第84話 決戦の時
俺と彩音は準備をしたのち、startubeの事務所に行った。
俺たちの2チームはeスポーツプロチームによくあるユニフォームがないので、俺はパーカー、彩音は大きめなTシャツを着ている。
なんというか私服で遊びに行く兄妹感が半端ないが、まあ仕方ない。
「ふぁああ…… 眠い……」
時刻は8時半、土曜日の朝6時起きは辛く、思わず入口の前であくびをした。
「お兄ちゃん、眠そうだね」
「正直緊張で、あまり眠れなかった」
昨日の夜、お風呂に入ったのちすぐベッドで横になったが眠れなかった。
明日の結果次第で、俺の夢が叶う。そう思うと緊張で眠気が吹き飛んだ。
俺はやれることを全てやったつもりだ。
鍛え上げたエイム、キャラクターコントロール、そして頼れる仲間。
その全てを持っていると自分に何度も言い聞かせ、ようやく眠れたという感じだ。
「まあ大丈夫だ。んじゃあ入ろうか」
「うん!!」
俺たちは自動ドアを通って、事務所の1階にある受付の前に向かった。
中に入ると、受付の女性がいる窓口の前に身長の高い男性がいた。
黒髪でリーゼントのような髪型に、もう夏だというのにもかかわらず革ジャン。一目でレインだろうと理解した。
(リアルでもこの髪なんだ…… ワックスとかで固めてるのかな)
女性は完全に怯えていて、緊急用のベルを鳴らした。
その瞬間に警備の人が窓口裏のドアから走ってきたけれど、その男性も震えながら警棒を構えていた。
「待て、話を聞け!! いいか、俺はお前らにスポンサードされてる選手だ、とりあえず落ち着け」
レインはそう言って、身分証をスタッフの人に見せると、警備の人と受付の人が頭を下げた。
「あはは〜 ギャグかよ」
面白い状況すぎて、俺は思わず笑い出してしまった。
「なんだ…… って、この顔はYUUか。笑い事じゃねぇだろ!!」
レインは振り向いて、俺の名前を言った。
「いや、ごめん。でも俺たちは見慣れてるけど、初見じゃビビるだろ……」
「まあ、近所のバイト先は1軒を除いて面接で全落ちだったからな……」
レインはいつもの俺様みたいな口調ではなく、残念そうに言った。
彩音はレインの顔と完全に同じアバターを何度か見ているのにもかかわらず、びっくりして俺の後ろに隠れた。
「こら彩音、失礼だろ…… 怖がるのも無理ないが……」
「う、うん…… ごめんなさい……」
彩音はそう言って、俺の後ろから出てきた。
「ま、通報されるよりはマシだ。というか、お前があの『あ』かよ……」
彩音もレインに驚いていたが、レインも彩音に驚いていた。
まあ黒髪ロングの女子中学生の妹がまさかアジア最強クラスなんて、俺も初見の時は度肝を抜かされたし。
「えっと……初めまして」
「あ、いえ。こちらこそ……」
彩音とレインはお互いにぎこちない感じで握手をした。
「ちなみにおいくつなんですか??」
「中学1年生です」
「嘘だろ…… ってことは、残りのメンバーも……」
「はい、同い年です」
レインは緋奈たちも中1だと知って、さらに驚いた表情をした。
「まじか…… お前はそれ知った時どうだった??」
レインは俺の横にきて、静かに言った。
「思わずスマホを落とすくらいには衝撃的だった」
「そりゃ妹があの『あ』なら、そんくらいの衝撃だよな」
「うん……」
俺たちは彩音へのリアクションで、初めて意見が合致した。
「まあ、雑談はこれくらいにして。そろそろ行くぞ」
これからパソコンの設定やキー配置などの作業があり、時間が押しているので俺は話を切り替えた。
「おう、どこに行けばいいんだ??」
「7階だな。とりあえず彩音、受付でサインしようか」
「うん!!」
俺と彩音は受付に行って名簿にサインをした。
名簿を確認すると、雪奈、緋奈、美佳の3人はすでにいるみたいだ。
地味にレインの本名が『雨川龍馬』だと知り、ハンドルネームの由来がここからきたんだと理解した。
俺たちはエレベーターに乗って、7階まで行った。
7階の部屋に行って、廊下を少し歩くとそこには部屋が3つあった。
701が彩音たちの部屋、702が休憩用の部屋、703が俺たちの部屋ということで事前にメールが届いていた。
とりあえず俺たち3人は、休憩室に入った。
中に入ると雪奈の膝の上に緋奈が座っていた。
雪奈はニヤニヤしていて、遠くで美佳がドン引きした顔をしていた。
緋奈と美佳は同じような柄のワンピース、雪奈は『アイラブ、あいうえ』と書かれているTシャツを着ているのが見えた。
俺は雪奈の服装を見た瞬間、そりゃあ美佳があんな顔になるわなと納得した。
(つーか、よく受付通ったな…… まあ確かにファンは大切だが……)
「ゆきねーちゃん、どーしたの??」
「い、いえ…… 幸せすぎて…… わ、私…… このまま天国へ行きそうですぅ〜」
「ってことは、私は天使さまレベルに可愛いってこと??」
「は、はい!! そうです!! いーちゃんは天使さまですぅ〜」
「いーちゃんより、緋奈でいいよ!! 奈の漢字が同じものどーし、もっと気楽に〜って、にーちゃんとあやねん!! それに…… 反社の人!!」
緋奈は俺たち3人がいるところにきた。
相変わらずレインの顔を見て反社だと言い、俺と彩音は思わず笑いそうになった。
「「ひっ……」」
「反社じゃねぇ!! そこの2人は俺の顔見てビビるんだ!! ってか、君は……」
「あっ…… あまりょうじゃない、なんでここに??」
美佳はレインの顔を見た瞬間、口を開いた。
「知り合いなの??」
「はい、うちのお店のアルバイトをしているんです。お兄さんも『あまりょう』の作るクッキーを今度食べに来てください」
(レインの作るクッキー…… なんか想像できない……)
俺が脳内でレインがクッキーを作る姿を想像したけれど無理があった。
「俺がどこでバイトしていてもいいだろ!! とりあえずお前ら、準備すっぞ」
レインはそう言い、俺の体を担いで休憩室を出て703へ向かった。
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