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第九話 さよならイムの村

 翌日、村は、普段とは違った活気に包まれていた。


 ワイワイ、ガヤガヤ!

 ワクワク、ツルツル!


 村人生活10日目。


 昨夜遅く、村に2台の馬車がやって来た。


 行商人の馬車だ。


 グーグー寝てたのに、村のメンズがかがり火焚いて大騒ぎなんだもん。目が覚めちゃったよ。


 トーマスさんとジャンも、慌てて飛び出してくし。祭り? 祭りなの!?


 わたしは1人、何事か判らなくってわちゃわちゃしてましたがなあ。


 後で聞きましたら、野党なんかの可能性もあるからなんだとか。

 なるほど、セキュリティー的人類の知恵ですね!


 そんなこんなで、何気に寝不足なんですが、どうでしょう?


 午前中、わたしはトーマスさん引率の元に村長さん宅に向いました。


 もちろん、商人のみなさんに馬車へ乗せて貰える様お願いするためなんですけどね。


 わたしたちが来る前に、大体の事は村長のカレッカさんから伝えられていたみたいで、「この娘が行き倒れてた……」みたいなのが聞こえてきたけれど無視しました。ノイズだ、ノイズ!


「わたしが、この商隊をまとめてるトレビスだ」


 恰幅の良い、口髭の男性が言う。50歳くらいかしら?


 ぬ?

 トレビスって、どこかで聞いた事あるような?


 まあ、良し。


「はじめまして、ウロと申します!」


 すでに、馬車に乗りたい理由などは村長さんから伝わってるけれど、わたしの口からも説明する。


 こう言うのは、誠意が大切ですよ! たぶん。


「……なるほど、倉庫のために王都に戻りたいと?」


「はい、そんな感じです」


 かなりザックリ説明だけれど、どうやら通じたみたい。

 当たり前だけれど、異世界とかゲームだったとかの事には触れてない。触れられない!


「いいだろう。嬢ちゃん1人くらいなら、邪魔にもならんし。荷物も鞄1つだけなんだろう?」


「はい。ありがとうございます!」


「まあ、その分は体で払ってもらうかな!」


「えっ!?」


 ……はい、そんな訳でわたしは今、村の中央広場で商人たちに混ざって売り子をしております。


 指揮を取るのは、もちろんトレビスさん。


 若いけれど、テキパキと働くの男性陣は正社員気味?

 そんな中に、まだ、中学生くらいの少年が1人。


 見習い? バイト?

 見てて、かなり危なっかしいけれど。可愛いから許す。などと。


「おい、新入り。頼むから、足引っ張るなよな?」


「ハーイ、分かりましたセンパ~イ!」


 微妙な顔されたけれど、気にしません。商売よ商売!


「……いらっしゃいませ! お酒ですか? エールは1袋、銀貨3枚。1樽だと金貨4枚です! ワインは1袋、銀貨5枚で……」


「……物々交換は、あちらのカウンターでお願いしまーす!」


 普段、村では目にしない品々に、村の人たちは我先にと押し寄せてますが平気!?


 鬼気迫る感じで、なんか怖いですががんばります!


 現金買い付けより、やっぱり物々交換がメインみたい。


 ミルクや干し肉、お野菜の他には毛皮や木材なんかもあったり。具沢山?


 変わった所では、薬草とか。

 もちろん、マーシュさんだけれどね。


 あと、ジャンがゴブリン(妖魔)の骨を売りに来たり。


 そして、しっかり茶化されてみたり。

 ぬうぅ、1度も勝ててない気がする。ナゼだ!?


 ところで、ゲームだった頃とお金が変わっているみたい。


 今頃? とか思われるかもしれないけれど、村ではお金使ってなかったし。使う場所無かったし。


 ゲームだった頃は、お金は金貨1種類。単位はゴールド(G)だった。


 今は、金貨・銀貨・銅貨が存在すると知る。


 価値的には、


 銅10 → 銀1。


 銀10 → 金1。


 みたいな。


 とは言っても、銅貨はほとんどの使われてないみたいで見かけない。……とか思ってましたら。


「はい、お会計金貨12枚と銀貨8枚になります。……えっ!? 全部銅貨でお支払!? 銅貨1280枚です!」


 お前か、ジャン!!


