第三十二章 誇りの決戦
前回の続きで、ヴァイエルを倒すことになったグリモア。
連続魔法に、剣術をある程度習得しているオールマイティな戦術のヴァイエル。今回は模擬戦なので魔法を使わない分、剣術などの読み合いが攻略の鍵になります。
少し短めですが、存分にお楽しみください。
第三十二章 誇りの決戦
「ヴァイエル様にご用事ですか。少々お待ちください」
王城の受付でヴァイエルを呼び出し、はやる気を抑えながら決闘を申し込む。
「随分また早い再戦になったさぁ。理由でもあるさー?」
「Aランクのドラゴンを倒したい。実力が必要なんだ」
「なんか、お前らしい理由さぁ。じゃ、さっさとやろうさ」
ああ、とうなずき、フィールドへ案内される。そこは以前大会が開かれた場所だ。
「ここは近衛隊から四鬼全員が使用できる決闘場なんさあ。気合が入るだろ?」
「ああ。コール頼む」
ギャラリーはいない。当然だが催し物でもなく、告知もしていないので見物人はここにはいない。いるのはファイターとジャッジ。
「十秒のカウントで試合を始める。勝負は肩から上への寸止め、もしくは片方のギブアップとする。異論はないな?」
魔法はなし。ヴァイエルの得意な連続魔法も形無しということだが果たして。
無言で圧力をかける。了承の意だ。
「では始める。十・九――」
まずは相手の出方をうかがう。俺は突進の構えに低い姿勢を取る。実際の戦術は下からの切り上げ、あごへの寸止めだ。
「八・七・六――」
秒読みが遅く感じるほどに、意識は研ぎ澄まされる。そんな折、現実世界では絶対に感じなかった感覚だと考えると、少し意識が揺らいだ。だが、問答無用に意識の隅へ追いやると、ヴァイエルの戦術を読み解く。
剣を横に構えている。ということは、突きを弾くつもりだろう。なら、切り上げを更にフェイントにして、全力で上から剣をはたく。隙が出来た所に足で剣を押さえて、寸止め。決まりだな。
「五・四・三・二――」
今度こそ意識を全力で剣にそそぐ。読み違えれば建て直しに時間がかかるから、勝負は最初で決める。
心は決めた。負ければグリモアには会うことも出来ないという考え。それを力に変えて、正面からヴァイエルを見る。彼は俺を見たことのない眼差しで眺めていて、それはどこか遠い高みからの視線だろう。俺も登る。お前を倒して。
そして時が訪れる。
「一――始め!」
開幕のスタートダッシュ。ヴァイエルは俺がそのまま突進してきたことに頷き、爽快な笑みを作ると、横一線に振りぬいてくる。
だが、それこそが俺の読み。一瞬ステップで後方に下がり、また突進。一呼吸ずれたヴァイエルの剣が所在無さ下に空を切り、すさまじい反応で剣を突き上げてくる。
そのまま流れに沿い、俺も剣を切り上げ、空中に浮いたヴァイエルの両刃の西洋剣を殴るように叩く。
ガガガアアアッ
二本の剣がドラゴンの悲鳴のような絶叫を上げる。押し切り、西洋剣が地面に突き刺さるのを目でおい、足を止めにして寸止めに入った。
「そこまで!」
鋭い制止の声。それは俺に勝利を告げる声でもある。
「勝者は挑戦者グリモア!」
静寂が一瞬降りる。剣を仕舞って、ヴァイエルの前に拳を突き出す。
「ありがとう、ヴァイエル。俺はまた前に進めたよ」
ヴァイエルは俺の突き出した拳に、自分の拳でカツンと小突く。
「俺にもいい刺激だったさあ。お前は前よりずっと、ずうーっと強くなってさあ。負けたけど、負けられないな、って思ったよ」
「それは俺もだ。絶対もっと強くなれよ。そんで、レッカとギルディを超えるくらいに強くなったら、また戦おう」
俺の無茶に、しかし「へっ」と笑って。
「天辺だけを目指してるんだ。当たり前さあ」
そんな風にいってくる。これだから、負けられない。
「それじゃあ、またな」
「おう。Aランクのドラゴン、狩って来いよ」
後ろを向いて、右親指を立てて、俺たちは約束した。
ヴァイエルに勝利し、Aランククエストを受注可能になった一行は早速ドラゴンの討伐へ。三人にとってはアイス・ドラゴンという強敵を倒した思い出の場所を通過して、目的地は更に奥へ続いていきます。
そこで待ち受けるものとは……?
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次回更新は明日の21時となり、引き続きお楽しみくだされば幸いです。




