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第百二話 森の外れの探索者たち

 前回のあらすじ。


 超剛力乙女。それは、鬼の様に身体が弱いみたいな違和感。


 リブンフォートの森は、その周囲を(まじな)いのかかった鉄柵でグルリと囲まれている。

 呪いには、「許可無き者の立ち入りを禁ず」とか言う効果があるらしい。


 また、柵そのものの鉄の強度に加えて魔法的な防御効果も付加されてるのだとか。

 その為、乗り越えるのはもちろん破壊なんて出来る訳が無い。


 ナニソレ最強!? ……のハズなのだけれど。


 今、わたしたちの目の前にある鉄柵は、〝グンニャリ〟と言う言葉がピッタリな程、異様に形を歪めてしまっている。


 森が切れて、数時間ぶりに見た青空なのに。やたら前衛的になった鉄柵がくっきりと浮かび上がったシュールな光景に、だいぶゲンナリしたりしましたよ。


「長老は、ここで石化されていた。一時(いっとき)も早く、長老の角を取り戻してくれ!」


 マディが、表情を曇らせながらわたしたちを振り返った。

 言葉にはしてないけれど、焦りみたいな物が感じられる。それは、ジーナとカーソンを乗せているラトとレトも同じみたいだった。


「そう慌てんな。まずは、現状の把握が先だ!」


 マディに応えて、ダムドが声を張る。


 ふむ、いわゆる〝現場検証〟ってヤツですね。

 〝見る・調べる → どこ?〟みたいな。


 冗談はさておき、ダムドの言葉を踏まえて、わたしは辺りを見回してみる。


 ここが、マディ(いわ)く石化した長老が発見された場所だ。


 森の終わりであり、鉄柵の向こう側は崖になっている。

 入口付近と同じ感じなら、崖の高さは建物の6、7階位になるのかな?


 鉄柵や崖は後にするとして、改めて周囲を見てみますと、木には剣で斬りつけた様な傷や刺さったままの矢が。

 地面も、あちこちが不自然にえぐれているし、赤黒い血の痕みたいな物もあったりして。素人目にも、ここで何らかの戦闘があった事が解る。


 〝ユニコーンは、乙女に攻撃しない〟


 だとしたら、あの血はユニコーンの。つまりは、長老の物って事だよね。やはし。


 ぬう。

 見れば見る程、本当にジーナ位の女の子の仕業なのかな? って気になる不具合ですよ。


「おい、魔術師共!」


 しゃがみ込んで地面を見詰めていたダムドが、そのままの姿勢で声を上げた。


 魔術師共って言うのは、わたしたちの事なんだろうなあ。きっと。たぶん。


「はい、何でしょうか?」


 誰よりも早く、ニードルスが答えた。

 何の躊躇(ちゅうちょ)も無いニードルス、さすがッスね。


「ボヤボヤしてねえで、魔術師にしか出来ない事をやれ!」


 ダムドはそう言いながら、ナイフで赤黒くなった土をつついた。


 魔術師にしか出来ない事か。試練の塔でやった事とか、魔法的な物を探すって事ですね解ります。


「ニードル……」


「ダムドさん。〝魔術師にしか出来ない事〟とは、具体的に何でしょうか?」


 わたしの言葉を(さえぎ)る様に、ニードルスの声が響く。

 同時に、ダムドの動きがピタリと止まった。


 ああ、ニードルス。

 今日は、一段と頭が固いのね!?


「この、クソエル……」


「まあまあ、ダムド。

 あのお坊っちゃんエルフは冒険者じゃねえ。カッカするな!」


 立ち上がろうとするダムドを、ヘンニーが押さえてくれた。

 てゆーか、今の内ですな。


「ニードルスくん、周りを良く見て。

 わたしたちの追ってる相手は、実は得体が知れない何かかもなんだよ。

 だから、情報は集められるだけ集めるの!

 ニードルスくんは知らないかもだけれど、女の子はあんな風に鉄の柵を曲げられないよ!?」


「そ、それ位、私でも……」


 ギョッとした顔で反論しようとしたニードルス。でも、その声はヘンニーの笑い声によってかき消されてしまった。


「ハッハッハッハッ!

