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第百二十話 繋がっているもの

 前回のあらすじ。


 “小さな少女”と言う言葉に底知れぬパワーを感じる。あるいは感じれ!


 再び、鎖を手繰(たぐ)るわたしはウロです。

 時間の感覚がだいぶおかしくなってるせいか、どれほど鎖を手繰っているのか解らなくなってたりします。

 残り少ない魔力は、全身をコーティングしてるだけで魔法を使っている訳ではないから消費は極々(ごくごく)少なかったりするのですが、それでもじょじょに削られて行く様は怖くて仕方がないと言えよう。


 などと考えておりましたら、いつの間にか(なな)めってた鎖が水平になっててビビッた。

 水の中とも違う浮力と抵抗をほとんど感じない空間は真っ暗で、身体の下を走る鎖だけが金色に光る世界は、なんて言うか、SFホラー映画に出て来る宇宙船の通路を移動しているみたいな気分になる。……宇宙船、乗った事なんて無いけれど。鎖がマーカー的な?


「ぬ!?」


 思わず、女子らしからぬ声が出たけれど誰もいないからセーフ。いや、そうじゃなくって。


 ご存知の通り、前も後ろも見渡す限りずっと真っ暗闇。光源と言えば、わたしの手繰っている金色の鎖だけだったりします。

 その金色の光も、わたしの前後1メートルも離れれば暗闇の中に消えてしまっていて、ともすれば、わたしの足先も暗闇にかすむイキオイなのだけれど。


 今、わたしの握っている鎖は、そのすぐ(こぶし)1個分位先から暗闇の中に溶ける様に消えてしまっている。


 恐る恐る手を伸ばしてみますと、当たり前の様に手は暗闇に飲まれてしまうし、鎖は暗闇に入ってすぐの所で無くなってしまっていた。


 どうして鎖が張ったままでいられるのか? 何てコトは、愚問(ぐもん)なので考えてはいけません。

 つまりは、行き止まりって訳ですわなあ。


 チラリ振り返ってみても、後ろは数メートル程で暗闇だし。前はアレだし。

 思い返してみても、途中に分岐点なんてなかったし。てゆーか、戻って何かを探す魔力的な余裕なんて無い!


 となれば、選択肢は1つしかありません。

 どこかの海賊船の船長さんが「女は度胸!」って言ってた気がするし。い、行くぞ!!


 鎖を握る手に力を溜めながら、両腕を伸ばして身体をグッと引き(ちぢ)こまる。何度かの小さな呼吸の後、わたしはその力を一気に解放した。


「とう!!」


 かけ声と同時に、引き絞った矢みたいにわたしは暗闇に向かって飛び出した。


「うなっ!?」


 飛び出した途端、わたしの身体は奇妙な抵抗感に包まれた。

 何て言うか、しぼみかけのゴム風船みたいな? 息は出来るのだけれど、思う様に身動きが出来ない張り付く様なブヨブヨ感。


 絶対にヤバイ!!

 かなりの危機感!!


 パニックで、考えが浮かばない。大後悔時代を予感した瞬間、わたしは腕が熱くなっているのを感じた。


 それが何かなんて事を考える間も無く、周囲のまとわり付く様な感覚が堅く冷たい物へと変化した。


「な、何コレ!?」


 追いつかない思考をよそに、今度は、ガラスの割れる様な音が響く。同時に(まばゆ)い光が視界を真っ白に変えていった。


「うわっ!?」


 突然、わたしの身体は堅い場所に投げ出された。それが地面だと気づくのに数秒か、もっとかかったかも知れない。

 わたしの目に飛び込んで来たのは、胸の辺りが砕けたガラスみたいにバラバラになりつつ驚愕の表情を浮かべたピンク色の少女の姿だった。


 ピンク色の少女(大きい方)がいて、そのすぐ後ろには紅い宝石みたいな物がある。最初に見た時よりも、だいぶ黒い色に包まれてるけれど。


 ……ここって。て事は!?


 第1段階の脱出、成功!? たぶんだけれど。


 わたしの思考が戻り始めたのと同じ様に、ピンク色の少女もまた状況を理解し始めたみたいだった。

 ピンク色の少女は、その顔をみるみる怒りに染めて行く。


「お前、どうやって出て来た!?」


 バラバラに飛び散った身体の一部が、逆再生の映像みたいにあるべき場所に戻って行く。

 あっと言う間に回復した少女は、口元を歪ませてニヤリと笑った。


 ヤバイ、突進が来る!!


 少女に捕まれば、また中に取り込まれてしまう。そうなったら、魔力の枯渇(こかつ)してる今のわたしにはなす(すべ)が無い。


 身を(ひるがえ)して、距離を取ろうとするわたしだったのだけれど。跳んで距離を取るどころか、踏み出そうとした矢先にバランスを崩してその場に倒れ込んだ。


「そうだ、足が!!」


 忘れていたのだけれど、わたしの左足は足首から先が少女に奪われていて無くなっていたのでした。

 そう言えば、右目も奪われっぱなしだったっけ。右目は、黒いノイズ以外見えないだけであの女性は映り込んではいないみたいだった。


 なんて悠長(ゆうちょう)に考えている場合じゃあないよ!


