第九十九話 リブンフォートの森は深く
前回のあらすじ。
深刻な野菜不足! サラダが食べたい。主にゴボウなヤツ。
現実でもゲームでも、森に入った事なんて数える位しかないのだけれど。
それでも最近のわたしは、プチ森ガールと言っても良い位には森にいる気がする不思議。革鎧とか着てますがなあ。
だからって訳じゃあないけれど、それまで見て来た森に比べて、リブンフォートの森はとても変わった所に思えてならなかった。
森の木々はどれも立派で、背の高い物が多い。
幹が太いせいか、間隔が広くて3人は優に並んで歩ける。
枝葉も広く遠くに伸ばしている様で、陽もすっかり昇ったと言うのに辺りは何だか薄暗く感じる。
時折、降り注ぐ木漏れ日に思わず目が眩みそうになる程だよ。
それにも関わらず、下草は全く枯れていなくって、足首が隠れそうな位に長く伸びている。
むう。
収穫祭の時位にしか人が入らないみたいだし、誰も踏み荒らしたりしないせいなのかな? とは言え、正直歩きにくいったらないよ。
そして、1番の違いは森にいる精霊たちがみんな、やたらと元気だって事だと思う。
植物の精霊も水の精霊も、とても元気で生き生きしている。
何かこう、ふっくらしてるって言うか、ムチムチしてるって言うか。気持ち、ふくよかな感じ?
森に住む精霊たちが元気ならば、森の木々も元気になるの法則。……それは解るのだけれど。何効果??
そんな奇妙な森の中を進んで行く、スーパー無計画なわたしたちの隊列はこんな感じ。
辺りを警戒しながら先頭を進むダムドと、それを補佐するエセル。
すぐ後ろをジーナとカーソンが続き、2人を挟む様に、アルバートとニードルスが並んで歩く。
最後尾を行くのが、ヘンニーとわたくしウロ。
……えと、何か隊列おかしくね?
わたしってば、超絶か弱い魔術師見習い系女子ですよ!?
わたしの素朴な疑問に、ヘンニーは肩をすくめて……。
「嬢ちゃん、朝っぱらから冗談かい?」
とか言いつつ、小さく笑ってみせる始末。ぐぬぬ。
まあ、戦闘力的にはしかたが無いのだけれどね。
どう考えても、ジーナとカーソンを守らなきゃならない訳だし。
特に、カーソンは〝これぞお坊っちゃま〟みたいな感じだしね。
念の為、カーソンのステータスを確認しておきましょうそうしましょう。
名前 カーソン・ローウェル
種族 人間 女
職業 貴族 Lv0
器用 9
敏捷 8
知力 13
筋力 7
HP 10
MP 16
スキル
共通語
古代語
礼儀作法
歴史学
……ええと、お解り頂けただろうか?
性別の所に〝女〟ってあったのだけれどどうでしょう。
カーソンって、アルバートの従弟。つまり、男性じゃあなかったの!?
確かに、華奢で色白でフェミニンな雰囲気満載だけれど。だけれどさあ。
「どうした、嬢ちゃん? 魚みたいに、口をパクパクさせて」
挙動不審になっていたわたしの顔を、ヘンニーが訝しげに覗き込んで来た。
「うおっ!?
