第29話 終わりだよ、このチーム……
「お待たせしました、お疲れ様です」
「おつです〜」
「こんちゃ〜す」
「よろしくです〜」
俺がボイスチャンネルに入ると、今回のメンバーはすでに集合していた。
最初のイケボ配信者のような声の方は『クローズ』、前回ランキング14位のプレイヤー。大会では彩音が2回戦で倒したが、相当な実力者だ。
彼の強さは、なんと言っても圧倒的な安定感。火力面は他の最高ランクのメンバーに劣るが、ミスがなくて勝てる試合を多くできる優秀な選手だ。
前回のランキング戦では、俺と1位争いをしていたレインとチームを組んでおり、どんな環境でも勝ち切る実力がある。
2番目に話したチャラそうな雰囲気の方は『スパイダー』。
前回ランキング32位。彼の特徴は、なんといっても蜘蛛のように相手を拘束して選択肢を潰す特殊な戦い方をする。火力は俺に劣るが、相手にしていて嫌な選手だ。界隈では「魔術師」と言われるほど、トリッキーなプレーが特徴的だ。
3番目に話した声の小さい方は『PASERI』。
前回ランキング33位。彼はスパイダーと2人でランキングを回していた。火力担当で、基本無口だが、敵を瞬時に倒す強力な選手。
父親がイタリア人だったらしく、たまにEMEAの選手とも面識があるグローバルな人物だ。
「俺たちのチーム『NONAME』の1回戦は『4T』っすけど、勝てますかね??」
「おいおい、何?? ソロ最強の君がビビってんのぉ〜? 4Tは余裕っしょ〜」
俺が質問すると、スパイダーは笑いながらそう言った。
「まあ……あそこは研究してるからいけると思われる」
「おっ、PASERIさん、4Tについて研究してたんすか。いいね、頼りになるな〜」
PASERIはクローズと仲良さそうに話していた。
「作戦はランキング戦同様、YUUくんの指示でOK??」
「俺は指示出しでいいですけど、PASERIさんとスパイダーさんはいいですか??」
「「OK!!」」
前日までのランキング戦、最初はみんなで指示を出していたが、俺がソロでやっていた時は完全に俺が指示を出していたこともあり、最初はなかなか勝てなかった。
話し合った結果、俺が指示を全て出すことで連勝でき、レートも3桁から2桁まで上げることができた。
4人で話していると、試合時間10分前となり、武器やアイテム購入画面に切り替わった。
俺はアサルトライフルと回復を購入し、「準備完了」を押した。
「つーか、今回の大会、俺の最推しの『うーちゃん』が出てるんだよな〜。緊張する〜」
「……」
いきなりスパイダーさんが緋奈ちゃん推しだと言って、俺はなんとなく気まずくなった。
まさか、色んな意味でヤバいタイマンの試合をしたなんて言えない。
「僕は『いーちゃん』推し。あの眼鏡っ子と太ももがたまらん」
「……」
続いてPASERIさんが美佳ちゃん推しだと言い出して、さらに気まずくなった。
まさか大会の翌日、手作りのケーキを食べさせてもらったなんて言えない。
「お前ら甘い、甘い。フルーツポンチよりも甘い……。『えーちゃん』の静かな妹感、それが一番いい……。この前の歌ってみた動画を見た上で推さないのはエアプすぎるんだが??」
「あれよかったすよね!! あんな子が隣にいたら俺もう色々とダメになっちゃう」
「おい……それはキショいぞ。正確な年齢はわからんけど、多分20代の大人だが、見た目は幼いんだぞ、スパイダー……」
「……」
まさか出会った初日、下着を見せられかけたなんて言えない。
(やっっっべぇぇぇ……口を滑らせたら殺される……)
俺は3人が彩音たちのファンだと知って、冷や汗をかき、用意していたタオルで顔を拭いた。
これから試合だってのに、衝撃の事実を知って俺は一旦通話アプリをミュートにした。
「くっっっそ……きっっっまずい。確かに画面に映る彼女たちは可愛い少女だけど、リアルの彼女らは正直ある意味、悪魔だぞ……」
俺は会うたびにシスコン(事実)や変態(違う)と言われる日頃の恨みで、思わず愚痴をこぼしてしまった。
(とは言っても、彩音を含めて4人の歌ってみた動画が良かったのはマジなんだよな……)
ちなみに俺は朝の時間が彩音よりも早いので、通学時にイヤホンをつけて4人の歌ってみたを聴いている。
普通に良かったけど、みんなには言っていない。
「すいません、ミュートしてトイレ行ってました。購入終わったんでいつでも行けますよ〜」
俺は話を切り替えるため、トイレに行ったふりをした。
「おかえりっす。今、あいうえクランの推しメンの話っすね!! ちなみにYUUくんはあいうえクランの誰推しですか??」
「……いや、俺はそういうの興味ないっすね」
「うっそだ〜。この前の決勝戦で、あちゃんに押し倒されて興奮し……」
「し、してねぇ!! 大体みんな見てなかったんですか、あの熱い試合を……」
「「「羨ましかった、それだけしか思ってないですけど……」」」
「もう終わりだよ、このチーム……」
俺はこのチームで世界に行ける気がしなくなった瞬間、試合が始まった。
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