偶然か必然か、それとも奇跡か
12月24日 言わずもがな、クリスマスイヴである。
御柱駅西口付近:14時48分
「そこの一人ぼっち、暇なら俺と一緒に踊らないか?」
蹲った一人ぼっちは答える
「赤い服のお兄さん。僕は踊り方を知らないよ」
彼の手を取り男は言う
「大丈夫!さぁ立って」
一人ぼっちは戸惑いながら立ち上がる
「こう?こうでいいの?」
覚束無い足取りで男の言ったとおりに動く
「そうそう!うまいじゃないか!」
男は一人ぼっちの頭を撫でると笑顔でこう言った
「最後は歌だ。いい声で鳴いてくれよ?」
辺りに赤い飛沫が飛び散る。綺麗な歌は聞こえてこない
代わりに響いていたのは一人ぼっちの笑い声
人でごった返す煌びやかな駅構内を抜け
西口タクシー乗り場の前に十数人の人集りが出来ていた
その中心で何やら盛り上がっている様子
「そう、殺人鬼は二人いたのさ」
前を見ずに手元の端末の画面を凝視しながら青年はそう締めくくった
「えぇ~何それ怖っ」
口元に生クリームを付けたままで居る少女が、
そばに居た青いパーカーの青年にしがみつく。が
「汚ねぇ。クリーム拭けよルカ」
パッと振り払われてしまった
瑠「あおちゃんヒドイよ!」
「どっから拾ってきたんだよその話」
壁にもたれ掛かる目つきの悪い青年が興味もなさそうに呟いた
「信憑性ゼロだな」
何処かに電話をしていた細長い男性も、
わざわざ電話を中断して口を挟む
「もっくんセンス無いぞー」
睦「うるっさいわ!ならお前が何か話せよダル」
樽「ダルはやめろって言ってんだろ!」
「ダルってwwwwやばw」
樽「エェ!?何が面白かったの!?さっきも言われたよ?」
睦「俺のセンス半端ないから」
睦疾のドヤ顔が光る
樽「それはない」
樽の引きつった強面は警戒心を剥き出しにして唸っている犬のようだ
「はーいはいはい、今電話してるんだから静かにしようね」
パンパンと手を叩いて号令を掛けるショウ
さしずめ、保育園の保父さんといった所だろうか
寝(・・・なんだ、纏め役いるじゃないか)
もしかしたら自分が居なくとも、この場をまとめてくれるのではないだろうか?
電話相手の返事を待つ間、視界の隅に居る彼を見つめた
「あ、あの」
綺麗に整列した十数人から一人はみ出してきた
予定になかったお客様だ
正「あー、トキサカさんだっけ?何?」
悠「はい鴇祥です。わ、私はこの辺で...」
樽「奇跡だ」
悠「え?」
樽「鴇祥さんは一直線な人だから最後までしがみつくと思ってたのに」
悠「そんな///一途だなんて・・・褒めても何もでにゃいですよ」
樽「駄目だ普通だった!!」
潤「失礼だよタル!トッキーに謝りなよ!」
瑠「でも喜んでるよ?」
睦「ドMか何かか?」
悠「いいえ!ドッチかといえばSです!攻めたいです!あ、でもタル君なら///」
睦「駄目だ変態だった!!」
潤「虹嚶さんもヒドイですよ」
睦「モクヤでいいよ~さんイラネ」
相変わらず騒がしい集団の脇、
壁に寄りかかる男女はその様子をしっかり見ていた
海「ねぇ、アレわざとかな?」
隣にいる彰にも、集団を見るように促す海都
彰「知り合ったのはさっきだが、わざとじゃないと思うぞ?」
海「にゃあ だって~」
彰「お前もショウに使ってみろよ」
海「なんでよ?」
彰「きっと可愛いって言われるぞ?」
そう言って頭を撫でられた。突然の事に私は固まってしまった
だって、あの彰が!無骨でいい加減で不良の彰が、
今まで見せたことのないくらい爽やかな笑顔で
『可愛い』だよ!?
彰「ん?どした?顔赤いぞ」
次に気がついた時には彰の顔がすぐ近くにあった。私はそれを
海「っ」
思いっきりぶん殴った
後ろは頑丈な壁なわけで、勢いは逃げずに彰に集中するわけで
ダメージはいつもの倍なわけで
彰「ゲェッ...っにすんだお前!」
海「あ、アンタが悪い!」
この二人なら必ず喧嘩になるわけで...
寝「あー、すみません。いえ、ホントに。はい。はい」
月見里は予約していた店に遅れることを説明していたのだが
向こうは向こうで準備が間に合いそうもなく、
連絡を入れようとしていたのだとか
「本当に申し訳ないです。ええ、どのくらいで...」
左腕に付けている時計を確認しながら時間を計算する
寝「駅から大体10分なので、あと一人を回収してからだと、15時10分頃」
「あの、重ね重ね申し訳ないんですが15時20分頃に着て頂けると・・・」
『えぇー!?これもこんなに?多すぎるって』
『これは流石に配りきれねぇよ』
『客に混じって私達も頂けばいいのでは?』
寝「凄く退屈そうな声が聞こえてきてるんですが、何かあったんですか?」
「実は、人数を勘違いしてまして」
寝「食材が足らない感じですか?」
「いえ、多すぎるのでどうにか減らそうと思いまして
それならいっそご近所さんに配ろうかなと」
寝「それなら問題ないです」
「それはどういう?」
寝「こちらも謝らねばなりません。人数を伝え間違えていまして」
「5人くらい増えたりしますか?」
寝「増えたりします」
「・・・良かったァ~!」
寝「それでは、キリのいい15時30分で」
「はい!お待ちしてます!」
寝「さてと」
話の判る店長さんで良かった。
普通の店なら、こんな忙しい日に人数変更なんて受けてくれようもないだろう
そういえば、あのお店は誰が見つけてきたんだっけか?
蒼「話は纏まった感じですか?ネコさん」
寝「うん。平和的に解決しそうだよ」
蒼「平和ですかw俺にとっては」
寝「ASHと樽にとっては喧騒になるかも」
蒼「やっぱり」
青いパーカーのフードを被って項垂れている蒼月
寝「話があるからトキサカさんもクロミヤさんもこの場にもう少し居てね
僕はちょっと人を捜しに行くから」
ヴーヴーヴー
月見里の携帯が手元で震えた
叶「ダメだった。それらしい人見つからないや」
叶渡と轍叉には、早寝と思しき二人組を捜してもらっていた
轍「ネコっちも手伝ってよー」
いつものことだが彼女が僕を呼ぶときのアダ名は統一性がない
「やっちゃん」と呼ばれた時は自分の事だと気がつかず
目の前を通り過ぎ、「無視はひでぇよー!!」と泣き出すまで本当に気付かなかった
いや、でもアレは轍叉にも責任があるだろう
いつもと違う髪型、履かないと豪語していたミニスカート、
見るからに女の子な彼女を一発で見つけろと言うのは余りに...
確かに、周囲に居たどの女性よりもオーラはあったが
寝「今向かうよ。二人共どこにいる?」
轍「俺等は今東口ぃぃああ!!」
寝「うおっ」
いきなり耳元で叫び声を上げられ、僕は釣られて悲鳴を上げた
かなり恥ずかしい
轍「いたいたいたいたいたいた!!」
電話の向こうからは何かを見つけたと思われる
興奮気味の轍叉の声と
叶「いたたたたたた!!痛いマジで痛い!!」
痛みに耐える男の子の悲痛な叫び声が聞こえた