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第百十九話 光を目指して

大変、お待たせいたしました。1年以上ぶりの更新です。

 前回のあらすじ。


 金色鎖と桃色少女。……なんとなくジワる。


「見つけた」


 わたしの口を、言葉が自然とついて出た。


 見えない壁と黒い砂の様な何かに閉じ込められて、自分の指先すらも解らない位に真っ暗な中。わたしの目に、金色に輝く物が飛び込んで来た。

 導かれるって言うか、それこそ、虫並みの走光性(そうこうせい)で光に向かって泳いだりしたのですが。


 光っていたのは、金色の鎖だった。

 顔も映りそうな程ピカピカな鎖は、光源(こうげん)も無いのに(まぶ)しい位に輝いたりそうでもなかったりしていた。


 鎖の先は、同じ金色の球体……じゃなくって、鎖でぐるぐる巻きにされたピンク色の女の子だった。


 姿形(すがたかたち)はどうみても生命の精霊なのだけれど、大きさが(てのひら)サイズだったり。


 あらやだ、カワイイ!! ……じゃなくって。


 きっと、彼女こそが生命の精霊そのものなんじゃないだろうか!?


 根拠(こんきょ)なんて無いけれど、直感的にそう思ったんだからしかたないと言えよう。


 “小さな”ピンク色の少女は、眠っているみたいに目を閉じて横になっていたけれど。

 わたしの声に反応して、ほんの少しだけ目を開いて見せた。


「……」


 少女は最初、(うつ)ろな目でわたしを見詰めていた。その目に、少しだけ光が戻った様に見えた直後、口をパクパクさせて何かを呟いた。


「何!? 何て言ったの?」


 わたしが慌てて近寄ると、少女はスウと息を吸い込んだ。


「助……けて」


 消え入りそうな声の少女は、空気が抜けるみたいにため息を吐いてから再び目を閉じてしまう。


「た、助ける? どうしたら良いの?」


 突然の救出要請に、やや動揺する。

 少女は、わたしの言葉を受けて深く息を吸い込んでから目を開いた。


「……鎖を外して。重くて動けないの」


「く、鎖だね。了解!」


 わたしは、コクンとうなずいてから少女の(かたわ)らにしゃがみ込んだ。

 まずはこの、ぐるぐる巻きをほどかなきゃですよ。……って、(おも)っ!?


 金色の鎖は、わたしの予想に反して異常な程に重かった。

 見た目には、ウォレットチェーン並に細くってオモチャみたいにピカピカで。チープ感満載なのに。


「うぎぎっ」


 何とか(かか)え上げて、少しずつ鎖をほどいて行く。いくらぐるぐる巻きだからって、衰弱(すいじゃく)してる少女をゴロゴロ転がす訳にも行きますまい!?


 悪戦苦闘(あくせんくとう)(すえ)、鎖の中から少女の身体が見えた。やっぱり、ピンク色の少女をそのままサイズダウンした感じだよ。


「……よいしょっ。って、うえっ!?」


 ようやく鎖をほどいたわたしは、驚きのあまり変な声が出た。


 どう見ても、鎖の先端(せんたん)が少女のお腹の中へと入り込んでいる!?

 だけれど、めり込んでいるにしてはかなり自然に。まるで、最初からそうだったみたいに思えた。


 ……これ、どうしたら良いんだろ??


 この鎖って、どう考えても普通の鎖じゃあないよね!?

 極めて魔法的。それでいて、恐ろしく存在感があるし。


 引き抜く? てゆーか、引き抜けるの!?

 抜くにしたって、こんな自然に生えてるみたいな鎖を抜いて大丈夫なの?? 何か出ちゃわない?? デロンって。

 それはさすがにイロイロ怖いし、か弱いわたしの腕力では、引きちぎるなんて論外。残り少ないMPでは、魔剣『カールスナウト』を()んで切断する事も出来やしない。……そもそも、斬れるかどうかも解らないのですがなあ。


 数秒、あるいは十数秒位かな? 時間の感覚なんか、全然無いのだけれど。

 不意に、何かが聞こえた様な気がして我に帰った。


 聞こえていたのは、少女の声だった。

 雑音なんて全く感じないこの場所で、まるで蚊の鳴く様な声量(せいりょう)に少しだけ驚く。もしかしたら、わたしが思っている以上に弱りきってるかも知れないと反省してみたり。


「ご、ごめん。大丈夫!?」


 注意深く少女を抱き上げて、彼女の声に耳をそばだてる。途切れ途切れにだけれど、何とか少女の声を聞き取る事が出来た。


「……こし、ちから……けて」


 ん? 今、何て??


