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【41】罪と罰

【中間あらすじ】血液の病気治療の為に禁断の治療を続ける澪と付き合う省吾。その省吾を思い続ける愛香。

しかし、愛香を突然の病魔が襲った。彼女の入院前に、省吾は愛香の思いを受け取る。

澪は愛香の病状を知っていた。彼女が入院したのは、自分の父親の病院ではなく、澪の父親が運営する病院だったのだ。

 庭木の木洩れ日が地面を照らすと、まだらに光を浴びたスズメたちが小さく跳ね回る。

 入院患者の誰かがこっそり朝食の残飯の一部をそこに捨てるのを知って、彼らは毎朝木洩れ日の中に入り込んでくる。

 秋の陽差に白い病棟が聳え、窓には青空が映り込み、白い雲が流れる。

「どうや? 具合」

 術後、両親以外で初めて愛香の病室を訪れたのは、真琴だった。

 もちろん、彼女が何処の病院に入院したか知る者は少ないので、これから先も訪れる姿は限られるだろう。

「うん、少しだるいけど」

 小さく笑う彼女に、真琴は大きな笑顔を返す。

「まあ、当たり前やな。それだけの手術だったんやし」

 愛香の手術は無事終わって、術後の経過も順調だった。

「真琴、学校は?」

「そんなもん、バックレや。何時もの事やん」

 真琴がそう言って笑うと、愛香も小さく笑って

「そうだったね」

 窓から入る午前中の淡い陽差は、揺らめくように愛香の白い頬を照らす。

 真琴はそんな彼女の姿がいかにも弱々しく見えて、胸に何かが込み上げる。

「愛香はあれやな、マスカラなくっても睫毛長いんや。うらやましい。あたしなんか、マスカラ取っただけで『おまえ誰や』言われるで」

 自分で意識して笑う事なんて、彼女の日常にはあまり無い事だった。

「今日は天気よくって外は暖かいから、はよう散歩出れるようになるとええな」

 真琴は喋り続ける。

 愛香はそんな彼女の話を聞きながら、笑顔で相づちをうつ。

 何時も喋ると止まらない真琴の話が、全く苦にならなかった。

 真琴はベッドサイドに置かれた小さな丸椅子に腰を下ろして、小さく息をつくと

「省吾には、会えたん?」

「うん……会えたよ」

「ご、ごめんな。余計な事して。ほんま、あたしらしくない事したわ」

 真琴は苦笑する。

 愛香は小さく首を振ると

「ううん。ありがとう。ショウが来てくれると思わなかったから、嬉しかった」

「そうか……そやったら、あたしもおせっかいの甲斐があったかな」

 そう言って、真琴は首を小さくすくめて笑う。

「でも真琴。よく、省吾の携帯判ったね」

「そんなもん、家にかけて訊いたら判るやん」

「家に電話したの?」

「そや。お母さんとちょっとだけ、仲良うなったわ」

「でも、自宅の番号は?」

 学校の違う真琴が、省吾の自宅番号を知るはずもない。

「そうそう、大変やったで。あの辺の住所は愛香に聞いとったから、電話帳で片っ端から北原って家に電話したわ」

「全部?」

 愛香は思わず目を丸くした。

「でもな、あの辺に北原って家は6軒しかなくて、3軒目にヒットしたで。あたし、くじ運いいからな」

 真琴がそう言ってあっけらかんと笑うので、愛香もつられておかしくなった。

 彼女はそんな愛香を見つめると

「でも、省吾には澪ちゃんって娘がおるんやろ?」

「うん」

 愛香の返事に、真琴は彼女の瞳を見続ける。

 愛香は彼女の視線の意味を感じて、クスクスと吹き出すように笑った。

「してないよ。あたしたち」

「そ、そうなん?」

「あたしは、して欲しかったのかもしれないけどね」

「ち、ちょっとくらいしてやったらいいのにな。あいつも、意外とケチやな」

 真琴らしい言葉だった。

「そんな気軽に言わないでよ」

「そうやけど……」

「充分満足させてはもらったから、いいよ」

 愛香の穏やかな笑顔に真琴は怪訝な笑みを浮かべたが、彼との間に何か吹っ切れる出来事があったのだと確信して、直ぐに安堵の笑みに変わった。

「あいつも、罪なやっちゃな」

 ……罪。罪深いのは誰なのだろうか。

 省吾は彼なりに問題を抱えて、これからも苦悩するだろう。澪は何時まで彼に自分の事を隠し続けるのだろう。そして、省吾が受け止めてくれた気持ちをこれからどうすればいいのだろう。

 愛香は真琴に小さな笑みを返して窓の外に視線を移すと、遠くの空に聳える高層ビル群を見つめた。






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