はハッキリしたものの、記憶が異常に曖昧だったり。魔力を使い果たして気絶すると、大体、こんな感じになる不具合です。
わたしが最後に見た光景と言えば、王子様に抱きかかえられる美しい王女様の姿。……まあ、親子なんですけれどね。
「お、落ち着いてくださいませ。ウロ様がお休みになられてから、今日で2日目でございます!」
2日! まるっと!!
そう言えば、身体は!?
わたしは、慌てて右目と左足首を確認する。
目も足も包帯が巻かれていたけれど、ちゃんと復活しているみたいで感覚があってホッとする。
……でも、どうやって治したんじゃろ?
安心すると、途端に疑問が沸いてくる全身これ好奇心の塊。
「私は詳しくは存じ上げませんので、皆様にウロ様のお目覚めをお知らせして参ります。それまで、落ち着いてお待ちくださいませ」
わたしの様子に気づいたメイドさんは、わたしに白湯の入ったカップを差し出してくれた。
「あ、ありがとうございます」
カップを受け取り、ベッドの上に座り直してから白湯をゆっくりと口に含んだ。渇いた身体に、ぬるめの白湯が染みて行くのが解ってもう1度ホッとする。
わたしの様子を見て、メイドさんは腰を軽く落とす挨拶をしてから部屋を出て行った。
白湯を飲み干して、ベッド横のテーブルにカップを置きながら自分の中に意識を集中する。
名前 ウロ (状態異常:不安定な魂 残り13%)
職業 召喚士 Lv11/妖術師 Lv2
HP 39/42
MP 67/73
……うぬう。
何やら、謎のペナルティを受けているわたくし。やはし、急激な幽体離脱や魂そのものへのダメージは身体に悪かったと思われますがどうでしょう?
「……あれ?」
などと考えておりましたら、何故だか急に身体が震えだして。涙まで溢れて来てビビッた。
ああ、そうか。
わたし、怖かったんだ。
そりゃあ、片目と片足を失いかけたんだもん。
いくらここがゲームに良く似た世界で、魔法や不思議がどっさりだったとしても治らなかった可能性があった訳だし。
こう見えてワタクシ、か弱くってよ? たぶん。めいびい。
まあ、今さら感がハンパじゃないんですけれどね。てゆーか、それって今までもこれからもじゃね? などと。
……ぐぬぬ、更に怖い考えになりそうだったので思考停止。
それに、廊下から複数の足音が聞こえて来たてたりするし。
つーか、ヤバい。
涙で包帯がデロデロで、泣いてたのがバレる不具合ですよ。
慌てて、カップに白湯を注ぎ足しながらステンバーイ。
コンコンコンッ
優しいノック音が扉を揺らす。
間を置かずに、扉が開かれて嬉しい顔がなだれ込んで来た。
「キャッ!!」
わたしは、持っていたカップを勢い良く顔に跳ね上げる。勢いが良すぎて、頭から白湯をかぶる感じになったけれど。とりあえずは、泣き顔は回避出来たと思う。うひひ。
「ウロ君、ベッドの上で顔を洗うのはいかがなものかな?」
「そうですよ、ウロさん。泣いていた事を誤魔化すにしても、もう少し何かあったでしょう?」
「“キャッ”なんて、ウロさんカワイイ。普段は“ぬおっ”なのに」
おおうっ!!
矢継早に、アルバート、ニードルス、ジーナの順でわたしの計画を台無しにしてくれやがりましたよ。
恥ずかしさのあまり憤死しそうなわたしに、突然、ジーナが抱きついて来る。その目には、たっぷりの涙が溜められていた。
「良かった、ウロさん気がついて。あんな目にあったのに。本当に良かった!」
泣きながら呟くジーナに、わたしはどうして良いか解らなくなっちゃったよ。
てゆーか、“あんな目”ってどんな目!?
