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同じ街の違う場所

俺は猫だった。一匹の黒猫だ。綺麗な毛並みのね

総てを見透かす様な目をした男の人の傍にいたんだ

刺のある言葉がたまらなく心地よくて...じゃなかった

たまに掛けてくれる優しい言葉が好きで

でも、途中で逸れてしまった。


私も猫でしたね。まぁオッドアイの白い猫でしたが、

え?あぁ、オッドアイというのは片目ずつ色の異なることを言います。

自由奔放、猫らしくあったというか、一人で居ることが多かった

そんな感じだったと思います


え?おじさん猫だったの?僕はねぇ~烏だったんだ!

色んな動物達とお話したんだよ!

猫さん犬さん猪さんアリクイさん狐さんハムスター

空も自由に飛べたんだ!えへへ、すごいでしょ!?


わしか?わしは多分、ボンの言う猪だったんじゃないか?

ボンはあの小生意気な烏に似とる

わしは何をするにも猪突猛進。剛毅なもんじゃった

ギッタバッタと薙ぎ倒し、ん?さあな?わしにも解らん

何を倒したかということは記憶にない


 「あらら?皆さん御揃いで何かしてらっしゃるので?」

どこにでもある、少しばかり栄えた街、御柱。その一角に

異国情緒溢れる通りがある、交国(こうこく)通り

様々な人種が集い、個性豊かな露店やお食事処を営んでいる

名のある大国から小さな島国まで、

十字に交わる路の丁度中心部に憩いの場というものがあり

人々はそこで茶会を開く、住民全員が参加するわけではないが、

今は学校も冬休みであり、主婦・学生も多く見受けられる

 「ダグ、教授、一さん、クレじぃ、チェスをやってるわけでもなさそうですが?」

さながらマジシャンの様な出で立ちの男が、話に花を咲かせていた彼らの傍に寄ってきた

ク「ベル!いつ帰ってきたんじゃ」

ベルと呼ばれた男はペコリとお辞儀をすると、椅子に腰かけ荷物を開いた

ベ「ついさっきですよ。これは、・・・今回の・・・お土産です」

鞄の中から次々と出てくる品に一同は顔をしかめた

ク「なんじゃ?この不気味な人形は」

藁でできた胴体に小動物の頭蓋骨を取り付けたいわくしかなさそうな人形

ベ「あぁそれは」

 「ミャクル族の身代わり人形か?」

ベ「流石!考古学・人類学の申し子と呼ばれるだけの事はありますね!

