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第十一話 王都ハイリア

 次に気がついた時、辺りは真っ暗になってました。お腹が空いた。あ、ウロです。


 いつの間にか眠っていたらしく、何やら身体が軽いです。


 ……いや、軽い!

 この上なく絶好調ですよ!?


 もしや!?

 とか思ってステータスを見てみますと、


 名前 ウロ


 種族 人間 女

 職業 召喚士 Lv2


 うぉおおおお!!

 キター!!


 レベル上がってるー!!


 ヒャッホーッとばかりに踊ります。

 だって、こんな時に踊らなきゃ嘘でしょ?


 そんな感じに、魂の思うままにひとしきり踊っていたら、トレビスさんが駆け込んで来て、スッゴく怒られました。


 馬車が揺れてて、野盗だと思ったんだって。

 夜間の、商人の馬車で踊っちゃダメ! 絶対!!


 馬車はすでに森を抜けて、いわゆる『街道』に入っていました。


 どうやら、さっきまでの林道は村までの『私道』みたいな物だったらしい。


 開けた街道には、国から派遣された騎士団が往来してたりするので安心・安全です。……ちゃんと働いてくれていればね。


 私道は、護衛範囲の中には含まれない。ってゆーか、収税人などの役人以外は通らないのかも?


 故に、あのアリサマだったのですがなあ。


 さて、本来ならとっくに王都に着いてるハズなんだけれど、わたしやブレッドと言う怪我人が乗ってる以上はスピードが出せない不具合だった様で。


 おお! なんと言うホワイト企業ティモシー商会。


 ありがたいことです。


 見ると、わたしたちの馬車以外も何台か見えたり。


 自発的サービスエリアみたいな感じなのかしら? などと。コーヒーとホットサンド食べたいな。無いけれど。


 あとで聞きましたら、ああ言う場もまた、交易やら情報交換のチャンスなんだとか。


 ふ~ん、ゲームだった頃には無かったリアリティってやつなのかな?


 翌日は、朝も白み始めた頃に出発となりました。


 途中、何度か休憩を取りつつ歩みを進めます。


 休憩の度に、ブレッドがわたしに剣を習いたいなどと言い出したり。バカなんじゃないかしら?


 今のわたしでは、とてもじゃないけれど教えられやしないのにね。


 とか言いつつも、あんまりしつこいので教えます。

 右、おっつけ。左、のどわ。


 そう言えば、わたしのスキルには『剣術』が無かったなぁ。


 記憶をたどったりでは、スキル認定されないのかしら?


 HPが減ってたのも気になるのだけれど。むう。


 謎が多い世界ですよ。まったく。プンスカ!


 そんなこんなで、夕方前には王都入り口にたどり着く事が出来ました!


 ああ、遥かなるかな我が祖国。


 ハイラム王国の王都ハイリア。


 やっと戻ってこれたのですね!!


 恭しく、ニヤニヤニヨニヨしながら門をくぐ……らないのは何でなんだぜ?


「おい、ウロ。ボサッとしてないで市民票!」


 えっ?

 市民票??


「な、ナニソレ??」


 !?


 あ、みんな固まっちゃった。


「おいウロ、お前この国の出じゃないのか?」


 小声でトレビスさんが聞いてくる。


 ぬう。


 キャラメイクは、メインの時も今のウロも出身国はハイラムなんだけれど。


「……えと、う……と」


 口ごもっていると、荷物改めの衛兵様が覗き込んできた。


「どうした? 市民票を見せろ!」


 ちょっ、恐いよ!?


 高圧的な衛兵のおじ様。ああ、その髭むしりたい。とか思ったのはナイショです。


「えっと、あのぅ」


「ああ、こいつは旅先で拾ったです。行く所が無いらしいんで、ウチで下働きさせようと思ってます」


 おおっ??

 トレビスさん!?


「何だと!?

 しかし、うーむ」


 明らかに、疑惑の目を向けてくる衛兵のおじ様に、わたしの背中を冷たい物が流れた。


「おや、ご心配ですか?