 わたしが理解するよりも早く、少女がそっとわたしの腕に触れた。ホッとする様な暖かさがじんわりと伝わって来る。……とか思った瞬間。


「ギャッ!?」


 少女の手が、ギョッとする程に冷たくなった。

 冷たいと言うよりもむしろ、痛いに近い感覚に悲鳴をあげて少女を突き飛ばしてしまう。


「あ、ご、ごめんなさ……い??」


 ハッとして視線を下に向けたけれど、そこに少女の姿は無かった。

 一瞬だけさ迷うわたしの視界上部に、ボンヤリと光る何かが(うつ)り込んだ。


「ありがとう、おかげで助かったわ」


 座り込んだわたしの頭上に、少女がフワリ浮かんでいる。さっきまでの弱々しい姿じゃあなくって、わたしに襲いかかって来たあの少女と(たたず)まいがソックリでビビる。……かなり小さいけれど。お腹から鎖生えてるし。


「ちょっ、何を……アレ!?」


 そう言いながら立ち上がろうとしたわたしは、急な目眩(めまい)でその場にへたり込んだ。


 な、何これ? てゆーか、さっきの痛みは!?


「少し力を貰ったのよ。貴女(あなた)、変わった魂をしてるのね?」


 疑問と目眩に混乱するわたしの頭の上から、少女の(やわ)らかな声が聞こえた。


 力? 魂??

 い、イヤな予感がする。


 不安に薄ら寒くなったわたしは、自分の中へと意識を向ける。



 名前 ウロ 状態:幽体離脱(ゆうたいりだつ)


 職業 召喚士 Lv11/ 妖術師 Lv2


 HP 21/37(42)

 MP 8/73




 うおう。

 最大HPが、5ポイント減ってる!?


 普通のHP値じゃなくって、最大値から減るとか。ナニソレ怖い!!


 ……あ。

 もしかして、今のわたしが魂だけで肉体が無いから? お、恐るべしダイレクトアタック!!


 その時のわたしがどんな顔をしていたのかは解らないけれど、少女は、しゃがんだわたし目の高さまでゆっくりと降りて来ると、暖かく微笑(ほほえ)んで見せた。


「そんな顔しないで? 貴女のおかげで動ける様になったのよ!?」


 お、おおう。

 笑顔が、冗談じゃあなく本当に暖かくてビビる。それに、そう真っ直ぐにお礼を言われらると文句も言いづらいのですがどうでしょう。


「あの……」


「ところで、貴女は誰? どこかで会った事がある様な気がするけど……。

 ここは、ラヴィニアの魂のある(ところ)。こんな場所で何をしているの?」


 わたしの言葉に被せる様に、少女が口を開いた。


 会ってます。会ってますとも。それはもう、全身を取り込まれる程に。

 てゆーか、HPを吸い取ってから聞く事? などと。

 とは言え、ヘタに逆なでして怒らせるのも怖いので正直に答えてみるテスト。


「わ、わたしはウロです。

 人形病にかかったラヴィニアさんを助ける為に来ました」


「ニンギョウビョウ?

