第82話 縛られている記憶
私たちは最終戦、『ROSE』の人たちと南国マップのリゾートで戦っていた。
(予想してたけど、美佳ちゃんと分断されちゃった……)
私たちは一定の距離を保ちながら、美佳ちゃんの指示を聞いて立ち回っている。
いつもは分断される前に倒し切ることができていたけれど、お兄ちゃんが言っていた2位の方に押され、私だけ少し離れた位置に移動しなければならなかった。
ここまで離されてしまうと、有栖のスナイパーによる補助や、緋奈の乱入による仕切り直しも期待できない。
それにマリベルを除く3人も相当な腕前で、みんな一人相手するだけで手一杯な感じがする。ここは私一人で倒すしかない。
せっかくの機会だし、お兄ちゃんや皆さんに教えてもらったことを活かして、世界レベルの方にどれだけ通用するのか試すいい機会だ。
「すげぇなお前、ほんとに当たんねぇ。未来視ってやつか。こんなのできるの、世界中探しても1人もいないだろ」
マリベルは少し離れた距離からアサルトライフルを撃ってきた。
私は弾丸の軌道を読み、首を横に振ったり、姿勢を低くする最低限の動きで全弾を回避した。
「……」
(ただ、思ったよりも隙がない。私から仕掛けるのはあまり勝機が見えない……)
マリベルがリロードした瞬間、アサルトライフルを背中に背負ってサブマシンガンに持ち替えた。
最近、他のプロチームの方々も私の未来視の対策を知ったのか、近距離戦を仕掛けてくるようになっている。
スタッフさんやお兄ちゃんたちが言っていた、私を倒すための戦法。
でもそんなわかりやすい弱点に気づかないわけもなく、私も近距離用のサブマシンガンを購入しておいた。
グレネードやアサルトライフルの弾薬、装備レベルを最低限にして、ギリギリまで圧縮して購入した。
ただ、今のところ一度もサブマシンガンを使う機会がなくて、ここで持っていることを知られれば明日の大会で警戒されてしまう。
かといって、このままアサルトだけで戦うには弾薬も少ないし、ジリ貧で負けてしまうだろう。
せっかく世界大会に出た人とタイマンで戦えるのに、このまま負けるのは嫌だ。
だから、大会前日で手の内を晒す形になってしまうけれど、仕方ない。
(それに、おそらく世界レベルの選手なら、私の考えくらい読めてるだろうから、わざわざ出し惜しみする必要もないかな)
私はアサルトライフルをしまって、サブマシンガンに持ち替えた。
「やっぱ、持ってるか……。とはいえ止まるわけにはいかねぇ」
マリベルは私に向かって真っ直ぐ詰めてきた。
私はサブマシンガンで反撃するも、ヤシの木や岩を遮蔽物にされて避けられ、目の前まで接近された。
(速いし隙が少ない。毎日エイム練習してるけど、1発も当たらないなんて……)
「もらった!!」
マリベルは私のサブマシンガンを強引に引っ張り、私の手から奪って海側に投げ捨てた。
勝ちを確信したのか、マリベルは私に銃口を向けたが、そこに私はいなかった。
「上っ……!」
(でも…… 私は負けない)
私は武器を取り上げられた瞬間、取りに行かずその場で跳び上がった。
マリベルは予想できなかったのか、反応が遅れてサブマシンガンを私に向けて放ったが、お兄ちゃんに教えてもらったパルクールなどを駆使して弾丸を避け、右足の蹴りをマリベルの首元めがけて放った。
「ぐっ…… いったっ……」
体勢を崩したマリベルに畳みかけるように、右頬にパンチを当てて数メートル吹っ飛ばした。
ただ、このゲームの格闘によるダメージはそこまで大きくないので、体力を2割程度しか削ることはできなかった。
私は銃を拾って、リロードをした。
「すげぇよお前……。あいつに並ぶ異能ね。噂は本当らしいな」
「……」
「でもな、いまいちあたしの心には響かねぇ。あいつもそうだが、なんつーか、勝ちの最適化?? なんか機械的っていうのかな。勝ちたいってのは伝わるけど、感情がないように見える。まあいいさ。あいつもそうだ。それでこそ“最強”の称号はふさわしいんだろうが、もっと……」
「……え、あっ…… い、いや……」
「……おいおい、やっと口を開いたと思えばなんだ…… おい!! しっかりしろよ!!」
“機械的”“感情がない”――その言葉を聞いた瞬間、私の体に力が入らなくなった。
思い出したくない、あの時の記憶が頭をよぎる。
父と母が交通事故で亡くなった日のこと。
おばあさんやおじいさんに捨てられた、あの時のこと。
幼稚園で仲間外れにされていた頃の記憶。
目を開けると、涙が止まらなかった。
私は思い出したくもない記憶に押しつぶされてしまった。
この後のことは何も覚えていないけれど、うっすら画面に見えたのは“LOSE”の文字で、負けたことを知った。
私が取り乱してしまったことで、初めてスクリムで敗北した。
明日本番だっていうのに、ごめんなさい、ごめんなさい。
確かに今は、みんながいる。そんなことはわかっている。
わかってはいるけど、思い出してしまう。
私が涙を流しながらうずくまっていると、お兄ちゃんが部屋に入ってきて、私を抱きしめてくれた。
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