第33話 世界王者からのメッセージ
「わりぃ、俺たちはプロリーグで勝てる気がしないから辞退するわ…… わざわざ選んでもらったが、これはさすがに次元が違った……」
「……わかりました」
スパイダー、PASERI、クローズの3人は俺の作ったボイスチャンネルから退出して、チームは解散となった。
俺たちがグランディネア1人にボコボコにされた後、10位のチームと試合をしたが、チームの空気が悪くて連携が取れず、普通に敗北した。
いくら昨年のアジアリーグ覇者とはいえ、この俺が1人相手にダメージを1すら与えることができなかったのは、さすがに心に響いた。
「マジで言ってるのか、これ……」
チーム募集も1から。それに世界大会優勝を目指すなら、次元の違うグランディネアに勝てるくらいの実力とメンバーが必要だという条件の厳しさに、俺は絶望していた。
「無理だ……」
俺はこの完全に詰んでいる状況で、思わず弱音を吐いた。
今回のスクリムの結果は17位。このままの感じだと、世界大会に出場できる2枠に入るのは不可能だろう。
「俺は世界に行けないのか……」
身体が重く、何もする気が起きなくてベッドに横たわった。
「少し寝るか……」
頭がぐちゃぐちゃで何も考えたくなくて、仮眠を取ることにした。
次のスクリムまでに1から仲間集めをして、自分のゲームの腕を本当の強者と渡り合えるほどに上達させなければならない。
もういっそのこと、再び引きこもってプロレベルの実力をつけるか……そう思ってスマホを横になりながらいじっていると、SNSの通知が届いた。
どうせ、さっきの奴らが俺の悪口でも書いてんだろうと思いながら開くと、通知の内容は昨年度世界王者のrallyからのフォローバックの通知だった。
「は?? えっ…… ちょ…… ん??」
俺は世界で一番尊敬しているプレイヤーからの突然のフォローバックに、さっきまでの落ち込んだ気持ちが吹っ飛んだ。
「待て待て……誤フォローの可能性もある」
一旦落ち着き、向こうのミスだと思って他の人の投稿を見ていると、rallyからダイレクトメッセージが届いた。
急いで内容を確認すると、メッセージには『どこ住み??』と記載されていた。
「……偽物か」
一瞬でも本物だと思った自分が馬鹿らしくなり、無視してブロックしようとrallyの偽物であろうアカウントのホームを開くと、100万人のフォロワーと公式マークがあった。
「……え?? 本物なん……」
SNSの公認マークは本人の確認書類と100万人のフォロワーがいないと貰えないので、確実に本物みたいだ。
とりあえず「東京に住んでます」と返事を英語に翻訳して送ると、「明日は日曜日だから、君の予定がないなら僕の行きつけの場所に付き合ってくれないか?」と英語で返信が来た。
「どこですか?」と送ると、千葉県の船橋市にある病院の住所のURLが送られてきた。
俺の住む江戸川区から電車で数十分の比較的近い場所だった。
「総合病院……??」
rallyになんで病院なんですか?と送ると、「移動費は出すから、とりあえず昼頃に来て欲しい!!君が求めてる人物はここにいる!!」と返信がきた。
「俺が求める人??」
「どういう意味ですか?」と送って返事を数十分待ったが、返信は来なかった。
rallyのツイートを見ると、日本に来日しているという投稿が新しくされていて、千葉県にある旅館とお酒の写真があったので、確実に本物だということがわかった。
「俺の求める人か……まあ、行ってみればわかるか……」
明日着る服を決めるため、俺は部屋を出て彩音の部屋をノックした。
「お兄ちゃん、今回は初めてのメンバーだったから仕方ないよ……また次がんばれば……」
「彩音……俺に似合う服ってどれだ??」
「え……」
俺が彩音に似合う服を聞くと、彩音は脳がフリーズしたように数秒間動きが止まっていた。
顔の前で手を左右に振って意識を取り戻そうとすると、彩音は目を覚ました。
「お、お兄ちゃんにか、彼女とかで、でき」
「ち、違うわ!!なんか昨年の世界チャンピオンの人が俺に用事があるっていうから、さすがにいつものパーカーはまずいだろって思ってさ……」
俺がrallyとのメッセージを彩音に見せると、彩音はなぜかほっとしたような表情を浮かべた。
「な、なるほどね〜 とりあえず、お兄ちゃんの部屋にあるものを見せて」
「お、おう……」
俺は彩音を連れて自分の部屋に行った。
彩音はクローゼットを開けて中身を確認した。
「ん〜っていうかお兄ちゃんもオシャレな服とか結構あるんだね」
「まあな、一応なんかの時のために買ったけど、如何せんセンスが無いからさ」
「そっか〜 あっ!! これとこれとか似合うと思うよ!!」
彩音は真っ白のTシャツと、羽織るタイプの薄い水色のシャツ、それにデニムを手に取った。
よく見るオシャレ系男子の格好で、俺には似合わないと思ったが、せっかく彩音が選んでくれたからそれに決めた。
「ありがとな……」
「うん!!」
俺が感謝を伝えると、彩音は嬉しそうな表情をした。
——次の日、運命を変える出来事が起きるということを、この時の俺は考えてもいなかった。
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