 てゆーか、そんなにドコに隠してた!!


 10日も一緒の家にいて、まったく気づかなかった。


 どうやら、数年分の細かいお釣りとからしい。


「こらこら、お客様に向かってなんだその顔は!?」


「そうだよ、そんな恐い顔しないでよ!」


 おのれ、ジャン!!

 トレビスさんに怒られちゃったよ。


 スマイルよウロ!

 ピクニックフェイスなのよウロ!!


「はい、そうしますと、お売り頂いたゴブリンの頭骨1つと妖魔の骨10個。全部で金貨8枚(頭金貨3、骨銀貨5×10)ですから、差し引きで銅貨480枚いただきますね~!」


「え!? ちょっ!!」


 むふふふ、800枚お返しじゃ!


「嬢ちゃん、計算が速いな。どこかで文官でもやってたのか?」


 ぬ?

 普通じゃね?


 とか思ったのだけれど。


 良くみてみると、商人さんたちは手元で小石みたいな物を動かして計算してるみたい。

 ソロバンみたいな?


 わたしは、ってゆーか、1桁のかけ算なら空でイケるでしょ!


「まったく、ウチの奴らにも見習って欲しいよ」


 なるほど、字が書けるとか計算が出来るとかが特技になるのですね。


 とは言え、スキルにはなってなかったけれど。


「……やるじゃん、新入り」


「ありがとうございます、センパ~イ!」


 ふふふ、見直したかね? だいぶアレな顔されたけれど。うひひ。


 陽がだいぶ傾いた頃に、ようやく店じまいとなりました。


 今日、仕入れられた品々は、明後日には王都に持ち込まれて市場に流されるらしい。


 おお~!

 物流ってヤツですね!?


「いやあ、嬢ちゃんのお陰で仕事が捗ったよ。いっそ、ウチで商人として働かないか?」


「お、お役に立ててよかったです。でも、商人は無理です!」


「そうかい? まあ、普段は王都に居るから気が向いたら『ティモシー商会』を訪ねてくれよ?」


 むう?

 ティモシー商会??

 また、聞いた事ある気がするけれど……。


「……あはは、ありがとうございます!」


 生返事で答える。


 何か忘れてるんだけれど、どうしても思い出せない不具合ですよ。


 何やらモヤモヤしつつ、荷物を馬車に積み込むのを手伝う。


「明日の朝は、日の出前に出発だ。遅れたら置いてくからな?」


「はい、よろしくお願いします!」


 そんな感じに、トレビスさんたちと別れた。


 その日の夜、トーマスさんとジャンがお別れ会をしてくれました。


 この世界では初めてのパンに感動してみたり。かなり固かったけれど。


 さっき購入したであろう、ワインを振る舞っていただいたりして。


 ワイン、解らないけれど美味しかった。赤いヤツだった。


「また、いつでもおいで。歓迎するよ」


 ありがとうございます! トーマスさん。


「もう、行き倒れないようにね? 頑張ってね!」


 分かっとるわい! ジャン。

 てゆーか、泣いちゃうでしょ? そーゆーの! もー。アリガトネ。


 そんな感じに、宴は続いたのでした。


 翌朝、かなり二日酔いでグワングワンですが、旅立ちです。まだ、暗いです。


「よう、嬢ちゃん。ひどい顔だな?」


「だ、大丈夫です。ちょっぴりばかり飲み過ぎで……」


 みんなに笑われましたが、平気です。あんまり平気じゃないのはコンディションだけです。


「朝っぱらから千鳥足かい?」


「マーシュさん!」


 ああ、マーシュさん。

 愛弟子にお別れのお言葉でございますね?


「これから出かけるのに深酒なんざ、冒険者失格だね」


 あうち。

 辛辣なご意見、さすがはマーシュさん。


「まあ、気をつけるんだよ! たまには顔見せにくるんだね」


「はい、マーシュさんもお元気で」


「それと、これ持ってきな!」


 そう言って、マーシュさんはペンダントをくれた。


「もし、魔術学院に行く事があったらそれを見せな。あたしの師匠に会えるかもしれないよ?」


 !!