 全く、嬢ちゃんの言う通りだぜ。

 俺たちには、魔法なんてお上品な物は解らねえからな。

 あんたら魔術師には、俺たちの解らねえ〝何か〟を探してもらいたいのさ。

 見つからないなら、それで良いさ。探しもしねえでヘタ打つなんざ、御免だからな!」


「……解りました。何かを探します」


 まだ、釈然としない表情のままだけれど。何とか納得してくれたニードルス。やれやれ。


 と言う訳で、やっとの事で探索開始です。


 みんなで固まって探すのもアレなので、わたしとジーナ、ニードルスとアルバートが組む事になった。


 わたしとジーナは、周辺の探索。

 ニードルスとアルバートは、鉄柵を調べる感じで。


「よろしくね、ジーナちゃん!」


「よろしくお願いします、ウロさん。でも、どうやって探すんですか?」


 ラトからヒョイッと飛び降りたジーナが、杖を握り締めながら言った。


「試練の塔の時と同じだよ。

 森の中だから自然魔力があるかもだけれど、そうじゃない魔力が溜まってるトコとか探す感じかな?」


「わ、解った。頑張ります」


 わたしの言葉に、ジーナはコクンとうなずいた。


 さあ、探索開始ですよ!


 わたしは、目に魔力を集中しながら周辺を見回した。


 あちこちに植物の精霊がいるせいか、視界が緑色になっちゃってかなり見辛(みづら)い。

 そんな中、ダムドの足元に見た事の無い反応があった。


 ピンク色と言うか、少し赤みがかった乳白色と言うか。


 それは、ユニコーンの血痕だった。


『召喚士の瞳』で詳しく見てみますと、ピンク色の光の中にピンク色の少女たちが座り込んでいるのが解った。


 少女たちは、『生命の精霊』らしい。

 もう、あまり元気は無いみたいで、座り込んで項垂(うなだ)れている。

 ダムドのナイフの上で、ため息混じりに体育座りしているのは、今日、2つ目のシュール映像だった。


「ウロさんウロさん!!」


 不意に、ジーナの呼ぶ声が聞こえて我に返った。


「どしたの、ジーナちゃん?」


「あれ。あの木が変なの!」


 そう言って、ジーナは1本の木を指差した。


「……何だ、これ??」


 その木は、見た目にはごく普通の木だった。

 幹に1本の矢が刺さっている以外には、特に外傷も無い。森にたっぷりある木の1本にしか思えなかったのだけれど。


 魔力を通して見たそれは、だいぶ違っている。


 矢の周りを、植物の精霊たちがぐるりと囲んでいるのだ。

 みんながみんな、汚い物でも見るみたいに、超絶ゲンナリ顔で悩んでいるみたいに見える。


 どゆ事?

 あの矢が、何かあるの??


 わたしは、久しぶりに『博識』のスキルで矢を見詰める。



『魔除けの矢


 (やじり)に破魔の(まじな)いを施した矢。実体を持たない相手に対して追加効果:弱体』



 おおー!

 これは良い物じゃないですか!!


 〝矢〟と言えば、ゲームだった頃の知識で言うなら大量消費必至のアイテムの1つである。

 特に、弱体効果のある矢はレベル上げには必須だった。


 何せ、敵が強ければ強い程、経験値が高いからね。


 取得経験値の多い敵は、適性レベルよりも数段上であり、当然だけれど無闇に強い。

 バカ正直に闘っても勝てないし、例え勝てたとしても、被害が甚大(じんだい)で回復に時間がかかってしまい、結果的に獲得経験値のトータルが低くなってしまう。


 そんな時には『弱体』ですよ!!


