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五千八百円と彼女

作者: 五丸 光

男性のみなさん、彼女とご飯を食べに行きその値段が五千八百円だったらどうしますか?割り勘?それとも全額払いますか?


 伝票を見ると、今まで頼んだ料理とデザートの名前のしたに五千八百円の文字が書いてある。

「俺、トイレ行ってくるから払っといてくれよ」

 男が財布から五千円札を取り出し、目の前の女に渡す。瞬間、女の頭の中に昨日見た雑誌の内容が流れ出す。

「(これって!昨日見た雑誌に書いてあった!確かお金を渡して、いくらお金がかえってくるかで女を見るっていう男の常套手段!)」

 女はそう思っていた。だが、男はそんなことは考えていなかった。なぜなら彼は、一万円札と間違えて五千円札を女に渡してしまったのだ。

彼は最初から奢るつもりでご飯を食べに来て、本当にこのタイミングで尿意をもよおし、女が勘違いしてしまったのである。

「わかった!いってらっしゃい!」

「お、おう」

 男は女の威勢の良い返事に少し戸惑いつつ、レジとは反対方向にあるトイレに向かっていった。

「(昨日、読んでてよかった。男は女のココを見る!!完全版)」

 男はそんな女の心中はいざしらず、トイレのドアに吸い込まれるように入っていった。

「ククク....アンタの考えなんかお見通しなんだから。」

 女は会計を済ませに、席を立った。

「..ご、五千八百円になります」

「ふふふ....」

 女はこの後の男の反応が楽しみで仕方ないようだ。その証拠に、店員の凍りついた営業スマイルに気がついていないのだから。

「ありがとうございましたー」

 会計を支払い終えると男がトイレから戻ってきた。すぐに店をでる、すると女は立ち止まった。

「どした?忘れ物?」

「違うよ、さっきのお金」

 女は、ふふんと誇らしげに財布の中からお金を取り出した。

「あぁ、お釣りか」

 男は女が取り出したお金をしまうために、ポケットにある財布に手を伸ばしていた。なのだが

「へ?」

その動きは、女が差し出しているお札の額によって中断させられた。差し出されたお金は一万円札なのである。

「ほら!諭吉!」

 女は思っていた。返すお金は大きいほどいいと。だが、昨日見た雑誌の内容では『ちょうど半分が無難。だけどちょっと多めに返すとしっかりものだと思われるよ。』と書かれていたのだが、女はそこらへんの文章を読んでいなかったのである

「ほら!受け取りなさいよ!」

「なんで俺が渡した一万円が帰ってくるんだ?」

「はぁ?何寝ぼけたこと言ってんのよ。あんたが渡したのは五千円札じゃない」

「あれ?....本当だ」

 そう言いながら、男は財布の中の金額を確かめ納得した。もし、女に一万円札を渡したのであれば、減っているはずの一万円札が財布の中にあったからである。

「でもなんでお前は一万円札を俺に渡すんだよ!?」

「あれ?....違った?」

「違うし!俺が五千円出してお前が俺に一万円出すってどんな錬金術だよ!」

「はぁ?アンタが私をどんな女か確かめてるんでしょ!お生憎様!そんなのお見通しなんだから!」

「確かめてる?なんだよそれ?」

 男は状況を掴めずにいた。それもそのはず、男は一万円札を女に渡したつもりだったという勘違い、女は昨日の雑誌の細部まで見ずに、値段の倍近いお金を男に支払う間違い、というおかしな勘違いを二人ともしているのだから。状況を把握しろというのが無理な話なのである。

「もぉぉぉ....ほら!これよ!」

 女はこんなやり取りに嫌気がさしたのか、隙を見てまた読むつもりだった例の雑誌を丸め筒状にし、剣道部さながらの振り下ろしで男の頭に勢いよくぶつけた。

「痛って!なにすんだよ!」

「いいから!えぇっと........ここよ!ここを読め!」

「何なんだよ....ってなんだよこれ?男は女のココを見る?」

「そうよ!そのページの、もしお店でご飯を食べてお金を渡してきたらっていうところ!」

「なになに..................................お前これちゃんと読んだのか?この雑誌には半分かちょっと多めがいいって書いてあるけど」

「えっ?ちょ!返せ!」

 女はひったくるように雑誌を男の手から奪い、例の項目に目を通す。するとだんだんと女の表情が引きつった笑顔になってきた。

「....あはははは!なるほどねぇ!そういう解釈もあるわけね!」

 そしてさらに女は、なぜが親指を立てグッド!と言っている。

「解釈ってかそれしか書いてないだろ!」

「うっ、反論できない....」

「まぁ気持ちは嬉しいけどさ、俺に奢らせてくれよ。俺だってバイト代貯めてるし、何しろ彼女にカッコつけたいてのがあるからさ」

 男は照れくさそうに笑っていた。

「な、何いってんのよ!ほら、もう行こう!」

 女は男の手をとり少し俯きがちに歩き出す。その顔は夕日に染まり紅く色づいていた。

「五千円だしたからっていい気になんないでよね!八百円は私が出したんだから、完全に奢らせたわけじゃないし!勝負はこれからよ!」

「勝負ってなんのだよ」

 男は笑いだす。すると夕日がさらに紅く彼女の顔を照らしていた。






初めて投稿しました。間違った表現や、ここおかしくね?などの文章などがあると思います。そんな時はやさしく指摘して下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 拝読しました。 やっぱり男は全額払おうとする場合が多いんでしょうね。 勘違いで暴走する彼女が面白可愛かったです。
[一言] こんにちは。 二人の会話のやりとりがほのぼのしていて素敵ですね。勘違いした彼女が元気で可愛らしいなぁと思いました。彼の描き方も温かくていいなぁと思います。 これからも執筆頑張ってください!
2012/09/24 09:46 退会済み
管理
[良い点] 微笑ましいやりとりが、ほのぼのした雰囲気を醸し出していました。好きなタイプの話です。 [気になる点] 締め括り方(夕日の件)から、彼女の気持ちが読み取れないので、少し変えてみては? […
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