「まだ、生きてればだがね」


 カラカラと笑うマーシュさん。


 いろんな意味に聞こえて、あんまし笑えないです。

 でも、ありがとうございます!


「それより、あんたら護衛はいないのかい?」


 ぬぬ?

 そう言えば、トレビスさんと若手が2名。あとは、センパイ少年だけみたい。


「ああ、この村の途中までは2人ばかり冒険者と一緒だったよ。峠を越えた辺りで別れたがね」


 トレビスさんが、馬車のロープを結わえながら言った。


 え?

 大丈夫なの?

 丸1日くらいかかるんでしょ?


「大丈夫。王都までなら、道もなだらかだし危険な魔物も出ないからな!」


「……そうかい」


 マーシュさんが、やや不審そうにしている。ぬう。


 これって、いわゆるフラグじゃないのかな? などと。


「……気をつけるんだよ?」


「は、はい!」


 意味深に言うマーシュさん。ヤメテヨ恐イヨ!?


 そんな、不安イッパイですけれど出発したのでした。

 前の馬車には、トレビスさんと若手(ロジさん)が。

 後ろの馬車には、若手(カールさん)とセンパイ少年(ブレッドくん)。そして、わたしだ。


 なだらかな道とは言っても、馬車はガタゴトガタゴト。


 舌噛んじゃいかねない揺れですが、だいぶヤバイです。二日酔いが。うぷっ。


 道すがら、ブレッドくんはいろいろな話をしてくれた。

 主にティモシー商会についてだけれど。


 ふむ。

 ティモシー商会は、王都でも1、2を争う大商会みたい。

 会長のアンクル・ティモシーは、商売だけでなく様々な分野にも精通して……ムニャムニャ。


「おいウロ、聞いてんのか?」


「んが!? 聞いてます聞いてます。スゴいんですね、アンクル・ティモシーさんって!」


「そうとも! オレは孤児だったけど、親方に拾われて今日があるんだ!」


 なるほど、スゴい人なのですね。


 でも、同時に何やらザワつくものがあるのですよ。


 トレビス、ティモシー商会、アンクル・ティモシー。


 なんだっけ?

 思い出せそう!


「それに、親方は勇敢な者が大好きだからな。オレも帰ったら、下働き卒業だ!」


 !!


 思い出した!


 クエスト『秘宝を探して』の依頼人が『アンクル・ティモシー』だ。

 彼の口癖が「オレは勇敢ヤツが大好きだ!」だったっけ。


 クエストは、レベル100以上推奨のダンジョン探索だけれど、連続クエストだから最初のクエストから順にクリアする必要があって。


 最初のクエストは、初心者用のクエスト『ゴブリン討伐隊!』。

 そのクエストの依頼人が、トレビスさんだ!


『ゴブリン討伐隊!』クエストは、行商途中にゴブリンに襲われたと言う商人トレビスから受けられる。


 仲間を殺され、荷物を奪われたトレビスに、ゴブリンからクエストアイテム『奪われた行商人の荷物』を回収、渡せばクリアになる。


 フォーンの森のゴブリンなら、基本的にどのゴブリンからでもドロップするため、レベル上げがてら出来る簡単クエストなんだけれど。


 て事は?


 村を出てから1時間。

 日の出まで、まだ1時間はかかる。


 あつらえたみたいに、曇り空。


 ランタンの灯りは、数メートル先までしか照らしていない。


 ヤバイよね?

 これはマズいよね??


「どうした? 大丈夫かウロ?」


「だ、大丈夫です。ちょっぴりばかり考え事を」


「そうか? ダメそうなら言えよ?」


「あ、ありがとう」


 き、きっと大丈夫。

 今日、この瞬間にこの商隊が襲われるとは限らないし。


 とか考えてましたら。


 いきなり、ガツンと馬車が止まる。


 馬の、けたたましい嘶きが闇に轟く。


「ご、ゴブリンだー!!」


 間髪を入れずに、トレビスさんの叫び声が響いた。


 馬車は、ゴブリンの団体に囲まれていたのだ。

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