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第三十一章 刹那の高揚

 大変お待たせしました。『起・承・転・結』の『転』に当たる新章です。

 気分一新錬金の話から、いよいよ主人公の生い立ちに関する話にも触れたりします。

 生い立ちといってもサブストーリーのような回想ではなく、「グリモア」にまつわる話の構成です。

 強靭で誇り高いとされ、誰もが羨む神聖的である種神秘的な絶対強者。

 謎に包まれた彼らと対面する主人公の面持ちとは……?

 それでは、ごゆるりと楽しんでいってくださいませ。




 第三十一章 刹那の高揚




 錬金の材料を取りに行くクエストを達成して何日か経った後、路銀稼ぎでまた違うクエストを朝から受けることになった。

 それまでは個別で受けられる仕事をあさったり、個人でクエストを受けたり、鍛錬だったりで、パーティーを組むことも久しぶりの感覚だったような。

「そんなにあせらなくてもクエストは逃げませんよぉ」

「甘いわね、リン。所詮早い者勝ちの紙切れよ」

 紙切れとまで言うか。せめて情報とぐらいは言えなかったのかなあ。

「それに、最近【グリモア】の噂があるらしいのよ」

「え? 俺?」

「それが、アナタじゃないのね。というか、グリモアが何かを知ってて名乗ってたの?」

 ゴフッ、やぶへび。首を横に振って否定の意を表す。

「いい? 【グリモア】という名前はこの世界の中で歴史に名を残せるくらいの偉人になると授けられる名前なの」

「それって、誰から?」

「国王、もしくは――魔王」

「魔王から?」

 魔王の話は、ゲートキーパーさんだったか、図書館でたまたま見た史書だったかで得た知識だ。大軍勢を率いて、何年かに一度王都へ侵略に乗り出す魔族の君主。凡庸な戦士なら数千が束になっても敵わないほどの、無限大でも比喩になる武力を持った、大いなる人災。

「国王陛下の所有する軍隊は、一般の兵士の部隊と、ヴァイエルも所属する十二騎士・それを超えた力を持つ七賢者、武神とも例えられる四鬼、王直属の兵に当たる右腕・左腕を冠するレッカとギルディ。以上ね」

 ヴァイエルが大体俺のちょっと上とすると、七賢者からの十三人くらいが目標レベルになるのか。

「話を戻すと、レッカとギルディのどちらかが、そろそろ【グリモア】になるだろうってくらいの規模なのね」

 うんうんとうなずいていたら、とんでもない文章が頭に割り込んできた。

「王の右腕とかになって、ようやくなる称号……」

 世界チャンプですか。

「ああ、さっき魔王からも授けられるみたいなこと言ってたけど、違いとかあるの?」

「特にはないわよ。途方もなさで言えば同じね。それよりも、アナタがそれを名乗っている事実と、最近グリモアが氷の平原や洞窟で目撃されるということね」

 グリモアの目撃情報を聞いた、その時だった。

 ドクン

 心臓の血液を送り込む、独特の重低音が聞こえる。胸に手を当てると、重く速い鼓動がイレギュラーな感情によって加速している。

「じゃあ、何を受ける?」

 気づくと俺はグレンの問いかけを無視して、一枚の紙を手にしていた。

「なあ、このクエストって」

「あん? アイス・ドラゴンもしくはウォーター・ドラゴンの上位互換とか揶揄されるクオラルフロスト・ドラゴンの討伐クエストか?」

 クオラルフロスト・ドラゴンはAランクの魔物で、Bランクのドラゴンより凶暴、しかも水と氷の二面性をあわせ持つので、単純な物量突破が困難といえる。上位互換とはまあ、あながち間違ってない強さを持っているそうな。

