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第二十七章 謎で不可視の誘惑

 第二十七章 謎で不可視の誘惑




 朝になった。これといった気だるさはなく、二日酔いもなさそうだ。俺って酒強かったんだな、などとしみじみ思いつつ、仕度をする。

 程なくして、したくは終わり、いつも通り依頼解決所に向かう。




「よお、グリモア。待ってたぜ」

「まだ朝早いのに、出遅れたかな」

「その言い方は、まるで俺たちが――」

 そこでグレンが欠伸をして、たちまち、いびきをきはじめる。

「か、会話の途中で寝やがった……!」

「新人戦で優勝しただけのことはあるな……」

 と、周りから何気なくグレンの評価が上がったが、気にしない。

「ハロ~」

 ふと振り返ると、何だか見覚えがあり、しかし思い出せない顔と声にであった。

「誰?」

「あら? もうお忘れになって? ドラコ・アマゾネスのリーダーよぉ、あたくし。まあ“元”だけれどね。リンネル・レイド、リンでよろしく」

「グリモア・スティングスだ。チーム、解散でもしたのか?」

「いいえ。あれはただの寄せ集め。チームとも呼べないものだわ。この力で集めたもの」

 そう言ってウインクしてきたが、この力というのが何のことか分からない。

 沈黙が少し落ちた後、不思議そうに彼女は言った。

「アナタには効かないみたいね。“魅了”の魔法は」

「普通は効かないのよ。そんな魔法」

 いつの間にいたのか、ルナが言う。

「ルーナント・ヴェイルよ。魅了なんてあんまり期待できるものじゃないわ」

「そう? あたくし、この魔法は磨いていてね。動物だけでなく、少しの間ならヒトでも魅了させられるの」

 何でも、普通は小型の動物程度を魅了させるのが精一杯らしい。普通に使えば、だが。

というのも、知能が高いほど場の雰囲気にも過敏に反応するようで、シチュエーション次第では効いたりするのだとか。

「そこの彼はどうなのかしら?」

 そう言い、つかつかとグレンに歩み寄ると、揺すって起こしてから魅了をかける。

「あら、以外。効かないようね」

「ふぐふ~ん。んあ? 何の話だ?」

 あくび交じりに会話に参加するが、またうとうとし始める。寝ててもいいんだよ?

「また後でね」

「そうか。ふあぁあ」

 何の警戒もせず、また寝てしまうグレン。魅了の魔法、何故効かなかったのだろうか? というか、本当に効くのだろうか?

「おかしいですわね……ハ~イ、そこのあなたぁ?」

 急に、そこら辺でうろうろしていた男性を呼びとめ、片目をつむり、ウィンクする。魅了の魔法のようだ。

 今度は成功したのか、男性はフラッと、こちらにやってくる。

 しばらく本当に効いていることの実演のため、軽く面白半分の芸をさせていたが、しばらくして飽きたのか、魔法を解く。

「ハァイ、もういいわよ」

「……っ! はっ!」

 正気が戻り、不思議そうにしながら帰っていく。

「どう? ちゃんと効いてるでしょ?」

「そうみたいだな。それで、俺たちに何の用があるって?」

「パーティーを組ませて欲しいのよ」

「ふむ」

 断る理由は無い。戦力の増強になるし、金にも別に困っていない。一人増えてもリスクは0に等しいだろう。

 まず、ルナとグレン……グレンは寝てるし、いいや。ルナに聞いてみる。

「どう? ルナ」

「嫌よ」

 きっぱりとした拒絶。何故?

「他の男を誘惑して武闘会に参加したようなヒトが、まともだと思うの?」

「あら、失礼な物言いね」

 リンも食って掛かる。おいおい。荒事は無しにしようよ?