  ハプス教授!」

ハ「ハプスでいいと言っただろう。それにしてもよく持ってこられたな

  ミャクル族は警戒心が強いから、遭遇すら難しいのに」

ベ「いや、いい人達でしたよ?言葉は解りませんでしたが」

 「・・・また行き倒れになったの?」

モフモフした雪国用と思われるコートと手袋とニット帽に身を包む

小柄な少年が、憐みの表情を浮かべている

ベ「ティリー、そんなに何度も倒れてるみたいに言わないで下さいよ」

 「鈴深(すずみ)さん!せめてダグにしてよー、ティリーじゃ子供みたいじゃないか」

 「お前はどう見ても子供だろうに」

身代わり人形を遠目に見ていた長髪の青年が

ニット帽越しにダグの頭をポンポンと叩く

ダ「(いち)さんヒドッ」

ベ「そうですよ一夜(かずや)さん。子供には優しくしなくてはいけませんよ」

一「大丈夫だ、コイツの身長はここでストップだ

  156㎝で止まるなんて可哀想だが仕方ないんだ」

ダ「もう!二人してなんなのさ!まだ成長期だよ!」

頬を膨らませるダグをよそに、クレじぃは空になったバッグを逆さまにし、

中から落ちてきた写真を拾い上げた

ク「お?探し人は見つかったみたいだな」

写真にはベルとはち切れんばかりの腹部を持った男が写っていた

ベ「そう!そうなんですよ!」

一「あぁ、大学のチェスサークルの仲間だっけ?」

ハ「相当な腕前と聞いたが」

写真を見た限りでは、頭よりも手を頻繁に使っていそうだ

彼の足元にはスナック菓子の袋がいくつも落ちている

日本語の袋、英語の袋、その他多数の言語の袋

ベ「頭を使うとお腹が空くらしいです」

ダ「食べなくても一か月くらい生きていけそうだよねこのお腹」

ラクダの瘤を思い浮かべたダグだったが、

この腹には人間の行動力に変換できるだけのエネルギーは詰まっていない気がした

ベ「央粕(おおかす)は学生時代は私と同じくらい痩せていたんですよ。

  それが見る見るうちにこんな形状に」

思い出話を懐かしそうに話し始めたベルだったが、

誰も聞いてない事に気が付いていなかった

お土産の品に見惚れていると、妙な事に気が付いた

ク「ん?んん?」

一「どしたクレじぃ?」

お土産を横一列に並べ、底の部分をのぞき込んではまた並べ替えていく

ダ「え?なになに?」

そして、「これでいい」と移動するのをやめた

ク「人形や置物の裏側に、二つの数字と二つの平仮名が彫られていた

  おそらく何かしらの意味を持つ言葉になるのだろう」

ハ「元探偵は注意深く見ているモノですね」

ク「教授もメモを取っていたではないか」

ハプスは手元のノートを皆に見せた。数字と文字が書かれている

ダ「数字通りに並べ替えると、えっと」

一「と、き、は、わ、れ、ら、に、み、か、た、せ、ず」

ベ「え」

ベルは教授の持つノートをひったくり、文字と数字を記憶し

自分が持ってきた土産物を乱暴にひっくり返した

そこには確かに文字と数字が刻まれている

買う時には彫られていなかった文字と数字が

ハ「どうしたんだベル」

ダ「ちょっと怖いよ?」

ベ「そんな、買った時にはこんなもの彫られてなかった」

ク「写真の男が彫ったんじゃないのか?」

ベ「彼に会ったのはこれ等を買う前です。

  それに買ったモノじゃないモノもありますし」

ミャクル族の人形がそうなのだと、ベルは興奮気味に話している

ベ「そ、それに!この言葉は」

一「ときはわれらにみかたせず、われらはおうに」

ベ「あかしをしめす」

ハ「君の知っている言葉なのか?」

ベ「私にチェスを教えてくれた親友との・・・合言葉みたいなものです」

ク「その親友は確か」

ベ「ええ、事故で死にました。・・・そういえば、旅先で彼の夢を見ました」

夢の中で話した彼は、妙な姿をしていた。ハッキリ言って別人だったが、

彼なのだと確信できたという

電車の脱線事故でこの世を去った親友「荷稲(かいな) (ひろき)

一「聖なる日に亡き親友から合言葉のプレゼントってか?」

困惑しているベルの肩に手を回し、「忘れんなよって事なんじゃね?」と

彼にだけ聞こえるように囁いた

ダ「なんだかんだで、ここにいる皆は夢観てんだね」

ベ「夢?」

ハ「前世なのか何なのか、皆同じ様な夢を見ているのだ」

ク「お前さんが来た時に話していた事さ」

一「案外さ、俺等、前世で会ってたんじゃないか?」

ク「わしとボンは確実に会っておるしな」

ダ「教授もいたよ!」

ハ「興味深いですね。何故こんな夢を見たのか、急に現れた文字

  さすがにこの謎は解けそうにありませんが」

元探偵と大学教授は額に皺を寄せながらお互いの意見を言い合う

その横では成長期と言い張る中学生と、だらしなく伸びた前髪がウザったい社会人が

男に求められる理想の身長について議論している

バラバラなはずの自分達は、何かで繋がっている

 「意識に無くても繋がりは内側に確かに存在する」

彼はよくそう言っていた

ベ「異なる世界があるのなら、私達は何処かで会っているのかもしれない・・・」

物思いにふけり、空を見上げそう呟いたベルをダグや一夜がからかう

教授とクレじぃは若者たちを見守り、また話を始める


どこにでもある街のもう一つの話


掻き回すのは無垢な子供か、はたまた無邪気な大人か、

答えの出ない問いを、人々は常々抱えている。

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