第十話 ゴブリン襲来!
前回のあらすじ。
かなりヤバイ。だいぶ。切実に。
さて、現在のわたしたちの状況なのですが。
林に囲まれた1本道。
馬車同士ギリギリすれ違えるかどうかって道幅の場所で、ゴブリンの襲撃にあいました。なう。
ゴブリンの数は、前が3体。後ろが2体の計5体。たぶん。
林の中にも潜んでる可能性はあるけれど、暗くて見えないし、警戒するしかない現状なのですがなあ。
ちなみに、こちら側の戦力は……。
名前 トレビス
種族 人間 男
職業 商人 レベル5
名前 ロジ
種族 人間 男
職業 商人 レベル2
名前 カール
種族 人間 男
職業 商人 レベル2
名前 ブレッド
種族 人間 男
職業 商人見習い レベル0
そして、わたしなのだけれど。
ぬう。
商人って、生産系ジョブで戦闘スキルが無かった様な気がする。
ヤバイ、焦ってる!?
こんな時こそ冷静に。
素数を数えるんだっけ?
2、3、5、7……もう分かんない!!
落ち着くのよウロ。
びぃくーるよウロ。
……そう言えば、前世だった頃にチームの先輩アサシン様からいろいろ聞いた事あったっけ……。
「……ウロや、良くお聞き?
魔物には、それぞれに特長があるのです。
例えばゴブリン。
コイツらは、基本的に夜間しか行動しないか洞窟などにいます。
だから、明るい所が苦手なのです!
ここまで言えば、脳筋なあなたでも解るでしょう?」
むう。
最後の方、イヤな事まで思い出しちゃったよ。
「おい、ウロ。何ボーッとしてんだ!?」
ブレッドくんが、わたしの肩を揺さぶった。
おおう!
考え込んでる暇はないですわなあ。
わたしは、馬車の中を見回してみる。
スタンド式の燭台発見!
「センパイ、この燭台持って馬車の幌の上に上がって!」
「何言ってんだ!? 今、それどこ……」
「いいから早く!」
ブレッドくんの言葉を遮って、燭台を押し付ける。
「お、おう」
気圧された感じに、ブレッドくんが動き出した。
今の内に装備変更!
てゆーか、普段着で旅に出てるわたしの迂闊さたるや。
二日酔いでアレな感じだったとは言え、シャレにならないですよ? マジで。
普段着から革鎧と革のグローブ、レザーパンツとブーツ。武器はショートソードに変更する。
本当は盾を持ちたいのだけれど、今のわたしの筋力では難しい。か弱いからね!
そのまま、馬車の外に飛び出す。
ゴブリンとの距離は、まだ少しある。
向こうも、こちらを警戒してるのかな?
ならば、好都合と言うもの!
「ウロ、これでいいのか?」
頭の上から、ブレッドくんの声が響いた。
幌の上に、燭台が立てられてるのが見えた。
「グッジョブです、センパイ!」
すかさず、精神集中!
魔力を練る感覚。
「気に散る光の子ら 今 一度これに集え 『灯り』!」
わたしの人差し指に、眩い光の玉が現れる。
「ギャウ!?」
ゴブリンたちから悲鳴が上がる。効果あるね!?
そのまま、光の玉を幌の上の燭台へとシュート!
見事に、光る燭台の完成である。
「う、わぁ」
ブレッドくんが、感嘆の声をもらした。
前の方でも、トレビスさんたちが声を上げている。
一気に明るくなった事で、周囲の状況が分かった。
どうやら、林の中には伏兵はいないみたい。
そして、ゴブリンたちが眩しさに怯んでいる。
チャ~ンス!!
わたしは、ショートソードを構えてゴブリンに接敵する。
前世の聖騎士だった頃の経験と、わたしの体験した記憶を元に。
魔力を学んだ時の様に、技を「選ぶ」のではなく「使う」イメージ。
「突き!」
剣先が敵を通り抜ける様に突くべし!
ヌカッ
わたしの剣先は、何の抵抗も無くゴブリンの首元を突き刺した。
「ガッ!?」
即座に剣を引き抜くと、勢い良く鮮血が噴き出した。
「うわっ!」
慌てて下がる。
「グガゴボボッ」
前のめりに倒れ込むゴブリンは、血混じりの声を上げて絶命した。
辺りに立ち込める、血の嫌な臭い。
改めて、これがゲームだったイマージュ・オンラインとは違うのだと気づかせてくれる。
「!!」
わたしの顔の横を、槍の先が高速で通過する。
頬が熱い。
かすっただけなのに。
危なかった!