 ウチの預かりですよ!?」


 そう言って、トレビスさんは衛兵に何かを握り込ませた。

 一瞬だけ見えたそれは、何やら金貨みたいに見えたけれど。


「うむ、お、オホンッ!

 ティモシー商会がそう言うなら、まあ大丈夫だろう。

 お前、街で悪さするなよ?

 お前1人の責任じゃあ、済まないからな?

 良し、通れ!!」


 ガゴンッ


 重々しい音をたてて、両開きの門扉が開かれていく。

 馬車は、滞りなく門をくぐって進みます。


 やがて、馬車は広場前まで進んでゆっくりと止まった。


「さて、ウロともここでお別れだな」


 馬車の中を振り返って、トレビスさんが言った。


「ありがとうございました。お陰さまで帰りつく事ができました!

 ……でも、良かったんですか?」


「いやいや、礼を言うのはこちらの方だよ。

 なにせ、仲間の命の恩人だからな!」


 そう言って、ワハハと笑うトレビスさん。


「でも、何で市民票が無いんだよ?」


 むう、ブレッド。

 空気読めない子。


「まさか、どっかの国の間者じゃないよな?」


「!?」


 何ですとぉ!?


 こんな可憐な間者がいてたまるもんですか!!


「ウロが間者って事はないだろう」


 そうだ!

 トレビスさん、もっと言ってやって!!


「さすがに間者が、出先で行き倒れたりなんて事はないだろう」


 ……そっすね。


「だが、お前の読み書きや計算能力は、十分に国の文官並なんだ。疑われても仕方ないぞ?」


 む、むう。

 そうなのかぁ。


「まあ、おかしな事をしでかさなけりゃあ大丈夫だろう。

 良いか、さっきの衛兵じゃないが、くれぐれも騒ぎなんか起こさんでくれよ?

 お前さんだけの問題じゃあ済まなくなるからな?」


「は、はい!

 本当に、色々とありがとうございました!」


「じゃあ、元気でな!」


「もう、行き倒れんなよ!?」


 そう言って、トレビスさんたちは商業地区へと去って行きました。


 問題は、わたしなんですけれどね。


 わたしは、馬車が見えなくなるまで見送ってから走り出した。


 中央広場の噴水。


 市場の喧騒。


 見覚えのあるそれとは、やっぱりどこか違う。


 わたしが目指すのは、住居地区の奥にある『セーブハウス』だ。


 セーブハウスは、プレイヤー各位に与えられた自室の事。


 ここでは、ゲームのセーブやアイテム管理はもちろん、ジョブの変更なども行える。


 模様替えも出来るし、他のプレイヤーとアイテムやゲーム内通貨のやり取りまで可能な素敵空間。


 それこそが「倉庫」!

 わたしの聖域!!


 みたいな。


 角を曲がれば、最後の直線。


 !!


 ……誰もいない。


 いや、気づいてたんだけれどね。

 ちょっぴり期待したっていいじゃない?


 ゲームだった頃、この道端には『バザー状態』のキャラクターたちがたくさん座ってた。


 バザー状態は、キャラクターをログインさせたままプレイヤーだけログアウト出来る機能。


 クエストでしか手に入らないアイテムや、合成品などのNPCの店では入手出来ないアイテムを自動で売り買い出来る。


 ゲームに戻る時は、普通にログインして、バザーを解除すればOK。


 欲しいアイテムを探して、1件1件見て歩くのが楽しかった。


 たまに、「中の人」がいたりして「毎度あり~!」なんて言われてビクッとしたのは良い思い出だ。だけれど。


 今は、誰もいない。


 石畳が見えると、こんなにも殺風景なのですね。


 やけに広くて長く感じた直線を、わたしは一気に走り抜けた。


 アーチをくぐって、わたしはセーブハウスに入……れなかった。


「止まれ!」


 重装備の衛兵様が2人、槍を交わして道を塞いでいる。


「ここから先は、特別居住区だ。一般人の立ち入りは禁止されている!」


「あ、あの、わたしのセーブハウスがこの先に……」


「セーブハウス? そんな物はこの先には無い。あるのは、功績を上げて国から許可を得た方々の住居だけだ」


 ……えっ?

