第74話 大切な物
チャーハンをみんなで食べた後、みんなで洗い物をしてからエレベーターに乗って事務所を出た。
「にーちゃん、ここが今日の宿だよ〜!!」
緋奈が指を刺す先には、社員の方が休憩や遠方から来たお客さんが宿泊できる旅館のような場所があった。
「こんなのもあるんだな…… さすが世界一の配信サイトの運営……」
俺はstartube運営の圧倒的資産力にビビりながら、3人についていった。旅館に入ると、着物を着た女性が受付にいた。
「お待ちしておりました。緋奈様方はどうぞこちらへ」
彩音たち4人は、女性の方についていって女湯の方へ向かった。
「悠也さま、お話がございますので、そちらの部屋でお待ちください」
俺が一人で男湯の方に向かおうとすると、別の女性スタッフに呼び止められた。
(え……)
呼ばれた瞬間、俺は鳥肌が立った。
コーチングをしている時、これと言って彼女らに手を出したりしていない(してない)が、世界一の配信サイトの運営。どこかに隠しカメラなどがあって俺の行動がそういう感じに見えたのかもしれない。
俺は恐る恐る女性についていき、畳の部屋に案内された。
そこには机があり、一枚の紙が置かれていた。
「なになに…… EGCの皆様への正式なスポンサー提供についてのお知らせ……??」
「はい。我々startubeは、正式なチームとなったEGC様へのスポンサー提供をさせていただきたいと考えております。本当は社長の方からお話しするつもりでしたが、急なアメリカへの出張が入ってしまったため、私の方からお知らせさせていただきました」
「ありがたいお話ですが、俺たちはまだあなた方に何も利益になるようなことをしていません…… それに俺は一度やらかして、迷惑をかけています……」
俺はあの時のやらかしを思い出して申し訳なくなり、下を向いた。
「その件に関しては、私たちは気にしておりません。それに利益なんかよりも大切なものを、あなた方からいただいていると社長から聞いております」
「大切なものですか……??」
「はい。緋奈様を含め、メンバーの皆さんに優しく接していただいていることは、何よりも大切なことだと社長もおっしゃっていましたし、私もそう思います」
「そうですか……」
なんというか、普通に接しただけなのに褒められた。
別にこれと言って特別なことをしているつもりはないが、褒められたので俺は嬉しく思った。
「それと、社長から悠也さまへのお手紙をいただいてました。こちらをどうぞ」
俺は女性の方から、封筒に入った手紙を渡された。
のり付け部分を破って中身を開いた。
『悠也くん、正式なチーム結成おめでとう。いつも娘たちの相手をしてくれたり、優しくしていただいている君たちへの少しばかりの恩返しだ』
『スポンサー提供の内容は、緋奈たちのあいうえクラン同様に、各種デバイス機器の提供、宣伝用動画の編集、世界大会に行った場合の交通費負担に、それから…… まあ必要なものがあったら言ってくれたまえ』
『もちろん無償で提供させていただくが、一応注意事項というかルールを守ってくれたまえ』
前回のやらかしがあるので絶対に失敗できないと思い、俺は唾を飲みながら注意事項を読んだ。
『まあこれからも、娘たちと仲良くしてやってくれたまえ。以上だ』
「……そ、それだけ??」
俺は思わず、独り言を言ってしまった。
大企業のスポンサーとなれば、敗北はあってはならない上に憲法のような注意事項やルールがある。
ましてや世界一の配信サイトのスポンサーとなれば、さらに厳しい契約内容なのは当然である。
(これでいいのか……)
なんというか見た目はレインと差し支えないくらい怖い人だが、緋奈ちゃんのパパ。けどなんというか、緋奈ちゃんと同じ血が通ってるなと思い、納得してしまう自分もいる。
(……ん?? なんだ……??)
注意事項の一文の下に、何か書いてあった。
『娘と籍を入れる時は、私に一言入れてくれ』
「ぶはっ……」
俺は最後の一文で、思わず吹き出してしまった。
「ど、どうされましたか??」
「あ〜 いや、なんでもないです」
俺は咄嗟に手紙を畳んで、ジーンズのポケットにしまった。
「最終スクリムの日はデバイス等の用意が間に合わないのですが、北アジア予選当日に皆様のデバイスが届くので、予選当日はスタジオの方を使っていただいても構いません」
「わかりました、ありがとうございます!! メンバーのみんなと確認してから返事しますね」
「承知しました」
オフラインはVCだけでなく、リアル世界での情報共有もできるので圧倒的に有利になる。
格差が出ないよう、世界大会もオンラインでなくオフラインで開催される(今年はハワイ)。
ただ予選は俺たちみたいなアマチュア出身のチームがあったりで資金力も異なるため、オンラインとオフラインどちらでも参加が可能。
オフラインで1箇所に集まってやれば勝利率は圧倒的に上がるが、可憐の外出許可が出るかわからないので後で相談するつもりだ。
「話は以上となります」
「ありがとうございました、失礼します」
俺は座敷の部屋から出て、銭湯へ向かった。
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