もう少しズレていたら。
ゾッとするけれど、もう恐がってる場合じゃない。
身をひるがえしつつ、ゴブリンを見据える。
まだ眼が光に馴れていないのか、わたしを見る眼がちゃんとは開いていない。
前屈みになって、顔をしかめている。
その時、わたしの身体が勝手に動いた気がした。
低い相手にはコレだ。
わたしの得意だった技。
「兜割り!」
ゴシャッ
剣が、ゴブリンの頭蓋を打ち砕いて深々と突き刺さる。
同時にゴブリンは、その場に崩れ落ちた。
「や、やった!」
……いや、落ち着いてる場合じゃないよ。
まだ、3体もいる!
「うっ、あれ?」
剣が抜けない。
てゆーか、身体に力が入らない!?
前方では、激しい金属音と怒号が響いているのに。
「う、ウロ。大丈夫かよ!?」
心配して、ブレッドくんが駆け寄ってくれた。
「だ、大丈夫。それより、トレビスさんたちが!」
「お、おう!」
ブレッドくんは、その場に落ちていたゴブリンのショートスピアを拾って駆け出した。
あ、彼を行かせたらダメじゃん!?
でも、立ち上がれないよ!?
おお、そうじゃ!
「おいでませ、『コール ワイルドバニー』!!」
手をついた地面に、魔法特有の淡い光が現れる。
光は円を描き、強く発光して消えると、その場には1匹のワイルドバニーが現れた。
「良し行け、レプスくん!」
ヒクヒクー!
ワイルドバニーのレプスくんは、鼻を動かしてから駆け出した。
あ、レプスってゆーのはぁ、わたしの決めたワイルドバニーの名前でぇ。
……本当は、ボーパルくんにしようとしたのだけれど、マーシュさんにお披露目した時、
「お止め! 物騒な名前を付けるんじゃないよ!」
と止められたりしました。ので。カワイイのになぁ。
と、このままここに座ってる訳にもいかない。
なんとか立ち上がるけれど、力が入らない。
ステータス確認。
名前 ウロ
HP 8/16
MP 5/18
うげっ!?
HPが残り8しかないよ!?
MPも残り5しかない。
どうゆう事??
頬の傷は、痛いけれど本当にかすった程度だし、魔法もそんなに使ってない。
何やら解らないけれど、今は後回しです。
ヨロヨロしながら、レプスくんを追いかける。ウサギ超速い!
やっと着いた馬車の前は、さんたんたる有り様だった。
ゴブリンの数は、あと2体。
立っているのは、トレビスさんと馬を押さえているロジさんとカールさん。そして、ワイルドバニーのレプスくん!
はっ!?
ブレッドくん??
「ブレッドのヤツ、わたしをかばって……」
傷だらけのトレビスさんが、背中越しに吐き捨てた。
ぬぅううう!!
「レプス、援護して!」
わたしの呼びかけに、レプスは、ゴブリンたちに向かって地面を蹴り上げた。
土煙がゴブリンを襲う。
どうやら、眼に砂が入ったらしく、1体は両目を押さえて棒立ちになった。
間髪を入れず、トレビスさんがゴブリンに1撃を加える。
それが致命傷になったのか、ゴブリンはそのまま後ろに倒れて動かなくなった。
「ぎ、ギャウギャウ!!」
1体になったゴブリンは、慌てて林の中には走り去って行った。
「仲間を呼ばれてはまずい。急いでこの場を離れるぞ!」
トレビスさんの一声で、わたしは、ブレッドくんに駆け寄った。
「ブレッドの遺体を馬車にのせろ!」
「……ブレッドくん」
わたしは、ブレッドくんのステータスを見た。
ブレッド
HP 0/11(瀕死:残り時間10分)
MP 8/8
瀕死!?
残り時間!!
「生きてる!」
「な、何!?」
「まだ、生きてる! 早く、ポーションを!!」
「……残念だが、ポーションは持ってない」
な、何でよ!?
何で用意してないの!?
