第75話 ダメだよ……
彩音、緋奈、美佳、有栖の4人は、大浴場の湯船に浸かっていた。
「いや〜、極楽、極楽〜」
緋奈は大浴場でスイスイと泳いでいた。
「こら!! 緋奈、お風呂の中で泳がない!」
「え〜、いいじゃん。他にお客さんいないんだし〜」
「そういう問題じゃない、きゃっ……」
美佳が話している途中で、緋奈は手を水鉄砲の形にしてお湯を飛ばし、美佳の顔に命中させた。メガネが一瞬で曇る。
「あはは〜!! メガネが曇った!! オバケみたーい!!」
「……ッ やったわね、待ちなさい!!」
緋奈は美佳が怒ったのを見た瞬間、浴槽の中を逃げ回る。その背を美佳が追いかけ、浴場内で鬼ごっこが始まった。
「あったかい……疲れが取れる……」
「やっぱり銭湯って気持ちいいね〜」
有栖と彩音は、そんな2人を眺めながら、静かに湯に浸かっていた。
「そういえばさ〜 あやねんは、にーちゃんと最近どんな感じ〜??」
緋奈が彩音の横に逃げ込んできて、隣に座った。
「けほっ……げほっ……え?? い、いや、その〜、私とお兄ちゃんはそういうんじゃ……」
彩音が焦っていると、残りの2人も彩音の元へと寄ってきた。悠也に対する彩音の反応を見て、緋奈にやり返すどころではなくなった美佳も、彩音の隣に腰を下ろす。
「練習中、おにーさんのこと……気にかけてたような気が……した……」
「なんとなく少し前からそんな気はしていたけど、まさか彩音ちゃんが恋なんて意外だわ。私たち全員、恋愛とは無縁だったけど……最初が彩音さんとはね……」
「ねえねえ、あやねんは、にーちゃんのどこに惚れたの?? 教えて〜!!」
3人は彩音の前に迫り、質問攻めにしてきた。
「待って、私はそういうんじゃ……」
「むむ、嘘つきなあやねんには〜こうだ!!」
緋奈は彩音の背後から抱きついて、脇をくすぐった。
「ひゃっ……あははっ、待って、ちゃんと話すから、やめて〜」
彩音がそう言うと、緋奈はくすぐるのをやめた。
「こほん……えっと……どこから話せばいいのかな??」
「ここは……恋愛ゲームの基本から……とりあえず……キスはした……??」
有栖の爆弾発言に、彩音は全力で首を振る。
「あれは、違う……その……本番はまだ早いよ……」
顔を真っ赤にしながら手で顔を覆う彩音を、3人はニヤニヤしながら眺めた。
「へぇ〜そうなんだ〜。ねぇねぇ!!あやねんはさ、 にーちゃんと口同士でチュッチュするの??」
「バカ!! 緋奈、そういうのはタイミングってものがあるじゃない……本人たちの!!」
「え〜でもさ〜気になるじゃん〜!!」
「……ダメだよ」
彩音が下を向き、恥ずかしそうな表情を見せた。
「どういう……こと……??」
「だって、できちゃうもん……赤ちゃん……」
彩音が真っ赤な顔でそう呟くと、彩音を除く3人は顔を見合わせた。
その場の空気が凍った。
暖かい湯気が立ち込める大浴場で、一瞬だけ南極の氷の中に放り込まれたような冷気と共に、沈黙が流れる。
「「「……え??」」」
「……え??」
彩音は顔を真っ赤にしながら、恐る恐る続けた。
「お母さんが昔言ってたもん……口と口を合わせてキスをしたら、赤ちゃんができるって……お父さんも……ても、おでことかなら大丈夫みたいだけど……」
3人はキョトンとしていた。
そういえば保健の授業はまだやっていない。中学1年の後期から始まるカリキュラムなので、今の時期ではまだ知らないことも多い。
(え〜あやねんはそういうこと、知らないの??)
(真っ白……でも……彩音ちゃんらしい……このままで……いてほしい……)
(まさかここまで真っ白だとは……逆に心配だわ……)
「ま、まあ、そうだよね!! ごめんね〜あやねん、この話はおしまい!!」
緋奈は慌てて話題を切り替えた。そういえば、自分が以前「悠也の好感度を上げる裏技」と称して冗談を言ったことがあり、それを実行してしまったのかもしれないと考えると、顔が青ざめた。
「どうしたの緋奈??」
「のぼせた……??」
美佳と有栖は、明らかに様子のおかしい緋奈を見て心配する。
「いっ、いいや……別に、なんでもない〜。す、少しのぼせたかな〜」
((なんのことかわからないけど、嘘隠すの下手……))
美佳と有栖は、緋奈が何か隠していると即座に見抜いた。
「うん、というか私……変じゃないかな……?? お兄ちゃんに恋するなんて……」
「いいんじゃない?? 別に血は繋がってないんだし、私たちは応援するわ」
「お兄さん……優しいからね……応援する……」
「あやねんが恋するなんて今までなかったからね!! にーちゃんを幸せにしてよ!!」
彩音の不安に対し、3人は優しく背中を押した。
「でも、彩音ちゃん。なるべく早く行動したほうがいいわよ」
「どうして??」
彩音が首を傾げる。
「どうしても何も、可憐さんや雪奈さん……2人とも美人だわ。急がないと、お兄さんを取られるかもしれないじゃない」
「確かに……恋愛ゲームによくある展開……でも彩音ちゃんは可愛い……」
「あやねんは魅力的だから、絶対にーちゃんをメロメロにできると思うよ!! がんばれ〜!!」
「も、もう……からかわないでよ!!」
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