 残った左目で、身体の下から覗き込む様に後ろを(うかが)う。そこには、低い体勢でこちらに突っ込んでくる少女の姿があった。


 間一髪、身をよじって少女の突進をかわしたけれど。少女は、既に反転して身体を低く沈ませている。


「……ロ、聞……るかウロ!!」


 突然、わたしの頭の中に心地好(ここちよ)いバリトンボイスが響いた。


「ちょ、長老様!?」


 それは、ユニコーンの長老様の声だった。

 こんな時なのに、長老様の声に泣きそうになったし。いや、そんな場合じゃない!!


「ウロ、今までどうして……」


「話は後! 今すぐわたしを戻してください!!」


 長老様の言葉を(さえぎ)って、わたしは力一杯に叫んだ。


「無駄よ、逃がさないわ」


 ゾッとする様な少女の声が、わたしの真後ろから響いた。


「ギャッ!!」


 驚いて振り向こうとしたわたしは、バランスを崩して仰向けにひっくり返った。間髪を入れず、わたしを見下ろす様に少女の歪んだ笑顔が迫って来る。

 狂気に囚われた少女の顔は、右目のノイズと(あい)まってやたらと不気味に見えた。


「今度こそ、全てを飲み込んであげるわ」


 口の端を吊り上げて、少女がわたしの上に馬乗りになった。

 それと同時に、わたしの身体が引っ張られるのを感じた。


「……うぬぬ!?

 ウロ、其方(そなた)もしや、生命の精霊に捕まっておるのか!? いかん、何としても振りほどくのじゃ。儂の魔力と命そのものに近い精霊とでは、まるで勝負にならぬぞ!!」


 そ、そんな事言われても、どうしたら良いの??


 振りほどこうにも、少女に足で身体をガッチリ押さえられてしまって全く動く事が出来ない。


 ジタバタと暴れるわたしの腕を、少女が恐ろしい力で掴んで来た。


「まずは腕から……!?」


 そう言った少女だったけれど、すぐに笑顔が崩れて困惑の表情に変わった。

 同時に、掴まれたわたしの腕がさっきみたいに熱くなり始める。


「うぐっ!!」


 悲鳴を上げて、少女がわたしから飛び退いた。

 慌てて起き上がったわたしは、自分の腕に小さな“手の痕”が浮かび上がっているのに気がついた。


 これって、“小さい方の少女”に掴まれた場所!?

 わたしの腕に残った小さな手の痕は、やけどしそうな程の熱を帯びているのに優しい光を放っていた。


「くっ、あの死に損ない!」


 眩しそうに顔をしかめながら、ピンク色の少女が吐き捨てた。


 い、今しか無い!!


 わたしがそう思うのと同時に、わたしの身体はスゴい力で引っ張られるのを感じた。


 景色が引き伸ばされたみたいになって、耳が雑音に埋もれて行く。


「待て! ……!!」


 ピンク色の少女が何事か叫んでいたけれど、耳に溢れる雑音と前後不覚に陥る様な奇妙な感覚の方が強くって聞き取る事は出来なかった。


「……ロさん、ウロさん!!」


 震える様な女の子の声が、わたしの耳にぼんやりと聞こえた。小刻みに振動が、わたしを揺すっているみたいだけれど。


「目を覚ませ、ウロ!!」


 頭の中に、巨大なバリトンボイスが轟いた。


「ふはっ!?」


「気がついた、ウロさん!」


 ビックリして飛び起きたわたしを、涙で目を(うる)ませたカーソンが見詰めていた。


 薄暗くて、ムッとする様な熱気の立ち込める場所。ぼんやりとした頭が、急速に覚醒して行く。


「戻ったな、ウロ!」


「長老さ……うぅ!?」


 長老様の声に振り向こうとしたわたしは、激しい痛みに息が詰まった。

 思わず顔をおおったわたしの手に、ザラリとした不快な感触が走る。


 右目が無い!?


 残った左目に映ったのは、(てのひら)に付いた黒い消し炭みたいな汚れ。

 慌てて確認した左足は、足首から先が焼け焦げて崩れてしまったみたいになっていた。


「そんな……ぐうぅ……」


 痛みと恐怖に、押し潰されそうになる。


 さっきまでは、全然平気だったのに。

 今のわたしは、痛みと恐怖に混乱して何も思いつかない!!


