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にせものピエロ

作者: 天井舞夜

 私を抱きかかえる少女はドレスを身に纏い車の後部座席に座り、窓に映る動く景色を見ながら揺られている。

 こんにちは。私は西洋人形であり生き人形、名前はチョコよ。そして私を抱きかかえる少女は私の持ち主で友達の桃園夢│(ももぞのゆめ)。黒い髪はおかっぱで無表情な彼女は今年8才になったばかりなの。

 夢の隣りには夢の一つ下の妹である心│(こころ)がいた。2人の姉妹仲は良くも悪くもなく無関心。正確には、夢は心に対して関心があるし大好きなんだけど、心が夢に対して無関心。おかげで車内は静か。

 そんな空気の中、夢が口を開く。


「チョコは気持ちわるくない?」


 しかしそれは私に向けられた言葉だった。

 あの……私に質問されても困るんだけど。答えられないし。


「困るよね」


 夢は困ったような顔で私に言った。ちなみに私にはわかるけど他人には夢は無表情に見えるらしい。私も無表情に見えるけど。

 しかし傍目にはこんな奇行に走っている夢を誰も気に留めない。まあ、日常茶飯事だからね。

 夢は所謂コミュニケーション障害なのかな? 夢は人に対して必要以上│(以下?)に喋らない。「うん」や「ねえ」を言えば私からすれば喋った方だと思えるくらいに。夢自身は人間の友達はほしいみたいだけど、人前だと内心パニクっているらしく上手く喋れないため友達ができない。その代わり私達人形にはよく喋る。もちろん誰も言葉など返さない。しかし、驚く事に夢は人形の感情がわかる。

 まったく。私も喋る事ができればいいのにね?

 気が付けば目的地であるパーティー会場に到着した。


****


 高梨一族。今回のパーティーの主催者であり桃園家の招待者。高梨といえば国内でも有名で桃園家と並ぶほどよ資産家一族。まあそれはそれとして……。

 やっぱりこうなるのね。

 広い部屋、テーブルの上には豪華な料理、天井にはシャンデリア、スーツやタキシードを着た男、ドレスを着た女、まさしくここはパーティー会場ね。

 そんなパーティー会場で浮いている少女が一人。はいそうです。私の友達の夢です。

 夢は私を抱きかかえて部屋の隅でポツンと独り離れた所でパーティーを見ている。そしておそらく夢の視界には妹の心が大人や子供に囲まれてチヤホヤされているのを見ている。心のあどけない笑顔は決して姉の前では見せないもの。

 夢だってあれよ! 心くらい媚びた笑顔を見せれば心以上にチヤホヤされるんだから! ああ、そんな無表情で寂しそうな顔しないでよ夢。


「別に私は悔しくないよ。チョコ」


 悔しくないけど寂しいのね。

 夢は同年代の子と比べても小柄で小食なのよ。夢自身は食事を終えて既にやることがないのよね。

 そんな夢に近づいてくる少女がいた。長い髪はカチューシャで前髪をまとめておでこを出してツリ目でかわいい。赤いドレスと相まって高飛車な印象を受ける。

 夢はその少女から目を離さず、ついに夢の目の前で少女は立ち止まる。


「あなた桃園夢ね! 初めまして、私は高梨雅│(たかなしみやび)、よろしくね」


 少女の下手に出ようとしない態度は正に高飛車なようね。

 友達を作るチャンスよ夢! ほら! このタイプは一言返せば後はグイグイ引っ張ってくれるわ! とりあえず挨拶しなさい!

 夢は私を抱く強さを強め、あろうことか雅から涙目を逸らしてしまった。

 もう! 夢、そんなんだと一生人形しか友達できないわよ!