「味方に引き入れて、根こそぎ美味しいところ持ってかれるのが目に見えているわ」

「そんなことしないわぁ」

修羅場のようだ。グレンなら或いはだが、俺に割って入るだけの発言力があるものかどうか。一応リーダーだけど。

「あなた、何か言ったらどう?」

「うっ――まあ、チームの仲が断裂するようなら、入れないほうがいいとは思ってるけれど?」

「へえぇ。つまり、あたくしがこの女に嫌われているという一点だけで判断なさるの? 浅はかだわ」

 それもそうだ。現段階で仲が悪いのはルナとリンネルの二人だけ。外すにはあまりに理由が弱い。

「俺は――」

 その時、グレンが大きく伸びをして起き上がった。そして、何でもないことのようにさらっと口にする。

「いいじゃんか。旅は道ずれ、来るもの拒まずってな。昔の人が考えて言ってんだし、人数増加を渋る必要はない。だろ? グリモア」

 おお。めずらしく、冴えた発言だ。

「そうだな。深刻な問題が出てから考えても遅くな――くはないが、何とかなる。グレンのときもルナは反対だったことを思い出しても」

「グリモア?」

 失言。目で謝り、続ける。

「歓迎するよ、リンネル」

「こちらこそ、よろしくですわ」

 ジト目のルナを差し置き、握手を交わす。

 何故だか、また新しい始まりを感じた。




「うしっ、眠気も覚めたしクエスト受けようぜ」

 グレンが起きるまで適当に雑談してから、本題に入る。

「あんたを待ってたのに、エラそうね」

「気にするなって。ほら、これどうよ。【霊薬の材料集め】」

 グレンが張り紙の一点を指して主張する。難易度が高そうに見えたが?

「報酬もなかなか。難易度は高いにしても、葉っぱとかを集めるだけだし何とかなるだろう」

 いや、そんな都合のいいクエストが残ってる理由は難易度が高いか、アクシデントが発生するデンジャラスミッションかの割の合わないものだろう。

 と思い、説明しようとした所で。

「最初に相応しいクエストですわ。ぜひお受けになってくださいまし」

 早くもキャラが崩れてきたリンネルの後押しによって、言い出しづらくなる。

「じゃグリモア、それでいい?」

「いや、他のがいいかな、なんて」

「決まりね。ウィンダス沼は草原の奥の森林地帯のさらに奥よ」

 ぐう。既に発言権がない。

「外に出るわよ」




 依頼解決所を出てすぐに、街が賑々しいことに気づく。

「あれ、今日はやけに活気付いてるな」

「今日は久しぶりに音楽団が活動している日のようね。何周期かは忘れたけど、国民の有志が演奏を楽しんだりするの」

 へえ。前の世界では昔だが、道の駅でライブ活動をしていたこともあったらしい。それと似たような感じだろうか。

「折角だし、聞いていく?」

「そうだな。クエストもあるけど、一曲だけ聴いていこうかな」

 街道を歩き、音源までみんなについていきながら、演奏を想像する。

 この世界の道具や生活水準は相当に高く、街を少し出たら魔物が跋扈しているとは思えないほどだ。

「行きましょ」




「イえええええええい! キょうは私たちの宴を心行くまで楽しんでね! ソれでは早速! オリジナル曲【緑の花と青い薔薇】!」

 音源に到着すると、早速ライブが始まった。緩やかな曲調で始まり、しばし鑑賞する。内容はザックリ表現すると、結ばれないはずの男女が、ある約束を心の柱にして現実と戦い、世間に関係性を認められるまでに発展するハートフルな曲だった。

 詩そのものはよくある純愛なのだが、メインのボーカリストがしっとりと歌い上げて形を保っているので、聞いていて飽きない。

「いつ聞いても、即興とは思えないレベルの高さよね」

「そうですわねぇ。ボーカリストもさることながら、ベースも繊細な音色を出したり、曲調に合わせるのが上手いですわぁ」

 女子二人も満足しているようだ。グレンは、分かっているのかどうかという曖昧な表情で聞いているのが少しシュールだった。

「アりがとおおおお。コの曲はドラムの――」

 二曲目に入るまでのつなぎになったので、しめし合わせて他の人の邪魔にならないようにそっと場を離れる。後ろ髪引かれる思いだが、俺たちは日稼ぎの冒険者だからな。クエストに行かないと。




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