「乙女よ、落ち着くのじゃ!」


 わたしの頭の中に、長老様の声が響いた。


 長老様の角が、わたしの背中に優しく触れているらしい。それに気づくと同時に、怖くて張り裂けそうだった心が緩やかにほぐれて行くのが解ったし、痛みもかなり和らいだみたいだった。


「ウロ、其方の傷は必ず癒そう。その前にラヴィニアを救ってやってくれ!」


「うう、解りました……長老様」


 とは言え、痛みで左目からボロボロと涙が溢れてくるし、きっとひどい顔なんだろうなあ。などと、やけに冷静に考えてみたり。もちろん、そんな場合じゃあないね。


 涙で(にじ)む目を、無理矢理に見開いて(にら)む様にラヴィニアさんを見詰めた。


 ラヴィニアさんとアルバートの間に、微かにだけれど金色に輝く細い糸の様な物が見えた。


「長老様、ラヴィニアさんとアルバートくんを繋いでる物がラヴィニアさんの生命の精霊にダメージを与えているの。あの糸みたいな物がそれです!!」


 正確には、それを通して攻撃されてるって事なのですが。大体あってるのでOK!


「……あれは!?」


 わたしの言葉に、長老様が少しだけ息を飲んだ様に思えたけれど。


「良いか、ウロ。

 あの糸は“命の鎖”じゃ。ラヴィニアが我が子を守らんとする想いで出来ておる。あれを断ち切らねばならぬが、そう簡単では無い。

 この剣で、あの鎖を断ち切るのじゃ!」


 そう言った長老様は、首を高く伸ばして目を閉じた。長老様の魔力が、全身から角に集まって変形して行くのが解った。


 カランッ


 乾いた音を立てて、長老の額から角が落ちる。角はもう、角の形をしてはいなかった。


 光輝く中に見える姿は、柄の無い日本刀の様に少しだけ反って、長さ的には小太刀を思わせる剣だった。


「長老様!?」


「……さあ、その剣ならばあの鎖を断つ事が出来る。しかし、忘れるな。乙女以外が触れると、たちまち力を失ってしまう。ラヴィニアを頼むぞ、ウロ……」


 どおっと音を立てて、長老様が崩れる様にうずくまった。瞳からは光が消えて、その美しかった身体は見る影も無い程にボロボロだったけれど。まだ、ギリギリ生きてる。


「あ、あいあい、長老様!」


 わたしは、長老様の角剣(かくけん?)に手を……伸ばそうとして、そのまま倒れ混んでしまった。


 う、動けない!?


 どうやら、魔力の使い過ぎや痛み等でわたしの身体はとっくに限界だったみたいだよ。


 ……これ、かなりヤバくね!?

 そう思った矢先、わたしの目の端を移動する影が映った。


「じ、ジーナちゃん!」


「ウロさん、あたしに指示してください!」


 そう言ったジーナは、角剣を掴んだ。けど。


「お、重い!?」


 何と言う事でしょう。

 長老様の角剣は、ジーナには重くて持ち上げるだけで精一杯な不具合です。


 一方で、アルバートたちも限界が近いらしく、もはや(うめ)き声しか聞こえては来ない。


 その時、やおら立ち上がる影がもう1つあった。


 それは、カーソンだった。


 涙を流しながら、震える足に力を込めて立ち上がったカーソンは、ジーナに駆け寄ると角剣を抱え上げる。


 何とか持ち上がった角剣を、ジーナとカーソンが見詰め合いながらゆっくりと運んで行く。


 ああ、こう言うのを(とうと)いとか言うのな?


「……ウロさん、場所を!!」


「あ、ごめんなさい!」


 うっかり、2人の姿に見とれてました。


「ジーナちゃん、カーソンさん。アルバートくんとラヴィニアさんの間に鎖があるの。それを斬って!」


「鎖!?」


「そんな物、見えないよウロさん??」


 ……やっぱり、2人には見えてない。


 えと、アルバートくんの胸の……あれ?


 ヤバイ、声が出ない!

 2人がボヤける!?


 本当に限界らしく、声はもちろん目も霞み始めてるし。


 絶望が、忘れていた恐怖を呼び覚ましそうになる。だけれど、そうはならなかった。


「ここだ、ジーナくん、カーソン!」


 アルバートが、自分の懐から何かを取り出した。ボヤけたわたしの目には、ちゃんとは見えなかったけれど。光る鎖が繋がっているのは解った。


「カーソンさん!」


「ジーナさん!」


 2人は、鎖に飛び込む様に身体ごと角剣と共に倒れ込んだ。


 パキンッ


 瞬間、部屋全体に光が飛び散った様に思えた。

 同時に、ヘンニーやダムド、エセルやストーンゴーレムちゃんが弾き飛ばされる。ニードルスは無事。


 遠くにいたわたしも、その衝撃で意識を失ったらしい。


 最後に目に映ったのは、陶器の様な殻が花びらみたいに散る中で、倒れた込む美しい女性と、それを優しく抱きかかえるアルバートの姿と言う映画の1シーンみたいな光景でありましたさ。

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