「ありがとう、ジーナちゃん。大丈夫だから泣かないで、ね?」
ジーナをギュッと抱きしめながら、その温もりに癒されてみる。ええ娘じゃ。
「気分はいかがですか、ウロさん?」
「まだ、頭が重いし足も少しだけ痛いけれど大丈夫だよ。ありがとう、ニードルスくん」
ニードルスの問いに、わたしは笑顔で答えた。……まあ、本当はもう少し寝たいのですがなあ。
「目が覚めたばかりで悪いのだが、至急、母に会って欲しい。どうやら、あまり時間が無いらしいのだ」
アルバートがそう言うと、廊下からカラカラと乾いた音が響いて来た。やって来たのは、木製の車椅子……と言うにはだいぶ不恰好な造りの何かだった。
「時間が無いって??」
「説明は、移動しながらしよう。行くぞ!」
「うえっ!? ちょっ、ギニャーッ!!」
イキオイに有無を言わさず、メイドさんたちの手によって車椅子に乗せられたわたしは、上から毛布をかけられた状態で廊下へと運び出された。ほぼ、出荷状態。しかも、寝巻きで。メイドさんは良いですけれどね。
「い、一体どう言う事なの??」
「アルバートの母君がおっしゃるには、急がないとユニコーンの長老殿が死んでしまうらしいのです」
ガタゴトと揺れる車椅子に舌を噛みそうになりながら質問するわたしに、ニードルスが丁寧に説明してくれた。
わたしが気を失った後、アルバートはラヴィニアさんの救出に無事成功。その後、眠らされていたローウェル伯爵夫妻を始め、屋敷の者全員の救出出来たらしい。
ヨランダは、ラヴィニアさんとの戦闘のどさくさで逃走。現在、捜索中なのだと言う。
一方、ラヴィニア救出のために自ら角を折ったユニコーンの長老様は、魔力を使い果たしてしまったせいで角は崩壊。それによって再び石化。リブンフォートの森にて、マディたち若いユニコーンの魔力でギリギリ生きてる状態らしかった。森に運び込んだ際、わたしの右目と左足も治してもらえたみたいだよ。
「角を失ったユニコーンに、生きる術は無いのだそうです。他のユニコーンによる延命では、長くは持たないのだとか。
アルバートの母君によると、長老殿を救う事ができるだけのはカーソン殿とウロさん、貴女なのだそうです」
「わ、わたし!?」
予想外のニードルスの言葉に、驚くと同時にイヤな予感が頭に浮かんで来た。
……おいおい。
また、幽体離脱しなきゃならないの!? 前回は、長老様のナビがあったから出来たけれど。自力でとか、無理じゃね? “レイスフォーム”って、高レベルネクロマンサーの呪文じゃなかったっけな? などと。
「すまんな、ウロ君。私たちも、訳が解らぬままなのだ。詳しい事は、母上本人から聞いてくれ」
ニードルスとは反対側を歩くアルバートが、前を見たまま呟いた。
「あ、あいあい」
アルバートに答えて、わたしは車椅子に身を任せる事にする。
それにしても、長くて白い廊下をガラガラと運ばれていると、車椅子じゃあなくって病院のストレッチャーに乗ってる気分になってきて危険。
やがて、わたしの乗ったストレ……車椅子は、アルバートの泊まっていた部屋へとやって来た。アルバートが、さっきと同じ様に扉をノックする。
「母上、ウロ君をお連れしました」
「お入りになってくださいな」
アルバートに答えて、可愛らしい声が扉越しに響く。
扉が開くと、中には数人のメイドさん達にベッドサイドに立つカーソン、その後ろに控えるエセルが。そして、ベッドの上から優しく微笑みかけてくるラヴィニアさんの姿があった。ローウェル伯爵夫妻の姿が見えなかったけれど、後で聞く所によると、ローウェル伯爵夫妻も無事だったが、老齢な伯爵夫妻は大事をとって別室にて休息中との事だった。
元の姿に戻ったラヴィニアさんは、物語から抜け出て来たみたいなお姫様の様だった。
アルバートと同じ金色の髪は、長く真っ直ぐに背中に伸びてベッドへと広がっているし、垂れた前髪の間から見える肌は陶器みたいに真っ白だった。また、アルバートのお母さんとは思えない程に若々しくって、わたしより年下なんじゃないか思ってしまうアリサマだった。……若いって素晴らしい。
てゆーか、人形病じゃなくっても肌、スベッスベだし。ホント、お姫様感ハンパないのですがどうでしょう?