な、何でもないです。ちょっぴりばかり、森林浴を……」
「また、訳の解らん事を。
まっ、何か気がついたんならすぐに言うんだぜ?」
わたしの答えに、ヘンニーはヤレヤレと言った具合に荷物を担ぎ直した。
むう。
〝森林浴〟は通じませんかそうですか。
てゆーか、カーソンの性別については、何か理由があって偽ってるのかも知れないし。
みんなに言うのは、も少し様子を見てからにしようかな? とか思ってみた。
ちなみに、みんなのステータスはこんな感じ。
名前 アルバート・タヴィルスタン
種族 人間 男
職業 王子 Lv8 / 妖術師 Lv2
器用 19
敏捷 23
知力 26
筋力 28
HP 45
MP 46
スキル
共通語
礼儀
武勇
カリスマ
格闘 Lv1
剣の扱い Lv1
槍の扱い Lv1
剣技 Lv1
突き
薙ぎ払い
魔界魔法 Lv1
名前 ジーナ・ティモシー
種族 人間 女
職業 商人 Lv5 / 妖術師Lv2
器用 18
敏捷 21
知力 27
筋力 11
HP 23
MP 51
スキル
共通語
古代語
交渉 Lv3
鑑定 Lv3
魔界魔法 Lv1
名前 ニードルス・スレイル
種族 エルフ 男
職業 付与魔術師 Lv11 / 妖術師Lv2
器用 15
敏捷 16
知力 28
筋力 13
HP 39
MP 64
スキル
共通語
古代語
エルフ語
錬金術 Lv15
鑑定 Lv5
薬学 Lv2
裁縫 Lv1
付与魔法 Lv8
魔界魔法 Lv1
生活魔法 Lv2
名前 エセル
種族 人間 男
職業 近衛騎士 Lv14
器用 23
敏捷 39
知力 30
筋力 51
HP 87
MP 35
スキル
共通語
礼儀
武勇
格闘 Lv5
剣の扱い Lv9
槍の扱い Lv5
剣技 Lv8
突き
薙ぎ払い
ディザーム
渾身の一撃(剣使用時のみ)
武器破壊(剣使用時のみ)
名前 ヘンニー(悪名 懸賞金 300金貨)
種族 人間 男
職業 戦士Lv11 / 暗殺者Lv5
器用 25
敏捷 33
知力 24
筋力 53
HP 82
MP 23
スキル
共通語
武勇
格闘 Lv3
剣の扱い Lv6
剣技 Lv6
突き
薙ぎ払い
ディザーム
暗殺 Lv3
隠密
暗視
名前 ダムド(悪名 懸賞金 200金貨)
種族 人間 男
職業 盗賊 Lv11 / 暗殺者Lv4
器用 33
敏捷 37
知力 29
筋力 35
HP 61
MP 38
スキル
共通語
武勇
追跡 Lv5
格闘 Lv3
剣の扱い Lv3
剣技 Lv6
突き
薙ぎ払い
ディザーム
カウンター
暗殺 Lv3
隠密
暗視
軽業
危機感知
そして、わたし。
ウロ
名前 ウロ
種族 人間 女
職業 召喚士 Lv11 / 妖術師Lv2
器用 27
敏捷 33
知力 56
筋力 31
HP 42
MP 73
スキル
ヴァルキリーの祝福
知識の探求
召喚士の瞳 Lv2
共通語
錬金術 Lv30
博学 Lv2
採取(解体) Lv1
魔法
召喚魔法
《ビーストテイマー》
コール ワイルドバニー
コール ハーピィ
《パペットマスター》
コール ストーンゴーレム(サイズS)
《アーセナル》
コール カールスナウト
魔界魔法 Lv1
魔法の矢
生活魔法
灯り
種火
清水
フムフム。
エセル、ヘンニー、ダムドの3人のレベルが上がっておりますな。
わたしたちが試練の塔に閉じ込められてる間、イロイロ奮闘してくれたみたいだし。そのせいかな? ありがたい事です。
「嬢ちゃん、止まれ!」
「!?」
突然、ヘンニーがわたしの肩をガッシと掴んだ。
完全に不意をつかれて、死ぬ程ビックリしたけれどバレてないからナイショにする。
「ど、どうし……」
「シッ!」
言いかけたわたしを、自分の口に指を立てたヘンニーが制した。
ヘンニーは、そのまま軽く顎をしゃくって見せる。
……なるほど、気がつけばみんな足を止めている。
1番前では、ダムドが小さく手を上げているのが見えた。
「ダムドの奴、何かの気配に気づいたらしい。
気をつけろよ、嬢ちゃん」
辺りを見回しながら、小声でヘンニーが呟く。
マジですか!?
わたしも思わず、キョロキョロと辺りを見回してみるけれど。
鳥の囀りと、風にざわめく鬱蒼とした森の風景があるだけにしか思えなかった。
リブンフォートの森に入ってから、30分は歩いただろうか?
わたしたちが今、森のどの辺りを歩いているのか。実は良く解りません。
頭の中に地図を開いても、〝リブンフォートの森の地図〟そのものを持っていないから、現在地は表示されれても周りが真っ白だったり。
……てゆーか、地図も前情報も何も無しに得体の知れない森に入っちゃったのがそもそもダメなのですがなあ。
それはそれとして、狩人とか盗賊系のジョブだったなら、索敵スキルでパーティの近くにいる魔物をサーチ出来たりするのだけれど。
盗賊系なヘンニーとダムドだけれど、ステータスを見るにそんな便利能力は無いッポイ。
でも、気配に気づいたりしてる不思議。
……もしかしたら、わたしに見えて無いスキルがあったりするのかな? 要修行なのかな??
