第17話 最強の名を持つ少女
彩音はチャットアプリで緋奈、美佳の2人と通話しながら大会の配信を見ていた。
Aブロックの有栖から「1回戦余裕で勝った^^」と送られてきて、3人は笑っていた。
「あはは、有栖ちゃんらしいね〜」
「そうね、あの子はたぶんお兄さんとAブロック決勝で当たると思うわ」
「にーちゃんがんば!! いけ〜!!」
3人が話しながら配信を見ていると、映されていた悠也の試合が終わった。
モニターの中で戦っていた彼は、仲間を巧みに誘導し、敵の隙を突く冷静な立ち回りを見せていた。観客席からもコメント欄からも驚嘆の声が溢れており、その一挙手一投足が注目されていた。
「にーちゃんつよ!!」
「彩音ちゃんのお兄さん、水に映っている相手を確認した瞬間に動かず油断したふりをする演技力……さすがはソロ最強ってだけあるわね……」
2人は悠也のプレイを見て盛り上がっていた。画面に食い入るように顔を近づけ、息を呑む瞬間さえあった。
「あやねんはどう思った??」
緋奈は彩音に質問した。
「ん……あ、ごめんね。試合に集中してて聞いてなかった……もう1回言ってくれると嬉しいかも……」
「あやねん的には今のにーちゃんの動き、どう思った??」
緋奈が再び聞くと、彩音は今の試合のリプレー映像をチャット画面で共有した。映像は数秒前に戻り、悠也が敵を油断させるために動きを止めた瞬間を映し出している。
「お兄ちゃん、これ空中で動きが一瞬止まったから、設定画面を開いてキーボードの入力配置を変えたんだと思うんだけど、どうかな??」
彩音がそう言うと、2人はリプレーをじっくりと見た。彼女の分析は冷静で的確で、ただの「応援している妹」ではなく、同じ舞台に立つプレイヤーとしての視点があった。
「確かにそうかも……パルクールのような複雑な操作を基本操作でやるのは不可能だし、人の限界を超えてるわね……」
「にーちゃんは普段、初期設定で操作してるから、あやねんの言うとおりかも!!」
2人はリプレーを見て、悠也のプレイに驚いて声が震えていた。目の奥が輝き、まるで憧れのヒーローを見つめるような瞳だった。
「やっぱりお兄ちゃんすごい……でも私は負けないよ!!」
「その感じだよ!! あやねん!! いぶに負けないぞ〜!!」
「ええ、私たちもそろそろ始まるわ。お互い頑張ろう!!」
3人はそう言ってアプリを消し、ゲーム画面に切り替えた。
通話の余韻がまだ耳に残っている気がしたが、彩音は深呼吸をし、集中を切り替えた。
「お兄ちゃん……絶対に負けない!!」
彩音が準備をしていると、運営からのメールが届いた。
そこには「あなたの試合は配信マッチに選ばれました」と大きく表示されていた。
「あ……私が配信マッチなんだ……緊張する〜……」
対戦相手は前回ランキング4位の配信者。その名はエイムマン。
配信サイトのコメント欄は既に盛り上がっており、ファンやアンチ、野次馬たちが入り乱れてチャットを埋め尽くしていた。
「こんなところで負けない……頑張る!!」
彩音は覚悟を決め、プライベートルームを作成した。
***
俺の名前はエイムマン。前回ランキング4位の配信者だ。
この大会では、前回のランキングで俺よりも高順位だったやつを倒しに来た。
「相手は1位の『あ』いうて女の子配信者で、4人組……ソロなら勝てるだろ!!」
前回のランキング戦、俺は朝から昼にかけての上位組と当たらない時間帯にプレイしていたこともあって、動画でしか動きを見たことがない。
だが、あちゃんは4人で協力するスタイル。個人技ではさすがに俺の方が上のはずだ。
「あちゃんを研究したところ、SMG使い……なら中距離も戦えるアサルトライフルか、SMGを俺も使うかだな……」
俺はサブマシンガンを選択し、プライベートマッチを承諾した。
マップは「ニュータウン」、俺は駅の中からスタートした。
(駅中にスポーンしたか……あちゃんはどこにいるんだろ〜な。早くぶっ倒してぇ〜)
とりあえず駅にある回復アイテムを回収しに向かった。
ビル上から見える位置にあるので、慎重に周囲を確認してからアイテムを取る。
(いないな……これ回収できただけで、撃ち合っても体力差で勝てる。もしかして余裕??)
そんなことを考えながら駅の中を歩いていると、背後から足音が聞こえた。
俺は咄嗟に走り出し、改札をジャンプして駅を出て距離を取った。
(もう来たか……どこにスポーンしたのかわからんが、随分早いな……)
俺は背中に装備していたSMGを取り出し、後ろを向く。
(追ってきてるなら、ここから顔を出す……どこにいる……??)
スコープで自分が出てきた駅の入り口を覗くと、そこにあちゃんの姿が見えた。
(ここだ!!)
チャンスだと思い、SMGを放とうとした――はずだった。
(は??)
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
あちゃんの姿がスコープに映った直後、自分の画面左上の体力バーが2割ほどにまで減っていた。
俺はまだ撃っていない。
右腕を見ると――武器が地面に落ち、腕そのものが吹き飛んでいた。
「あっ……あ……え……あっ……う、そ……」
「選択ミスでスナイパーにしちゃった……やっぱり、えーちゃんみたいに一撃では倒せないや……」
スナイパーライフルを持った彩音が、ゆっくりと歩いて近づいてくる。
彼女の姿は画面越しでありながら、観客席を静まり返らせるほどの迫力があった。
その小柄な体から放たれる威圧感は、まさに「怪物」と呼ぶにふさわしかった。
俺は左腕で必死に回復アイテムを取り出そうとした。
が――。
彩音は腰のナイフを抜き、俺の左腕に投げつけた。
「ぐああああああああああああああああああっ!!」
体力ゲージがほぼゼロになり、視界がモノクロになっていく。
彩音は無言でスナイパーライフルの銃口を俺の頭に突きつけた。
「ば、化け物がああああああああああああ!!」
「……」
彩音は何も言わず、静かにトリガーを引いた。
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