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第百六話 廃屋に潜むもの

 前回のあらすじ。


 廃屋(はいおく)なう。肝試(きもだめ)しではない。


 廃屋への突入は、実に(すみ)やかに行われましたよ。


 突入とは言っても、そのままノンストップで行ける程の脳筋(のうきん)では無いわたしたち。

 エセルの指揮の元、廃屋の手前で一時待機する安心計画です。


 先行するダムドが、入口の罠や隠れているかも知れない見張りの確認。

 それと同時に、ヘンニーが廃屋の裏手を確認に向かった。


 その間、わたしたちは、エセルとアルバートを中心にジーナ、カーソン、ニードルスの3人(エルフ含む)を守る様に警戒する。何故か、わたしも護衛に組み込まれている不思議。しかたが無いので、レプスを()んで警戒強化してみました。


 間も無く、2人から『問題無し』の合図が。

 ダムドを先頭に、わたしたちは廃屋の中へと踏み込みましたさ。


 陣形そのままに、先行するダムドの後ろをエセルとアルバートが追う。くっつくみたいにジーナ、カーソン、ニードルスが追い、最後尾をわたしとレプスが守る形になった。……ヘンニーは裏口からかな?


 廃屋の中は、わたしが思っていたよりもずっと暗かった。

 隙間から光は入って来てはいるものの、微光過ぎてあてにはならない。

 てゆーか、その光が邪魔をして、暗がりに目が慣れるまで少しだけ時間がかかった気がする。


「気をつけろ、床が腐っていやがる」


 ダムドが、小声でわたしたちに注意を(うなが)してくれた。


 そうは言っても、やたら(きし)む床は暗くってちゃんと見えやしないのだけれど!?


 ダムドには、この暗さが気にならないみたいだよ。足元を確認しながら、音も立てずにスイスイと進んで行ってしまう。


 恐る恐る歩くわたしたちの目が、ようやく暗がりに慣れてくると、少しずつだけれど廃屋の中の様子が浮かび上がって見え始めた。


 廃屋の入口からすぐは、やや広めの部屋。放棄(ほうき)された狩猟道具の残骸がいくつか見受けられた。


 トーマスさんとジャンの狩猟小屋しか見た事は無いのだけれど、本来ここは、荷物を置いたり装備の点検なんかをする場所だったり。

 でも、もうずっと使われてはいないみたいだった。


 ダムドも言っていたけれど、床板は腐っていてどこも(あぶ)なっかしい。


 光取り用の窓は全て(ふさ)がれていて、周りには蜘蛛の巣が目立つ。

 毛皮や干し肉用に張られていただろうロープは、切れて天井から垂れ下がっていた。


 しかも、その天井や壁には小さいけれどいくつもの穴があって、そこから何本もの細い光の線が射し込んでいるので、雨宿りには絶望的な気がした。


「止まれ」


 小さく呟くエセルの声に、わたしたちは部屋の中央で足を止めた。


 わたしたちを制したエセルが、無言で暗がりを示す。

 細い光の線の向こう、暗がりの中でしゃがみ込むダムドの姿があった。


 どうやら、奥には扉があるみたいだよ。しかも、中からうっすらと灯りが漏れている。

 ダムドは、扉の前で中の様子を(うかが)っているみたいだった。

 わたしたちの方に手をかざして、何やら指をウネウネウナウナ動かしている。


 ……何?

 新手(あらて)の体操? あるいはウェーブ?? 失敗気味の。などと。


「扉の向こうに、何人かいる様ですね。

 ……〝合図を待て〟と言っています」


 わたしたちの前を行くエセルが、再び小声で呟いた。


 ううむ。

 アレは、ハンドサインでしたかそうですか。

 てゆーか、エセル。

 そう言うサイン、決めてるんだったら突入前に教えといて欲しかったよ。割りと。切実に。


 全員が息を殺して、ダムドの合図を待つ緊張状態。

 それこそ、心臓の音すら聞こえてしまいそうな程に神経が張り詰めるイキオイですよ。


 ……あれ?

 そう言えば、さっき風の精霊に聞かせてもらった中の声が聞こえなくなってる?


 キーン キーン キーン


 その時、どこからか金属を叩く様な音が聞こえて来た。

 普通に森の中を歩いていたなら聞き逃してしまいそうな、かなり小さい音だったけれど。

 今のわたしには、耳にまとわり付く異質な音に感じられた。


 ううむ。

 やはし、中の音が聞こえないんだ!!


 謎の金属音が響いて来ると同時に、こちらに向けていたダムドの手が、音に合わせて指を折り曲げ始める。


「ヘンニーからの合図だ。カウント終了と同時に飛び込むぞ!」


 エセルがうなずくのを見て、アルバートがわたしたちに小さく(ささや)く。


「あのね、アルバー……」


 ゲシッ


 報告重要! と、わたしが口を開きかけたのと同時に、わたしの背中に柔らかい物がぶつかって来る。


「ぐえっ!? って、レプスくん!?」


 倒れるわたしの背中で、跳び跳ねる毛玉(レプス)


 レプスは、フンフンと鼻を鳴らして何かを訴えている。その視線と耳は、ダムドを指しているみたいだった。


 これって、ダムド……ってゆーか、部屋の中に何かあるって事!?