そんな事を考えながら、腰の剣に手をかけつつ辺りを警戒してみる。
すると、先頭を行くダムドが、上げていた手を開いて小さく左右に振りだした。
「……どうやら、気のせいだったみたいだな」
ため息混じりに、ヘンニーが呟きつつわたしの背中をポンッと叩いた。
「よ、良かった~!」
自分で思っていたよりも、だいぶ緊張していたみたいで。プハッとばかりに肺から空気が吐き出されるのが解った。
「何だ嬢ちゃん、緊張してたのか?
手と気は抜かず、力は抜いておけよな?」
そう言ったヘンニーが、わたしの頭をクシャクシャと撫でる。
「あ、あいあい」
ヘンニーに返事をしつつ、わたしは頭を振ってヘンニーの手を払った。
それからしばらく、何事も無く森の中を進むわたしたち。
足元は悪いけれど、のどかな雰囲気にちょっとしたピクニック気分になりそうでビビる。
などと考えていた矢先、先頭を歩いていたダムドの声が上がった。
それは、前方から明るい光が見え始めたのとほとんど同時だった。
「おいおい、コイツはどう言う訳だ!?」
怒りとも困惑とも取れるダムドの声に、わたしたちも警戒しながら光の方へと歩み寄る。
「……何だ、これは!?」
次に声を上げたのは、アルバートだった。
薄暗さに馴れた目が、光に白く霞む。やがて、その霞が無くなった時、わたしの目に飛び込んで来たのは、あまりにも奇妙な光景だった。
「ここは、入口ですか!?」
ニードルスが、誰に聞くともなく呟いた。
わたしたちの目の前には、ついさっき通って来たばかりの鉄柵の門が。
その遥か向こうには、ローウェル伯爵のお屋敷が小さく見えたのである。
「これは、どう言う事でしょうか?
私たちは、確かに真っ直ぐ進んでいたはずですが……」
エセルの疑問は、わたしたち全員の疑問でもあった。
確かに、わしたちは入口からほとんど真っ直ぐに道を進んでいたハズだった。……道と言っても、木の間なのだけれど。
森の入口からは、ほぼ直線の道が1本あるだけだった。
途中に曲がる所や、分かれ道なんて無かったと思う。
もし、分かれ道があったのなら、わたしは気づかなくってもわたし以外の誰かは気づいて話し合いになるだろうしね。
「カーソン。お前、お祖父様から何か聞いていないのか?」
「い、いいえ。私は何も……」
アルバートの問いに、慌てた様に答えるカーソン。
それに、ニードルスが続いた。
「カーソン殿、収穫祭の時は森に入るのですよね?
その時も、今の様に戻されてしまう感じなのでしょうか?」
「わ、私は入った事がありませんでしたので、詳しくは解りません。
森に入るのは、その年の収穫祭で神子を勤める村の若い女性と、その従者役の未婚の女性だけです。
毎年、供物を持って森の中心である樫の巨木を目指していますが、皆、問題無く巨木までたどり着いて、供物を置いて戻って来ています」
ニードルスの質問に、カーソンは緊張した様に答えてから小さくため息を吐いた。
「やれやれ。こうなったら、木を切り倒しながら直進するか?」
「だ、駄目です!
森の木を切る事は、ローウェル伯爵家の名の元に許される事ではありません!!」
ダムドの言葉に、カーソンが目を見開いて抗議の声を上げた。……今までで、1番声出ててビビッた。
「チッ、冗談だよ。
これだから貴族は……」
カーソンの抗議を受けて、ダムドは天を仰ぎながらブツブツと文句を呟いた。
ぬう、でもどうしよう?