 えっ? えっえっ??


「通りたいなら、許可証を見せろ!」


 もちろん、そんな物はないよ!?


「も、持ってないです」


「なら、さっさと帰れ! あんまりしつこい様なら拘束するぞ?」


 ……さて、わたしはどうしたらいいのでしょう?


 セーブハウスには、召喚魔法に必要だと思われるアイテムや、魔術師系のレア装備などもあったのに。


 それよりも、わたしが期待したのは『ウツシヨの水晶球』だ。


 ウツシヨの水晶球は、ジョブチェンジが行えたりする他に、ネットに繋いだりメッセージをやり取りしたり出来る物だ。


 また、何らかの事態でコマンド選択不能になった場合、これを使えばヘルプ機能に接続する事ができる。


 そして、ログアウトも出来る。


「……お腹空いたな」


 思わず声が出た。


 こんな時でもお腹は空くのですね。


 もうすぐ陽が暮れちゃうし、今夜は宿に泊まる事に大決定な訳でありますがどうでしょう?


 ゆっくりと、今通って来た道を戻る。


 さっき、焦って駆け抜けた道は長く感じたのだけれど、やっぱりゲームだった頃に比べて長く広くなってるみたいだった。


 そして、プレイヤーキャラで溢れていた街は、今はNPCたちに代わっている。


「よかった、あった!」


 商業地区の入り口付近に、その店はあった。


『深酒する老賢者亭』の看板は、今は、この世界の文字に変わっているけれど、その外観は変わっていなかった。


 クエストの作戦会議や、成功の祝勝会なんかは、いつもここでやってた。


 チームの溜まり場。お気に入りのお店だ。


 カランカラン


 呼び鈴のついた扉の音が懐かしい。たった数日聞かなかっただけなのになあ。などと。


 店の中は、存外に明るくて驚いたけれど、ごはんが先です。切実です!


「いらっしゃい、お泊まりですか?」


 おお、以前はいなかった給仕の女の子が! 良いぞ良いぞ!?


「はい、1泊おいくらですか?」


「1晩、銀貨5枚で1食が付きます。食事は朝か夜になりますよ!」


 や、安いのどうか分かんないや。


「じゃあ、取り敢えず2晩で」


 わたしは、鞄から金貨を1枚取り出して支払った。


「ハーイ、ありがとうございます! こちらの宿帳にお名前をお願いします。字が書けなければ、あたしが代筆してもいいですよ?」


「大丈夫、書けます!」


 宿帳に名前を書き、部屋の鍵と木札を2枚受け取った。


 なんだこれ? 下駄箱の鍵??


「木札1枚で、食事1回分ですよ。一気に使って食べてもいいけど、もっと食べたり飲んだりは別料金ですよ!」


 あ、なるほど。理解!


「お部屋は2階の奥でーす!」


 あ、ヤバイ。


「あ、ありがとう」


 階段を、駆け足で上がった。

 鍵番号の部屋に入り、ドアを閉める。


 内鍵をかけた所で、わたしは我慢出来なくなって。


「うぅ、うぁああああっ」


 声を出して泣いた。


 ホントは、ずっと泣きたかったんだと思う。


 でも、何故だか泣けなかったんだよ。


 心のどこかで、『大丈夫』とか『帰れる』とか。


 そんな想いが、ついさっき、壊れちゃったんだよね。


 そしたら、この懐かしい場所が嬉しくて。


 嬉しいのに、それが悔しくて。


 だから、泣いたっていいじゃない?


 ひとしきり泣いたら、ごはん食べるよ。


 後は、それから考える事にして。

 今は、ただ、泣いてみたりしました。

名前 ウロ


種族 人間 女

職業 召喚士 Lv2



器用 8 → 9

敏捷 10 → 13

知力 30 → 35

筋力 9 → 12

HP 16 → 20

MP 18 → 32


スキル


知識の探求

召喚士の瞳 Lv1

共通語


錬金術 Lv30

博学 Lv1

採取(解体) Lv1


魔法


召喚魔法


《ビーストテイマー》


コール ワイルドバニー



生活魔法


灯り

種火

清水

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