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第二十六章 後夜祭

 第二十六章 後夜祭


 しばらく時は進み、後夜祭が始まっていた。

 六回目の鐘が鳴り、夜が始まる。

「さ、後夜祭も始まったし、そろそろ出店でも回ろうかな」

大会の優勝者である俺たちは挨拶したり、場を盛り上げるためのいわば肴である。

後夜祭は賑わっていて、喧騒まじりの楽しそうな声が聞こえる。出店では食べ物も色々あるだろうし、楽しむとするかな。

 と、そこへ聞きたくない、しかし、いずれは聞くと思っていた、あの声がかかった。

「よーう。グリモアァァ。散々やってくれたな!」

 第一声に酒臭い毒を吐くジェンガ。見ると顔は赤くなっていて、どうも酔ってるっぽい。酒は何歳から呑めるんだっけ。そういや規定はないんだっけか。

「そっちから始めたんだ。文句はないだろ」

「はっはっは。別にそんな気はない。」

 ま、そうだよな。焚きつけるのが目的だったみたいだし。理由も、まぁ見当はつくさ。

「まあ、その……なんだ?予想外だった。あんなに感情を剥き出しにされると思わなくてよ」

 ジェンガがポツリ、と謝ってきた。

「俺もホントは大会を楽しみたかった。でもやっぱり初心者ばっかりだと、実力的に面白くなかったんだよ」

 回想する。思い返せば、身体能力は頭一つくらいは抜きん出でていたかも。

「そんなこったろうと思った。そんで焚き付けて、全力を出させて、より強く感じる敵を用意したってとこか?」

「バレてたのか。その割には思いっきり怒ってたよな? あれは本気だろ?」

「そうだよ。気に食わなかったからだよ」

 俺は先を言うべきか考えながら、グラスを手で撫でて黙る。

「何がだ?」

「色々あるけどま、方法がやっぱそうかな」

「方法ねぇ。俺にはあんまり思いつかねえな。どうすりゃ良かったって?」

「答えなんてないかもしれないけど、少しは自分で思うところがあるだろ?なにも焚きつけなくても、正々堂々と全力でぶつかってやったら、自然と合わせてくれるさ」

「どうだろうな。いまさらだけれど、そっちのが良かったかもナ」

勝負したいがために、純粋な悪意を求めるジェンガ。舞台裏では葛藤もあったかもしれない。

「ま、しめっぽい話はやめようぜ。悪者は悪者のままでいいさ。それより今は、後夜祭の真っ最中。さ、呑むとしようぜ」

「え?あ、ああ」

 酒をのんだらどうなるのか、まだ把握してなかったが腹をくくらなければなるまい。

 ジェンガに屋台に連行され、いよいよ逃げ場がなくなる。ちなみに屋台は焼き鳥屋だった。

「じゃあ、ルーキーバスターズ優勝を祝して――乾杯!」

「乾・杯!」

 まず少し口に含み、種類も分からない酒を飲んでみる。あ~、辛い? かも。

 とにかく刺激的な味がした。向こうの世界で飲んどいたら良かったかな、ていうか味は同じなのかな?

「で? グリモアは酒呑むの初めてなんだっけ?珍しいな」

「どこで知ったんだ……っていうか知ってたなら遠慮とかないのかよ」

 ジェンガが肴(焼き鳥。コケコッコー的な生き物の料理。茶毛ちゃけ把握できていない)をつまみながらこともなげに言う。

「グレンとはさっきしゃべったからな」

「え?しゃべってたのか?」

「ああ。熱いね。いいね。ああいうのは」

溝が埋まるのが思ったより早いな。グレンはいいヤツだし、悪気でやっていたわけでもないが――それにしたって早い。アルコールの力か? なんにせよ、よく分からない。

「お前のチームはいい奴ばっかりだ。俺も我が侭を通してくれる自分のチームが好きだ。」

「そうだな。みんな優しい」

 優しくて、温かい。それは向こうの世界では――残念ながら得ることが出来なかったもの。皆急ぎ、他人のことに目を向ける余裕がなかったように思われた、日々の寒々しさ。俺はまだ、抜け出せていない。

「あ~、それでその、なんだ? 酒宴の席で言うものじゃないかもしれないが……またどこかで、今度は一対一で戦おうぜ」

「唐突だな。だが、いいぜ。また戦おう」

 ヴァイレンとも似たような約束をした気もするが、まあいい。

「そか。じゃあ俺はさっきまで呑んでたし、そろそろ帰るかな」

「そうか。じゃな」

 勘定を済ませ去っていく。そのジェンガのうしろ姿は騎士のそれに似ていた。




 その後、帰るまでは大変だった。

 酔ったヴァイレンに絡まれ、酒を呑み比べさせようとしてきたり(強引に誘ってきたがなんとか断った)、またも酔っているグレンに絡まれたり、果ては酒の強そうな中年男性に大会云々の感想を求められたり、絡み酒を付き合わされ、なかなか帰るに帰れなかった。

 不思議に思ったのは、自分があまり、というか不自然なほど酔わなかったことだ。アルコール度数はいまいちよく分からないが、かなり呑んでしまったので、危機感を抱きすらしたのだが……。

 帰りに酔い止めとしてハッカ(ルナがグレンにじかで呑ましたもの)を混ぜたヒールエーテル(総合回復薬らしい)を買って帰った。

 余談だが、ハッカは別名ペパーミントと呼ばれ、抗菌、健胃、発汗、消臭等でよく知られているハーブである。こちらの世界でも効能はほぼ同じであり、別段変わった所はない――と思う。なにぶん向こうの世界での事柄が確認できないので何ともいえないが。

情報源はおなじみの図書館の植物図鑑である。目次の並びで近くにマンドラゴラがあったのは内緒。

 そんなこんなで、極々自然体のまま宿に戻った。





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