 何を言っているのか解らないけど、どうやってここまで来たの??」


 少女が、より小さな首を傾げて見せる。


「えと、ここへはユニコーンの長老様のお力で……」


 わたしがそう言った瞬間、少女が目をカッと見開いた。


「……ユニコーン。そう、ユニコーン。

 ウロ、お願い。この鎖を外して!」


「ちょっ、ちょっと待って! 落ち着いて説明して?」


 興奮気味に、お腹をグイッと突出す少女の姿にだいぶ面食らってみたり。

 それに対して、少女は心底不思議そうな表情を浮かべる。


「貴女は、ユニコーンの呪いからラヴィニアを解放する為に来たんじゃないの!?」


「呪い!? 呪いって、どゆこと??」


 わたしの問いに、少女は突出したお腹をニュッと引っ込めた。


「良く聞いて、ウロ。

 ラヴィニアは今、ユニコーンの呪いによって受けなくても良い痛みを受け続けているの。そのせいで、私は2人に別れてしまった。呪いの痛みで、もう1人の私の力が強くなってしまっているの。

 このままでは、ラヴィニアの魂が耐えられなくなってしまうわ。そうなったら、ラヴィニアの魂はその形を保てなくなってしまうのよ!」


 そう言って、少女は肩をブルブルと震わせた。


 ……おいおい、穏やかじゃあないよ!?


 “受けなくて良い痛み”って、さっき見た“黒い影みたいな矢”の事だと思う。

 そして、魂の形が保てなくなるって言うのは、もしかしなくっても魔石化の事だよね。


 ……いやいや、待って待って。

 ラヴィニアさんは、呪術(じゅじゅつ)的な攻撃からアルバートを守ろうとして身代わりになっていた。

 その方法は、ユニコーンの長老様から貰った角の欠片を半分こするって事だったのだけれど。たぶん、予想外に敵の攻撃が厳しくってラヴィニアさんが耐えられなくなってしまった。

 もう既に限界なのだけれど、ユニコーンの角でつながっているから攻撃は受け続けてしまうし自分ではどうにも出来なくなっちゃってる。


 つまりこれが、少女の言う“ユニコーンの呪い”って事に違いありますまい。


 結果として、やさぐれた生命の精霊は2人に分裂しちゃうし。しかも、免疫力の過剰反応みたいになっちゃってる不具合ですよ。


 呪いを解くには、ラヴィニアさんとアルバートの持ってる角の繋がりを断てば良いと思われる。それ即ち、2人の持ってる角の内、どちらかをどうにかすれば良いって事だと思う。たぶん。めいびぃ。

 それにはまず、ここから出なくてはなりません。


 ……でも、どやってここを出たら良いのかしら??


「話は解ったけれど、どうやってここから出れば良いの?」


「これ、これをたどって!」


 わたしの問いに、少女はもう1度お腹をグイッと突き出した。


「この鎖をたどって行けば、外との境目に着くはずよ。私はここから動く事は出来ないけど、外から来た貴女ならきっと出られるわ!」


 なるほど、少女のお腹から生えている鎖はぼんやりと光ながら斜め上方向にずっと伸びている。その先は、黒い物に飲み込まれてしまっていて全く見る事は出来ないけれど。

 また、少女は鎖の重さであまり上には行けないみたいで、少しでも鎖が(たる)むと重そうに表情をくもらせている。


 あんな物に、全身をぐるぐる巻きにされていたのかと思うとだいぶヤバい。そりゃあ、衰弱もしますわなあ。などと。


「解った。わたしが必ず呪いを解く。約束するよ!」


 わたしの言葉に、少女はニッコリと暖かい微笑みをみせてくれた。


「外では、きっともう1人の私が邪魔するわ。絶対に捕まらないで!!」


 少女の声を受けて、わたしはグッと親指を立てて見せてから暗闇へと伸びる鎖をたどって泳ぎ始めた。


 黒い砂の様な何かは、水よりも軽くて泳ぐ抵抗がかなり少ない。……まあ、伸びた鎖を伝ってるだけなのですが。

 あと、不思議と目や口の中に入って来ている感じは無かった。息、出来てるしね。魂だけれど。

 ふと、下を(のぞ)けばそこは真っ暗で、手元の鎖が輝いている以外に光は無い。その鎖も、常に明るく光っている訳じゃあない。時折、やたら眩しく光る以外はボンヤリと光ってるだけで心許(こころもと)ない。

 自分の(ひざ)から下が見えない程で、いつだったか見た夜の海を思い起こさせる様な怖さが込み上げて来る。


 てゆーか、ここって、こんなに深かいの??


