第三十七章 憂う寝起き
ゴールデンウィーク復活記念一日目!!
グリモアが目覚めたとき、あたりは一度来たことがある場所で……?
今日からしばらくよろしくお願いします。
第三十七章 憂う寝起き
木漏れ日がまぶたに当たり、陽光が波紋のように散らばって眼中を拡散している。
今がどこで何時ごろかも分からないが、ひとまず寝起きのように薄くまぶたを開ける。
「よウっ、起きたな!」
声が聞こえたときにはもう再びまぶたをクリアにさせ、視界をクリアな乳白色に染め上げている。つまり、既にまぶたを閉じていた。
「オイ、今完全に俺のほう見たよな?」
全力で否定の意思表示をしたいが、意思表示がイコールで肯定を示す反応に取られるのはもはや明白なので、自分が落ち着くためにも、ひとまず冷静さを取り戻そうとする。
しかしこの落ち着き払ったように見せている一連の行動だが、内心の驚きは半端なものではなかった。
ここがどこなのか、俺以外のみんなは無事なのか、知りたいことが山ほどある。しかし、最も驚愕したのはこの男が俺の目の前で飄々としていることである。
「何で、お前がここに?」
思わず聞いてしまう。聞かずにはいられない、不思議なカリスマとでもいうべき惹きつける感じを脳に焼きつけられたからだと納得付ける。
「アア? そりゃー、俺がオ前をここまで担イできたからだろーが」
クイっと親指で目の前のグリモアの後方を指す。あたり一面の雨林。ここは見覚えがあった、というより以前来たことがあって覚えていたのだ。ウィンダス沼を囲む森、ウィデリア湿林である。
「適応能力はそこそこアるみてーだな。起きて早々だから頭動かねーかもしれねーけど、選べ。その一、俺と戦う。その二、飯と風呂を済ませてから俺と戦う。その三、俺と戦うのを避けて、逃げる。その三を選んだらお前が迎撃するまで俺が攻撃の手を上げ続ける。以上だ」
やつは瞳に、既に闘志をたぎらせ今すぐにでも食って掛かろうといわんばかりの様子だが、目が覚めたばかりで復讐心を燃え上がらせるほどの胆力は持ちえていなかった。ので。
「二を選ぶ。まだ頭が痛いしな」
ゆっくり整理してから、時は少し進んだ。まず、愛刀ツヴァイハンダーだが、やはり夢や幻ではなく、柄を残してほとんど消失していた。食事を取って魔力の回復を確かめた後あの男と戦うことになったのだが、武器は依然としてないままなのだ。
が、そのことでやつに聞いてみると、
「そのままやれ。オ前なら武器なんざどうとでもなるだろ」
という意味不明の返答が返ってきたので、代わりもない。
次に、俺のパーティーがどうなったかを聞いたが、知らないとのことだ。まあ勝負に関係がないことで答えを得られるような感じじゃないことは第一印象から薄々感づいたことだったのだが。
そんなやつだが、試合の前にこんなことを言ってきた。
「俺はお前が察したとおり、グリモアだ。もちろん、グリモアになる前にもきちんと生イ立ちがアるぜ。生イ立ちがアるって事は個々を識別する名前があるって事だ。
だからお前と一戦する前に、まずは名前を言っておくべきだと、こう今更ながら思うわけだ。
俺の名前はセラゼラ・Y・カズキ。『審判のグリモア』だ」
やつの言葉の端々で引っ掛かりが見える。だが、この内容を記憶するにとどめ、まずは俺も名前を返して応じる。
「ただのグリモアだ。他の名は言えない。忘れたものだからな」
「そうかよ。俺には言ってくれても構わないんだがなア? まアいいさ」
空気にピリピリとした緊張が漲る。これが、セラゼラ流の戦いの初め、ということだと判断し、俺もまた臨戦態勢に入る。
間もなく、戦いが始まる。
ツヴァイハンダーの柄の先に刀身をイメージし、魔力で固着させて、正眼で構える。十数回、あるいは数回の剣戟で粉々になりそうな脆い刃だが、これ以上の方法が思い浮かばなかったので、このままだ。
「ハッ、それじゃア全然楽しめねエなア」
「……そうかよ」
魔力が混ざり合うので、刀身に新たなエンチャントは出来ない。仕方なく、爆発的な加速力を生み、武器をカバーするべく足元に圧力をかけ、つめよる。
「そうじゃねエ、そうじゃねエんだなア」
バギン、という異音を響かせ、魔力の刀身が砕け散った。
心外そうな顔をするグリモアは、更に意外なことをあっさりと口にする。
「オ前が我様に一矢報いた一撃、それをもう一度やってもらわねエと話にならねエなア」
「何だそれは? 何を言っている?」
俺が、一矢報いた……? その記憶は俺のものであるのか、そういう風に受け取れた。もちろん覚えていないから不思議な感覚になるが。
「まアイイ。肝心なのはオ前の戦術。無理にでも引き出してやるよ」
瞬間。
先ほどまでの攻撃がお遊びのような速度で、肉薄してくる。
「ッ!」
折れた柄では何の防御も出来ず、もろに刀身が腹筋に刺さる。
その時、熱くこみ上げてくる闘争本能を感じた。
腹の奥から心臓を経由して全身に血潮とともに送り出される力。脳に達し始めたとき、体はその異変をはっきり対外へ表出させた。
手を見やる。見知った手なのに、仄暗い粒子がベールになって手を包み込んでいる。これは?
「そうだ、そいつだ。『闇』だ。オ前の持つ力の根源に存在する、力そのものである、な」
グリモアのスキルに近づくための新たな力、『闇』。グリモアは少しづつそれを受け入れていってしまうが、その結果は果たして……。
次回投稿は本日15時を予定しています。よければ続きもお楽しみください。