プロローグ
イマージュ・オンライン。
コンシューマーで人気のRPG『イマージュ』シリーズの11作目にして、初のオンラインゲームである。
綾野 環、21歳。
都内にある某大学に通う学生。
これがわたし、いわゆる中の人。プレイヤー的存在だ!
わたしがこのゲームに出会ったのは、今から3年前の18歳の時。
ずっと気になってたタイトルだったから、むしろわたしが会いに行ったが正しいのかも。
フルダイブ型のVRMMOは、端から見ればPCに繋がっている変なヘッドギアをかぶって横になってるだけに見えるから、実家では両親の理解を得られずに手が出せなかった。……ナゼ??
大学進学を期に1人暮らしを始めたわたしは、早速、イマージュ・オンラインのソフトとVR用ヘッドギア、プレイ出来るPCなどを揃えた。 ……グッバイ、わたしのバイト代。
わたしの分身は、背の高い金髪のまぶしい人間の男性にしてみた。
ちょっと頼り無さ気な優男風だけど、それなりにイケメンだ。
と、言うのも最初に作ったのは、自分に似せた黒髪の女の子。
いや、デフォルトでキャラクターメイキングすると、自分そっくりな感じになるのだけど。……まさかこんなに忠実に再現されるとは。
そのまま歩いてみたら、街に溢れるのは、なんか、みんなカッコ良かったり超絶美人だったり。ボディービルダーみたいだったりナイスバディなセクシーギャルだったり。
あまりに自分が貧相に見えて、慌てて逃げ出したテイタラクでしたさ。
その後、街で見かけた白い騎士様に憧れて、ならば騎士らねばと思い立ち。
騎士なら男性であろう。しかも長身の金髪であろう! などとエスカレートしていった結果が前述のアリサマだったり。
サービス開始から、すでに5年が経っているゲームだっため、新規なんてほとんど居なくて苦労したのは良い思い出だったりする。
3年経った今。
あの頼り無かった優男は、白銀の鎧に身を包み、身の丈はある盾を構える聖騎士へと変貌している。
レベルも最大になり、チーム内でも護りの一角として信頼を勝ち得ている。……ドヤァ!
そんなある時、ここしばらくなかったバージョンアップの噂が広まった。しかも、かなりの大型バージョンアップ。
まだ、正式な発表ではないけれど、チームの先輩方はほぼ確定とみている。
「今のうちに、アイテム整理とかしといた方がいいよ?」
「バージョンアップ後、運営からプレゼントが届くと思うから、枠、空けとかないとね!」
先輩方から、ありがたいアドバイスを受ける。
わたしは、まだ、大型バージョンアップを体験した事がない。
噂では、新しいジョブやクエスト。新モンスターに新魔法。装備などのアイテムから、果ては新たなエリアまで搭載されるのだとか!
「……そして始まる、バージョンアップのための壮絶なサーバーアクセス合戦」
遠い目をしながら、でも、奥に光を宿しながら先輩方は語っておられました。
でも、整理整頓は大事です!
早速、いらないアイテムをまとめて倉庫に送ります。
倉庫って言うのは、最初に作ったわたしそっくりな子。
アイテム数の多いイマージュ・オンラインでは、キャラクターが持てるアイテム数に限りがある。
最初は50。
鞄屋さんで鞄を大きくしてもらえば、最大で300まで持てる様になる。
それでも、やっぱりイロイロ手狭になるのが世の常気味です。
そんな時、1アカウントで2人までキャラクターが作れる事を利用して、もう1キャラクターにアイテムを預けてしまうのです。
これを倉庫キャラクター、訳して『倉庫』と呼んでいる。
飼っていた猫から取って『ウロ』と名付け、後で育てようと、第2候補だったジョブの『召喚士』を選択。 ……の、はずだったのだけれど。
やれ、成長が遅い!
やれ、魔法は売ってないから探し回れ!
あまりの不遇さに断念。
今では名前も『倉庫娘』で安定してしまっていたり。
メインの聖騎士から、雑貨や素材アイテム。使わなくなった武器や、聖騎士では着られない装備などなど。
全部まとめて、倉庫娘に送ります。
チームのみんなに、倉庫整理と、ついでにお風呂に行く旨を伝え、わたしはゲームからログアウトした。
視界が真っ白になって、やがて真っ暗になる。眼を開ければ、そこは見慣れた自分の部屋だ。
ゲーム用ヘッドギアを外しベッドから起きて、1つ伸びをする。
テーブルの上では、携帯が着信の点滅を示している。
友人からだ。
明日、お買い物に行く約束してたんだ。
返事を返して、ふと時計を見る。
「……22時かぁ」
それから、お風呂に入って小腹をみたした23時。
まだ眠くないって理由で、再びヘッドギアをかぶって眼を閉じてみたり。
目の前に、ゲームのメインメニューが浮かぶ。
キャラクー選択。
いつものクセで、メインキャラのアラーミに目が行く。
……おお、そうじゃ!
倉庫整理しなきゃだった。
やや慌てつつ、視線を倉庫娘に合わせる。
「ようこそ イマージュの世界へ」
音声案内が響き、足下がふわりと浮き上がる。
このまま、浮かぶように光に包まれログイン。
の、はずだった。
次の瞬間、足下がガクンと無くなる感覚に身体がビクンと跳ね上がる。
同時に、視界が真っ暗に閉ざされた。
「な、なにっ!?」
はっきり叫んだつもりが、くぐもってしまってちゃんと聞こえない。
身体の感覚がぼやけ始まる。
なのに、落下するような不快感は消えなかった。
不安が恐怖に、それすらも解らなくなり始めた頃、わたしの意識は、真っ暗などこかへと吸い込まれていった。