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episode5 後編

ついに最終回です。


桜姫と会わなくなってから二週間が過ぎた。

もうすぐ三月になる。

吉本は俺に殴られたのがかなりこたえた様で、あれからちょっかいはだしてこない。

留年は免れたし、イジメも軽くなった。

俺としては万々歳の結果のはずなのだが何か足りない。

桜姫は会ってそう時間も経っていなかったしたった数日少し話しただけの関係だ。

それなのに何なんだ、この喪失感。心に穴が空いたみたいだ。


そこにあいつはいないとわかっていても足は俺をそこへ連れて行く。

今日もそうだ。無意識にここに来ている。

桜の木の前に女の人が立っていた。

桜姫でなかった事に少し落胆しながら目を凝らした。

和服にどうも見覚えがある。

女の人は俺に気づいたのか、こっちを向いた。

「春か、何だまた来たのか。」

顔は大人びていたが紛れもなく桜姫だった。

意外と美人で思わず顔が紅潮する。

「ここ最近見かけなかったけど、どうしてたんだよ。」

そう言うと桜姫は少し笑った。

「わらわは神じゃぞ、そう何度も人の前に姿を現す訳がなかろう。」

静かに、静かにそう言った。

何か変だ。

俺が不思議そうにしていると桜姫は両腕を前に出した。

「また抱いてはくれぬか?」

俺は黙ってそれに応えた。


「春はわらわが本当に神なのか疑っておったのう。」

俺の首に腕を回し、桜姫が呟いた。

黙ったままでいると桜姫は桜の木に向かってすっと手を振った。

枝についていた蕾がゆっくりとその身を開いていく。

しばらくすると俺達のいる場所は桜の花びらで薄いピンクに染まった。

俺は驚きのあまり言葉を失った。

「これで最後じゃ春。」

桜姫はぼそっと言った。

「何がだよ?」

「この桜が花をつけるのはこれで最後なのじゃ。」

そう言う桜姫の頬には涙が一筋零れていた。

何だか嫌な予感がする。

こいつまさかこのまま消えたりするんじゃないか?

そんな疑念が俺の中を支配した。


「この桜が死ねばこれに憑いているわらわも消える。」

そう言う桜姫の足元はもう透け始めていた。

俺は必死に桜姫を抱き締めた。

逝ってほしくない、消えてほしくなかった。

頬を温かいモノがすっと流れていく。

「泣くでない春よ、最後に本当の姿で会えて良かった。」

「最後とか言うなよ、素直に消えんなよ、いつもの態度でかい桜姫はどうしたんだよ!!」

もう感情の抑えが利かなかった。

その時ふと柔らかいモノが唇に触れた。

「また別の姿で会いにいく、その時までしばしの別れじゃ春。」

大きな風が起こって、桜の花びらを吹き上げていって思わず目を閉じた。

目を開けた時には桜姫は消えていた。

空っぽになった腕を見ていたら涙がとめどなく溢れてきた。

俺はしばらく一人で泣いた。

子供の様に声をあげて泣いた。


「早坂!!」

後ろから声をかけられた。吉本だ。

「その......悪かったよ......いいパンチしてんな、お前。」

俺は苦笑いした。

桜姫が消えてから本当の桜の季節がやってきた。

クラスにも馴染んで、サボったりもしないちゃんとした学生生活を送っている。

でも俺は今でもあの場所を訪れる。

もしかしたらあいつが戻ってきているかも知れないから。





END














































































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