「護衛で付いてた冒険者たちに、報酬として渡してしまったんだよ」
ぬぁんだとぉう!?
残り時間、あと8分ちょい。
「そうだ、妖魔の骨!」
「まさか、ここで錬金するのか!?」
「出来る! 材料を!!」
「よ、良し。馬車に乗せろ。急げ!!」
「妖魔の骨と水と薬草だ。瓶はここにある!」
トレビスさんが、乱雑な馬車の中から的確に材料をかき集めてくれた。
残り時間、5分。
わたしは、材料を受け取ってメニューから錬金のレシピを開く。
ポーションを選択!
「……」
「……どうした? 早く錬成しろ!」
ロジさんが、声を荒げる。
あれ?
もう1回!
「……どうして?」
出来ない!?
何で?
何でよ??
「やっぱり無理か、錬金台がなくてはな」
は?
錬金台!?
錬金台は、錬金ギルドにある錬金術補助効果のある作業台。
初心者が錬金する場合、スキルレベルが低いから成功しづらいのだけれど、錬金台で行えば、その成功率は飛躍的に上がる。
スキルレベルが上がれば、錬金台を使わずに錬成出来る。……ハズなのに。
「錬金台が無いのに、錬成出来る訳ないだろ!?」
ロジさんに怒鳴られた。
そんな物が必須だなんて。
なるほど、これがこの世界の常識なのですね。
こんなに悔しいのは初めてだよ。たぶん。
出来るのに出来ないなんて。
「そうだ、ちょっと待ってろ!」
トレビスさんが、大慌てで荷物を引っ掻き回し始めた。
「あった、これが使えれば」
「何ですか、コレ?」
見覚えの無い、幾何学模様の描かれた布。
「『簡易錬金』のクロスだ!」
『簡易錬金のクロス
携帯用錬金台。
使用者は、魔力と引き換えに錬成環境を得る事が出来る』
「使わせてください!」
残り時間、2分。
クロスを広げ、材料を載せる。
クロスに両手をついて、ポーションを錬成!
わたしの中から、魔力が引き出されて行くのが分かる。
「おお!!」
「で、出来た!」
クロスの上には、青く、ボンヤリと輝く見慣れた水溶液。ポーションだ!
「早く、これを……ブレッド……に」
ああ。
またなんだ。
暗くなる視界の傍らに、ポーションを飲む少年の姿が見えた気がした。
……やめれ。
……やめれやめれ!
舐めんな!
やめれ! なんかザリザリする。
「……めれ!」
はっ!?
目の前には、でっかいウサギの顔!?
「れ、レプスくん!?」
「おう、起きたかウロ!」
「ぶ、ブレッドセンパイ?」
「ブレッドでいいよ。お前は、命の恩人だからな!」
ああ、そっか。
そうでした。
「よかった。お薬効いたんですね!」
「お陰さんでな」
「お前たち、喋ってないで寝てろ! 荷下ろしには働いてもらわなきゃな!」
トレビスさんが、御者席から中に声をかける。
外は、もうすっかり明るくなっていた。
「はーい、分かりました!」
そう言って、ブレッドくんはゴロリ横になった。
「ありがとう、ブレッド」
「な、何だよ急に!?」
「心配してくれたからね」
おお、耳が紅くなりましたね。少年。ファッファッファッ!
「君もありがとう、レプスく……ファッ!?」
わたしがレプスの頭を撫でると同時に、わたしの中から確実に「生命力」が吸い出されて行く!
レプスは、一気に傷を回復。満足気に、くるんと1回転して消えて行った。
なんと言う事でしょう!!
召喚獣って、術者の命で回復を計るのですか!?
瀕死だったら、死んでたかも!?
なんと言う綱渡りな魔法。
なんて言うか、起きたくても起きられなくなってみたりしました。物理的にな。
名前 ウロ
種族 人間 女
職業 召喚士 Lv1
器用 8
敏捷 10
知力 30
筋力 9
HP 1/16
MP 0/18(昏倒中)
スキル
知識の探求
召喚士の瞳 Lv1
共通語
錬金術 Lv30
博学 Lv1
採取(解体) Lv1
魔法
召喚魔法
《ビーストテイマー》
コール ワイルドバニー
生活魔法
灯り
種火
清水