カーソンの隣に移動するアルバート以外の者は、部屋に入るなり全員ラヴィニアさんに跪いた。
おおう。
思わず見とれていたけれど、大きめの車椅子に寝そべり中のわたし。頭に“不敬罪”の文字が浮かんで焦ってみたり。
「うふふ。畏まる必要はありません。皆、楽にしてください」
柔らかく、ラヴィニアさんがベッドの上から声をかけてくれた。それに従い、全員が立ち上がる。
わたしも、このまま車椅子の上での寝そべり対応はお腹が痛くなりそうだったのでヨロヨロと下へ降りて腰を落とす。
「ラヴィニア様、この様な格好をどうかお許しください」
「気にする事はありませんよ、ウロ。貴女を呼んだのは私なのですから。それに……」
わたしにそう声をかけたラヴィニアさんは、真っ直ぐな瞳でわたしを見据えた。
「この度は、我が子アルバートの願いに応じ私の命を救ってくれました事、皆に心より感謝します。
特にウロ、貴女は自らの命をも顧みずに人形病から私を解放してくれました。その働きに今一度、感謝します」
そう言って、深々と頭を下げるラヴィニアさん。
「そ、そんな、ラヴィニア様のご病気が治って本当に良かったですよ!!」
うひーっ。
改めて直球のお礼を言われると、何だろう、やたら照れる不思議。
ラヴィニアさんは、わたしの様子を微笑ましく眺めていたけれど、コホンと小さく咳払いをしてから口を開いた。
「……さて、ウロに問います。
貴女は私の中で、何かを見ましたね? どんな些細な事でも構いません。貴女の覚えている事を話してください」
何故に、ラヴィニアさんがその事を知っているのか疑問だったけれど。どうやら、ラヴィニアさんは自分の中で起こっていた出来事をおぼろ気にだけれど見えていたみたいだった。
説明を聞きつつ、ラヴィニアさんを見ていたけれど。笑顔なのに、さっきまでとは明らかに雰囲気の変わったラヴィニアさんにギョッとした。並んで立つアルバートやエセルは、より解りやすく厳しい表情になっているし。……何だか怖いよ。
「は、はい。えと……」
わたしは、ラヴィニアさんの中で見た物を有りのままに語った。
魂の宝石化や生命の精霊であるピンク色の少女。そして、腰まである金髪と紫色のドレスの女性の事。
「……その女性の顔を見ましたか?」
「えと、ハッキリとは見えませんでしたけれど、年の頃は40歳位だったと思います」
ラヴィニアさんの問いにわたしがそう答えると、ラヴィニアさんは笑顔を崩さなかったけれど、アルバートとエセルは明らかに表情がこわばった。
……てゆーか、アルバートくん、顔が怖過ぎだから。エセルはむしろ、表情が消えて氷みたいになってるし。
「解りました、ありがとうウロ。
それでは、もう1つ。今度は、私の友人を助けるのを手伝って欲しいのです!」
小さくため息を吐いたラヴィニアさんは、笑顔ではなく、少しだけ悲しそうな表情で言った。
「友人とは、ユニコーンの長老殿の事ですね。母上?」
「その通りです。
ウロ、カーソンも良く聞いてください。彼はアルバートの命だけでなく、約束を違えた私の命まで救ってくれました。彼は今、死の淵にあります。私たち母子を救ってくれた彼を、死なせる訳には行かないのです!」
アルバートに頷いたラヴィニアさんは、そう言って唇を噛んだ。
「ラヴィニア様、約束と言うのは一体?」
カーソンの質問に、目をふせたラヴィニアさんは、ゆっくりと話してくれた。
ローウェル伯爵家は、代々リブンフォートの森を守る役目を担っている。その中で、ローウェルの血を引く女性はユニコーンを育む巫女なのだと言う。
具体的には、ユニコーンには雌がいないため、ユニコーンの角に宿る魔力をローウェルの血を引く乙女が受け入れる事で新たなユニコーンが誕生するらしい。
「本来でしたなら、私が彼の魔力を受け入れるはずだったのです。ですが、約束を果たす事無く私は王家に嫁いでしまいました。
純潔を失った私に、ユニコーンの魔力を受け入れる事は出来ません。ですからカーソン、ローウェル家の乙女である貴女なのです。
もっと沢山の時間をかけて、ユニコーンと親しくなりつつ魔力を同調させるのが理想なのですが彼には時間がありません。いきなり、こんな大役を押し付ける事を許してくださいね?」
ラヴィニアさんは、そう言ってカーソンの手を握った。
カーソンは、少しだけ困惑した様な顔になっていたけれど、何かを決意したみたい大きく頷いた。
「解りました。私もローウェル家の娘です!」
カーソンの言葉に、ラヴィニアさんはニッコリと微笑んだ。
「良く言ってくれました。それでは、ウロ!」
「は、はい!?」
急に名前を呼ばれて普通にビビッた。
ラヴィニアさんは、脇に置いてあった箱の中から何かを取り出した。
「貴女には、これの修復をお願いします」
ラヴィニアさんか差し出した手の上には、真っ二つに割られた乳白色の物があった。親指の先程の大きさのそれは、一見すると何かの牙の様な感じだった。
「これは、彼の角の先端です。アルバートの命を助けてくれた際に、お守りとしてくれました。これを元に戻す手助けをして欲しいのです」
ラヴィニアさんの言う事には、ただ割っただけの角ならば修復は容易なのだけれど。これは、お守りとして使用するために呪いを施している上に魔力を大量に消費しているせいで、そう簡単には修復出来なくなっているらしかった。
「ウロ、貴女は召喚士だそうですね。精霊のか細い声を聞き、その姿を見る事の出来る貴女なら、角の修復も可能でしょう。
さあ、手に取ってください」
そう言うと、ラヴィニアさんはわたしに2つに割られた角を手渡した。
角は思ったよりもずっと軽くて、手触りは確かに骨の様だったけれど発泡スチロールみたいな頼りなさしかなかった。
わたしは、スウと息を吸うと目に魔力を集め始める。右目が少しだけ熱い様な感じはしたけれど、魔力は問題無く集まって来てくれて安心する。
魔力を通して見た角は、魔力がほとんど残っておらず生命の精霊たちも、いつだったか見た落ちた血の上で体育座りをしていた生命の精霊と同じ様に、ゲッソリとしてまるで元気が無い様子だった。
これ、どうしたら良いのじゃろう?
