第42話 子供の過ちを許すのも、大人の使命だ
「いきなり取り乱してしまって、申し訳ない……」
「い、いえ、全然……俺も妹が年上の男の子と遊んでいたら心配になりますから……」
俺は淳一郎の向こう側のシングルタイプのソファに座ると、緋奈が俺のほっぺをつんつんと触ってきた。
「え〜、にーちゃんのシスコン〜」
「やめろ」
「えへへ〜」
緋奈が俺をいじっていると、コンコンとノックが鳴り、受付をしてくれた女性が部屋に入ってきた。
「失礼します。緋奈ちゃん、そろそろ宿題をやる時間ですよ」
「え〜、にーちゃんと遊びたい〜」
「緋奈、宿題はやりなさい」
淳一郎が静かに言うと、緋奈は不機嫌そうな顔をしながらも、俺の膝の上から立ち上がり、ドアの近くまで歩いていった。
「ちぇ〜、わかったよ〜。んじゃあ宿題してくるから、にーちゃんは帰ったらダメだからね〜」
「お、おう……」
緋奈と受付の人は部屋を出て、俺と淳一郎だけの空間になった。
俺は真っ先に頭を下げた。
「本当にすみませんでした!! 俺の不注意で、そちらの事務所に多大なご迷惑をかけて……本当に申し訳ございませんでした!」
「……頭を上げたまえ」
叱られることを覚悟していたが、顔を上げると淳一郎さんはむしろ申し訳なさそうな表情をしていた。
「君や彩音ちゃんが謝るべきことではない。むしろ謝るべきはこちら側だ……」
「え……?」
淳一郎さんはカバンからノートパソコンを取り出し、画面をこちらに向けた。
俺が画面を確認すると、そこには彩音たち4人の活動内容が一覧になっていた。
「元々、この活動は緋奈が“ネットで有名になりたい”といって、3人を誘ったことで始まった企画だ」
「そうなんですか……知りませんでした」
「2年前、私の動画サイトが世界一の配信プラットフォームになった時、緋奈は小学5年生だった……」
*
「パパの動画サイトが世界でいちばん有名なサイトになったって、本当なの〜??」
「ああ、緋奈やスタッフのおかげで、無事に世界一になったぞ!」
「えへへ〜。そうだ、パパにお願いがあるんだけど……」
「どうした? 緋奈」
「んーとね、私、有名人になりたい!」
緋奈は突然、そう言った。
「ど、どうした急に……お小遣いがもっと欲しいのか……?」
「いや、そうじゃないよ」
「じゃあ……あれか? 人気俳優の人と付き合いたいとか……?」
「そんなの興味ない。私が有名になりたい理由はね、天国のママに私を見つけてほしいの……」
「……ッ」
妻は、緋奈が3歳のときに病気で亡くなっていた。
「パパは世界一のステージを作った。そんなステージで私が歌ったり、みんなで遊んだりしたら、きっとママは喜んでくれるって思うの」
「環境は作ることができる。ただ、運営会社は“平等”という建前で活動している……緋奈が実際に有名になれるかどうかは、運だ」
「でも、私は……どんな険しい道でも挑戦したい!」
彼女の決意は本物だった。
最初はすぐ飽きてやめるだろうと思っていたが、緋奈はみんなを説得し、『あいうえ』クランを作って活動を続けた。
*
「私は緋奈の活動を応援するため、事務所を作った。本名で呼び合わないようにしたり、SNSを制限したり、ネットの悪意が見えないような仕組みを整えた」
「……」
「ただ、私が過保護すぎたのかもしれない。彼女たちが幼いからといってネットを制限していたにも関わらず、行動には制限を設けていなかった。今回の事件は、私の責任だ……すまないことをした」
「……彩音にはこのことを話しましたか?」
俺が訊ねると、淳一郎は首を横に振った。
「彩音ちゃんにも非がないわけではないが、彼女たちには重すぎる事件だ。すでにメディア側には報道を控えるように伝えた。時間が経てば噂となり、いずれインターネットからも消えるだろう」
そう言うが、俺は納得できなかった。
「それでも、会社の信用やコンテンツのブランド価値を落として……しかも、かなりのお金も使ったはずですよね……」
「自慢ではないが、私は日本でも上位に入るほどの資産を持っている。問題はない」
「そうだとしても……俺に何か償いをさせてください!」
「私は、娘の大切な友達である君たちを守れれば、それでいい」
「でも……!」
そう言って、彼は俺の横に来て頭に手を置いた。
「子供の過ちを許すのも、大人の使命だ」
「……ッ」
その言葉に、俺の目から涙がこぼれた。
「それに、君たちは若くして最強レベルのプレイヤーだ。こんなことなんか気にせず、世界一の称号を掴んできなさい」
「……わかりました」
「君たちには、期待しているよ」
そう言って、淳一郎は部屋を出ていった。
俺が涙を拭いてソファに座っていると、扉が開き、緋奈ちゃんが元気よく戻ってきた。
「宿題終わったよ〜! 何して遊ぼ〜……って、にーちゃん泣いてるの??」
「いや、別に泣いてない。寝不足だからかな……」
「そっか〜。まあいいや! にーちゃん!! とりあえず下の遊べるスペースに行こ〜!」
「ちょっ、いきなり引っ張るな……!」
緋奈は俺の手を引っ張って、下のスペースへと案内してくれた。
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