第四十一章 孤高の剣士
セラゼラとの戦いが終わったものの、グリモアは未だルナやグレンと再開できずにいた。孤独が彼をむしばみ続け、憔悴から復帰できずにいる彼に、さらなる影が落ちるのだが……?
それではお楽しみください。
第四十一章 孤高の剣士
セラゼラとの戦いが終わり、あれから時間が流れた。といっても10数日程度で、劇的に時間が進んだわけではない。
しかし、この10数日は俺にとって、悠久を生きる吸血鬼のような渇いた孤独と、生ぬるい退屈な時間でしかなかった。
この世界に来てから、どんな出来事であれ、決して退屈するようなことはなかった、はずだ。けれど、満たされない心の器が、仲間を求める悲痛な疼痛になって胸を焦がしている。
会いたい。たまらなくみんなに会いたい。
これまでというもの、セラゼラが自分をどこまで運んできたかもわからず、ひたすら歩き続けている。
肉体に疲労はない。力を手にしてからというもの、飢えと渇きには困らなかった。
心の摩耗は、力のおかげで一人でもまだ保ち続けている。しかし、新たに満たされることはないので、すり減り続けている。このままでは、かつての自分に逆戻りしてしまうかもしれない。そんな恐怖が頭をよぎる。
ただ耐え忍び、足を前へ進め続けるうちに、自分に巨大な影がかかっていることに気づく。この影はただ俺の心が生み出した幻ではなかった。
崖がいつの間にか目の前に屹立している、そうとしか思えない現象から生じる影だったが、実際は絶望的に、決定的に違った。
ドラゴンである。
体躯は20メートルを優に超す大きさで、岩盤がめくれ上がったような土気色の外皮には鱗が岩の鎧を形作っている。
俺は一度、このドラゴンを図鑑で見たことがある。ヒュージ・ドラゴンという、Aランクのドラゴンである。土属性と風属性を併せ持ち、ブレスは土石流そのものの威力を誇るという。
だが、今現在の俺にとって、ドラゴン種でさえもさしたる脅威に思えなかった。
ドラゴンが、気づいてか知らずか塔のような尻尾をこちらへ横なぎに振るってくる。重低音をこすり聞かせながら、土煙を巻き上げながら、自然そのものを体現する脅威として鉄槌が向かってきた。
「ルイン・グリッター」
下段から左上に一秒かからずに振り上げる。剣圧に光が絡み、その本質にある闇が対象を突き抜けていった。
力のモーメントが過ぎ去った後に僅かの時間もおかず、尾がヒュージ・ドラゴンから離れ去る。ここで、初めてAランクドラゴンがその貫禄を発揮した。ドラゴン特有の鳴き声を上げることなく、ブレスをためる準備を始め、照準をこちらへ定めたのである。
しかし、少し溜めるのに時間がかかるようだ。以前の俺ならブレスをよけるか、吐き出す前に決着をつけようとしたのだろうか。今はその必要はないが、かつての自分の力量を少しばかり空想する。そんな余裕さえあった。
足に力を籠め、一足大きく飛び退く。それだけで、間合いは十分だ。
「オース・オブ・サンライズ」
魔剣グリモアがフレーズに反応し、俺の能力をその身に蓄える。濃縮し続け、ヒュージ・ドラゴンのブレスが吐き出されるその瞬間に、一気に魔力が拡散される。
閃光がほとばしる。真っ直ぐ伸びて、土石流を難なく貫通し消滅させながら、そのまま本体を突き抜けていった。
悲鳴さえ残さず、ヒュージ・ドラゴンは倒れ伏した。
これが、今の俺の強さだ。隣りには、誰もいない。
HAHAHA! Very 久しぶりな更新ネー!
すいませんサボってました。
久しぶりの更新なのに前書きは一年前に合わせて書いたので反省とかそういう誠意的なものは感じられないかもしれませんが、あとがきの謝辞で許してクレメンス(絶許並の感想)。
今回はようやくインフレの波の影響がよくわかる描写を心がけました。お楽しみいただければ幸いです。
なお、次回更新の目処はありませんが、途中で止めるつもりではないですので、また一年ほど待っていただければと思います(怠慢)。それではまた一年後に。