「レプスくん。もしかして、部屋の中?」


 わたしの言葉に、レプスは顔を上げながらフンと鼻を鳴らした。


 ヤバイ。

 イロイロ不明だけれど、何かがヤバイ!!


「待って、ダムドさん!!」


 立ち上がりながら、叫んだけれど。

 それよりも早く、廃屋に破壊音が(とどろ)いた。


 わたしの制止も(むな)しく、勢い良く扉を蹴り開けてダムドが奥の部屋へと飛び込んだ。

 開いた扉の向こうから、暗がりにランタンの灯りが流れ出て来る。


「動く……な!?」


「何だ、こりゃあ!?」



 ダムドと、反対側から飛び込んだだろうヘンニーが、それぞれ困惑の声を上げる。


 一拍(いっぱく)遅れて、わたしたちも部屋へと入った。入ったのだけれど。


「むっ!?」


 ニードルスが、鼻を押さえて苦悶(くもん)の声を上げた。


 部屋へと入った瞬間、わたしたちの鼻を鉄の様な生臭さが襲う。


 これって、血の臭い!?


「アルバート様、下がって!!」


 血の臭いに(ひる)んでいるわたしの頭上で、エセルが叫んだ。その視線は、部屋の中央を凝視している。


 扉の向こうに広がる、前室よりも少しだけ広い部屋。

 壊れた椅子やベッドの転がる荒れた空間の中央に、それは立っていた。


 身長2メートルはある巨躯(きょく)を、筋肉で(おお)った怪物。

 茶色の長い髪の毛はバサバサで、服は、ボロボロだけれど元は女性物だっただろう服を(かろ)うじて身に着けている。

 身体中は傷だらけで、あちこちから血が出ているのが灯りに照らされている。

 更に、その両手には1人ずつ少女を(つか)んで高く持ち上げていたのである。


 予想だにしない光景に、全員がほんの数瞬だけ唖然(あぜん)としてしまった。


 不意に、怪物が上体をグンと(ひね)った。


「ぐわっ!!」


 怪物が動くと同時に、ダムドが悲鳴を上げて弾き飛ばされる。


 エセルに抱き止められる形になったダムド。その腕の中には、怪物が掴んでいた少女が1人、抱えられていた。

 それは、反対側のヘンニーも同じだった。


「オ、オーガか!?」


 アルバートが、(うな)る様に呟く。


 オ、オーガですと!?


 アルバートの一言に、わたしは戦慄(せんりつ)する。


 もし、この怪物がオーガだとしたら、ゲームだった頃の強さで考えても最低レベル30以上。


 単純に、わたしたちの倍の強さになる不具合ですよ。


 だけれど、今、わたしたちの目の前にいる怪物は、わたしの知ってるオーガとはだいぶ違って見える。


 わたしの知ってるオーガは、肌が灰色がかった青色。身長だって、3メートルくらいあったと思う。


 今、目の前にいる怪物は、赤く日焼けしたみたいな肌の色をしている。

 それって、どちらかと言うと同じ巨人種でも『ヒル・ジャイアント』の特徴なのだけれど。だとしたら、身長がかなり小さい事になる。


 わたしは恐怖と疑問に困惑しつつ、今は(ひざ)をついて頭を抱えながら震えている怪物を凝視した。

 途端(とたん)に、頭の中に怪物のステータスが浮かび上がって来る。




 名前 プリム (状態異常 ポーション中毒 強 残り時間 57分)


 種族 人間 女


 職業 狩人 Lv35/1


 HP 190/8

 MP 15/6




 んん!?

 こいつ、オーガじゃない。人間の女性だよ!!

 あと、『ポーション中毒』って何?? ゲームだった頃には無かった状態異常なのですが。謎仕様。


 何でこんな事になってるのか解らない、ただならぬ状況だけれど。……もしかしたら、『ポーション中毒』とか言う状態異常のせい!?