 距離感がつかめないからアレだけれど、もう、ゆうに100回以上は鎖を手繰(たぐ)っている気がする。なのに、全然壁に当たらないし。これを不具合と言わずなんと……。


 ゴンッ


「ギャッ!?」


 あ、頭が何かにぶち当たったよ!


 痛いのをこらえつつ、鎖にまたがる様に足で固定しながら手を伸ばしてみる。


 ペタッ


 おお、壁だ。

 いつの間にか、見えない壁にたどり着いてたし。

 内心、喜びつつも混乱する頭を振って、改めて壁に触ってみる。


 ペタペタ


 ……う、うむ。

 確かに壁だけれど、でも、何で真っ暗なんだろう?

 中は黒い何かで暗くなってるのは解るけれど、外が見えないのはなんでなんだぜ??


 壁に(ひたい)をくっつけて外を確認したけれど、真っ暗で何も見えやしなかった。


 一瞬、外も真っ暗な闇世界を想像しそうになったので思考中断。それに、ここってば壁の中以前にピンク色の少女の中だった事を思い出したのは内緒だからセーフ。


 とにかく、鎖は外へと続いているみたいだし、外へ出る手段を探さなくちゃだわよ。


 壁に触れて解ったのだけれど、感触は石じゃあなくってガラス。……と言うより、水族館なんかにある分厚いアクリル的な感じがした。当然、わたしに叩き割るなんて事は出来そうにない。


 そもそも、鎖はどうなってるんだろ?


 鎖と壁を確認しますと、鎖は、壁の中へと入り込んでしまっている。

 そして、鎖を中心に壁に水面みたいな波紋が起こってるのが解った。


 ……波紋、だと!?


 壁はアクリル的な感じで固いのに。そこに、円上に波紋が広がってると言う不思議現象。

 また、波紋部分は触れると本当の水面みたいに手が少しだけ沈んだけれど、すぐに押し出される様に戻されてしまった。


 これ、もしかしてイケるんじゃね!?


 鎖を揺らしたりして、より大きな波紋が出来れば、わたし自身が鎖みたいに波紋の中に入って行ける可能性です。


 その為に、まずは大きな波紋を!


 そう思って、またがっていた鎖を力一杯に()すってみたのだけれど。


「う、動かない!?」


 なんと言うことでしょう。

 鎖は、わたしがどんなに揺すっても微動だにしない!

 いくら重いからといっても、ななめに伸びている鎖が全く動かないなんて事があるだろうかありました。


 むう、振動で波紋が起きてる訳ではないみたいだけれど。

 だとしたら、この波紋はどうやって出来てるんだろう?


 その答えは、すぐに判明した。


 意外、それは光!


 鎖が強く光る度に、それに(こた)えるみたいに波紋が起こっていた。

 鎖の光り方によって出来る波紋の大きさも数も違ってるみたいで、より眩しい光な程、波紋は大きく広がって、光る時間が長い程、出来る波紋の数も増えるみたいだった。


 つまり、なるべく強くて長く光っていれば、その分だけ大きな波紋がたくさん起こり続ける。……かも知れない感じ?


 ならば、ずっと光ってる状態にすれば良いと言うもの。

 わたしは、軽く目を閉じながら自分の指先に魔力を集中する。


「気に散る光の子ら 今一度これに集え 『灯り』!」


 生活魔法『灯り』。

 松明やランタンなんかより、ずっと明るいし、使用魔力もほんの少しなので今のわたしにも負担が少ない優れものですよ。これを、わたし自身にかけてしまえば、波紋どころかトンネルが出来ちゃうんじゃね!? などと。ぐふふっ。……て、アレ??


 いつまで待っても、まぶた越しの視界に光が感じられない。そもそも、わたしの指先から魔力が消えてないし。


 恐る恐る目を開けて見ても、広がっているのは薄ボンヤリとした鎖の光しかない暗闇の世界。


 なんで??

 なんで魔法が発動してないの??


 これって、ピンク色の少女の魔法封じが効いちゃってるとか!?


