第98話 あの日、孤独だった君は
1年ほど前、来月からプロリーグが始まると告知された時期に、俺はランキング戦100連勝を達成したアジアの少女『KAREN』に目をつけていた。
当時はランキング戦がまだ今のように区分けされておらず、最高ランクのチャンピオン(ポイント上位300人)は存在せず、一つ下のランク(グランドマスター)までしかなかった。
なので、明確なランキングというものがなく、SNSでの連勝報告や対戦相手のID確認時に表示される『○連勝中』の表記が強さの指標となっていた。
俺はランキング戦よりスクリム(プロ同士の練習試合)専門で活動していて、ランク戦はグランドマスターに到達するまでの31連勝で終わっていた。それが当時の最高記録だと言われていたにもかかわらず、KARENはその記録を遥かに超える数字を叩き出した。
俺は100連勝達成をSNSで確認したのち、ダイレクトメッセージで挑戦状を送った。
送った初日は無視されていたが、プロスクリム全勝の実績を開示した途端、彼女はプライベートルームのコードを送ってきた。
そんな流れで、KARENとのタイマンが始まった。
砂漠のステージで、俺たちの鋼鉄の弾丸が交差する。
「噂通りだな……」
「……」
俺は世界中のプロと戦ってきた。
しかし、彼女の攻撃的な動きは戦ってきた全てのプレイヤーを凌駕していた。
近距離のサブマシンガン二丁持ち。
弾の消費が激しく、リコイル制御(銃の反動を制御する動作)も大変なことから、世界TOPのプロでも安定して扱えない。使うプレイヤーは片手で数えるほどしかいない戦闘スタイルだった。
“破壊の女王”。可愛らしい顔とは裏腹に、そんな残虐な異名で呼ばれるのも納得がいく。
序盤は押され気味でやられそうな場面も何度かあったが、彼女の一瞬の隙を突いて俺は勝つことができた。
(ギリギリだったな……)
プロになってから初めて、俺は瀕死まで追い込まれた。
仲間や他のプロでも、俺の体力を半分削られる者はいなかった。
唯一、彼女と同じくらい追い詰められた相手はホワイトという、同じく北アメリカで活動しているプレイヤーだけだ。
正真正銘、彼女は世界TOPレベルで強いプレイヤーだと感じた。
俺は翻訳機械のマイクをつけて、VCをオンにした。
「いい試合だった」
そう言って彼女の手を取ろうとしたが、彼女は俺の手をパシッと叩いた。
「いらないって、そういうの…… うざいよ。そんなにボクを倒せて満足??」
「そんな思考では孤立するよ」
「……うっさいな、わかってる」
今の言動で、彼女が孤立していることがなんとなく分かった。
「君が強いのは認めるが、その性格を治さない限り1人のままだよ」
彼女はそう言われて、ぐずっと鼻声になった。
ボイスチャット越しでも、泣いているのが伝わってくる。
「いつかはこの性格を治さないといけないって思ってる…… でも、わからないんだ……。どうしたらいいか…… ボクの事情を知らないお前に何がわかるっ……!!」
「わかるさ……。俺も少し前までは1人だったし……」
「……え??」
「俺も、チームに入れてもらえるまではソロだった。
ゲーム友達は何人かいたけど、社会に出る過程でみんないなくなって、最終的に1人になった。
でもプロになりたかった俺は、自分からチームに入れてほしいって頼んだことで、今は大好きなメンバーと巡り会えた。
だから君にもそうしてほしい。きっと素敵な仲間と出会えるはずだよ」
「でも…… ボクは……」
しかし彼女は下を向いたままだった。
「そうだな……。んじゃあ、せっかくだし、俺たちのチームに入らないか??」
「……え??」
「けっこう居心地がいいと思うぜ。みんなはどうだ??」
俺がそう言うと、観戦していたCAPたち3人が俺たちのところに来た。
「こんな男ばっかのチームでよければ、歓迎するぜ」
「君、強いねー。キャラクターコントロール教えてよ」
「ついにお姫様枠が来るとは……」
CAP、MIND、リスは盛り上がり、歓迎ムードを出した。
「……ボクなんかでいいの??」
「ああ、もちろん。大歓迎だ」
「お姫様扱いしないなら、よろしくお願いします……」
彼女はぐずっと鼻を鳴らしながら、俺の前に来た。
そんな彼女の頭を、俺は優しく撫でた。
***
「あの時、YUUくんと出会えたのは運命だったのか……」
俺は思わず、涙目になりながら独り言を言った。
もともと可憐にリハビリをしてほしくて、メンタルケアのためにソロ称号を手にしたYUUくんを呼んだ。
正直、称号の難易度の高さから不正をしていたプレイヤーなんじゃないかと疑っていた自分もいた。
でも、YUUくんと話すうちに、彼は真剣に取り組んで称号を手にしたんだと納得できた。
それに、俺が言えなかった「可憐に夢を諦めないで」という言葉を、初対面にもかかわらず彼は言ってくれた。
そんなYUUくんと可憐が仲間になれて、心の底から報われたんだという気持ちでいっぱいだった。
(……よかったな、可憐……)
俺はハンカチで、頬を伝う涙をそっと拭った。
「なんか俺たちが行ったら邪魔になりそうだし、やっぱり次の機会にしない??」
リスがそう言うと、俺とCAPとMINDは首を縦に振った。
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