 もちろん、答えなんか無いし。まとまらない考えが、グルグルと頭の中を(めぐ)っている不具合に、何やらうんにょりしてきそうでヤバイ。


「危ない!!」


 背後から響くジーナの叫び声に、ハッと我に返った。


 ガキンッ


 瞬間、今度は目の前で重い金属音が響いた。


 さっきまでうずくまっていたハズの怪物化した女性『プリム』が、その拳をダムドめがけて振り下ろしたのだ。


 どうやらダムドは、抱き止めた少女にしがみつかれて回避出来なかったみたいだよ。

 間一髪、それを、エセルが剣の腹で受け止める。


「ガキ共、下がってろ!」


 しがみついていた少女を、乱暴にわたしの方へ放り投げるダムド。


 その隣では、エセルが受け止めたプリムの拳を跳ね上げる。更に、がら空きになった腹部を押し出す様に鋭く蹴った。


「ごふっ」


 巨体を揺らして、プリムが後に弾かれる。


「ダムド!」


「応!」


 少女を放り投げた勢いのままに、ダムドはクルリ回転すると、低く沈み込みながら短剣を抜いてプリムに斬りかかった。


「駄目、止めて、お姉ちゃん!!」


「ガアアアアッ!!」


 わたしに倒れ込みながら叫ぶ少女の声と、プリムの叫び声が重なった。


 少女の叫びも虚しく、プリムの足下を、ダムドがすり抜け様に斬りつけて行く。


 右足の(ふく)(はぎ)に傷を負ったプリムが、その場にガクンと膝をついた。


「今だ。旦那! ヘンニー!!」


 転がりながら叫ぶダムドに呼応して、エセルとヘンニーが剣を構えながら脚に力を溜める。

 次の瞬間、2ヵ所から〝バカンッ〟と言う床板を踏み抜いた破壊音を上がり、エセルとヘンニーがプリムに向かって同時に突進する。


「嫌っ。お姉ちゃんを殺さないで!!」


「殺すな、エセル!!」


「止めて、エセル!!」


 少女の悲痛な声と、アルバートとカーソンの通る声が同時に響いた。


 ガキィィィン


 一瞬、廃屋内に火花が散って金属音がこだまする。


 部屋の中央では、プリムの首すれすれの所で、ヘンニーの剣をエセルの剣が受け止めていた。


「ヒュー。旦那、お見事!」


「……良いからやれ」


 口笛吹いて称賛するヘンニーを、エセルがため息混じりに促した。


「あいよ……っと!」


 いつの間にか、エセルの剣は刀身の腹をプリムに向けている。

 その上に、ヘンニーの剣が打ち下ろされた。


 鈍い音を立てて、プリムは床に倒れ込んで動かなくなった。


 ……ふむ。

 どうやら、気絶したみたいだよ。


「お姉ちゃん!!」


 少女が、倒れたプリムによろめきながら駆け寄ろうとしたけれど。


 それは、エセルが剣によって制されてしまう。


「動くな」


「ひっ!?」


 小さく悲鳴を上げて、力無くへたり込む少女を、エセルは冷たい視線で見下ろしている。


「旦那、ちゃんと説明はあるんだろうな?」


 エセルの背後では、ヘンニーとダムドによって、プリムが手際良く縛り上げられている。


 一方、もう1人の少女は、プリムに放り投げられた時からずっと気絶しているらしくって、壁際でぐったりしていたけれど。

 今は、ヘンニーの肩の上だったり。気絶は継続気味。


「アルバート様、カーソン様。ご説明をお願い致します」


 少女に突き付けた剣をそのままに、エセルが会釈をする。


 ……ぬう。

 なんと言うシュールな状態。

 少女に剣を突き付けながら、主人に礼を尽くす騎士とか。スゲーいやだよ。


 これには、アルバートとカーソンも同じ事を考えていたみたいで。

 程無く、エセルは剣を納めたのでありました。……気絶した少女も含めて、3人共縛られちゃったけれど。


 エセルが剣を納めるのを待って、アルバートが口を開く。


「エセル。私が〝殺すな〟と言ったのは、この者が人間であるからだ」


 アルバートは、そう言ってプリムを指差した。


 アルバートの言葉に、エセルを始め、ヘンニーとダムドも目を丸くしている。


「おいおい、冗談だろ?」


「嘘にしちゃあ、趣味が悪いぜ。お坊っちゃま?」


 驚きながら、まるで信じていないらしいヘンニーとダムドをエセルが怒りの視線で(にら)みつけた。

 すぐに視線と目付きを戻したエセルは、スッとアルバートに頭を下げる。


「失礼しました、アルバート様。ですが、今のお言葉は本当でございますか?」


 エセルにひらひらと手を振ったアルバートは、ウンウンとうなずいて見せた。


「ああ、本当だ。

 実の所、私も信じられんのだが。しかし、この者は間違いなく人間なのだ。……そうだな、ニードルス?」


 アルバートに促されて、今度はニードルスが歩み出る。その表情は、知識欲に支配されまくった上気したそれだった。


「アルバートが言った通り、あの怪物に見える者は間違いなく人間です。

 その証拠が、これです!」


 そう言ったニードルスは、『剛力(ごうりき)の薬』が入っていた空の小瓶を取り出した。


「この者は、剛力の薬によるポーション中毒であると考えます。しかも、かなり深刻な状態であると考えます」


 やはし、ポーション中毒だったプリムだけれど。

 しかも、深刻って??


 静かな森の廃屋で起こった奇っ怪な事件は、更に深刻な選択を迫られる事になるのでありましたさ。

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