「その難度のクエストは、受注者が十二騎士を超えてなきゃ受けられないですのよ。仮に受けられたとしても、倒すのは無理ですわね」

「俺たちはヴァイエルを倒してる。それに討伐とかは考えなくていい」

「グリモア、説明が足りないわ」

 ルナの一言で少し感情が落ち着き、少し冷静さが戻ってくる。けれど、自分が抑えきれない久々の気分に流され、口早に説明をする。

「最近目撃されているグリモア、氷の平原とかで活動しているんだよな」

「だけって事はないけれど、確かな情報だわ」

「目的は何か知らないが、つまり場所に行けば見ることが出来る可能性がある」

 いつにない俺の話し方に、グレンとルナはいぶかしがりながらも、先を促す。

「クオラルフロスト・ドラゴンなら一定期間この竜の洞窟の先」

 街で販売されている近郊の地図をもどかしく取り出し、竜の洞窟の先の場所を指差す。そこにはドラゴンパレスという表示が。

「ロクに日が差さないこの辺りくらいなら、氷で覆えるだけの力がある筈だ」

「……そんな理由で危険を冒すのは反対だわ」

 ルナの言い分も最もだ。クオラルフロスト・ドラゴンはAランク、やっとの思いで倒したアイス・ドラゴンの更に上。メンバーが一人増えたくらいで勝てるとは思わない。

「ヴァイエルだって、ここにいないディノとエルの力を借りて倒したのよ? 中にも入れないわ」

「ヴァイエルは俺が一騎打ちで倒す。それと――」

 トントンッ、と自分の胸を小突いて息を整えてから、

「これは俺のただの勘だが、クオラルフロスト・ドラゴンとグリモアが関係している気がする。がんばれば挑戦できる今、何かのメッセージ性を感じるんだよ。その――上手く言えないが、相手が会いたがっているような」

 こんな言葉で説得できるはずはないなと思いながら、しかし。

「いいわよ。運命の導きっていうのは背くべきじゃないもの。例え先に何があっても、ね」

「ルナ……ありがとう。グレンとリンもそれでいいかな」

 二人にも大丈夫かどうかを聞く。一応、危険な案ということで多数決を採用するつもりだった。

「俺はグリモアを一目見れたらそれでいいかな」

 グレンはオーケーの二つ返事。リンは?

「危険だと思ったら迷わず逃げるわねぇ、見捨ててでも。それが条件」

 厳しい口調だが、目はなんだか笑っている気がした。本心では素直に賛成しているのを、本人らしく誤魔化しているのかもしれない。でも、よく分からなかった、そういう風に『やれやれ』と首を振って返す。

「のんびりと待っててくれ。ヴァイエルと話をつけてくる」

「ふふっ、のんびりね。待ってるわ」

 信頼を寄せてくれるルナ。思えば、いつも俺の背中を押していてくれたのは彼女だったのかも。でもまだ、この時点では分からなかった。

「勝てよ。負けたら話しにならねえ」

 お前なら勝つんだろうなという信頼のような、野心の混じった綺麗な嫉妬を、グレンらしく正直に向けてくる。いいぜ、勝ってくるよ。

「武器の手入れした? ハンカチもった? 目ヤニはなさそうだけど目にゴミが入ったら魔法かなんかで落とすのよー」

「過保護キャラがこんなに似合わないのは、世間でも数人だよ、リン」

 俺の言葉の直後にぶーたれていたが、こちらも二人と同じ、心配している様子はない。だからそれでこそ、俺たちはパーティーだ!!

「すぐに戻るよ」

 いってきますと言ってから、依頼解決所をあとにした。




 ヴァイエルとの勝負、一度は勝ったものの、それは単なるハンデ戦だったからであり、グリモアは最近強くなったとはいえ、五分あるかどうかの実力だった。

 果たしてグリモアは『グリモア』に会い、『グリモア』がどういった『グリモア』的存在なのかを、『グリモア』から聞くことが出来るのか!?

 分かりにくいですが、つまり勝ったらいいだけの話です。

 明日も9時ごろに投稿できるようにしますので、引き続きお楽しみください。

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