本当なら、天高くそびえる樫の木を目印に進みたいのだけれど、空は木の葉の天井に閉じられてしまってほとんど見えない。
ハーピィのフリッカに空から誘導して貰うにしても、同じ理由で無理だろうしなあ。
「何か、あたしたちって森に嫌われちゃったのかな?」
森の外と中を見詰めながら、ジーナがポツリと呟いた。
その瞬間、わたしの頭の中に懐かしい記憶が蘇った。
まだ、ゲームだった頃の記憶。
ハイリム王国の遥か南に、〝始まりのエルフ〟の住む森がある。
設定では、全てのエルフの起源とされるエルフ族の王的な存在で、メインクエストを進める上で超絶重要なNPCだった。
エルフ王に会うには、彼の住む、巨大な迷路みたいな森を抜けなきゃならないのだけれど。
その森は、入る度に形の変わるマッピング不可能な場所で。
見えない通路や、森なのに隠し扉があったりして。
わたしは、1人ではクリア出来ずにチームの先輩方に引率してもらった思い出ですよ。
まあ、先輩方が言うには〝大体、千パターン位しか無いから、馴れれば平気だよ?〟との事だったけれど。
無理だからね? 普通は。たぶん。
それはさて置き。
森が変化するのは、エルフ王が精霊たちに命令して、道を変えさせているから! なんて設定があった。
つまり、それだ。きっと。たぶん。
「さすがはジーナちゃん、天才!!」
「ちょ、ウロさ……く、苦しいよ!」
あ、ごめん。と言いつつも1回ギュー。
あまりに嬉しくて、思わずジーナを抱き締めておりました。ベアハック気味に。力いっぱい。
「どう言う事ですか? 詳しく説明してください、ウロさん 」
やや興奮気味に、ニードルスがわたしに詰め寄る。
他のみんなにも、当たり前だけれど説明が必要だった。
「えと、森の精霊が……ゴニョゴニョ」
ゲームだった頃の話はしないけれど、大体の説明をしてみる。
話をする程に、全員の頭の上に〝??〟が浮かんでいる様な表情になって行く不具合です。
「ちょっと待ってくれ、ウロくん。
つまり、森の形を精霊たちが変えてると言うのだな?」
「そう」
「だから、気づかない内に進む方向を森に誘導されていると?」
「そうそう」
アルバートとニードルスの問いに、わたしはうなずいて答える。
「おいおい、ちょっと待て。
もし、お前の話が本当なら、何でコイツは気づかなかったんだ? コイツはエルフだろう!?」
わたしたちの話を、難しい顔で聞いていたダムドが、ニードルスを指差して言った。
みんなの視線が、一斉にニードルスに注がれる。
「えと、それは。ニードルスくんが森に住んだ事が無いからだと思う。たぶんだけれど」
わたしの答えに、ダムドだけじゃなくヘンニーの目も丸くなった。
「おいおい、冗談だろ!?」
「エルフってのは、森で生まれるんじゃないのか?」
2人の言葉を受けて、少し戸惑っていたニードルスだったけれど。
大きなため息を1つ吐き出すと、いつものニードルスの表情になった。
「確かに、私はエルフですが、森に住んだ記憶はありませんね。
ですが、何か問題でも? 森より、街の方が何かと便利だと思いますが?」
そう言って、クイッと顎を上げるニードルス。
いや、威張んな。
直後、ヘンニーとダムドが同時に吹き出した。
爆笑はしばらく続いた後、涙を流しながら、2人はニードルスの両側から肩を組んだ。
「いやいや、すまん。
何も問題なんかねえよ。なあ?」
「ああ、そうだ。
妙な詮索になって悪かったな。
エルフがみんな、お前みたいだったら良いのによ!」
そう言って、もう1度笑い出すヘンニーとダムド。
「わ、解って貰えれば良いんです!」
2人に再び困惑しつつ、ニードルスも不器用な笑顔を作った。
「良し、ウロくんの説を試してみよう。
何としても、我々は森に住む何者かに会わなくてはならない!」
アルバートの声に合わせて、エセルが再び隊列を組み直す。
今度は、わたしを真ん中にダムドとエセルの3人が先頭。
アルバート、ニードルスがジーナとカーソンを守る形で続き、最後尾をヘンニー1人が務める感じだ。
先頭が3人なのは、わたしが精霊を見える様にしてるお陰で視界が悪くって、普通の道があんまり見えないからだったり。要介護状態です。
再び森に入って、しばらくは何事も無かった。
問題が起こったのは、最初にダムドが停止した場所と全く同じ所だった。
「止まれ!」
ダムドの掛け声に、全員がその場で足を止める。
さっきと同じ様に、鳥の囀りと風のざわめきが……って、見えた!!
それまで、ただ、漂う様に宙を舞っていた植物の精霊が、木と木の間に集まり始めたのである。
するとどうでしょう。
木と木の間が、じょじょに狭まって行く超常現象。
ご丁寧に植物の精霊たちは、狭まって行く木々の前で両手で〝×〟を作っている。
異常は、それだけじゃあ無かった。
木々の形が変わると同時に、わたしたちの足元で伸びる草がわたしたちの進行方向をゆっくりと変えていたのである。
何、この荒業!? 野生の回転床??