「夢は無口なのね。まあいいわ。私もパーティーに飽きたの、一緒に遊ばない?」


 尚も無言で目を逸らしている夢だった。


「仕方ないわね! 私の部屋で遊びましょ? どうせつまらないんでしょ?」


 雅は夢の手を握って強引に歩き出した。夢もそれに引っ張られる。

 この子、良い意味でも悪い意味でも相手の人柄を気にしないタイプね。まあ、夢にはちょうどいいかしら? 一応少し嬉しそうだし。

 雅はこっそりドアを開けると夢を連れて廊下を歩く。2階に上がりどこかの部屋のドアを開ける。


「夢は人形好きでしょ? 喜ぶかな?」


 雅は夢を部屋に入るように促した。夢は雅にエスコートされて部屋に入ると、不愉快と恐怖を混ぜたような雰囲気を醸し出した。理由はすぐにわかった。


「すごいでしょ! 私のピエロドール!」


 部屋を埋めるように十人│(形)十色のピエロ人形があった。いえ、ざっと100体くらいのピエロ人形があった。ある意味壮観ね。

 夢はピエロが苦手なのよ。それは人形も人間も同じ。それが恐怖の理由。

 不愉快の理由は単純ね。このピエロ人形達、夢の事を馬鹿にしてるわ。


「全部で100体あるの! 私はピエロが大好きなのよ。本当はこういうのはクラウンっていうんだけどね」


 この子……夢と同類なのね。夢と違って随分明るいけど。

 そして雅は悲しそうに言う。


「だけどね。この中に一体にせもののピエロがいるの」


 そうなの、としか言い様がないのだけど。


「だけど私にはにせものがどれかわからないのよ。にせものがあることはわかるんだけど……。夢はにせものがどれかわかる?」


 夢は意を決してピエロ人形に近づいた。100体のピエロが一斉に笑った。馬鹿にしたように、馬鹿にされるように。

 夢は無表情に怯えた顔で私を強く抱きしめて腰を引いた。それはそうよ。だってピエロが苦手なうえに、さらに人間以上に人形の感情がわかるため余計に恐いのはずだ。それにこの数……軽くホラーよ。

 夢はビクビクした足取りで歩き出しピエロ人形を観察する。一体一体を丁重にかつ迅速

に見つめている。

 約10分くらいして夢はすべてのピエロ人形を見終わった。

 さあ、夢! 偽物はどれ? 私には全然わからなかったけどあなたならわかるはず!

 すると夢は雅から背を向け無表情で泣き出してしまった。目から零れた涙が頬を伝い、息が乱れる。


「チョコ、私全然わからない」


 えぇー! ちょっと夢?! そんな……人形に関して夢がわからないなんて……。

 考えられる理由は2つ。一つ目、偽物など元からないということ。2つ目、人形の感情がわかる夢を欺くほど感情の演技が上手いということかしら。

 どっちにしても現状どうすることもできないのよね。夢と私が話す事ができれば少なくとも一つ目の理由を教えてそれを指摘させる事ができる。だけれど話せないのなら仕方ないわ。この子の頭だって良くも悪くも年相応だから。


「わからないよ」


 夢が抑揚のない声で呟く。

 夢、諦めないで~!

 そして私と同じ気持ちの人がもう一人。


「ちょっと諦めないで! そうだ! 適当に感で選んでみれば? 案外当たるかもしれないよ?」


 夢は泣きながらも少し歩いて私を片腕で抱きしめ、手近にあったピエロ人形を持って雅の前まで歩いて行きピエロ人形を突き出した。

 夢、私にはやけくそに選んだように見えたけど大丈夫なの?

 雅は夢からピエロ人形を受け取ると薄ら笑いで問いかける。


「なんでこれだと思ったのかしら?」

「アピールしてた」


 夢がしゃべった! 珍しいわ。

 それにしてもアピールしてたって……私達を欺いているピエロが偽物アピールするとは思えないけど……。

 もしかしてここのピエロ人形、全員グルなんじゃ……。

 しかし雅は私とは思いがけない言葉を口にした。


「夢すごいわ! 正解よ! よくわかったね!」


 え?! 正解なの?


「そう、これがにせものよ。ありがとう夢。あなたのおかげでにせものを見つける事ができたよ!」


 私は呆気に取られる。

 夢は無表情で顔を赤くして、嬉しいという感情が私に伝わって来る。そしてピエロ人形を持っていた手、今は空いた手で雅を抱きしめる。


「ありがとう」


 今度は雅が呆気に取られたけどすぐ笑顔で返す。


「どういたしまして夢」


****


 私達はパーティーを終え、桃園家に帰宅すると真っ先に夢は自分の部屋に脱兎の如く戻った。そして夢は私と嬉しさを抱きしめ言葉を紡ぐ。


「ただいまみんな。今日は楽しかった」


 広い夢の部屋、まるで寂しさを紛らわせるようにあっちこっちに人形が置いてある。雅のように100体とはいえないけど蒐集家でないことを考えればかなりの数だと思う。


「ごめんなさい」


 どうやら夢に対して怒っている人形がいるようね。理由は簡単、連れてってくれなかったから。


「友達ができたの」


 この言葉を受けた瞬間、部屋にいる人形が全員歓声を上げる。喜びの感情、褒めの感情、甘い感情、すべての人形が感情という言葉で夢を讃えた。


「ありがとう」


 夢が照れる。無表情だけど。

 今回のパーティーは夢にとって友達ができた良い体験だったに違いないわ。

 私は改めて考える。

 ……もしかしてこれって類は友を呼ぶ?

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