 魔法やアイテムで、敵の様々なステータスを下げて戦闘を有利に出来る弱体。


 効果時間の長い魔法は、効けば良いけれど抵抗されてしまうと効果がゼロになってしまう。


 その点アイテムは、抵抗されても効果が下がるだけで全く効かない訳では無い。


 何でそうなのかは、わたしには解らなかったけれど。

 チームの先輩方は、仕様についてアレコレ議論してたっけ。


 それは置いておいて、ダメージを与えつつ弱体出来る矢は、かなり重宝されていた。


 ……その影には、弓使いの散財と言う犠牲と言う名の努力があるのですがなあ。


 特に、物理攻撃無効の敵にも効く『魔除けシリーズ』は、効果も値段も高かったっけ。

 チームの弓使いな先輩に付き合って、イロイロ金策に行った思い出ですよ。


 でも、ゲームだった頃には解らなかったけれど。魔除けって、魔物からはこんな風に見えてたのね。勉強になるわあ。などと。


 と言う事は、ユニコーンを襲って来た少女たちが精霊に惑わされなかった理由って、これなのかも知れない!! たぶんだけれど。


 わたしは、矢を力任せに引っ張ってみた。


 スカッ


 矢は、思ったよりも簡単に木から引き抜く事が出来た。


「ジーナちゃん、これって『魔除けの矢』だよ!」


「!?」


 瞬間、ジーナの目の色が変わる。

 わたしから、奪い取るみたいに矢を受け取ると、色んな角度で見回し始めた。


 まあね。一応は、これも魔導器の一種だもんね。


 さて、問題です。

 この世界の魔法の武器は、いくらくらいするのでしょうか?


 ゲームだった頃なら、バザーで他のプレイヤーから100本セットで金貨1000枚位だった。


 ならば、この魔除けの矢は??


「ジーナちゃん!」


「は、はひ!?」


 声を裏返らせながら、ジーナが答える。どんだけ夢中だよ。


「ジーナちゃん、この矢ってお店で買ったらいくら位になるかな?」


「……そうですねえ。

 あたしの所なら、1本金貨10枚位でしょうか」


 あれ? 同じ!?


 そう思ったわたしに、難しそうな顔をしたジーナが続ける。


「ですけど、材料の確保や職人探しで時間がかかると思いますよ。

 こういった特別な物って、騎士団や神殿が魔物討伐用に買う事はあっても一般には売られませんから。

 売られるにしても、御守り代わりに1本だけ矢筒に入れる。とかでしょうね」


 な、なるほど。

 大量生産・大量消費は、ここには無いのですね。


「しかし、この襲撃犯は御大尽(おだいじん)だな?」


「うわっ!?」


 頭の上から、急に声が降ってきてかなりビビッた。

 いつの間にか、ヘンニーがわたしたちを覗き込んでいましたよ。


「へ、ヘンニーさん!?」


「御大尽って、どう言う事ですか?」


 わたしとジーナが、ヘンニーを振り返る。

 ヘンニーは、わたしたちの前にスッと手を突き出す。その手には、魔除けの矢が3本握られていた。


「見ろよ。こんな高級な矢、なかなかお目にかかれやしない。

 しかも、折れても割れてもいないのに、回収しないなんてな!」


 回収!!

 そう言えば、弓使いの先輩も、矢はちょいちょい回収してたっけ。


 ゲームですらそうなのだから、この世界なら当たり前の事なんだろう。

 それをしていないのって、一体??


「それによ、こいつは撃った物じゃねえ。木や地面に突き刺した物だ」


「ええっ!?」


 ヘンニーの言葉に、思わず大声で驚いちゃったよ。


「そんなに驚く事か?

 さっき、嬢ちゃんも矢を引き抜いてたじゃねえか。女子供に、撃ち込まれた矢が抜ける訳ねえだろ?」


 た、確かに。

 その発想は無かった。マジで。


「でも、どうしてですか?」


 矢を見詰めながら、ジーナが呟いた。

 ヘンニーは、頭をかきながらフムと息を吐く。


「恐らく、道しるべだな。

 こいつが本物の魔除けの矢なら、俺たちが迷った森も回避出来るだろう。

 なあ、そうだろダムド!」


 ヘンニーが、上を見上げて声を張り上げる。


「ああ、そうだな。

 こいつらは、よほど急ぐ必要があったんだろうぜ?」


 木の上から、ダムドの声が聞こえる。いつの間に登ったの!?


 てゆーか、ヘンニーとダムドは何かが解ってるみたいなのだけれど?


「ヘンニーさん。もしかして、何か解った感じですか?」


「まあ、そいつはあっちの話を聞いてからだな」


 わたしの問いに、ヘンニーは軽く顎をしゃくった。


 その方向には、ニードルスとアルバート、それにカーソンの姿があった。


 わたしは、3人に声をかけようとして息を飲んだ。


 理由は、歪んだ鉄柵の前にたたずむ3人の表情があまりにも真剣だったからである。


「に、ニードルスくん?」


 わたしの声に、ニードルスはゆっくりと振り返った。


「ウロさん。ユニコーンの角を奪った犯人は、もしかしたら3人では無いかも知れませんよ?」


 そう言ったニードルスの手には、小瓶が握られていた。

 それは、陽の光を受けて不安になるほど紫色に輝いている様に見えてならなかったのでありました。

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