こうやって、少しずつ方向をコントロールされてたなんて。
恐るべし、自然の驚異!! たぶん違うけれど。
「みんな、やっぱりわたしたちが移動させられてたみたい。
直進はコッチ!」
わたしが指し示した方は、木々がくっついて壁になっている。
もちろん、その木を避けて通る事は出来る。
「良し、ウロくんの指示に従って進もう。行くぞ!」
アルバートの声に、全員が変えられた向きを修正して歩き出した。
植物の精霊たちは、まるでこの世の終わりみたいな顔になって〝×〟を出し続けているけれど。
ごめんね、精霊さんたち。
これも、この世のシガラミって事で。また違うと思うけれど。
その後も、精霊たちの努力を踏み倒して行くわたしたち。
気持ち、精霊たちが痩せた様な気のせいだった。
歩き始めて、大体1時間位経っただろうか。
魔力を目に集中し過ぎたせいで、少しだけ頭痛がしてきた頃。
深かった森がきれて、下草も少し短い場所に出た。
「やれやれ、やっとで到着か」
わたしをその場に座らせてくれながら、ダムドが上を見上げる。
たぶん、みんなも見上げてたんじゃないかな?
わたしが目から魔力を解いた時、開けた空間の中央には、巨大な壁がそそり立っていた。
いや、壁じゃあないよ。
それは、真上に見上げなければ解らない程に巨大な、わたしたちの目指していた樫の木だったのだから。
「アルバートくん、これからどう……」
そう言おうとしたわたしは、ハッと息を飲んだ。
わたしとジーナ、カーソンやニードルスを中心に、エセル、ヘンニー、ダムドの3人が武器を構えて辺りを警戒している。
「静かに、ウロくん。何か、近くにいる様だ」
エセルの後ろで、それを補佐する様に剣を構えるアルバートが小さく声をかけてくれた。
耳をそばだてれば、わたしたちの周りをいくつかの足音が歩いているのが解る。
アルバートの後ろで、わたしも剣に手をかけ様とした瞬間。
「乙女よ。何故、武器を構えるのか?」
わたしの頭の中に、低い男性の声が響いた。
「誰だ!
訳の解らねえ言葉で喋りやがって、出て来い!」
わたしが戸惑う間も無く、ヘンニーが叫ぶ。
「エルフ語です。何者かは解りませんが、エルフ語で〝何故、武器を構えるのか?〟と聞いています!」
ヘンニーに続いて、ニードルスが叫んだ。
更に警戒を強めるエセルたちとは裏腹に、わたしは困惑していたり。
今の、エルフ語だった!?
わたしには、共通語だった様に聞こえたけれど。
そんな事を考えていたわたしの肩を、ジーナがトントンと叩く。
「ウロさん。今の、エルフ語だった?
あたしには、共通語で聞こえたんだけど……」
「わ、私もです。エルフ語は解りませんが、私にも共通語に聞こえました!」
たどたどしくジーナが口を開くと、それに続いたカーソンも同調した。
「ど、どう言うこ……」
わたしがそう言いかけた時、再び頭の中に声が響く。
「乙女よ、野蛮な者どもに武器を収めさせよ。
そうすれば、我らはその眼前にこの身を現そう」
……ヤバイ。
今のでまた1個、思い出しちゃったよ。
ユーザーから、〝セクハラクエスト〟とか呼ばれてたサブクエストの依頼主。
「みんな、武器をしまって。
彼らは、敵じゃないよ!」
「〝彼ら〟だと!?
お前、相手が誰か解ったのか?」
わたしの声に反応したダムドへ、わたしは首を縦に大きく振ってコクコクと答えた。
「……良し。皆、武器をしまえ。ここは、ウロくんを信じよう」
アルバートの言葉に、最初に従ったエセル。
エセルの凍りつく様な視線に、悪態をつきながらヘンニーとダムドが続いた。おっかねい。
「さあ、しまったよ。
出て来て、姿を見せて!」
わたしの声に、辺りがシンと静まった。
女性キャラクターでなくっちゃ、受けられなかったクエスト。
男性キャラクターだったわたしには、文字化けみたいで会話さえ解らなかったっけ。
一瞬の沈黙の後、いくつかの足音が近づいて来た。
下草のせいか、だいぶ小さいけれど解るそれ。
「……蹄?」
エセルが、小さく呟いた。
森の暗がりから、ゆっくりと姿を現したそれは、真っ白な身体に銀色の鬣。
それだけでも十分に美しい馬の姿なのだけれど、馬とは決定的に違う部分がある。
その額には、緩やかな螺旋模様のある乳白色の角があった。
角は、森の薄暗さの中であっても淡く光って浮かび上がっていて、まるで、魔力をおびた魔法の杖の様にも見えた。
「……ユニコーン」
気づかない内に、わたしの口から言葉がこぼれていた。
それ位、ゲームのキャラクター越しでは無い、自分の目で見るユニコーンは、美しく荘厳な姿に見えたのでありましたさ。