 あ、でも、それならばレプスくんを召喚しようとした時みたいに、魔力は消費されちゃうハズだから違うかなあ。


 ……むう、もしかして!?


 指先の魔力を身体に戻しながら、わたしはもう1度、目を閉じて深呼吸をしてから、ゆっくりと目を開いた。


「やっぱり」


 わたしの目に映る鎖は、薄く光ったり眩しく輝いたりしているのだけれど。


『光の精霊』が1体も見当たらないよ!!


 ゲームだった頃、特定の精霊が存在しない場所はいくつもあった。そこでは、存在しない精霊に関係する魔法が使えなかったりした。


 例えば、水中で火属性の魔法が使えなかったり、土の見えない人口建造物の中で土属性の魔法が使えなかったりする感じ。さらに、ギミックとして特定の精霊が打ち消される仕様だったり。

 攻略は大変だけれど、そう言ったダンジョンにはフレーバー的に物語があって楽しかったけれどね。


 これを回避するために、精霊力の込められた精霊石や素材アイテムを持ち込んだりしてたっけ。


 精霊石は、名前の通り何かの精霊が封じられている石で、誰か1人が持っているだけでパーティ全員に封じられている精霊の効果が現れる素敵アイテム。ただし、レア物だからなかなか手に入らないし、売っていてもやたら高額だった。

 素材アイテムは、本来は合成などに使う消耗品。

 火なら火打ち石、水なら水の入った水袋、風なら鳥の羽根や笛、土なら石コロや腐葉土(ふようど)などなど。

 これらは、アイテム欄にチェックさえ入れておけば魔法を使う度に勝手に消費してくれる。けれど、素材によって魔法効果に差が出てしまう恐怖付き。

 より良い物の方が効果が高くって長持ちするけど、物によってはマイナス効果もある。だから、もしもの時の“御守(おまも)り”代わりって感じだった思い出です。


 この世界が同じかどうかは解らないけれど、少なくとも、ここに光の精霊はいない! てゆーか、こんなに暗いのに闇の精霊もいないし。


 ……ここが、ダンジョンなんかじゃあなくってラヴィニアさんの中だったりするからなのかな? なんて事も考えたけれど真実は解りません。

 解った事は、鎖の光が純粋な“魔力”であるって事だった。


 わたしはもう1度、手に魔力を集めてからゆっくり壁に触れてみた。


 ブワッ


 その瞬間、壁がわたしの手を避けるみたいに波立った。まるで、ストローで水面に息を吹きかけた時みたいな感じだよ。


 これだ!!

 同じ様に、全身を魔力で包めばイケるかも知れない!!


 ……問題は、脱出まで魔力がもつかどうかなのだけれど。


 そんな事を考えながら、わたしは自分の中に意識を向ける。




 名前 ウロ(幽体離脱状態)


 職業 召喚士 Lv11/ 妖術師 Lv2


 HP 21/37(42)

 MP 8/73




 ぬう、魔力の残りが8ポイントしか無い。


 魔力を巡回させたり1ヵ所に集めたりするだけならば、よほど長時間でなければ消耗はほんの少しで済む。だけれど、“魔力で全身コーティング”はやった事がなくって普通に怖い。


 でも、他にアイディアは無いし考えも浮かばなければ時間も無い。つまりやるしかない!


 目を閉じて、1度だけ深呼吸したわたしは魔力を全身に巡らせる。

 全身に魔力が巡るのを確認したら、それが(ふく)らんで、わたしを包む様なイメージでコントロール。


「……こんな感じ?」


 目を開けたわたしの周りには、卵みたいにわたしを包む魔力が広がっている。ちょっとウネッてるけれどな。


 良し、行くぞ!


 鎖に触れると、磁石の同じ極を合わせた時みたいな弱い反発を感じた。それを、無理矢理にギュッと握り込んむ。


 途中で魔力のコントロールが乱れたら?

 それよりも、そもそも途中で魔力が切れたら??


 不安が頭の中に次々と浮かんで来るけれど、それをブンブンと振り払ったわたしは、トンネル状に広がった波紋の中へと飛び込んだのでありましたさ。

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