第72話 お兄ちゃんに頼みがあるの……
「よし…… とりあえず全勝だな。お疲れ」
「おつ〜」
「お疲れさまです!!」
「今度は俺にもっとキルさせろよ」
俺は通話アプリを消して、トークルームから退出した。
俺たちチームEGCは第2回スクリムで3勝0敗。相手は全員アジア予選落ちのチームとはいえ、プロ相手に3-0は自信がついた。
SNSのトレンドに『YUU』と『KAREN』の名前があった。
詳細検索をすると、rallyを筆頭に世界各地のプロたちが、俺たちのチームを配信などで話題に出していて注目を集めていた。
(え…… 可憐ってEMEA(欧州・中東・アフリカ)やAPAC South(南アジア)のプロとも知り合いなの……。まあrallyがフットワーク軽いからプロの友達多いらしいけど、その知り合いの可憐も世界各国のプロと知り合いなのか……)
とりあえず来月のアジア予選前日の最終スクリムまでに、もっと連携が取れるように練習をする。
課題は見つかった。あとは修正をすることができれば、確実に勝てる。
そんなことを考えていると、コンコンと俺の部屋のドアをノックする音が聞こえた。
俺はゲーミングチェアから立ち上がって、ドアの前に行くと彩音が立っていた。
「どうした??」
「あ、お兄ちゃん。スクリムお疲れさまー。ちょっと、お兄ちゃんにお願いがあるんだけど……」
「ん?? ああ、いいよ。とりあえず中で話そうか」
俺と彩音は部屋に入って、ベッドの上に2人で座った。
「つーか彩音たちのチーム強すぎだろ……。今のとこ6-0って、本当にすごいよ」
俺たちは再結成したので、前回のレートが1からとなってしまった。今回3-0したけれどレート順位は9位。
彩音たちは6-0で、グランディネアやマリベル(前回のアジアから世界大会に行った2チーム)に次ぐ3位で、本当に始めてから1年経過していないとは思えない実力だ。
「運が良かっただけだよ。それに私たちは上位2チームに当たっていないし、次くらいには負けちゃうかもよ」
「いや、彩音ならきっと勝てるさ。なんてたって、自慢の妹だからな」
「そう?? えへへ〜」
俺が彩音を褒めると、彩音はニコッと笑った。
「んでさ、お願いってなんだ??」
「あのさ、お兄ちゃんさ…… 私たちのチームのコーチになってくれない??」
「コーチ?? いや、彩音たちは十分強いから必要ないと思う。むしろ俺の意見でプレイが歪むだろ」
「いや、そんなことないよ。それに多分だけど…… 私たちじゃ1位の人に勝てないと思うの……」
「グランディネアか??」
俺がそういうと、彩音はスマホの画面を俺に見せた。
スマホ画面には、前回のアジア予選でグランディネアが無敗で1位優勝するところが映っていた。
「最近調べたの。運がよく6-0だから、今の私たちでもアジア1位になれるんじゃないかって……。でも、私たちの力じゃ多分勝てない……。だから、お兄ちゃんの戦い方や経験を私たちみんなに教えてほしい」
彩音はそう言って、俺の手をぎゅっと握った。
初めて彩音にゲームのことで頼られた気がする。
いつも全てが俺より上手くて、学びを得ているのは俺の方なのに、今回は頼ってきた。
どうやら流石の彩音でも、アジア最強のあいつには勝てないと思うらしい。
俺もグランディネアに勝っていないから、力になれるかわからない。
でも彩音の真剣な表情を見るに、絶対勝ちたいという気持ちが伝わってくる。
確かに彩音たちはライバルだけど、可愛い妹の頼みを断るわけにいかない。
ここは久しぶりに、頼れるお兄ちゃんになれるチャンスだと思った。
「まあスクリムもしばらくないし、俺にできることがあるかわからないけど……。彩音に頼られたら仕方ない、いいよ」
「よかった〜。なら、来週の土曜日の強化合宿にお兄ちゃんも来てね!!」
「……え??」
「startubeの事務所で1泊2日。みんなも来るからよろしくね!!」
「……はい??」
状況が読めないが、流れで女子中学生4人と俺はお泊まり会をすることになった。
⸻
1週間後の土曜日、昼ごはんを食べた後に俺と彩音がstartubeの事務所へ行った。
俺と彩音は自動ドアを通って、受付に向かった。
「悠也さん、彩音さん。お待ちしておりました。そちらのエレベーターで6階に機材は用意しております」
受付の女性の方はそう言って、エレベーターの方を指差した。
(彩音はメンバーだからあれだけど、俺に対して身分確認とかしないのかよ……。セキュリティが緩いのか、俺が保護者みたいな扱いなのか……。まあ後者だろうけど……)
俺と彩音がエレベーターを降りて、廊下を歩いて3つ目のドアを開けた。
緋奈たち3人はすでに集まっていて、パソコンが4台ある部屋でゲームをしていた。
「にーちゃん!! 来てくれたんだ〜。よろしくね〜」
緋奈はゲーミングチェアから立ち上がって、俺の腕を組んで喜んだ。
「来てくれたんですね。今日はよろしくお願いします」
「おにーさん…… よろしくね……」
美佳と有栖も立ち上がり、俺の前に来てお辞儀をした。
「俺に教えられることがあるかはわからないけれど、よろしく」
こうして、第1回あいうえクラン強化合宿(お泊まり会)が始まった。
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