などと考えておりましたら、精霊たちは何事かを呟き始めた。
「……」
なんて?
耳を近づけたわたしは、不穏な言葉を聞く事になった。
「……けて。……こし、分けて」
あ、ヤバい!!
そう思うよりも速く、精霊たちはわたしの手にまとわりつく。同時に、わたしの手に激痛が走った。
「ギニャーッ!!」
無数の針で刺されたみたいな痛みに、思わず悲鳴を上げて仰け反った。飛び上がらんばかりに暴れたのに、角はわたしの手にピッタリと張り付いて離れない。
「ウロさん!?」
「ウロ君!?」
ニードルスやアルバート、みんなが騒然とする中、痛みは急速に無くなって行った。ジンジンする様なイヤな感覚の手の上では、さっきまであんなに軽かった角がズシリとした確かな重量へと変化していた。
見てみますと、ゲッソリでションボリ状態だった精霊たちは、全員、ツヤッツヤのプリップリになってやがりますやよコノヤロウ!!
「こ、これで大丈夫でしょうか?」
涙ボロボロ状態のわたしは、重くなった角をラヴィニアさんに返した。
「え、ええ、力も魔力も十分に戻っているわ。見事でしたウロ」
「あ、ありがとうございます」
ヨロヨロとへたり込むわたしを、ニードルスとアルバートが再び車椅子へと戻してくれた。
「大丈夫ですか、ウロさん!?」
「う、うん、大丈夫だよ」
……たぶんね。
ニードルスに応えつつ、わたしは自分の手を見詰める。少しだけ赤くなってる以外は、別に大丈夫そうだったけれど。
問題は、中身ですわなあ。
わたしは、自分の中に意識を集中する。
名前 ウロ (状態異常:不安定な魂 残り10%)
職業 召喚士 Lv11/妖術師 Lv2
HP 24/42
MP 32/73
ぬうぅ。
HPが15も削られている!! 救いは、肉体があるせいか最大値は変化していないって事だけれど。
ついでみたいに、MPも半分ほど削られてるしな。遠慮なんか微塵もしやがりませんね。精霊、恐ろしい子。
一方、ラヴィニアさんは角を両手で握り込んだまま祈る様な形で動かなくなった。
「母上!?」
「いけません、アルバート!」
手を伸ばしたアルバートを、わたしよりも速くニードルスが遮った。
アルバートには見えていないみたいだけれど、ラヴィニアさんの魔力のほとんどが角を握った両手に集まっている。それはもう、手だけが異常に発光して見えるほどに。
ヘタに動かしたら、ラヴィニアさんの身体に恐ろしく負担がかかったかも知れない。
ニードルスの行動で気づいたジーナも、カーソンの手を握って駆け寄ろうとするのを防いでいた。グッジョブよジーナちゃん!
やがて、ラヴィニアさんの両手から魔力が消えて掌が開かれると、ベッドの上には白く微妙に発光する美しい角の先端部分が転がっていた。
アルバートは、ニードルスの頷きを確認してからラヴィニアさんに駆け寄った。カーソンもまた、同じ様に駆け寄る。
「母上!」
「ラヴィニア様!」
アルバートに抱きかかえられながら顔を上げたラヴィニアさんは、額に汗を浮かべてかなり消耗しているみたいだったけれど。すぐに笑顔になって、ゆっくりと起き上がった。
「さあ、急いでリブンフォートの森へ参りましょう。一刻も早く角を返さなければ、彼にはもう、あまり時間が残されていないのです!」
そう言ったラヴィニアさんだったけれど、足に力が入らないみたいで立ち上がる事は出来なかった。
そんな訳で、わたしとラヴィニアさんは仲良く車椅子のお世話になりつつリブンフォートの森を目指してガタゴトと進むのでありました。
館の外で待っていたヘンニーとダムドは、わたしの姿を見て今にも吹き出しそうになっていたけれど。エセルの眼光に、肩越しに小さく震えているだけに留めていた。心の中で、“後で覚えてろよ”なんて思ってなんかいないんだからね! などと考えたりしましたさ。ぎゃふん。




